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第四部 第三章 5 規格外の方々


 まるで、目印のように据え付けられたランタンが照らし出す、何の変哲もない扉。

 そんな古びた木製の扉を開けると、カビと埃の匂いがツンと鼻を突いた。

 ほのかに揺れる頼りなさげな光が見せる、ずっと誰も出入りしていないであろう「その部屋」。

 四方を石積の壁で囲まれた、学校の教室ほどの大きさの、一切家具や調度品もない部屋で――ただ、煉瓦を敷き詰めた床には、一面に大きな魔法陣らしき文様が、白い塗料で描かれていた。


「こ、ここがペイルモンド城へと通ずる入り口、か。蜘蛛の巣だらけだし、なんか臭いし、すっげぇ不気味だな」

「雰囲気あるでしょ? まぁ、二度と使う事は無いだろうと、ほっぽらかしてありましたからね。仕方ありませんわ」

「ここが地獄の入り口となるか、新展開の突破口となるか。早速行ってみようぜ、セフィーア」

「そうですわね。では、タイチくん。先ほど教えた通り、ペイルモンド城へと飛ぶフルークの呪文を念じてくださいな」


 ここへと来る道中。セフィーアは、この魔法のワープトンネル(?)的なモノの、使用方法を教えてくれた。

 魔法陣の中央で、飛翔の呪文を唱えるだけ。その際、「ペイルモンド・デ・キャッスリア」と念じるのだとか。


「オッケー。んじゃ早速……(ペイルモンド・デ・キャッスリア)」


 その詠唱を、心に念じた途端。

 俺とセフィーアの身体は、光の結晶となって上空へと吸い上げられ、瞬く間に、その身を遥か遠くにそびえるペイルモンド城へと移すことに成功した。

 その証拠に――


「ん? うわっ! た、た、た、タイチじゃねぇか!?」

「は、はは……ちっす、ヤマノさん」


 今はペイルモンド城内にいる筈の、ヤマノさんのすぐ隣にワープアウト。


「あ、タイチさん!」

「にゃはは、うるふちゃんだー」

「「「セフィーア!!」」」


 周囲の声に、状況を伺うと――ベルガにマルりん、そしてワダンダール・クルセイダースの面々が、松明の明かり揺らめく石造りの大きな部屋らしき場所で、驚きの表情を浮かべているのが確認出来た。


「脅かすなよボケナス……っと、それに――おいおい、セフィーアまで。こいつはどういう事だ? テメーはサトウダイチの命令で、女王の身辺警護の筈だろうが」

「え、ええ。それは――」

「すまない、ヤマノさん。細かい話は後にしてくれ」

「んん? 情アリって面だな……ま、いいだろう。で、テメーが来た理由は?」

「ダイチを探している」

「サトウダイチ? なら今、オメェんトコの凶悪そうな魔物の幹部連中と、なにやら話をしている」

「第八部隊の人達と? 大地一人で?」

「ああ、俺達は殺気が強すぎるんでな。奴等を刺激しないためにも、ここで別室待機だ」

「大地があの人達と話……もしかして」

「おう。例の神夢起源書記の話だ。吸血鬼のおっさんからのリクエストでな、一から詳しく聞かせてくれとよ」

「ベイノール卿か……なら問題はないな」


 そう呟き、一人納得する俺。

 そして、一刻も早く大地に、そして第八部隊の方々に面会を申し入れるべく、ベルガきゅんに道案内をしてもらう事に。


「はい。では付いて来てください、タイチさん」

「じゃあみんな、またあとで」

「おう。それまで、なんでセフィーアがこっちに来たか、たっぷり締め上げさせてもらうか」


 ヤマノさんの悪戯な脅しに、セフィーアは苦笑いを浮かべる。

 だが、その理由を明かせば、ここにいるみんな、そしてヤマノさんだって、彼女の参戦を認めざるを得ないだろう。





 松明の明かりを頼りに、薄暗い廊下と階段をてくてく歩く事暫し。

 

「この部屋です、タイチさん」

「うん、ありがとベルガきゅん。後は一人で何とかするよ」

「では、お気をつけて」


 そんな気遣いの一礼を俺へと捧げ、ベルガは、今来た道を引き返す。

 そして、格調高そうな観音開きの扉へ、軽いノックの後、


「サトウタイチ、入ります」


 一声掛け、扉を開けた。


「タイチ!?」


 真っ先に俺へと声を掛けたのは、大地の野郎だ。

 そして次々――


「んん~、タイチくんではないかね」

「おう、タイチか! 入れ入れ」

「あら、ボウヤ。別動隊ご苦労さまねぇ」

「よお、タイチ。で、向こうはケリがついたのか?」

「……ZZZ」


 と、第八部隊の皆が、俺を迎えてくれた。


「あ、はい。第三師団の師団長。及び、第三師団第一部隊隊長の助力もあり、首謀者ぺイルモンド卿の身柄を確保しました」

「おぉ! それは何よりだねぇ」

「なんだ、デブチンもこっちに来てたのか」

「はい、ツングースカさん」


 そして俺は、無意識に大地へと目を配る。

 すると、勘のいい大地は、俺が無意識に出していた「今、俺達が置かれている状況。ちょいとヤバいですよ?」的な表情を察し、尋ねるのだった。


「タイチ、何かあったな?」

「うん。早速オーリンの部隊が、グレイキャッスルへと攻撃を仕掛けてきたんだ」

「なぁにぃ! アホかタイチ!! なんですぐソレを言わんのだ」


 周囲の空気を振動させる程に、アップズース卿が怒鳴る。

 そして、第八部隊の面々は、「やっとお出ましか」とばかりに、(幽鬼のおじいちゃんも、大声にびっくりして跳び起き)すぐさま戦闘モードへと移行。

 だけどさ、その前に大問題があるじゃないですか。


「ん? 何かねタイチくん。問題ありげな表情だねぇ」

「は、はい。だって、皆さんもご存じの通り、この城――ペイルモンド城は、現在、封印状態にあり、この場から脱する手段をまず考えないと――」

「「「封印だと?」」」


 皆が一瞬驚き、声を合わせて言う。


「お、お気付きじゃなかったんですか?」

「お、おお……いきなりのサトウダイチの出現やら、それに伴うロキシアとの一触即発状態があったからなぁ。気付かんかったわい」


 なんだかバツが悪そうに、トラおじさまは言う。


「でね。ベイノール卿の提案で、このサトウダイチとかいう可愛いボクちゃんの知る『神夢起源書記』とやらの情報を引き換えに、一時休戦となったワケ」


 なるほど。ここでアメパパが機転を利かせて、骨を折ってくれたのか。


「で、だねぇ。今しがた、彼から話の一部始終を聞き終えたところなのだよぉ~……いやはや、その内容に、些か周囲の状況把握を怠ってしまったようだ」

「とは言っても、レヴィは爪の手入れで忙しく。そして幽鬼の爺様は寝ている状況だ。それに、貴様の連絡待ちという事もあったのだ……まぁ許せ、タイチ」

「え、ええ。俺も伝令妖精で連絡を図ったのですが、くいだおれ太郎が、『城が封印されてるから入れへん。入っても出られへんわ』と教えてくれて」


 俺は皆に、この城が現在封印状態にあると知った経緯を説明した。

 すると、賢い大地は、


「ちょ、ちょっと待て! なら、ならなんでお前も、この城に飛んで来たんだ?」


 俺までここに来ちゃダメでしょーが! という、まっこと正論を、俺へとぶつけるのだった。


「まぁ、待て大地。俺がココへと飛んで来たのは、理由があったからさ」

「理由? そ、そうか。俺はてっきり、『後先考えずに飛んできた!』のかと思ったよ」


 思わず大地が口にする「サトウタイチ像」に、ツングースカさんや他のメンバーの皆さんも、「うんうん」と頷きを見せたのにはちょっとヘコんだけど……まぁ、それは良しとして。


「まぁ聞けって大地。あの本の中の人は、意地でも『書かれているストーリーを実現させたる!』って感じでさ。俺達がどう運命に抵抗しようと、状況を書き換え、強制的に従わせているだろ?」

「ああ、そうだな」

「ならさ。俺が封印の城へとやってきたら、誰がオーリンと戦う?」

「な、なるほど。なにがしかの事情により、封印が解かれるか……それとも、オーリン達が、この城へと向かうか。という事になるな」


 と、瞬く間に、大地は事情を把握。(俺、「オーリンがこっちに来るかも?」とまでは考えてなかったけど)

 そんな俺の危険な賭けに、一応の納得を見せてくれた。


 ――だが!

 第八部隊の、否! 四大貴族の一部の方々は、そんな俺の「賭け」に、大いに異を唱えるのだった!


「何が賭けだ! このアホタレ」

「フフフ、そうだよぉ~タイチくん。この賭けとやらは成立しないねぇ」

「は? な、何故です!?」


 俺は、二卿の言葉に、一瞬肝を冷やした。

 賭けが成立しない? って事は、俺がこっちへと飛んで来たのは無駄……それはつまり……俺の判断ミス!?


「……ふぉふぉふぉ、さに非ず」


 思わず悲嘆の声を上げた俺に、ラーケンダウン王のしわがれた笑い声が「待った」をかける。


「……賭けなど……端から成立せんという事よ」

「い、一体それはどういう」

「あぁ? ワシらもナメられたモンだな。賭けも何も、こんな封印如き、ナンボでも突破してやる! という事じゃい」

「えぇっ!? 封印を突破できる?」

「そぉさぁ。だから、賭けなど成立しない。という事だねぇ」


 サラリと、「封印なんぞ屁でもねぇ!」と言ってのける、超が付くほどのオッカネェ方々。

 それは、俺が考えていた以上に、てんで規格外の「バケモノ」さん達だった!


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!


台風の被害はいかがでしたでしょうか?

私は水の溢れたマンホールに足を突っ込んで、こけて足を擦りむきました。

いたいです。

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