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最終章 序 1 祭りの後始末


 アスタロスとの戦いから、一週間ほどが過ぎた大魔王領内。

 今回の騒動による混乱から脱したグレイキャッスルでは、様々な傷跡の修復が行われ始めた。


 その中でも、大魔王軍一番の「傷」である人物・ペイルモンド卿への沙汰が、元老院より言い渡され、執行された。


「謁見の間においての賜死」


 大魔王様の面前で自ら死を決せよ。という、ある種「名誉」ある最後を遂げたペイルモンド卿。

 邪神側と内通し、大魔王軍を混乱に陥れた罪。ではあるものの、その原因の一旦は、大魔王様の密命「邪神側との共存の道」という任務によるところが大きく、故に、死刑ではなく自決の名誉を賜ったのだという。

 それにより、ペイルモンドのお家は一応安泰。長男のオスカルドが家督を継ぎ、事無きを得たようだ。


 そんな、大魔王領内での「大きな出来事」が恙無く終わり、落ち着きを見せ始めた夕刻。

 俺は一人、ゴーンドラドにあるオスカルドの私邸を訪れていた。


「よう。ペイルモンド家、新御当主様」

「あ、ああタイチか。よせよ、いつも通りオスカルドって呼んでくれ」


 オスカルドがゴーンドラドに滞在する際の私邸(といっても、学校の校舎ほどもある豪邸だ)の玄関先で。

 赤を基調とした衣装の伊達男は、俺の来訪を受け、少々力なく笑った。


「それより今日は親父――いや、我が家の元・家長の死に立ち会ってくれてありがとうな」

「あ、いや。それは別に……」


 本日正午過ぎの、大魔王様の謁見の間にて。

 今回の騒動において、奮闘した者達への恩賞の下賜。並びに、罪人への処罰が下された。

 そんな、功労者達が労われる中。

 勝者の皆が見届け人となり、敗者の責を問う一席が催されたのだった。


 即効性のある毒の入ったワインを、大魔王様より直々に賜り、ぐいと飲みほしたペイルモンド卿。

 その最後は、恐れも未練も無く、ただ堂々と、死を受け入れる。という、元・元老院の中核を担うに相応しい、なかなか立派な最期だったっけ。


「で、どうした? タイチ。こんな時間に」

「あ、いや。お前が心配……えーっと、じゃなく! オホン。一応、ペイルモンド家の当主となったお前に、挨拶くらいはしないといけないかな? とか思ってさ」

「ああ、そうか。それはどうも」


 当主。という言葉に、それ程の嬉しさも無い。という表情のオスカルド。

 まぁ、目的が「家督相続の争い」なんてモンじゃないし。コイツにすりゃあ「勝手に転がって来た重責」という印象なんだろう。


「あんなオヤジでも、一応は俺の父親だ。尊敬もしていた」

「……そうか」

「最初はただ……センセリーテにいいところを見せようと、父に楯突いていたんだが……大魔王軍に所属の折、ドライワイズ卿と出会い、大魔王様へと謁見して、邪神側に立つ父に――いや、邪神そのものに、本心からの敵意を抱くようになって……」


 そう訥々と語るオスカルドは、拳をワナワナと震わせていた。が、やがて我に返ったように、その握られた拳を開き、天を仰いだ。

 それは、彼の中に未だ宿っていた「父親てき」を解き放ち、幼い頃に慕っていた「父親おとうさん」に戻したかのよう。


 そんなオスカルドが、改めて俺へと視線を変え、こう尋ねる。


「タイチ。お前だって、なんだか知らんがデカい責務を担ったらしいじゃないか?」

「責務?」

「ああ。なんだっけか……そう、お前は、この世界の主人公? に、なったとか」

「ん。うん、まぁね。だが実感わかねーわかねー」


 俺は首を横に振り、溜息交じりに言った。


「主人公とかいうのが、どういう役割を果たすのか分からないが……この世界、そしてこの世の中が、お前の思い通りになるんじゃないのか?」

「なはは。そうなるんなら、今頃は俺、こんな辛気臭い童貞野郎の心配なんかしてないで、美少女達のハーレムでキャッキャウフフしてるって」

「まぁ、確かにそうだな。俺なんかの心配より、そっちの方がすっげぇ嫌ンなる程、お前らしいよ」


 そしてまた、オスカルドは力なく笑った。


「俺はさ。ただ、この世界の……いや、俺の仲間を救いたい一心で……気付けば、神夢起現書記の主人公に選ばれちまったんだ」

「そうか。本来は、あのサトウダイチってロキシアが、それを担ってたんだって?」

「うん。ヤツの好みの展開が色濃く反映されたせいで、本当なら、大勢のサトウダイチの仲間の死や、大魔王様や四大貴族は封印されてしまうらしかったけどな」

「痛みを伴う勝利。って奴か。気持ちはわかるが、そんなストーリーを歩まされる俺達はたまんねぇな」

「まぁね。故に、俺の甘っちょろい熱血漢が目覚めちまった……かもしんねぇな」


 そういや、大地の野郎。

 戦いが終わった後、伝令妖精が飛んできて……その直後、挨拶もそこそこに、そそくさと帰っちまったんだよな。

 なんだろう。自分が主人公じゃなくなったから、スネて帰っちゃったんかな?


「アイツとは異世界――本来、俺達が住まう世界で、俺の大親友なんだ。で、本来は元々俺が主人公だったんだけどさ」

「本来はお前が主人公? イマイチ良く分からん。どういう意味だ」

「いや、それがさぁ。ベルーアのヤツが、勘違いで、俺じゃなく大地のヤツを主人公にしちまって」

「ベルーアさんが?」

「ま。紆余曲折あって、本来のストーリーになったって訳だが……今現在のこの世界、俺の意思なんて、これっぽっちも介在してやがらねぇ」


 俺は、オスカルドの微笑に釣られるように、力無く笑った。


「ふぅん。まぁ、良く分からないが……同じ、願わない重責を担う者同士って訳か」

「かもね」


 「アハハ」と、二人して笑う。

 そして、なんだか重い沈黙が流れた。 

 

「あ、あのさぁオスカルド。お前なら……もし、この世界の主人公になったとして、お前なら、どんな世界を願うよ?」


 あまりの沈黙に、ついポロリと零した、何でもない、どうでもいい、他愛の無い、話題だ。

 


 ――だが!

 この時はまだ気付かないが、それが後々、どえらい騒動の発端となるなんて、誰が予想できただろう!!



「俺がこの世界の主人公だったら? う~ん、そうだなぁ……センセリーテと結婚して、子を授かり……10年後くらいに選挙に打って出て、元老院になる。かな?」

「ふーん。やっぱ元老院になる、か」

「ああ。そこから、大魔王軍を、もっと豊かに……いや、そうなると、オヤジの望んだ野望に似てくるか」

「野望?」

「ああ。大魔王軍をよくしたいと願うあまりの、邪神派への傾倒という暴走だ」

「だよな。何事も、ほどほどで。って事が一番だよ……つーか、やっぱセンセリーテと結ばれたいって願いは入れるのな」

「と、当然だろ! 彼女は、大魔王軍で1、2を争う美少女だぜ?」

「そ、そうかぁ? ただ貧乳だから好き。ってだけじゃねーの?」

「バ、バカ言え! 貧乳は……そう、彼女のステイタスシンボル! だから、貧乳()好きになっただけだ」

「フフン。まぁそういう事にしておいてやるか」

「そういうタイチ! オマエはどうなんだ!?」

「ふんが? 何がだよ」

「大魔王軍で、誰が一番なんだ」

「大魔王軍でいちばん?」

「そう! 誰が一番かわいいと思うんだ?」

「う、俺の一押し……?」


 言われて、はたと気が付く。

 ウチの部隊はもとより、我等が近衛師団は、全員カワイイし美人さん揃いだ。

 その中で、強さの優劣は付けた事はあるが……ちくしょう、俺としたことが迂闊だった!

 タイチ・ハーレムワールドへの加入の人選は日々怠らなかったが、ミス・近衛師団の一等賞を考えるまでは至らなかった……だと!?


「グギギギ……これは悩む! アメ……いや、ベル……イヤイヤ……ぬああ! クッソ悩む!!」

「あ、いや。そこまで真剣に悩まなくても」

「ハァ? 何言ってんだオスカルド! コイツは大魔王軍を左右する、一大プロジェクトだろ!!」

「ちょ、バカ! 恥ずかしいから、俺ん家の玄関先で大声出すなって」

「バカはお前だ! こんな、邪神の一件よりも心中を騒がす大問題。冷静でいられる方がおかしいって!」

「そ、そうかぁ……う、うんまぁ……そ、そう言われればそうかも」

「だから! 安易に決めるとか、そーゆーコトは言わない!」

「う、うん。わかった」

「お前は、オスカルドはセンセリーテが一番なんだな?」

「お、おう」

「俺は……俺は」


 ――と。

 血反吐を吐くほど悩む俺の耳へ、不意に、良く知るゴツい声が届いた。


「俺ァよ、一番はアメリアスちゃんだな」

「そ、その声はネルさん!?」


 そう。その声に振り返ると、いつの間にか、三頭団の面々が立っているじゃないか!?


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

急にクッソ寒くなってまいりました。

皆様お風邪などめしませぬよう、温かくなさった上で楽しい読書ライフをお送りくださいませ。

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