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第一章 3 悩める大地

 次の日の夕刻の事だ。

 いつも通り杉林商店街を旭日堂書店へと向かい、いつも通り俺と大地、そして美奈が歩いていた。


「でな、その子がすんげーかわいいんだが、ちょっと怪しいとこもあるんだよ」


 俺は昨日の出来事、つまりはベルーアと言う新しい家族の誕生を、改めて二人に話していた。

 だが大地はと言うと、どこか上の空で俺の話に耳を貸してはいない様子だ。


「………………」

「大地! 俺の話、ちゃんと聞いてるか?」

「え? あ、すまない。聞いてなかった……何?」

「何? じゃあないよ。どうしたんだ今日は? 体調が悪いのか? やっぱ風邪か何かじゃないのか?」


 大地はというと、なにやら朝から調子が芳しくないらしく、学校でも終止こんな感じでぼーっとしていた。

 休憩中、俺や友人達との会話もどこか上の空といった様子であり、現在もそれが継続中というワケだ。


「大丈夫か大地? まあいいや、とにかく俺ん家に新しい家族ができたって話さ」

「へぇ、それはおめでとう! 昨日のメールはその話だったか。今日からお前もお兄さんだな。でもおばさん、妊娠してたようには見えなかったぞ?」

「いやいや、だから子供が生まれるんでなくって、急に新しい家族ができちまったって話」

「そうだよ、おじさんに隠し子がいたって事だよ。ひどい話だよねー」

「って美奈、さらりと俺ん家を内部崩壊させるような事を言うんじゃねぇよ」


 どうにも話がかみ合わない。

 なんだよお前等! 俺の家の新しい家族にはお二人共興味ございませんか。

 ごく一般的な普通の家庭にだな、急に謎だらけの外人少女が家族の一員として、どこか得体の知れない外国から、しかも一人きりでやってきたんだぞ! ちょっとは興味持ってくれよ! 謎とか不信感を一緒に抱いてくれよ!

 とは言うものの、俺だってベルーアの事はこれ以上深く考えたくないしな。まぁいいか。


「なんだかさー、新・佐藤くんって今日ずっとこんな感じだったね」

「何だよ新って」

「こっちの佐藤君は『新』であんたは『旧』」


 にこやかに指を挿して言う美奈。じゃあなにかい? 大地は新型で俺は旧式ってかい?


「いちいち紛らわしい呼び方するな! 名前で呼べよ」

「え~名前呼び? なんかベタだなぁ」


 美奈さんよ。お笑い芸人じゃないんだから、いちいちネタ仕込まなくっていいんだよ?


 俺達の呼び方はさておき、日中ずーっとこんな調子だった大地。

 昼休みにいたってはメシ抜きでどこかへと雲隠れし、とうとう授業が始まる一分前まで姿を現さなかったんだ。


 そこで俺はピンと来たさ。

 昨日俺と別れて美奈と二人きりになったその後、まさかの展開があったんじゃないかって。

 そう、美奈が大地に告白――もしくはその逆が人知れず行われていたのではないか? そのために大地は頭がぼーっとなってるんじゃないのかって。

 だから二人とも俺の話とか聞いてなかったんじゃないのかなって。

 そう考えたワケだ。


 となれば、俺の青春の怒り、昂ぶり、悲しみはどこにぶつければいいのだろう。やはり母ちゃんに賠償請求を行い、小額でもせしめ……もとい、心の傷を形あるもので償ってもらうしかない。


 などという名推理と、今後の補償の計算を瞬時に巡らせたはいいが……結局その考えは徒労に終わったようだ。


「大地くん何かあったの? 昨日だってあの後、書店で急にいなくなっちゃうんだもん」

「……え? あ、ああごめんな。昨日急な用事が出来ちゃってさ……」


 それは俺にとって朗報だった。

 なんだ、昨日はアレから二人仲良く親密さパワーアップイベントでもクリアしてたのかと思ったよ。

 こいつは、大地には悪いがまだ俺にも目があるってことだな。


「今日はごめんな二人共。もう大丈夫だよ」


 ぜんっぜん大丈夫じゃない素振りと、無理やりな笑顔の大地。


「相当疲れてるんじゃないか大地? もう今日はまっすぐ帰ったほうがいいぞ」

「あ……ああ、そうだな……」


 などと、優しい心配りを見せる俺。

 はた目には、大地を心配する優しい親友に見えるだろう。

 だが! これこそが俺の計略。そう、ここで大地を帰宅の徒へとつかせれば、俺は美奈と仲良く書店デートが出来るって訳だ。

 ああそうさ、俺はワルだ! 卑劣だ! 所詮謀略ばかり巡らせる三流悪役軍師がお似合いだ。


「じゃあ今日も三人で旭日堂書店行けないねー」

「うーん、そうだな……仕方ない美奈、今日は一緒に――」

「じゃあ今日はこれで帰るね! 二人ともまた明日ー!」


 満面の笑顔で手を振り去っていく美奈。

 いやいや、何言ってんだよ! パターンから言ってここは俺と一緒に書店へレッツゴーだろ?

 その後マックでポテトのLを二人で分け合い、甘いひと時をってのが定石だろ!

 取り残された俺と大地は、そんな走り去る美奈をただ見送るしかなかった……って、なんだこの悲しいオチは? 


 そんな俺の怒りと悲しみが篭った矛先が大地へと向けられるのは、至極真っ当な事だろう。


「そもそも大地! お前今日何か変! 絶対変! お前が変なせいで俺まで調子狂うよ」

「……すまない」


 俺の理不尽な八つ当たりにも、大地は反論もせずただ謝ってばかりだ。

 こんな友人をすぐさま裏切るような俺でも、流石に心配になってきたよ。


「大地、お前とは幼稚園からの付き合いだ。俺でよければ相談に乗るぜ?」


 もし俺が大地なら、相談相手はきちんと選ぶだろう。

 だが大地は大きな溜息のあと、腹をくくったような表情で俺にこう切り出した。


「もし、もしもだ。仮にお前の目の前に突然見知らぬ外人の少女が現れて、『あなたは古から続く神々の戦いの戦士として選ばれた』と言われたら、そしてへんてこな世界に飛ばされて、そこで不思議な力に目覚めたら……どうする?」


 突拍子も無い言葉に、俺は正直面食らった。

 だが折角大地が、何事の悩みを俺にうちあけててくれているんだ。

 ここは親身になって聞いてやるのが、親友としての義務だよ。そして適切なアドバイスをかけてやると言う事も、大事な事だよな。


「ぶっ! ぶぁははは! アホかお前、んな事あるワケ無いじゃんよ! 高校生にもなってラノベみたいな事言うなって!」


 俺の適切なアドバイスを聞いて、言うんじゃなかったと顔を赤らめる大地。憂い奴よのう。


「だ、だから仮にだよ仮に!」

「あのなぁ大地くんよ、言っちゃあ何だが、そもそも外人の女の子が急に現れ……て?」


 ふと俺は言葉を飲み込んだ。

 「思い当たる節」にちょこんと座ったベルーアが、俺の心の中を亜音速で駆け抜けたからだ。


「いやいや、外人さんが現れたとしても、だ。神々の戦い? 不思議な力? そいつぁどこのベタなラノベ……」


 更には、俺の心で「一抹の不安」と書かれたプラカードを持ったベルーアが、超高速で疾駆した。


「あ――いや。うん、冗談はさておき、だ。そうだな。俺ならその力で敵をバッタバッタとなぎ倒して、その外人さんの女の子とハッピーエンドだな、うん!」


 一人腕を組み、うんうんと頷く俺。

 だが内心は戦慄と焦りと不安が入り混じり、今にも心が弾けそうだった。


『もしかしたら? いやいや有り得ねぇって!』


 その言葉を幾度も心の中で繰り返している。だが、心当たりがありすぎるよ!


「そ、そっか。ははは、太一らしい答えだね」

「おうよ! まあどこでそんなラノベを読んで感化されたか知らんが、んな事で悩みふけるって大地らしくねぇぞ」

「そうだね、ゴメン。なんか心配かけたね」

「いいさ。そうだ、後で美奈にメールしとけよ? 心配してたんだからさ」


 とっさに、また心にも無い事を言う俺。そんなライバルに塩どころか米も味噌も具材も、そしてそれを調理してくれるコックさんまでをも送るような発言を、何故してしまったのだろう?



 だがこの時の俺は、新しい身内となった謎の外人少女と、以前読んだあの謎のおまけラノベとの関連性の否定で頭がいっぱいであり、そんな事まで頭が回る状態ではなかったんだ。


次話予告

自らの正体を語るベルーア。そして謎のラノベの真の力を知り、驚愕する太一。だがとんでもない運命の悪戯うっかりミスが、既に彼の人生を大きく変えてしまっていた。

次回 「異世界へ行こう!」

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