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第五章 10 交渉

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


「しからば、小生は直ちにワダンダールへと向かいます。閣下はもう城へお戻りになられますか?」

「ああ、そうだな……結果は城にて聞こう。ではタイチ、アメリアス。帰城準備――」

「あ、ツングースカさんちょっと待ってください!」


 俺はケツの痛みをこらえつつ、帰城の命を発するツングースカさんの言葉を制した。


「ん、何だタイチ? 腹でも痛いのか?」

「あー……痛いのはお尻ですが――いえそれより、ワダンダール国への使者の任、俺も同行させてくださいませんか?」

「同行? わざわざそんな退屈で面倒くさい任務を進んでやりたがるとは……おかしなヤツだな」

「いえいえ、これはかの国の位置を知るためです。テレポートでいつでも瞬時に行ければ、微細なれど師団長殿のお役に立てるかと……それに、何事も経験と申しますし。使者の任、なにとぞご許可を」

「ほう、殊勝だな」


 ……と言うのは も ち ろ ん 建前。

 本当は隙を見て逃げ出し、やりたい放題に暴れまくりたい! 軍務でお供なんて堅苦しいのはもうヤダよ!

 村を襲って、うんとレベルを上げて、どこかの廃墟で酒池肉林キャッキャウフフ


 そう、フリィィダァァァァム! めざせ、タイチ王国だ!


 せっかくのこの世界を満喫しなきゃ、わざわざ来た意味無いだろ。

 しかもこのダンジョンに来て、こんな光景を見せられたとあっちゃ、火が点かない訳が無いじゃないか……誰だってそう思うだろ?

 ああそうさ、どうせ俺はエロで自己中な三流変態悪魔がお似合いだ! 悪いか!


 と、言ってやりたいのをグッと我慢して、師団長殿へと是非を伺うヘタレな俺。


「ふむ、判った。ではベミシュラオ、タイチも連れて行ってはくれまいか?」

「はは、仰せのままに……では行こうか、タイチ君」

「はい。姫君、侍女の人、こちらへ……では師団長殿、行ってきます!」

「ウム、油断すまいぞ?」

「タイチ! 夕飯までには帰ってくんのよ!」

「あ、ああ……わかった――って、俺は小学生か」


 そんな不満を笑顔で漏らした直後。

 俺達はベミシュラオさんのテレポート魔法により、光の結晶となって一気にダンジョンからの脱出を図った。


 向かう先は勿論、姫様のおうち――ワダンダールのお城だ。





 光の結晶として降り立った先で、最初に俺の目に飛び込んできたもの。

 それは真紅の生地に、ブェロニーの地獄森でみた旗印と同じ文様が金糸で描かれている、大きなタペストリーだった。

 壁に掛けられてある「それ」から目を下に移すと――豪勢な一脚の椅子に腰掛け、驚き焦っている王冠を頂いた白ひげのじーさんがいた。


「えっと……もしかしていきなり城の中っすか?」

「えっ! あー……うん。玉座の間だねぇ」


 ツングースカさんのテレポートアウトに付き合った俺だ。

 今更どこに瞬間移動しようが、文句は言いませんよ。


 けど――。


「な、何じゃ気様ら――ま、魔物か! 皆のものであえ、であえぇー!」


 早々に湧き出てくる屈強そうな衛兵達。

 あっと言う間に退路を立たれてしまった俺とベミシュラオさん。ま、当然そうなるよな。


「い、いきなり王様の前っすか……心の準備とかまだなんですけど」

「うん、おまけに囲まれちゃたねぇ」


 人事みたいに言う。

 まるで「てへっ♪ しっぱいしっぱい」と言わんばかりだ。


「ま、忍び込む手間が省けていいじゃないか? さぁ、仕事にかかろう、タイチくん」


 めげない人だなぁ、プラス思考ってのはこんな時うらやましいよ。

 だが、俺達は何も戦いに来たワケじゃないんだ。この後の展開は交渉次第……上手く行けばいいけど。


「ワダンダール国国王、ロキサス三世殿とお見受けいたす。我等は大魔王軍近衛師団長よりの使者である。この度は争いではなく、話し合いに来た所存――まずは剣を収められよ」


 落ち着き払った物言いで、王様への口上を述べるベミシュラオさん。

 うーん、いかにも使者って感じだ!

 ……ヨレヨレの服にボサボサの頭じゃなければ、もっとかっこよかっただろうに。


「使者だと! 魔物風情が何の世迷言か」


 あー……なんだかモメそうだな? そう思った瞬間。

 俺の後ろに控えていた姫様が、ススっと歩み出て来た。

 そして、外套のように目深に被っていたシーツを払いのけ、頑固そうなジジイ王に向けて言う。


「父上様、この方々は敵ではありません。どうか、話だけでも聞いてあげてくださいませ」

「――っ! おお、オオオッ! 姫ッ! エリオデッタ姫ではないか!」


 え? お父さん!? まるで孫とじいちゃんじゃないか! 王様年甲斐も無くハッスルしたんだなぁ……ジジイやるなッ!

 なんてシミジミ思っていると、周囲からのヒソヒソ声が俺の耳に届いて来た。


(あれ、姫様と……侍女のデオランスじゃないのか? たしかヒロタロウ殿の人質に――)

(いや、相手は魔物だぞ。ニセモノかもしれないじゃないか)

(これは何かの罠だぜ、きっと)


 どいつもこいつも疑り深いなぁ。まぁ、俺があっち側の人間だったとしたら、同じ事言うだろうけどさ。


「ひ、姫! 姫よ……さぁこちらへ、はよう!」


 喜びに狼狽しつつ、姫様を呼ぶ王様。

 そこには威厳だとか風格だとかは無く、ただの老いぼれが娘の無事を喜ぶ姿しかなかった。


「国王様、なりませぬぞ! あやつめ等は魔族……どんな罠やも知れません!」


 と、傍らに控えていた黒いカイゼル髪の気位の高そうな紳士が、冷静な判断と口ぶりで、国王に自制を促した。側近のおっさんかな?


「父上様、わたくしはまだそちらには行けぬ身。この方達の外交のカードなのです……まずはこの御使者の言に耳をお貸しくださいませ」


 凛とした佇まいで国王に言う。流石は姫様だな、自分の現在の身分をわきまえた発言だ。

 それはきっと、俺達に助けられた恩義を感じてのことなのかも知れない。


「お、おお、わかった。魔物……いや、ご使者殿よ。はよう述べよ!」


 王様が、改めて我々を「使者」として迎える。

 その礼式に則り、ベミシュラオさんは片膝を折って、使者としての向上を述べるのだった。


「では――おほん。先程我々大魔王軍は、地獄森付近の洞窟にはびこるロキシアの殺盗団を首領ともども壊滅せしめ、囚われていた乙女達を解放した。ここにいる姫は、そのときに隠し部屋へと閉じ込められていたものであり、我々は一切の手出しは行っていない――しかるに、それは貴国との外交交渉を円滑にするため以外の何ものでもない……交渉が不成立の場合、この者は今ここで殺すことを肝に命じておくがいい」

「わ、わかった……して、交渉とは?」

「先日よりブェロニーの地獄森へと兵を遣す理由、それをお聞かせ願いたい」


 一瞬、国王の顔に戦慄が走った。そして側近のおっさんと顔を見合わせている……って事は、何か相当ヤバい事があるんだな。


「我等ロキシアが、オーク鬼や黒妖精族を駆逐するは至って自然。身の危険を排するためである」


 口ごもる国王陛下の代弁者を気取り、さっきの側近のおっさんが口を開いた。


「当地襲撃に際し、奴等『レネオ殺盗団』までもが参加していたとの報告があります。それは事実かな?」

「無論。野盗とは言えど、我が領土内のロキシア。故に共同討伐を申し付けたまでの事」


 と、得意げに語る側近のおっさん。

 しかし、それを耳にしたベミシュラオさんが、にやりと笑んで言った。


「それはおかしいですな? 人質をとられていると言う立場上、命令系統で言えば、かの殺盗団の方が格上ではございませぬか? そこに来て魔物討伐の命とは……些か辻褄が合いませぬ」


 ぎくり、とした表情を見せる王様と重臣達。


「そ、それはですな……互いの利害が一致したまでの事。同じロキシア同士、魔物ずれには判らぬ絆があるのだ」

「揚げ足を取るつもりは毛頭ございませんが……大事な姫様と言う人質を取る輩に、『絆』とは滑稽でございますな?」

「だ、だまれ! ロキシアにはロキシアの道理があるのだ。それに、貴様等魔物が信用できると言う保証がどこにあるのか!」

「我々は姫様を貴奴らから取り戻し、あまつさえそちらに返却しようと申し出ているのですぞ?」

「そ、それが信用できぬと言うのだ! だいたい、嘘をつき我々をたぶらかすは貴様等魔族の常套の策ではないか」



「いやいや、おっさんも嘘ついたじゃねーかよ? それも今さっき」



 うだうだと埒のあかない話に、ついイラッ! ときて、思わず口走ってしまった。


「控えよ、下郎魔族め! 貴様のしゃしゃり出る幕ではない!」

「んだとコラッ! こっちゃわざわざ姫様助け出して、おまけに送り届けてやったんだ! それなのにまだあんなクソ野郎の肩を持つってのかよ? しんじらんねぇわ、このおっさん」


 久々にキレちまったよ……屋上へ行こうぜ!

 と、言いかけたその時。

 ベミシュラオさんがやおら立ち上がり、やれやれと首をひねってため息をつき、俺に切り出した。


「タイチくん、交渉は決裂だ。今すぐその姫様と侍女を殺したまえ」

「いや、いやいや! 何言ってんですか、ベミシュラオさん! まだ交渉は始まったばかりで――」

「どうせ姫を帰したところで、奴等は嘘を教えるだろうさ……それがロキシアのやり方だ」

「そんな、殺すだなんて……姫様と侍女ちゃんがかわいそう――」



「やるのだ! ……そのアミューゼル寺院から奪いし『グエネヴィーア』で!」



 わざとらしく、 演技口調で声を張り上げて言う。

 途端、玉座の間が凍りついたように静寂をはらむ。

 そして次第に、ひそ……ひそひそ……と、聞いたばかりの噂話を誰とも無く零し始めた。


(お、俺、聞いたぜ? なんでも昨日アミューゼル寺院に魔物が入り込んで、神官達を皆殺しにして、寺院の守護する剣を盗んだって)

(ああ、レネオの衆からの報告だからな。信憑性は高いぜ)

(じゃ、じゃああいつがその魔物って……こと?)

(でもあいつ、そんなに強そうじゃないぜ?)


 おい、聞こえてるぞお前。


(けど、俺知ってるぜ? あいつの持ってるあの剣、アレは間違いなくグエネヴィーアだ! 鎮魂祭で飾られてるの、見たことあるんだ)

(じゃあ……本物?)


 途端に怖気づく衛兵達。うひゃあ、何だか引っ込みが付かなくなっちまったじゃないか!

 ええい、ここはひとまず――


「そ、そのとおり! 貴様等の眼前にあるこの剣こそ、昨日俺様がかの寺院より奪いしグエネヴィーアだ!」


 ずずっと後退る衛兵の皆さん。

 王様も側近のおっさんも、姫様や侍女ちゃんまでもが、蒼白となった。

 

 そこで一歩踏み出て声を張り上げ、言ってやった。



「 だ が ! 俺 は 姫 を 殺 さ な い ! 」



 玉座の間にいた、全ての者達が呆気に取られた。

 ――ベミシュラオさん以外。


「おっさん、それに国王さんよ! お前等の姫様が、あのヒロタロウってクソ野郎からどんな陵辱を受けたのか知ってるか? それは筆舌に尽くしがたいものだ! あんたらの大切な姫様がだぞ! そんな辛い目からやっと開放されたってのに、すぐさま死を与えるなんて出来るかよ!」


 水を打ったように静まり返る広間には、重臣や衛兵を含め、四、五十人はいるだろう。

 が、その誰もが、反論を寄越さない――誰もが、声さえも出せないでいるんだ。

 なんだか悲しくなってきたよ。


「おい、側近のおっさん! なんでそんな変態鬼畜野朗の肩を持つんだよ? 同じロキシアだからか? 彼女を助けた俺達魔族よりも大事か! それとも、姫様の命じゃ釣り合わない程の秘密なのか? それなら……仕方ないさ。俺も心を鬼にして、彼女を斬り捨てよう……だが! ここにいる全ての者も血祭りにあげてやる。姫、お前さんだけ寂しい思いはさせねぇから安心しな?」


 何だか熱く語ってしまった……。


 たぶん、一週間後あたりにじわじわと恥ずかしさがこみ上げてきて、消したい過去歴代第一位になるだろう。


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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