第六章 1 お宅訪問
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
城を出て歩く事、十数分。
ベイノール邸には及ばないものの、これまたデカい邸宅が、俺の眼前にそびえ立っている。
アメリアスの家から程近いそのお屋敷こそ、我等が師団長閣下のお住まいなのだそうな。
「でけーな、どんくらいあるんだろう?」
「はい、敷地面積は4,8ヘクタール。およそ東京ドーム一個分強ですね……ちなみにベイノール邸の総敷地面積は11,7ヘクタール。東京ドーム三個分に相当します」
「うーん、東京ドームって言われても、なんだかピンと来ないな。だって見た事無いんだぜ?」
「あ、それでしたら――太一さんがお住まいになる高奈御市に五年前建てられた『高奈御ひいらぎ文化ホール』の四倍弱です」
「うはぁ! マジかよ! あんなでっけぇホールが四つも入るのか! あのひいらぎホールだって、三年前にかーちゃんと吉本の芸人見に行ったときに、迷子になるくらいでかいんだぜ?」
そんな広い敷地面積に、でっかいお屋敷! 俺もがんばってお仕事をこなせば、こんなでっかいお家に住めるのも夢じゃないんだ。
出来うる事なら、郊外にひいらぎホールの十六倍ほどの広さを所有して、すっごいハーレムパラダイスを作りたいもんだ。
割とモダンな門をくぐると、屋敷の入り口前には大きな噴水が水を湧き立たせていた。
一面に広がる芝生(?)はよく手入れがなされていて、その中央を石畳がまっすぐに屋敷の入り口へと向かっていた。
ふと、重厚そうな屋敷への入り口を見ると、一人の小さな緑色の肌をしたおばあさんが、深く頭を垂れて一礼を見せていた。
「おかえりなさいまし、嬢様。今日はお早いのですね」
「ああ。さっき伝令妖精で伝えた通り、客人がある」
ちっこいおばあちゃんにそう伝えると、ツングースカさんは俺と姫様、侍女ちゃんに、その小さい緑色の物体の説明をしてくれた。
「この者は、我が家に古くから仕えてくれている、グーリン族のばーさまだ」
「これはこれは、いらっしゃいませ」
腰を折って頭を下げるおばあちゃん。なんとなく愛嬌があるなぁ。
「ばーさま。このゲーベルト族はタイチと言う、近衛師団のルーキーだ。そしてこの二人は、ロキシアの姫君とその侍女だ。大切な客人であるから、粗相の無いようにな」
「おやおや、ロキシアとはめずらしいですね? どうぞなかへ……嬢様、お着替えは?」
「ああ、今日はもう出仕はないので着替えよう」
そうツングースカさんが答えた途端、俺の目に異常が……!
「あ、あれ? ばーちゃんが二重に見える気が……俺、疲れて目がおかしくなった?」
見ると、ばーちゃん二人。しかもまったく同じ顔形!
「なんだ、グーリンの者は物理分身が出来るのを知らんのか? どうやらアメリアスが言った通り、本当にところどころ記憶を失っているらしいな……ベミシュラオもそうだったが、まったく面倒な事だ」
ツングースカさんが、少し呆れ口調で、鼻から小さく息を零す。
「ぶ、物理分身ですか。この屋敷にこんなばーちゃんがわらわらと……」
「そうだな、忙しいときには最大十人まで分裂するかな。なぁ、ばーさま」
「そうですねぇ、若い頃は四十人までいけたんですがね……歳にはかないませんよ」
そう言ってほほほと笑う。
(物理分身か、いいなぁ。一人が公務にいそしんで、一人は好きな事が出来るんだもんなぁ)
(でもきっと、パーマンのコピーロボットみたいに、どっちが楽な方へ行くかでケンカになりますよ?)
チーベルが俺の独り言に茶々を入れる。つか、なんでもよく知ってやがる天使だな。
邸内へと案内される。そこはアメリアスん家ほど豪勢かつおどろおどろしくなく、こざっぱりとした風情がある。豪放で気取らないツングースカさんらしい、簡素な趣だ。
そして程なく歩くと階段が現れ、ツングースカさんはそちらへと足を向けた。
「私は着替えてくる。姫、いつまでもその格好では困るだろう? 我が服をくれてやる、一緒に来い。太一は食堂で待っていろ」
「閣下、俺も着替えのお手伝いを!」なんて事を言う間も無く、緑のばーちゃんに「ささ、こっちですよ」と食堂へ案内される俺。いやまぁ、言ったところでぶん殴られるだけだろうけど。
アメリアスん家よか幾分小さめの食堂へと案内された俺が、そこで最初に目にしたもの。
それは部屋の中央の壁に掲げられた、大きな一枚の絵だった。
その絵には四人の、立派な角を蓄えた青い肌の魔物の人の姿が描かれている。
真っ先に目が行く人物、それはもちろんツングースカさんその人!
と言う事は、他の三人はご家族の方々だろうな。
今の姿とあまり変わらない、軍服チックな衣装をまとっているあたり 、ここ二、三十年前の頃なんだろう。
そして、ツングースカさんが微笑みながら肩を抱いている人物。
その少年こそ、彼女の弟さんなんだろうな。
なんとなくだが、雰囲気が俺に似ている気がするのは、気のせいかな?
「あの絵の少年、どことなく太一さんに似ていますね?」
「うん、やっぱお前もそう思うか?」
俺とチーベルの会話を耳にして、ばーちゃんが笑んで言う。
「本当、似てますねぇ……どことなくシベリアス坊様に」
「はぁ、そっすか?」
頭を掻きつつ答える。ベミシュラオさんの癖が伝染ったかな?
なるほど、お二人は仲良さそうだなぁ。
俺は兄弟姉妹が居ないから良く判らないけど、姉と弟の深い絆が見て取れる気がするよ……おね×ショタの関係理解なら、結構得意なんだけどな。
そんなアホな考えを巡らせていると、入り口に数名の人影。どうやらツングースカさんご一行が、着替えを済ませてやって来たようだ。
その姿――軍服系の衣装しか見てこなかったせいか、俺の目にすごく新鮮に映る!
胸の辺りにひらひらの付いたブラウス、そして若草色のジャケットとパンツが、明るさとシックな面持ちを醸し出している。
「うわ、俺知ってるぞ。あんな人を男装の麗人とか言うんだろ? なんてったっけ、ベルサイユのばらのラスカルだっけ? そんな感じだ」
「はい。とても素敵ですね、あこがれちゃいます。あと、ラスカルではなくオスカルですよ太一さん。ラスカルはアライグマです」
「わ、わかってらぁ……ボケたんだよ」
素の間違いに照れつつ、その後を従うように歩く姫様と侍女ちゃんにも目が移る。
おう、これはまた……面白い事に。
「こらタイチ。笑うんじゃない、失礼だぞ。仕方がないだろ? 私の身体は姫より二周りほどデカイのだから」
まさに服に着られていると言った感じの姫と侍女ちゃんがそこに居た。
一番上のボタンを閉じているにもかかわらず、首元が大きく見開き、ブラウスの袖とパンツの裾を巻く利上げたその姿は、なんと言うか……子供が大人の衣装を着ている感じだ。
「いや。お二人とも、これはこれでめっちゃカワイイっすよ!」
「あ、ありがとうございます……」
頬を赤らめ、俯き答える姫様。
侍女ちゃんもそれに習うように照れ笑い。
「さて、腹が減ったな。早速飯に……おっと、貴賓の前で『メシ』とは、これはとんだ失礼」
「いえ、メシでも食事でも結構ですよ? お気遣いなく」
いい兆候だ、姫様に笑顔が咲いている。
それは引きつった素振りの無理な笑顔なんかじゃなく、自然にあふれ出た笑みだ。
少し慣れて、心に余裕が出てき始めたのかもしれない。
「ははは、そうか。ならば、盛大に食おう! 食って力をつけないと、弱き者は世間の濁流に流され落ちるからな」
そして順次出されてきた料理に、俺の鼻が歓喜の声を上げる。
「い、いいにおいだぁ~」
なんかすっげえお肉がごろごろ入った赤い色のシチューやら、油で揚げたパンみたいなのやら、ポテトのサラダやら、魚の塩漬け料理やら、肉の串焼きやらと、どこか家庭的な香りのするものばかりだ。
昨日食ったアメリアスん家の豪華ディナーもいいが、こう言った他所の民族の家庭的な料理系ってのは、心が休まる気がするよな。
「で、ではいただきまーす!」
俺のがっつく姿に、目を細める緑のばーちゃんとツングースカさん。
「太一、うまいか?」
「は、はい! めちゃくちゃ美味いッス!」
「いいぞ、もっと食え! これは命令だ」
「はい! 力の限り任務を遂行いたします!」
とろける! シチューの中の肉が口に入れた瞬間、ほろりと解れて消える!
あつあつの揚げたパンの中にはこれまた肉! ひき肉とタマゴと、キャベツだろうか、それらに香辛料が程よく効いて実に美味い――だが、それだけじゃない! 美味い上に、この赤いシチューとめちゃくちゃ合うんだ!
なんだろう、かーちゃんのカツカレーも美味いけど、また別の……そう、素朴さが良い隠し味になっている気がする。
なんだか田舎に帰省した時の記憶が押し寄せてくるよ。
「ばーさまのロキシア料理の腕、些かも落ちてはいないな」
「そうですか、よかった。昔はよくロキシア達を招いて振舞ったもんですね」
「ああ……そうだな」
少しツングースカさんの瞳に憂いが宿った。
「これは……嬢様、つまらない事を」
「いや、いいんだ。すまない、楽しい食事に水を差してしまったかな?」
少し食の手を休めて、ツングースカさんを伺う。十年前の事が無ければ、今もロキシアには寛大だったかもしれないな。
「こら、太一。手が止まっているぞ? 貴様あと五人前は食わんと返さんからな!」
「ひぇぇ! そ、そんな、腹が裂けてしまいますよ!」
俺のおどけた口調に、また笑みを見せるツングースカさん。
姫様も侍女ちゃんも笑ってるよ。
……なんだかいい雰囲気だよな、このままこの平和が続けばいいんだけど。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!