最終章 急 5 戦況報告
雑魚を蹴散らし、邪神・ルシファーを見据える。
そんな俺へ、頭にチーベルを乗せたベルーアが駆け寄ってきた。
「「太一さん、だいじょうぶですか!?」」
「あぁ、ベルーアか。見ての通りピンピンしてるぜ」
「よかった。えっと……隊長殿、ご報告です。現在、敵の三分の二程の駆逐に成功。残りの天主の代行者は、戦意を失い逐次敗走。幽鬼達は、その念からか、しつこくこの場に留まり、闘いを続けています……が、時間の問題でしょうね」
「そっか。流石は近衛師団だな」
「それと、滅殺威夜旅団の団員4名の、魔魂封刀による拘束に成功」
「へぇ。案外早かったな」
「はい。彼等、幽鬼化により、更に強くなったのは間違いありませんが……先程も申しました通り、彼等は『念』に縛られた存在。どうやら、己で考えて行動する。という概念に欠けているようでした」
「つまり?」
「敵を殺そうとすることに執着するあまり、周囲が見えていないという結果を生んだようです」
俺は、ウオルトとの戦いを思い返し、「あぁ、さもありなん」と、感慨にふけってしまった。
「無論、その情報を教え、闘いのアドバイスをくださったのは、ライトニウスさんです」
「はは。ウチの幽鬼さんは、そこんところが他の駄幽鬼と違うんだよな」
「本当、そう思います」
「ウン。だからボクは、彼女が幽鬼である事を失念してしまい、闘技大会で負けちゃったんだよね」
不意に、サイヴァールの声が、俺とベルーアの会話に割って入った。
「よぉ、サイヴァール。怪我は……無さそうだね」
「ちょっとした怪我はありましたよ。でも、私がすぐに治してあげたんです」
「あ、こらチーベル! それはナイショだって言ったじゃん」
チーベルの内部告発に、サイヴァールはバツが悪そうな表情で、かわいく苦笑い。
「主殿。滅殺威夜旅団の白雪は、拙と唯芦琶さんにて、封印いたしました」
「おぉ、おつかれ! 紗雪、唯芦琶さん」
俺の労いに、赤鬼さんコンビはニコリと微笑みで返す。
そんな二人のお上品な笑顔に、俺は「ハッ!?」っと、ある重大な事を思い出した!
「あ、そうだ! 夏鈴達、太一・ハーレムワールドの幼年部……じゃなかった。ちびっ子達は無事か!?」
「タイチお兄ちゃん隊長! わたしたちは無事だよ」
そう元気に答えてくれたのは、ちびっ子チームの班長さん、アルテミアだ。
「おお、無事か! よかったよかった」
「師匠! ご心配、ありがとうございます」
「私達は、四人チームで行動してたんですよ」
「そこに、センセリーテ殿がマジックシールドを張り巡らせ、敵の攻撃から守ってくださったのでございます」
「マジか? センセリーテ、お手柄だぞ」
「い、いえいえ。当然の事をしたまでですよぉ」
と、謙虚な姿勢を見せつつも、防御の達人センセリーテは、俺に褒められたという事に対し、満面のニヤケ顔を見せている。
ちょ、やばいって! その俺への笑顔のせいで、童貞貴族のオスカルドが嫉妬して、めっちゃ遠くからこっちを睨んでるし!
「コホン。と、とにかく! 後の残りの滅殺威夜旅団のメンバーは?」
「あ、はい太一さん。それは――」
「それは、私達副官ズと、他一名が、一人仕留めたわ」
そう言って、俺に魔魂封刀を差しだしたのは、アメリアスのアニキ!
そして、その横には、キューメリーと……近衛師団第一部隊隊長の人。
「……ちょっと、アメリアス」
「まぁね。私達に掛かっちゃ、あんなの雑魚よ雑魚」
「……他一名って何」
「そりゃあね。相手は邪神落ちの天主の代行者である幽鬼だもん。ちょこーっとは手こずったけどさ」
「……聞きなさいよ、狂犬」
「あ? 誰が狂犬よ」
「アンタしかいないでしょ? このバカ狂犬」
「んだとぉ!?」
間に挟まれ、キューメリーがやれやれと呆れ笑い。
えっと。今、邪神軍との戦闘中ッスよ?
「二人共、喧嘩すんなって。それより! 残りの邪神落ち野郎達は?」
「んー、心配いらない。ほら、アレ」
アメリアスが指差す方向へと目を向けると……そこには、高らかな笑い声と共に、満面の笑みで滅殺威夜旅団の残党三人と戦う、レフトニアさんとライトニウスさん。
それに! チーベルによってフル充電と化し、超やっべぇ色の闘氣を発散させている、我等が大姐御・ツングースカさんのお姿が!
「あはははは! そらそら貴様等、それでも邪神落ちか! 情けないぞ、もっと私を楽しませろ」
「楽しいですな、閣下! ブレーセル地方の凶獣討伐を思い出します」
「……フッ」
先代の近衛師団長と副官達というそんな三人を、レベトニーケさんとドライワイズ卿が、魔魂封刀を手に「やれやれ、早く封印させて頂戴」と首をすくめ、呆れ顔で見ている。
いくら邪神落ち達が、痛みを感じず、体力も逐次回復するというチート仕様だと言っても、それはもはや、無限に続くイジメに等しい戦いと言っても過言ではない……滅殺威夜旅団に、ちょっとだけ同情したのはナイショだ。
つーか、そんな超絶大暴れ真っ最中の大姐御を、うっとりとした乙女チックな瞳になってるメルボアに、今すぐツッコミを入れたいんだが、「邪魔したら殺されますよ」というチーベルのご指摘に、「うん……そうだね」と、自重。
ここは見なかったっことにしよう。
「乙女チックと言えば……ねぇタイチ。シンシア見なかった?」
「シンシア? いんや、見ねぇな」
まぁ、居ても居なくても別に構わないんだが、居ないと、どこで何をやっているか分からないから不安。という、キューメリーの言葉に、酷く納得した俺は、一応、未だ戦闘状態の場所を見渡してみた。
――と!
「キャーッ! 助けてお姉さまーッ」
絹を引き裂くような、可憐そうな少女の悲鳴が!
慌ててその方向へと目を向けると、そこにはなんと――シンシアが、数匹のスペクターと天主の代行者に囲まれ、攻撃を受けているまっ最中じゃないか!!
「いたぞ、キューメリー! あそこだ」
「うん、いるわね」
「うん。ってお前……助けに行かなきゃ」
「いいわよ、別に」
と、キューメリーにしては、思いのほか冷たい態度だな。
「おい。いくらアイツがウッゼェ変態百合っ子だって、一応仲間じゃねぇか! そんな冷てェ事――」
俺は、ついつい熱くなって、感情のままに、キューメリーへと言い放った……んだけれど。
言い終わらないうちに、
「キャッ! あぁクッソ。てンめェ、どこ触ってんだよ。この変態ロキシア野郎!」
邪神側の天主の代行者が、戦闘のどさくさに紛れ、ついついお尻でも触っちゃったんかな?
シンシアがブチ切れ、双子座の剣を召喚し―― 大 乱 舞 !
「おりゃああああッ!」
瞬く間に、まとわり付いていた幽鬼達を、一筋の煙に。
そして、不貞を働いた哀れな天主の代行者を、
「しにさらせぇッ!」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待……ヒィ!」
躊躇なく、一瞬で星屑へと変えてしまったのだった。
「ね。大丈夫でしょ?」
「うん、そうみたいね」
「ああやって、ヤラレるフリをして、私の気を引こうとするの。いつもの事よ」
「ああ、なるほど」
「そんで、『あーん、お姉さま。こわかった!』って言って、私に抱き付いて来るの」
「あ~ん、お姉さまぁ。こわかったぁ」
なんか、「お前は何本新喜劇だよ」と言いたくなる展開に、どっと疲れが……もっぺん聞くけど、これって今、邪神軍との最終決戦の真っ最中だよね?
と、ともあれ。
大魔王軍勢のほぼ誰一人欠ける事無く、邪神軍の粗方を始末した。という事実に、さぞかし邪神・ルシファーも肝を冷やしている事だろう。
そうタカを括って、改めてラスボスを視界に収める。
だがしかし!
野郎は、一向にピンチの表情を見せず、薄ら笑いを浮かべたまま。
気付いてねぇのか? テメェの軍隊は、ほぼ壊滅したんだぞ!
「いえ、『父』は気付いているわ」
そんな不安煽る言葉を繰り出したのは、無論邪神さんちの長女・ルシフォエルだ。
「どういう事だ、ルシフォエル」
「どうもこうも無いわ。奴にとって、軍勢など、ただの玩具に過ぎない」
「おもちゃ?」
「そう。壊れていく様を楽しむだけの、ただの玩具」
「じゃあ、あの軍勢はただの数合わせ?」
「そう。彼の手足役ですらないわ」
その言葉に俺は、心底恐ろしさを感じずにはいられなかった。
「そうさ。ヤツはね、タイチ君……たった一人でも、幾千幾万の軍勢に匹敵する力を持つんだ」
ルシフォエルの横で、凛々しいお顔のナイスミドル・ベミシュラオさんが、奥さんの言葉のフォローを見せる。
「や、やっぱそんなに強いんだ」
「ああ。故に、己の身を犠牲にして封印――即ち、相打ちに持ち込むしかなかったんだ」
「ぐぬぬ。俺、勝てっかな?」
「だが、心配いらないよ、タイチ君。キミには私を含め、大勢の仲間がいるじゃないか」
「うん……うん、そうだよな」
そうだよ。俺には、大地や第七部隊のみんな。それに大魔王軍の仲間、そして共に戦ったロキシア達がいるじゃないか!
俺は改めて、一人で戦っているんじゃない。と、最終決戦に向け、新たな闘志を燃やし――
えっ? ちょっと待った!
ベミシュラオさん。あんたさっき、何て……ルシファーを相打ちに持ち込んだ。だって!?
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!
次はアラジンが見てぇっす




