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第五章 12 人質

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


「ベミシュラオさん、あの……」


 考えよりも先に口が動き、前を歩くドッペルゲンガーさんを呼び止めていた。


 けれど、呼び止めてなんていえばいい? 「あなたはプレイヤーですか?」か? それとも「何故隠しているんです?」とでも聞けばいいのだろうか。

 正体を明かさないのは何か訳があるはず。

 それが判ってから聞くのも遅くはないんじゃないか? そんな想いが頭の中をぐるんぐるんと駆け巡り――結局、


「あー……っと。そう、ツングースカさんの下に就いてどのくらいになるんスか?」


 ヘタレな俺は、咄嗟に他愛もない質問へとシフトチェンジ。

 だって、その質問が地雷だったら? うん、この人はまだ敵に回したくないもんな。


「ああ、まだ割と最近だねぇ……そう、二十数年前かな」


 に、二十年以上! と言う事は……ここでの一日が向こうでの一時間だから、こっちの世界でも一年が三百六十五と仮定して――えっと、それが二十年で――


(チーベル、指貸してくれ)

(おそらく、向こうの世界で約一年ですね)


 なんだか、瞬時に計算が出来た自分の方が偉い! という表情で俺を見てやがる。フン! そ、そんなの威張れるような事じゃないぜ!


(それはいいが……お前そんな昔から、この世界であの本の物語の仕込みしてたのかよ?)

(いえ、私が携ったのは、つい二ヶ月程前からですよ?)

(じゃあなんで、一年前からプレイしている人が居るんだよ!)

(それは……)


 まぁ、チーベルを責めたところで仕方が無い。

 わかんないモンはどうしようもないからな。


「えーっと、二十年前って……それって最近っスか?」

「ああ、最近だが……違うかな?」

「我々ロキシアにしてみれば、二十年前とは大昔に分類されてしまいますわ」


 横から補足のように、姫様のお言葉。


「ははは、我々魔族はロキシアの2~3倍は生きるせいで、時間の経過が少々違いますな」


 そうか、魔族って長生きなんだな。


「にしても、タイチくん。まるでロキシアのような言い振りだね……実はその外見は作り物で、中身はロキシアじゃないのかね?」

「ぎくぅ! 何故バレ……じゃない。な、なんでやねーん!」


 あぶない、もしかして探りを入れに来ているのか? 油断ならない人だ。


「ははは、意外と冗談にも乗ってくれるんだね、ますます気に入ったよ」

「あ、あははは……」


 なんか疲れた。


「で、話の続きなんだけどね」

「えっ、今の乗り突っ込みの?」

「乗り突っ込み? いやいや、小生が閣下の下に就いてどのくらいか? と言う質問だよ」

「あ、そ、そうでした……どうぞ聞かせてください」


 へへへと照れ笑いを見せつつ、話の続きを願う。

 するとベミシュラオさんは、どこか懐かしむような目で語りだした。


「二十数年前、小生は己の名前以外の記憶を失っていてね……野良犬同然でさ迷っていた所を、閣下が拾ってくださったんだよ」

「き、記憶喪失ですか?」

「ああ。魔法やブロウなどの身に染み付いていたものは、本能的に思い出せてはいるものの……未だドッペルゲンガーの基本能力である『変身』の仕方が思い出せない。など、忘れているモノも多いんだ。が、それによる不自由は今のところ無いし、まぁおいおい思い出すだろう」


 記憶喪失か。

 そのせいで、自分がこの世界にやってきたプレイヤーだと言う事を忘れてしまっているのだろうか。


(どう思う、チーベル?)

(はい。太一さんのようなウソ記憶喪失設定とは違うような気がします)

(……ウソ記憶喪失設定って。お前が付けたんだろ)

(とにかくですね、この件に関してはしばらく様子を見るのが賢明かと思います)

(だな)


「そうでしたか。苦労したんスね」

「いやまぁ、それほどでもないさ……酒での苦労に比べればね」


 また笑って頭を掻く。

 そう言えば、ダンジョンにいたハゲ巨漢の剣の中に閉じ込められたのも、酒のせいでとか言ってたよな。


「弱いくせに大の酒付好き、そして醜態を晒してしまう。閣下にはその辺りでの迷惑を、嫌というほど掛けてしまったよ。今後は慎まなければ」


 酒で身を滅ぼすタイプの人か。


「太一さんはエロで身を滅ぼすタイプですね。ベミシュラオさんを反面教師として、ご自分に注意を促すべきです」

「う、うっさいこのアホ小悪魔め」


 チーベルのやつ、俺を何だと思ってやがんだ!

 ――が、姫様と侍女ちゃんが、俺達のやり取りを聞いて笑っている。

 初めて見る姫様の屈託ない笑顔だ……それに免じ、今回だけは許してやろう。


「さぁ姫、着きましたぞ。我等が魔城、グレイキャッスルへようこそ」


 そしてまた姫様と侍女ちゃんに緊張が戻る。そう、まだツングースカさんに事の事情を説明して判断を仰がなきゃ、安心は出来ないんだよな……。





「なんだ? 私は交渉決裂の際、そいつを殺せと命じたはずだぞ?」


 ツングースカさんが、少し強張った表情と憮然とした言い方で、俺達の「成果」に異を唱える。


「はっ、交渉は首尾よく整いましたのでご安心を。これにあるは客人……もとい、人質としての身柄であります」


 姫様を視線で指し示し、ベミシュラオさんが言う。


「人質だと? 誰がそんな物を求めよと言ったか?」

「お怒りはごもっともなれど、もし願えますなれば、事の経緯の説明をば講じる機会を賜りたく……」

「わかった、許可しよう」


 腕を組み、「ぎしり」と椅子に背を預けるツングースカさん。

 見るからに「不機嫌」な色を見せている閣下の、更なる不興を買わなきゃいいけど。


「まずはブェロニーの地獄森についてのご報告から。かの地には強力な武器となりうる品があるとの噂……いえ、確定事項との事」

「ほう、詳しく聞こう」


 瞬時に目の色が変わる師団長殿。

 組んでいた腕を解き、右肘を机に置いて身を乗り出す。興味津々と言う表情だ。


「地獄公爵アスタロスが、一振りの剣に身を移し、永久の眠りについている場所。それがかの地獄森の名の由来……そう申すのは神々の記憶を知り得たと言う、レネオ殺盗団の内の代行者の言――との事。出兵はその剣の捜索が為」

「なんと……そいつは聞き捨てならんな。もし本当なら、我々の脅威になる」


 そしてまた師団長殿は、腕を組み椅子に深く背を預け、思案の色を見せた。


「なるほど。神の記憶であるなら、事の秤は真実へと大きく傾こう。となると……先程のダンジョンに巣食っていたゲス野朗を生かしておくべきだったな。アレは利用価値があったあった上に、死んだとなれば用心深いあちらさんの事だ……成りを潜めつつ行動するに違いない……もう軽々に尻尾は出さんか」


 と、一人呟いた後、ツングースカさんがはたと何かに気が付き、一瞬表情が険しくなる。


「貴様ら、そこで姫を攫ったと言う訳か」


 そして、その表情を見て取ったベミシュラオさんが、当初の「弁明」をここで切り出した。


「お察しの通りでございます。なにぶん四方が丸く収まる解決法と言うのは『我々魔族が姫を攫う芝居を打つ』これが最適かと」

「……貴様の案……ではないな? 貴様ならもっと回りくどい案を出すだろうからな。となると――」

「ご明察恐れ入ります。タイチくんの案にて――姫を攫う芝居を打つ事により、ワダンダールに潜むスパイの目を欺き、かつ国王に恩を売り、情報提供を求めやすくなります。なにより一番の利点は、奴ら殺盗団をこちらに引きずり出せると言う事……差し出がましいかとは存じましたが、未だ我が使命に『殺盗団への調査』がございました故、小生の独断によりタイチくんの案を認証した次第――」


 話の途中にも係わらず、ツングースカさんが両手で机を「 ド ガ ン ッ !! 」と叩いた! 

 静寂に包まれる執務室。毅然としていた姫様も、流石に息を呑む。

 一撃で粉微塵の瓦礫と化した机は、彼女の怒りの象徴なのか? それとも……。


「タイチ……!」

「は、はいっ!」


 おっかなびっくり返す。

 俺、もしかしてボッコボコにシバかれるのかな?


「ク……クク……あーっはっはっはっは! いい、いいぞタイチ! 流石は私が見込んだ男だ、貴様は何かと胸躍らせる出来事を運んで来てくれる。我が幸運の使者だ!」


 まさにご満悦! 喜笑を湛えたその面持ちは、逆に俺達の緊張を誘うほどだった。


「あ、あの……ツングースカさん。では姫の件は?」

「ああ、いいだろう、許可しよう!」

「ありがとうございます!」

「姫よ、そう言う訳だ。心苦しいかとは思うが、暫く我が邸宅にてその身を預からせていただく。なに、客人としての礼は尽くすつもりだ、安心しろ」


 そんなツングースカさんの言葉に、古式に則った返礼を見せる姫様。

 その表情には、安堵の華がふわりと花弁を開いる様が見て取れた。


「お心遣い、痛み入ります」

「が、我が邸宅よりの外出は罷り成らん。建前上貴様は人質――しかし軟禁の理由は、主にその身の安全のためだ……何せここは魔族の都だからな。不便だとは思うが、我慢してくれ」

「とんでもございません。城での生活に比べれば……周囲の好奇の視線や、市井にて蜚語の種となる事に比べれば、些かの苦もありましょうや」

「その意気や良し。では、早速参るか。タイチ、ベミシュラオ、お前等も来い。昼飯がまだだろう?」

「は、お、俺もですか?」

「なんだ、嫌か?」

「いえ、いえいえとんでもないです! 師団長殿のお宅訪問かーうわーうれいいなぁ」


 心の底から、心にも無い言葉をひねり出す。

 うう……おっかねぇ所じゃなきゃいいけど。


「はっはっは。よし、では行くか――」


 そんな上機嫌なツングースカさんに、畏まったベミシュラオさんが言う。


「閣下、許されるならば今回はその……」

「なんだ、貴様は来ないのか? ははぁ、さては酒だな?」

「こ、これは慧眼恐れ入ります……」

「はは、まぁいいさ。久しぶりの酒だ、私が居ては美酒でも酔えまい」

「そ、その様な事は……」

「かまわん、今日は許す」

「はっ! ありがたき幸せ」

「だがな、もう深酒で失態は見せるな? 次は助けんぞ」

「肝に銘じます」

「だがしかし――その泥酔のお陰で、この度のような結果が生じた事も事実。深酒も悪くないか?」


 ツングースカさんが意地悪く笑った。


「こ、これは閣下、皮肉を申されますな……」

「ははは。では、我々は行くとしよう。ベミシュラオ、すまんがこの瓦礫、片して置いてくれ」

「ははっ。行ってらっしゃいませ」


 こうして俺と姫様、侍女ちゃんは、ツングースカさんのお家訪問イベントへと巻き込まれてしまう事となった。


 上司の家に呼ばれて昼飯食うだけ。

 きっと何も起こらず、すぐに自由行動が出来るさ……そう、きっとな。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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