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第四部 第三章 18 仲間


「クク……どうした、アポルディアよ。私はここだぞ」

「ぐぬぅ、うっせぇ! でりゃあ」

「ははは、空振りだな。一体どこを狙っている?」


 アポルディアをも凌ぐ素早い動きと、流れるような剣捌きに翻弄され、俺の攻撃は後手後手に回り、そして不発に終わってしまう。


 遥か昔の、神々の大戦・アドラベルガにおいて、アポルディアはコイツとの勝負に危なげない勝利を収め、その身を封印した。

 地獄森の地下にては、封印から目覚めたばかりのこの野郎に、寸でのところで逃がしてしまうという失態を犯してしまったとはいえ、俺達は圧倒的な力を見せつけた。

 その実力差は、今までの対戦を鑑みれば、俺に勝算はある。そう思えた。


 ――だが!


 こいつが、剣豪と謳われたアリアベル・ランブレイズに、アスタロスの「力」が加わった成果だっていうのかよ?

 俺、手も足も出せないんですけど!?


「フゥ……なぁ、アポルディアよ」

「な、なんだよアスタロス」

「貴様、これほどまでに弱かったか?」


『『ぶっちーん!』』


 俺の脳内で、二人分の「堪忍袋の緒が切れる音」がした!


「同化する相手を間違えたな、アポルディア」

「――の野郎! ちょっと男前と同化したからって、チョーシこいてんじゃねーぞ!」


 訴えるべき苦情が、ちょいとおかしいのは……まぁ、頭に血が上ってるから。って事で。

 ともあれ、俺とアポルディアの怒りは、二人にかつて無いシンクロ状態を呼び起こさせるのだった!


「覚悟しろ! でりゃあ!!」

「ほほう、今までより良い太刀筋だ。いよいよ本気で掛かってくるか」

「おうよ! こっちだって、今までのは準備運動だぜ」

「よかろう。では、私も遠慮リミッターを外すとするか」


 アリアベルとの同化を果たし、些か饒舌になった感のあるアスタロス。

 そんな化け物が、瞳を「死を与える色」に「らん」と輝かせ、俺との間合いを詰める!


破壊する死人トーター・ディア・ツェアシュテールング!」


 死人の血の色のようなドス黒い闘氣オーラをまとう刃が、空気まで切り裂き、左下段から斜め上へ、俺へと遠慮なく(・・・・)見舞われた!


「くっ!」


 間一髪! グエネヴィーアにてその攻撃を受け止める。も!


「ぐはっ! 衝撃ハンパねぇ」


 グエネヴィーアを握る俺の手を、まさに「破壊」する程のインパクト!


「そんなか細い腕で、この衝撃に耐えられるか?」

「あ、あたぼうよ! こちとら男の子だ」

「フフ。なら、今一度喰らうがいい……トーター・ディア・ツェアシュテールング!」


 ぜんっぜん腕の痺れが取れていない状況に、奴はまた、さっきの技を見舞ってくる!


「な、南無三!」


 「悪い、グエネヴィーア! 持ってくれ」そう心で叫びながら、俺は今一度、彼女グエネヴィーアを盾に、強烈な一撃を防ごうとした。

 ――その瞬間!


「そうはさせません! 剛流道壁!!」 


 俺の前に、一つの影が割り込む。それは勿論――紗雪だ!


「何ッ!」


 赤黒い色がまとわりつく、アスタロスのキャンサーと、紗雪の愛刀・天照アマテラスが、激しい音を放ち、衝突する!

 途端、激しい程の乱気流が逆巻き、周囲を荒々しく駆け抜けた!


「これが本家、朱天童流・剛流道壁です!」


 次いで! 上空から、薄紫の衝撃波が無数に降り注ぎ、アスタロスを襲う!!


紫丁香花の雨・強リーラ・レーゲン・マキシマール! でりゃああああ!!」

「フン、小賢しい」


 そんなもの、避けるに易い。と、言わんばかりのアスタロス。

 

 が、一瞬「しまった!」という表情を見せる。

 

 その意味するところは――


「フレリオール国・死霊秘技――殺蜂一刺!!」


 ライトニウスさんが、アスタロスの一瞬の隙を突き、大技を繰り出した!

 このウチのイケイケドンドン三人衆の攻めに、流石の邪神も、


「くっ!」


 リーラ・レーゲンを多少被弾してでも、全力で回避!

 したところへ――


「「「三頭団、参るッ!」」」


 そしてまた、新たな三位一体の攻撃が、アスタロスへと襲い掛かる!


「「「魂の終幕(エントリヒ・ゼーレ)!!」」」


 三方向からの剣撃・衝撃波・魔法弾が、一転へと集まり、


 

 ―――― ド ォ ン !!



 激しい爆発音と爆風、そして衝撃!

 三頭団が、対・ルシフォエル用として密かに確立させたフォーメーションが、今、日の目を見る!!


「「「やったか!?」」」


 手応えに満ちた表情の、三頭団の面々。

 が、一瞬曇る。


「ちっ」

「いないよ」

「逃げた!? 一体どこへ」

「『上だ! 三頭団!!』」


 俺とアポルディアが、同時に叫ぶ!

 どうやら被弾ギリギリを見計らい、上空へと逃げた様子。

 いや、よく見ると……右足を消失している!


「おのれ、よくも!」


 怒りにわなわなと震えるその表情は、「どうやら本気でヤバかった」という状況を、暗に吐露しているように思われる。


「別に構わんが……一対一の勝負ではなかったか? アポルディアよ」


 うぐぅ。アスタロスの野郎、痛いところを突いてきやがる。

 だが、そんな何を言っても言い訳としかならない俺を、大地がフォローしてくれた。


「アスタロス。タイチは立派にタイマンしてるぜ?」


 え? 俺が一対一サシで勝負してるって?

 大地さん、それは少々強引すぎやしませんか。


「……クク、なるほど。今の加勢は、サトウタイチが一部……『仲間』という、サトウタイチ自身の、サトウタイチだから成し得る、究極のブロウだ。という訳か」

「その通りだ、アスタロス。因みに、まだ俺達『六勇神』の仲間や、ヤマノさんだっているぜ。なぁ、タイチ!」


「え? ……あ、ああ……うん……そ、そうだ! これこそが、俺の心の能力!! お前(アリアベル)が長きにわたって剣技を収めたように、俺も長い時間をかけ、仲間という俺の『力』を貯めて来たんだ。それを今、使わせてもらうぜ!」


 ……って事で、納得してくれねーかな?


「そうか……なるほど、よかろう」


 あ、いいの? やったラッキー。物は言いようだね。

 そう、一瞬甘い考えが、俺の心を過ぎる。


 そいつは、本当に甘い考えだと、思い知らされた。


「ならばまとめて、葬り去ってくれる!!」


 そう叫ぶアスタロスの声を合図のように、元より暗雲立ち込めるゴーンドラドにおいて、もっと「闇」を降り注がせるような雲が集まり、頭上を支配する。


邪悪なる雷(ベーゼ・ドンナー)


 途端!

 俺達目掛けて一斉に降り注ぐ、イカヅチの群れ!


 雷光が、周囲の全てを白くかき消し、「ドォンッ!」「バァンッ!」「バリバリッ!」という、空気を割く音が鳴り響く。


「うわっ!」

「キャア!」


 誰かの悲鳴が、雷音に紛れて、微かに聞こえた。

 無論、俺も「うぎゃああ!」と声高に叫んじゃったさ。


 あー、アレだな。

 俺の狼が来たぞウルフ・ザ・スタンピートを食らった敵も、こんな感じなんだろうな。


 っと! そんな呑気な事考えてる場合じゃない!!


「みんな、無事か!?」


 雷が止み、また静けさが辺りを埋め尽くす中。俺はみんなの安否を確かめるべく、声を上げた。


「う、うう……わ、私は無事です太一さん」


 ベルーアの声がする。よかった、彼女は無事か。


「……隊長……我もまだ健在だ」

「あちち……いきてるよ~、隊長クン」

「主殿こそ、ご無事ですのんか?」


 ウチの特攻隊長と切り込み隊長、そしてレーダーさんは無事らしい。


「私達も無事ですぅ、隊長どのぉ~」

「ふえぇ、怖かったようお兄ちゃん隊長」

「師匠、ボク達はセンセリーテさんのお陰で助かりました」

「なのです」


 どうやら、幼年部の皆は、センセリーテの防御魔法にて事なきを得たようだ。

 それに、三頭団や唯芦琶さん、それにベミシュラオさんも、無事でいてくれた様子。

 ルシフォエルに至っては、雷の直撃を喰らったにも拘らず、ピンピンしてやがる……つか、ベミシュラオさんの事、身を挺して救ったようだ。

 やっぱアレだな、ゼルスが「雷神」と言われるだけの事あるよな。


「どうやら皆、無事だったよう……あっ! 美奈はっ!? 美奈は無事か!?」


 慌てて、気絶したままの彼女を探す。

 大地、マルりん、ベルガ、ヤマノさん、セフィーアが、不意を食らった攻撃に、ゆっくりと体を起こすが……誰も、美奈へのフォローに向かった者はいない。

 仕方が無いと言えば、そうだろう。

 俺だって、あの広範囲にわたる不意の攻撃に、何の対処も取れなかったんだからさ。


 ――いや待て! 一人いた。

 美奈を救ってくれた者が、一人いたんだ!

 そして、美奈には、傷一つ付いちゃいないみたいだ。


 ……だが。

 その傍らに立って、美奈を、悪意ある雷の群れから救ってくれたのは……


「あれは、あいつは……オーリン! オーリン・フレリオール・ラーケンダウンが、美奈を救ったのか!?」


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

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