第四部 第三章 10 今回だけは、俺と大地の物語じゃありませんから!
「あら、なぁにボク。その後ろの黒い連中は?」
レベトニーケさんが、黒装束に身を包んだロキシア達を見つけ、興味津々に尋ねる。
「ツングースカさんとレベトニーケさんだっけ? 再びお邪魔するよ」
覆面大地が、両お姉さま方に、ぺこりと頭を下げて挨拶を送る。
「その声……サトウダイチ、か。フン、気安く我が名を呼ぶな。このロキシア風情が」
そんな大地に、彼女は敵意を以って言葉を返した。
あれ? ツングースカさん、虫の居所が悪いのかな。
と、思たけれど――まぁ、よく考えて見りゃ、そう返すのは仕方がない。
ここは魔物の総本山。大魔王様がおわす、グレイキャッスルなんだもん。
誰がどこで、俺達の会話を聞いているやもしれないもんね。
現に、この邪神産の魔物の躯の数々はどうだ。
この警戒厳重な中、どうやってここまで入り込んだのやら。
もはや、この城の中も、敵が既に入り込んでいると考えていいだろう。
「タイチよ」
「あ、はい。ツングースカさん」
「私達は、大魔王様の元へと向かう途中でな。ここを通りかけた際、突然、こいつらが湧き出てきてな」
「不意打ち、ですか?」
「いや、そうとも言えん。私達を見つけ……否、私達に見つかり、慌てていたからな。一体、どこに身を潜めていたのやら」
ツングースカさんが、鼻息を荒くして言う。
だが、その言葉には、俺に――というより、この場にいる者達へ、という意味合いが込められているのだと思う。
面と向かって、ロキシアへと情報を語るのは、些か問題になる。だから、俺への会話を通し、この場にいるロキシア達にも、情報を開示しているんだと思う。
「……この者達……消失移動を心得ているのだろう」
ふと、ライトニウスさんが零す。
「なるほど。消失移動、か」
ツングースカさんは、それを聞いて合点がいったという表情だ。
「消失移動? なんだそりゃ」
「あぁ、ヤマノさん。幽鬼の皆さんは、オバケでしょ? 消えちゃう事が出来るんですよ」
「お、おう。だからって、こいつらはお化けじゃねぇだろ」
「ええ。でも、高レベルな幽鬼は、ソレをスキルとして、生者に貸し与えてあげる事が出来るんです」
「ほぅ。じゃあ、ここに転がってる奴等は、そのお化けスキルを使って、この城に潜入してたって事か」
「こら、タイチ。大魔王軍の極秘情報を、そう易々と、ロキシア達にくっちゃべるんじゃない」
「あ、はい。すいません、ツングースカさん」
とは怒るものの、俺が全てを喋り終えてからの叱咤は、「本当に形式だけ」という意図が伺えるよ。
「だけど、この魔物達。消失移動していた割には、急にソレが解けちゃったかのような慌てぶりだったわね」
レベトニーケさんの言葉に、ライトニウスさんが、
「……まさか」
と、何か気が付いたかのような反応を見せる。
そして、しばらく思案した様子を見せた後、
「……やはり」
と、確信を得た口調で、「その事態」を告げるのだった。
「……消失移動が……できなくなっている」
「え? 消失移動ができないんですか? ライトニウスさん」
「……左様……何某かの大きな力により……消失移動が封印されているようだ」
そう訥々と語る幽鬼の少女に、ツングースカさんはグレイキャッスルの謁見の間の方角を見つめ、零すのだった。
「なるほど。大魔王様の力か」
「大魔王様がっスか!?」
「ああ。グレイキャッスルに賊が侵入を果たした際、消失移動で逃げられぬよう、結界を張ると仰られていたが……まさに今、それを発動なさったのか」
「そう。だから急に、このふにゃ〇ン魔物達が姿を現したのね」
「……おい、レヴィ。ロキシアとは言え、ゲストの目の前でそんな下品な物言いは無かろう」
「あら、ごめんあそばせ。弱い腰抜けばかりだったのでつい、ね」
「ハハ、いいぜ別に。フニャ〇ンだろうがデカ〇ラだろうが、下品な言葉には慣れてるさ」
そう笑いながら、ヤマノさんは、黒ずくめの衣装をうざったそうに脱ぎつつ言う。
つーか、下品な言葉に慣れてんのは、半分ヤクザ屋さんのあんただけだろ。
「あらあら、アナタいい男じゃない。結構好みのタイプ!」
素顔を見せたヤマノさんを一目見て、エロ姉さ……もとい、レベトニーケお姉さまが大興奮。
「良かったら、お姉さんが快楽の世界へ誘ってあげてもいいわよ?」
「よさんか、レヴィ」
それを期に、ワダンダール勢の皆さんが、黒装束を脱ぎ捨て、些かの窮屈から自由を得るのだった。
すると、レベトニーケさん、
「あらあら! 結構男前なボーイたちが揃ってるじゃない!? もう、まとめて面倒見ちゃう!」
と、良くない大ハッスルを見せちゃう始末。
「レヴィ!」
「へへ。せっかくのお誘いだがよ、エロねーちゃん。俺なんかより、超デカマ〇のギンギン野郎がお出ましだぜ?」
そんな、超お下品な大人の会話にツッコミを入れる隙無く、俺の、そしてこの場に居る「仲間達」の敵感知センサーに、特大の「敵」がヒットする!
「――ッ!? この感じ」
「邪神勢か」
俺の言葉に、大地が返す。
そして、その答え合わせにマルを付けるかの如く、いつもの、あの嫌な声が響き渡った!
「その通り。折角、俺達も消失移動で、隠れて不意打ちを決めてやろうと思ったんだが……まぁいい」
「怒鳴奴っ! やっぱテメェか」
「アハハッ! 白雪サンもいるよ」
「滅殺威夜旅団、参上! ってな」
「お前達、広場で第七部隊と遊んでたんじゃないのか」
「戦闘中とはいえ、そんだけのデカい闘氣がいくつも消えたんだ。気付かない方がおかしいだろ?」
「で、消失移動で後を追って来たのさ」
対峙する、6人のキレッキレな戦闘氣力を前に、皆のボルテージも引き上げられる。
特に、レベトニーケさんは、
「あら、いいじゃない。今、ここに転がってる府抜けイ〇ポ野郎共じゃ、満足できなかったのよね」
「……ったく、この高貴な身分のエロ令嬢は。まぁ確かに、余計、欲求不満が高まったのは事実だが」
あぁ、流石に類友だな。ツングースカさんも、なんだかお下品な物言いになって来てるよ。
「ヘヘ。じゃあ俺達が、満足イクまで、お付き合いしてやんよ」
「うう~ん、いい感じ。そうこなくっちゃね」
「レ、レベトニーケさん! 奴等、疲れも痛みも感じない、ハイパー邪神落ちな連中ですよ。気を付けて」
「あら、ボク。お姉さんの事心配してくれるの? イヤ~ン、かわいい。あとでお〇ん〇んをイイコイイコしてあげる」
ぐふっ! そ、それは是非、正座してお待ち……い、いや! ダメだダメだ。
なんだかこのエロサキュバス様のまき散らすエロ空気に、シリアスな展開がエロエロ……じゃない、ボロボロと崩れていく!
「おう、テメェら! 退場しちまった三人の弔い合戦だァッ!!」
「「「おうっ!」」」
そんな中。
流石は大人のヤマノさんだ。
このエロさ溢れる空気を一新するかのような、気合の籠った激を、皆へと飛ばしてくれる!
「数はこっちのが上だが、気ぃ抜くなよ。ボッコボコにレ〇プしまくって、このエロい姉さんの慰み物として献上してやれや!」
「「「お、おう……」」」
ヤマノさん。流石にみんな引いてるよ?
ってか、さっき抱いた、あんたへの関心を返して。
「あらぁ、嬉しい事言てくれるじゃない? それじゃあ、狂気の乱〇パーティー、開幕よ!」
もうやめてぇ! 俺と大地の物語の品位が、地の底に「ズガガガッ!」と落ちちゃう!!
そんな俺と大地(ベルガとマルりんはあんま意味を分かってないみたい)の、あまりに恥ずかしくて下を向いている仕草とは裏腹に、ワダンダール・クルセイダースと二人の姉御は、元気に、勢いよく、敵へと飛び掛かる。
「それっ! 特大に血が滾るぞォ!!」
開戦直後。ツングースカさんのマーキシマム・クローフィ・ザキパーイェトが、唸りを上げて突き進む!!
目標は、敵勢の中心にいる、怒鳴奴の野郎だ。
「散れッ!」
だが、敵も然る者。コンマ数秒の判断で、特大の鮮血色したエネルギー波を避け――
「甘いわ、ボウヤ!」
避けたその場所に、既に右手に乙女座の剣を握ったレベトニーケさんが先回り!
斜め右下段からの切り上げに、怒鳴奴のブレスト・アーマーが火花を散らし、切り裂かれた!!
気の置けない親友だからこそ成し得る、見事なコンビネーションだ。
「ぐおっ!」
「う~ん、結構いい手ごたえ――何!?」
一太刀目に、満足の手ごたえを得たレベトニーケさん。
だが、その傷に怯み臆する事無く、怒鳴奴は反撃の一太刀を浴びせに掛かる!
「あぶない、レヴィ!」
そんな親友のピンチを、ツングースカさんの赤い拳が、救いに馳せ参じた!
「ちっ! 仕留めそこなったか」
ツングースカさんの助太刀に、寸でのところで軌道を無理やり変えられた、怒鳴奴の剣。
そんな冷静な邪神落ち野郎は、二対一では分が悪いと踏み、一旦距離を置こうと試みる。
――しかし!
移動のリアクションを見せるも、身体はその場に固定されている。という感覚に、一瞬「しまった」と言う表情を見せるのだった。
「なになにぃ。あんま戦い慣れしてないの? ボウヤ」
ふと気づくと――レベトニーケさん。怒鳴奴の両足を、ピンク色した茨っぽい鞭のようなもので、しっかと拘束しているじゃないか。
どうやら怒鳴奴の奴。ツングースカさんの拳での牽制に気を取られた隙に、お姉様の愛のムチを受けていたようだ!
「トドメ!」
そんな絶好のチャンスを、我等の大姐御が見逃すハズは無い!
渾身の、クローフィー・ザキパーイェトを左拳にまとい、戸惑いを見せる野郎の首級めがけ、薙ぎ払う!!
――がっ!
「 ウ ガ ァ ァ ァ ァ ッ ! 」
突然、獣の咆哮にも似た雄叫びを上げると、怒鳴奴の身体が激変!
身体は数倍に膨れ上がり、目は血走り、狂気と錯乱の表情を浮かべ――レベトニーケさんの鞭を、脚力だけで引きちぎる!
そして、迫り来るツングースカさんの赤い恐怖を、
「バチバチバチィッ!」
けたたましく爆ぜり狂う音と共に、両の掌で、その進行を阻止!
いや、阻止するだけに留まらず、弾き返し、その勢いもそのままに、掌から衝撃波のようなものまで発するという、驚異の「攻め」を見せるのだった!!
最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!
また台風が近づいております。
暴風域にお住いの方々、早めの避難を御心がけくださいませ。
たぶん私の地域は直撃です。
生きてたら次週もお会いしましょう。




