第五章 11 策士・太一
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「皆の者、下がれ」
歯の浮くような俺の熱血怒号によって敷き詰められた静寂。
それを最初に打ち破ったのは、国王のしゃがれた低い声だった。
「で、ですが陛下――」
「さがれ――と言うておる」
側近のおっさんが、もはややむなしとばかりに、俺達の周囲を取り囲んでいた衛兵等を退かせる。 それを見届けた後に、他の大臣達を引き連れ、自らも別室へと退去していった。
「これにて邪魔者はいなくなった……さぁ、魔物殿――語ろうか」
そこには、さっき無くしていた威厳だかなんだかをまとい直した、老いぼれらしからぬ精悍さを見せる国王がいた。
「結構。ならば改めて……かの森へ兵を遣わせた理由、お聞かせ願いましょうか?」
国王は眉をひそめた。
そして愛娘をチラリと見やり、決心を固めて言う。
「あの森が何故『地獄森』と呼ばれるか、ご存知か?」
「……さて?」
「一度入れば二度と出られぬほど深き森、そう解釈するものが多い。が、真の意味は違う……『地獄公爵』と言えば判るであろう?」
一瞬、ベミシュラオさんの眦が上がる。
「アスタロス、でありますか? まさか、かの地に? ですがその身はとうの昔に――」
「早まりなさるな、魔物殿。あの森の奥深く、いずこかの場所にて、永遠の眠りについておると言う話じゃ」
あははは、チンプンカンプンだー。
「つまり――ブェロニーの地獄森の奥深くには、邪神・アスタロス公の墓がある、と」
「左様……いや、厳密に言えば彼はまだ死んではおらん。その身を一振りの剣に宿らせ、眠りについておると言う事じゃ」
「しからばそれは……最強の武器が眠ると言う事ですな?」
「うむ。故に、貴奴らは血眼で捜しておるのよ」
うーん、つまりとんでもない武器があるので探してたって事か。
「が、その様な情報を何故奴等は知り得たのです?」
「それは至極簡単な事。天主の代行者である殺盗団のいずれかの者が、天主達の記憶を知り得る事に成功したのだ」
「神々の記憶、ですか」
「これはまたやっかいな」という表情で、ため息をつくベミシュラオさん。
「知り得る事はこれまでじゃ」
そう零した国王が俺を見やり、毅然として言葉をかけてきた。
「のう若いの。そなたの熱き想いはよう判っておる……我等とてあのような者に屈するは恥辱の至りだ。がな、我々はヒロタロウに屈した訳ではない……彼の背後、レネオ殺盗団に屈してしまったのだ」
「ああ、判るよ。ツングースカさ――いや、我が大魔王軍近衛師団長と互角に渡り合う女剣士を雇い入れてもなお、奴等の言いなりになってるくらいだからな……この先、きっと酷い報復があるんだろ?」
「おそらくはな。故に大臣達は『人身御供』として差出した我が娘なれば、再び受け入れるを躊躇ったと言う訳なのだ。姫にもそなたにも、皆、陳謝の念は深く持っておる……どうか許してやってくれ」
「それは厄介ですな……良くて姫は再び人質生活、悪くすれば……翻意とみなして、国王――否、この国重臣尽く皆殺し、ですかな」
頭を掻きつつ、ベミシュラオさんがまたため息。余程厄介な出来事に頭を抱えている、という感じだ。
だが俺には……事の根本的解決方法が、明確に見えている気がしてならなかった。
「あ、あのー……俺達が姫様を拉致った事にしたらどっすか?」
「「「「「……っ!」」」」」
その場にいた四人と一匹が凍りついた!
あれ? 俺、もしかして余計な事言っちまったかな。
「ら、拉致った事とは……一体?」
白髭のじーさんが狼狽えて言う。
「あ、いや……俺達が姫様を攫った事にして、何処か安住の地でかくまえば、奴等にも言い訳が立つでしょ……って、やっぱだめ?」
「それはいいな、タイチくん。建前上、今度は我々が彼女を人質にした事にすれば、奴等はこの国よりも我々大魔王軍の――いや、閣下に敵意を向けるはず……そうなれば、これはこちらにも都合がいい。用心深い奴等を炙り出すいいチャンスだ」
「い、いやだがしかしだな……そなた等を信用――いや、信用に足る御仁ではあるが……」
そんな狼狽する国王に、姫は笑顔で語った。
「わたくしは、この魔族の殿方と参ります……それが唯一の手段ではございませんか? 父上様」
「姫様が参りますならこの私も!」
と、侍女ちゃんも鼻息荒く名乗り出る。姫様のために命を懸けるとは、……ええ子やなぁ。
「う、うぬぬ……判った。そなた等に任そう」
うなだれつつも、どこか安堵の表情を見せる国王。
話は決まった! なら後は、一芝居を打って退散だ。
「姫さん、侍女ちゃん。ちょっとこっちへ……」
姫と侍女の二人を両脇にはべらせ、俺は右手を玉座へ向け国王に言った。
「王様。ちょいと荒っぽい事をしますが、どうかご勘弁を! あとは殺盗団のクソ連中や重臣の皆さんに、上手く言っといてくださいよ?」
そして玉座の右、国王に被害が及ばない程度のあたりへ向け――目いっぱいの大声で叫ぶ!
「ふははははッ! 交渉は決裂だァ! くらえ、ローエン・ファルケ!」
――ドォンッ!!
広いとはいえ、密閉された場所での爆発魔法。玉座の間を、思ったよりも強い熱風と爆音が駆け巡った! やっべ、王様無事かな?
「ゲ、ゲホゲホ……あほうめが、ちとやり過ぎ――い、いや。だ、だれかあるっ! 娘が、姫が、人質に!」
「へ、陛下ご無事で!」
勢いよく駆け入る重臣や衛兵達。が、時既に遅しだ。
「わははは! 姫は我々魔族の雄、近衛師団長ツングースカ一派が預かる! ではさらばだ」
その捨て台詞を合図に、俺達四人と一匹は光の結晶となって宙を舞い、瞬時に消え去ったのだった。
「いやぁ、流石はタイチくんだよ。君のおかげで話が上手くまとまった」
ゴーンドラド中央にあるグレイキャッスルの少し手前。
死人の都市の風景に少し怯えながら歩く姫様達とは対照的に、ベミシュラオさんが満面の笑みで言う。
「特にあの衛兵達を前いにしての大見得、よかったよ~」
「あ、あれはベミシュラオさんがいきなり姫さんを殺せなんていうから……だいたい、なんで急に殺せなんて言うんですか」
ベミシュラオさんらしからぬ早計な判断に、正直あの時はあせったよ。
「なぁに、君は絶対姫を殺さないって事を判っていたからさ」
「わ、判ってた? な、なんでっすか?」
「小生も君と同じだ。戦意の無い、ましてや罪も無いロキシアは殺すに忍びなくてね……言わば似たもの同士の空気を、君に感じたんだよ」
笑いながら言う。なんだか見透かされたようで、俺も苦笑いで返した。
「ロキシアに情をかける魔族――おかしいかね?」
「い、いえ。俺は……多分、俺もそうです」
「その昔、ロキシアも魔族も、互いに干渉し合わず、平和に暮らしていたんだ。そりゃあ、ロキシアを食料とする種族との衝突はあったさ、でもそこまで大規模じゃなかった。それに、ロキシアと交流を持つ、閣下のような魔族もいるくらいだしね……小生や君のような風変わりがいたって不思議じゃないだろう」
「そう……ですね」
その時、俺はダンジョンでのとある出来事について思い出した。
そこで、一つの仮説をベミシュラオさんに尋ねてみる事に。
「あの、先のダンジョンでの事ですが……ベミシュラオさん、わざと人質の少女達を見過ごしたんじゃないですか?」
一瞬ニヤリと笑みを浮かべたベミシュラオさんが、俺に問い返してきた
「何故そう思うのかね?」
「あ、はい……ツングースカさんがあんな状態だったから、もしかすると人質全員皆殺しにされるかも――そう懸念して、一度は通り過ぎたんじゃないですか? あとでこっそり助け出してあげようとか考えて」
「はははは。うん、あたり。だが閣下はそこら辺を見抜いておられた。これほどまでの男所帯に女っ気が無いのはおかしいと」
「た、確かに」
「故に小生へと遠まわしな疑問を投げかけられたのさ。やれやれ、閣下の前では隠し事も出来んよ」
「でも、ツングースカさんは皆の命を助けてくれましたね」
「ああ。結構な年月仕えているが、小生の小さい物差しでは、まだまだ計りきれないお方だよ」
空を仰いでまたため息。そしてやれやれと首を振る。
「いやぁ、あの時は何故だかほっとしたよ。きっと弱い者を殺める事に抵抗があるのかもしれないな、小生は」
俺はまぁ、中身が人間だから。当然人間の――ロキシアの肩を持つ時だってある。でもベミシュラオさんは何故ロキシアに情をかけたり出来るんだろう?
自分と少し似通った性格――いや、性格と言うよりは、境遇なのかもしれない。
そう、俺はもともと人間だ。よくは知らないが、魂だけこっちの世界にやってきて、この身体を間借りしているようなものなんだ。
だからこそ、どちらの種族の言い分もわかるし、好意も持てる。
もし、もしもだ。そんな境遇が似ている……としたら?
そう考えて、俺はなにげなく目の前を歩く三人……姫様と侍女ちゃん、そしてベミシュラオさんの名前を確認してみた。
――そして、信じられないものを見てしまったんだ。
「お、おいチーベル……こいつはどう言う事だよ?」
「はい?」
「……名前だ」
「何の名前でしょうか?」
「俺の前を歩く『あの人』の名前だ!」
「名前って……あっ!」
そう、俺達の前を歩いているベミシュラオさんの頭の上。
「レベル122 こんどうはるよし……なんで?」
思わず立ち止まる。
そんな俺に、こんどう……いや、ベミシュラオさんが声をかけてきた。
「どうしたね? タイチくん。腹でも痛いか?」
「…………あ、いえ」
この人は紛れも無くプレイヤーだ。
しかも、モンスターとして。
「お、おいチーベル! プレイヤーはロキシアだけじゃなかったのかよ? 魔族のプレイヤーは俺しかいないんじゃなかったのかよ!」
「お、落ち着いてください『太一』さん。わたしもなにがなんだか……」
俺の名を呼ぶチーベルの言葉に、はたと気が付く。
この人は俺の事を「タイチ」と呼んでいる。しかも何の違和感も無く。
もし自分がプレイヤーだったとして、俺の「タイチ」と言う名前を聞いたなら、きっと「君もプレイヤーか?」と尋ねるか、もしくはそんな素振りを見せるはずだ。でも、まったくそのあたりに関して反応が無い……。
この「こんどうはるよし」さんは一体何者なんだ? ……つーか、誰?
最後まで目を通していただき、まことにありがとううございました!