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最終章 序 7 副賞


 コロッセオ内の熱気は、内部監察局・局長の名調子によるエントリーメンバーへのインタビューにより、より加速度を増していく。


「近衛師団内の最強と美の二冠を狙う、レフトニア師団長殿。二連覇への意気込みは、如何なものでしょう?」

「――何もない。ただ、吾輩らしさを出すのみ」


 マイク(以前、武闘大会でベルーアが使っていた、魔法によるお手製のもの)を差し向けられたレフトニアさんが、実にオトコマエなコメントを残す。

 そして、アメリアス、ライトニウスさんへと、様々なバリエーションを交えて、彼女達の意気を伺っていく。

 俺は、そんな彼女達の返答リアクションを、役員席から一人楽しんでいた。

 

「さて、最後に控えしは――癒しの人形姫、ベルアゼール嬢!」

「は~い!」

「さてさて。貴女の心意気を、一言お聞かせ願えませんか?」

「はい! ぜひ優勝して、副賞・・である、太一さんからのプレゼントをゲットしたいです」


 え、何? 副賞!? 俺からのプレゼント……だと?

 なんだそりゃ。

 そう言い切ったベルーアは、ステージから俺へと、「優勝してくるので、よろしく!」とばかりに、満面の笑顔で手を振ってやがる。

 それに!


『あっ、ベルーア、ソレここで言っちゃう?』


 的な、バツが悪そうな表情を、アメリアスが一瞬だけ表に出したのを、俺は見逃さなかった。


「そ、そ、それでは……ここでステージ上の皆様には、一旦ドレッシングルームへとお戻りいただいて――」


 おまけに。ソレ(・・)に気付いたおっさんも、なんだか慌てるように、ステージ上の出場者達を、楽屋へと引っ込め出すのだった。


「これにて第一部は終了! そしてぇ~、いよいよ第二部が幕を開けます!」

「「「うおおおおっ!」」」

「ですが! オーディエンスの方々、まだまだ慌てなさるな。それまで、ちょっと休憩です。どうか皆様、熱気はそのままで、暫しお待ちくださいませ」

「「「水着! 水着! 水着! 水着!」」」


 コロッセオ場内は、割れんばかりの水着コールに包まれた。

 それとは対照的に、ステージを去る女子達は、冷めた表情やら、引きつった顔やら、呆れた眼差しやら。

 そして、彼女等がステージから捌けるのを見守るおっさんを、俺は「ちょっとこっち来い!」とばかりに、手招きで誘う。


「は、はい。なんでしょう?」

「なんでしょう? じゃねぇ。おっさん、何を隠してやがる」

「い、いえいえ! わ、わ、私は何も……」

「すっとぼけんじゃねぇ! さっき、ベルーアが言ってたろ。副賞がどうしたとか、プレゼントがこうしたとか」

「あ、あはは。あ~、アレですか……わ、分かりました。正直にお答えいたしましょう」


 そう言うと、おっさんはぎこちない笑顔を作り、俺へと言うのだった。


「その……今大会では、優勝者が貰えるのは名誉だけ。商品らしきものが見当たらない……という訳で、参加者に『出場する魅力が無い』と、言われまして」

「んで、俺からなにがしかの優勝賞品を。と?」

「さ、左様でございます。優勝者には、何でも望むモノを、タイチ様の権限範囲でプレゼントする……と」

「ん~。なんだよ、そういう事か。まぁ、別に構わねぇけどさ、そういう事なら一言言ってくれよな」


 そりゃあ、副賞だのなんだのを考えてなかった、俺の落ち度もあるさ。

 まぁ、誰が決めたか知んねーけど……俺如きで出来る事ってんなら、なんでも(・・・・)やらせてもらうよ。


 そう考え、局長へと了解の笑顔を送った矢先――俺の笑顔を引きつらせる……いや、血の気を引かせる一言を、ソイツ(・・・)は持ってきたのだった!


「なぁ~んだ。局長、やっぱり誤魔化してるのね」

「ん、誰――あぁ、トールマンか。警備の総指揮、ごくろうさん」


 そう。その「恐怖の言葉」を持ってきたのは、憲兵隊・隊長のトールマン。

 彼女(?)の到来で、局長の顔色が更に青くなったのが分かる。


「誤魔化す? おい、おっさん! まだ何か隠してやがんのかよ」

「あ、いや、それはですな」

「もう。どうせ分かっちゃう事なんだから、正直に言っちゃいなさいよ。局長」

「な、なんだよ。言えよおっさん」

「も、申し訳ございません、タイチ様……じ、実は、優勝者への、真の副賞というのは……」

「真の副賞、とは?」

「あーもう、じれったいわねぇ! 私が言ったげる。優勝者への副賞ってのはね、タイチ――アナタとの、婚約権なの!」

「こんやくけん……? な、なにそれ」

「なにそれ? って、あなたバカなの? それともすっとぼけて――」

「こんやくって……こ、こ、こ、婚約!?」

「そう! その権利を与えられるの」


 い、いやいや! ちょっと待てって。

 そ、そんなモン、俺は言った覚え無いし!


「アナタが言って無くとも、これは、大魔王様から拝領される権利なの」

「ハァ!? だ、大魔王様が?」


 俺の頭がおかしくなっちまったのか?

 えっと……冷静になれ。冷静になって、もう一度、このケツアゴの言った言葉を考えろ!


 大魔王様が、俺との婚約の権利を、ミスコンの優勝者へ、副賞として与えるって事!?


 なんで!? つーか、そんなモン、誰も欲しがんねーだろ!


「あら、ご謙遜。アタナ、意外とモテてんのよ」

「ハァ!? 俺がモテてるだって? 今日はエイプリルフールじゃねぇぞ」


 そんな、慌てふためく俺へ、局長が「ひとまず冷静に」と、諭しつつ、俺へと言うのだった。


「タイチ様。これは、出場者の方々からのご希望なのです」

「出場者からの……希望?」

「ええ、それは本当よ。まぁ、約一名は『そんなモンいらんわ、ボケ!』と言って、暴れたけどね」

「……あぁ、シンシアだろ?」


 なんか、目に浮かぶわ。

 って言うか、カレビューテなんか、俺を嫌ってんだろうし。そもそも、お家柄「即、お断り」だろ?


「ノンノン。カレビューテは、案外あなたにお熱よ」

「う、うっそでぇ~……マジ?」

「それにですな。大魔王様から、タイチ様との婚姻を賜る。そこには、ある種の『無下に断れない』という重責があります。生粋の純血主義のメジエス家とて、反対は出来ますまい」


 二人して、カレビューテも、案外この件に関し乗り気だとの説明を語る。

 で、でもさ。なんでまた、俺なんぞとの結婚を、皆、望んでんだ?


「バカね。それは、アナタに魅力があるからに決まってんじゃない。私だって、出場して優勝狙いたいわよ」


 いつになく紳士な表情で、トールマンはそう俺に告げる。

 まぁ、俺の尻をまさぐりながら、だけど。


 とりあえず、トールマンに軽くケリを入れつつ、今、俺に降りかかった「とんでもない責任」を、改めて考える。


 そう。この美人コンテストは、観客の投票結果、上位三名が決勝進出。その中から、()による一位決めが成されるという。

 それはつまり、婚約者を決める、重大な試練となるワケだ。

 そうか、分かったぞ。オスカルドの野郎! コレで俺がでんぐり返ってダダこねるのを見越して、どっか逃げやがったんだな?


 いや、違う。

 その上位三名にセンセリーテが入ったら? そして、俺がセンセリーテを選んだら?

 その時は、潔く身を引こうと……


『なぁ、タイチ……もし、もしもだ。俺の身に何かあったら……その時は、センセリーテをよろしくな』

 

 そ、そのために、アイツはあんな事を!?


 バカ野郎! 俺が、友の想い人であるセンセリーテを選ぶとか、そんな事をする訳ねーじゃんよ。

 ……と、言い切れないところが、なんか俺らしいよね。(テヘ♪)


「ともかく、よ。タイチ、アナタはそういう責任を担ってんの。逃げずに、受け入れる事ね」

「うっ。そ、そうは言ってもさ」

「これは、大魔王様からの厳命なのよ!」

「……あ、あい。で、でもさ」

「でも、何?」

「あ、いや……やっぱ、なんでもない」


 俺は、喉元まで出かかった言葉を、グイッと飲み込んだ。


 そこに浮かんだ、一等美しく、愛おしい笑顔。

 それを、俺は心の奥底に沈めなきゃいけないのか?

 そんな問いを、この場で出したところで、きっとどうにもならないだろう。


 俺は、愛しくも離れ離れになっている彼女(・・)へ、裏切りのような呵責を感じ、酷く戸惑うのだった。


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!


ブックマーク数が一気に減り、かなりへこんでます。

最終回までにブクマ登録数2000は無理か。

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