表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
401/461

第四部 第三章 3 運命に歯向かう者、従う者


「あぁ……タイチ様」

「や、やぁエリオデッタ……えっと、その……元気?」


 不意に現れた彼女に対し、このグダグダとした返答。いかに俺がテンパっていたのかが、よく伺えるだろう。

 だが、そんな俺にも、彼女は


「はい。おかげさまで、すこぶる元気です。タイチ様もご健勝そうで何より」


 健気にも、俺を気遣う言葉を掛けてくれる。

 この心の優しさ、ウチのゴクツブシ共に爪の垢でも煎じて、ついでにその辺にいるダンゴムシと一緒に「正露丸だよ」といって飲ませてやりたい。


 おっと。そんな女王エリオデッタに、改めて心を奪われている場合じゃなかった。


「エ、エリオデッタ。実は、大地の野郎を探してて……君に会いに来た訳じゃないんだ。いや、いやいや! 君には毎日毎晩会いたいと、心から想っているんだが……その……」

「良く心得ております、タイチ様。わたくしも気持ちは同じ……ですが、今はワゴーン大陸全土に及ぶ危急存亡の秋。一国の王女と、一介の魔物が、人目を忍んで逢瀬など……到底許されぬ事」


 彼女は、俺の心を読んだかのように、この再会を「個人的な密会」とせぬよう、ピシャリと言い放った。

 けど、少し厳しすぎるかも? とも思える言葉に、少々面食らったのも事実。


 もしかして俺……エリオデッタに嫌われた?


「そう……そうだね、エリオデッタ。だが、これだけは知っていてほしい。俺は――」


 そんな俺の言葉を遮り、エリオデッタはさらに続ける。


「タイチ様が、私を欲しておられる。それは重々承知しております」

「ほ、欲しているだなんて! ……そんな事」


 「も、もちろん欲しております!」と、心の中で叫ぶ位俺を、誰が咎められよう。

 が、彼女の体を性的に欲しているとか、ましてや食欲的に求めているとか、そんなふしだらな感情で欲求しているんじゃなく……上手く言えねぇけど、心と心で惹かれ合っているというかなんというか……。


 ――だが。

 そんな、しどろもどろな俺を見て、彼女は美しい笑顔でこう答えるのだった。


「タイチ様。わたくしはね」

「う、うん」

「この一連の大騒動が一段落したら、この国を、ワダンダールを、サトウダイチに譲ろうと考えておりますの」

「はぁ!?」


 い、今この聡明なロキシアの女王様は何と仰られた!?

 大地に、王の座を譲るだって?


「太一くん。大地くんはこの国の摂政。エリオデッタ女王が不在となれば、彼がこの国を治めるのは道理」

「そ、そりゃあそうだろうけどさ、セフィーア……いやいや、そうじゃない! 問題は、だ。なんでエリオデッタが、この国の女王様が、居なくなんなきゃいけないんだ! って事だよ」

「タイチ様。わたくしは、この騒動の終結を確認したのち……責任を取って、女王の座を辞そうと考えていますの」

「女王をやめる? なんで!」

「平和のためとはいえ、先の出兵で、多くの人材を失い……ましてや、教皇まで連れ去られる事態となってしまいました。誰かが責任を負わねば」

「責任って。それはエリオデッタが負うもんじゃないだろ」

「いえ。最終的に、美奈さん……いえ、教皇自らに出陣の命を出したのはわたくし。その責は免れません」

「責任問題? そ、それはそうかもしれねぇけど……そんなバカなこと、大地が、なにより美奈が――」


 認める訳がない!

 ぜってー止めるに決まってるさ。

 が、そう言おうとした矢先。俺を制して、エリオデッタは、信じられない言葉を、俺へと投げかけるのだった!


「そうなれば、わたくしは幽閉される一介の貴族。いえ、罪人となるでしょう。しかも、極刑を免れぬ、大罪人に」

「極刑を免れぬ……って? 極刑っていやぁ、死刑とかだろ? なんでさ」

「この国や、ロキシアの首都・ワーデンガードのような神教国家は、教皇の存在は絶対的なもの。それに、王族の極刑――即ち最も重い刑は、王位継承権及び、王族権の剥奪。命までは奪われません」

「命は助かるって……だけどそんなの、大地が許しても、この俺が許すワケないだろ!」

「太一くんが許そうと許すまいと、これは、ワダンダールという国が決める事よ」

「それはそうだろうけどさ、セフィーア。エリオデッタが罪人になるなんて、ましてや幽閉状態にされるなんて……んな事になってみろ、俺が大地を敵に回してでも、エリオデッタを救ってやる!!」

「ええ、救ってくださいな。タイチ様」

「おう! まかせとけエリオデッタ」

「そして、どこぞへと、私を連れ去ってくださいませ」

「おっけーおっけー! 魔物らしく、どこぞへ連れ去って…………へ?」


 何だか彼女の言ってる意味を、俺の脳の中の人が処理しきれず、「ちょっとまった!」を掛ける。


「あら、タイチ様。大罪人のわたくしに、興味はございませんか?」

「何、太一くん。エリオデッタ様が女王だから、姫様だったから、好きだって言ってたわけ?」

「いえいえいえいえ、それはぜってー違う!」


 脳みそが鼻や耳の穴から出るんじゃないか? と言うくらい、頭をブルンブルンと横に振る。

 そんなバカげた理由で、彼女を好きになった訳じゃない。


「なら……わたくしを、攫ってくださいまし」

「太一くん。我が君の……いえ、美奈ちゃんの心意気を汲んであげて」


 神妙な顔つきの二人に気圧されながら、


「……うん」


 俺も真摯な面持ちで、一つ頷く。

 今回の美奈の出陣の裏には、こんな思惑があったなんて……。


「ああ。魔物らしく、正々堂々、君を奪いに来るよ」


 そう呟き、エリオデッタの手を、優しく握る。

 そして、彼女の潤んだ瞳に、小さく俺が映っているのを見つけ、そこ(・・)へと顔を寄せた。


 近付くにつれ、彼女の瞳は閉じられ、一筋の煌きが零れ落ちる。

 そいつは、後悔の涙なのか……それとも、嬉しさの結晶なのか。

 けれど、そんな考えは、すぐさま愚かな思考だと気付かされる。


 だって、唐変木な俺でも分かるさ。触れ合った唇から感じる暖かな感覚が、精一杯「嬉しさ」を伝えてくれているんだもん。

 

「こ、コホン。太一くん、エリオデッタ女王。あまりお時間もない事ですし」


 と、セフィーアが、この心地よいキッス確変タイムの終了を告げる。


「ふぅ。エリオデッタ……この騒動が終わるまで、もう少しだけ待っていてくれ」

「はい……はい! タイチ様」


 満面の笑みの中。頬を伝う涙を、俺はそっと拭ってやる。

 そんな俺に、エリオデッタは、古よりのまじない言葉を送ってくれた。


「どうかタイチ様の『運命』に、ベルニクリルの追い風が吹いてくれる事を願っております」


 運命、か。

 実は、その運命とやらはもう既に決まていて……大地の表情を察するに、俺はエリオデッタと結ばれる事は無い様子。

 それ故、大地や美奈は気を利かせて、エリオデッタに自然な形で退位出来る「策」を授けたのだろう。

 まぁ、大罪人と言うレッテルを張られてしまうという事に目を瞑れば、これはこれでいいアイディアなのかもしれない。


 アハハ、大地の野郎。

 なんだかんだ言って、俺より運命あのほんに対して、ジタバタ足搔きまくってんじゃないか?


 ……ちょっと待てよ?

 足搔く? ジタバタと抵抗……か。


 俺はふと、とんでもない賭けを思いついた。

 それは、例の神夢起源書記の強制的な運命を利用した、一つの作戦だ。


「エリオデッタのまじないのお陰で、ペイルモンド城の封印……解けるかもしんね」

「封印を解く? 太一くん、何かいい方法を思いついたのね?」

「あ、ああ。でもこれは、ある意味負ければ、全てパァな賭けなんだけど」

「なら、大丈夫よ。タイチくん」

「なんでさ、セフィーア」

「エリオデッタ様のお言葉に、ヒントを得たんでしょ?」

「うん……まぁ」

「女王様の加護は、ハンパ無いわよ?」

「あ、あはは。そうかも」


 俄然、俺の中で、作戦かけの成功率が跳ね上がる! 気がした。


「で? その賭けとやらは一体」

「うん、至極簡単……俺も、その封印の中に入るんだ!」

「えっ!?」


 呆気にとられるセフィーアの表情とは対照的に、エリオデッタは「大丈夫!」という、信頼の笑顔。

 その笑顔に、俺は「テメェの運命」とやらに、全賭けする決意を固めたのだった。


最後まで目を通していただき、誠にありがとうございました!

クッソあちぃです。夏バテにはご注意を!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしよろしければクリックしてあげてください⇒ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ