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第五章 7 弟

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


「師団長殿ぉ!」


 アメリアスの悲痛な叫び声が、薄暗いホールに響いた。


「隠し腕とは、敵もなかなかやりますな」

「このアホ! 敵に感心してどーすんのよ!」


 錯乱したアメリアスが、ベミシュラオさんの胸座を掴んでぶんぶんと振り回す。

 おいおい、そんなに振り回すと首がもげっちまうぞ!


「うっさい! こんなアホの首がもげても、その辺の石ころ乗せとけば大丈夫よ!」


 えらい言い草だ。

 でもそのおかげで、アメリアスのヤツは軽いパニック状態からの立ち直りを果たせた様子。


「し、師団長殿……ここは私が助っ人に!」


 少し冷静を取り戻したアメリアスが、心配のあまり小さく零す。

 と、そんな彼女に、死の淵を彷徨っていたベミシュラオさんが言う。


「あ~、死ぬかと思いましたよ……まぁアメリアス様、閣下をよく御覧なさい。どこにダメージを受けておられますか?」

「え……そ、そう言えばまったく血が出てない――って! 短刀の刃先が折れ曲がってるっ!」

「ど、どんだけ硬い腹筋なんだよ……ツングースカさん」


 師団長殿の腹部には全くのノーダメージらしく、流血はおろか、衣服にさえ傷一つ無い。


鋼空スターリ・ヴォーズドゥフ。一瞬で空気を硬く圧縮して攻撃を防ぐ、チェルノブイ族秘伝の護身術。今の閣下なら、きっと鋼鉄よりも硬く、周囲の空気を圧縮なさる事でしょうな」


 とんでもない事をさらりと言う。

 きっとベミシュラオさんはツングースカさんに付き従っていた期間が長いのだろう。それ故、彼女の規格外の強さに慣れきっているのかもしれない。


 そんな考えを巡らせている最中、突然バキバキバキッ! っと何か硬いものが砕ける音が響き渡った。

 見るとそれは、ツングースカさんが握っている骸骨人形の腕が、彼女の握力によって、まるでアメ細工のように握り潰されている音だった!


「ヴ……ヴヴ……」


 更に、ツングースカさんが獣のように唸り、膝を折りつつ右足を大きく跳ね上げ、足の裏を骸骨人形の腹にあてがった。


 そして――


「ウガァァァァァッ!!」


 右足を思いっきり伸ばしきり、骸骨人形のどてっぱらに、豪快な蹴りを見舞ったのだった!


「…………ッ!」


 物言わぬ人形が、一瞬悲鳴をあげた気がした。


 それ程力強く、破壊力に満ちている一撃。

件の人形は、腕が引きちぎられ、そのまま後方の岩肌むき出しの壁まで吹き飛ばされてしまったようだ。

 「ドガンッ!」と言う爆発音にも似た音が、俺達の身体を振るわせ――そしてまた静寂。

 時折カラン、コツン、と岩の欠片の崩れ落ちる乾いた音が、小さく響く。


 もうもうと立ち込める微細な岩の粉煙が、やがて落ち着きを見せ始めた中……そこに見えたのは、壁にのめり込んで、ピクリとも動かなくなっている骸骨人形の姿だった。

 誰も音を立てない、いや立てれないほどの、緊迫した空間。

 俺達、そして敵でさえも、ツングースカさんの圧倒的な「ちから」に気圧されていた。


「ヴヴ……ヴグァァァァッ!!」


 理性の無い野獣の咆哮と共に、赤い満月のような、ツングースカさんの瞳が光る。

 それは残された敵、この場の本丸であるヒロタロウなるボスへと迫る鬨の声だ!


「ひ、ひいいっ!」


 今頃事の重大さを感じた敵が、小者ザコキャラのような悲鳴をあげる。

 仮にもレベルが120もある猛者のリアクションじゃないよな。

 まぁ無理も無いが……。


「……シネ」


 口元から、禍々しい煙を吐きつつ、一言零すツングースカさん。

 言葉の後に、手に持っていた骸骨人形の両腕をぽいっと捨て去ると、一瞬、ツングースカさんが俺達の視界から消え失せた。

 そして不意に、ヒロタロウの面前に姿を現す。まるで瞬間移動だ!


 そして両の掌を敵の太ももあたりに向け、いきなりの赤い閃光を撃つ!


「ぐぁぁぁっ!」


 太ももを貫かれた痛みに悶え、崩れ落ちるヒロタロウ。

 両足をやられたとあっちゃ、動くに動けない。これはじわじわと嬲り殺すリンチだ。


「ちょ、ちょとまて、やめ――ぎゃあああ!」


 次いで、ヒロタロウの両腕を両手の赤い閃光で――非情に切り落とす。


 こんな光景には慣れたつもりでいる俺だったけど、こればっかりはどうにも心が受け付けない。

 なにも敵が無残に殺されるからじゃない……ツングースカさんの怒りが、あまりにも悲しすぎて、見ているのが辛いんだ。

 だからと言って、今止めに入れば、間違いなく巻き添えを食うだろう。


 けれど、だ。

 このまま彼女が理性を失った状態で奴等への復讐を果たしたとして、それはツングースカさんにとって幸せな事なのか?

 もしかして、このまま狂気の深淵に向かって行ってしまうんじゃないのか。


 ふと、アメリアスを見る。

 そこにはもう、さっきまでのうわっついた瞳に毒された少女はいなかった。

 ただ、どうしていいか判らず、心配そうに瞳を潤ませている「仲間を思いやる顔」があるだけだった。


 ツングースカさんはもう戦意喪失となったヒロタロウの胸座を掴むと、顔の形が変わるほど、執拗に殴る、殴る、殴る。

 敵は既にぐったりしているが、そんな事お構いなしだ。


 念のためにと、ヒロタロウの名前を確認してみる。が、名前はまだレッドゾーンには至っていない様子。

 あれだけレベルが高いんじゃ、まだゲームオーバーになれないんだな。

 皮肉なもんだ、そのせいで苦痛が続くんだ。

 しかもガマンできる程度だから、なおさらタチが悪い。しかし言い換えれば、まだまだツングースカさんは、狂気に身を焦がす事になるのか。


 どうする? このまま放って置けば、ツングースカさんは自我を無くしてしまうんじゃないのかよ?


 ちくしょう、まるでイベント事で俺に突き付けられた、二つの選択肢のようだ。


 このまま見守るか、止めに入るか。ツングースカさんルートを攻略する大事な選択肢ってんなら、まよわず「止める」を選ぶだろうが……こいつはイベントでもなんでもない、ただの「現実」だ。

 下手すりゃこの選択だけで仲間に殺されてゲームオーバーって展開だって有り得る!


 ……いや、ゲームオーバーだからなんだ?

 俺はただこの世界から退場するだけで、死ぬわけじゃない。

 が、ツングースカさんは現実に生きてるんだ!


 ええい、ままよ! 彼女の今後を考えるなら――ここは。



「 も 、 も う 止 め て 下 さ い 、 ツ ン グ ー ス カ さ ん ! 」



 腹の底からの叫びが、息苦しいホール全体に響き渡る。

 ――が! 復讐の鬼と化している師団長殿の耳には届かなかった様子……ただただ、無言でグッタリしたヒロタロウを殴り続ける。

 このまま本懐を遂げさせ、ツングースカさんの心が修羅に染まるのを見ているしかないのか?


 ――と。


「タイチくん。閣下の事を『姉さん』と呼んでみてごらん」


 ベミシュラオさんが俺へと耳打ちする。


「え……ね、姉さんですか?」

「そうだ。これまで同様、閣下の自我を留め置きたいなら……責任は私が取るさ」


 笑顔で小さく頷く彼からは、さっきまで感じていた飄々とした空気はまったく感じられない。


「わ、わかりました……ツングースカさんの『心』を取り戻すためなら!」


 そして心を決め、俺はヒロタロウを殴り続けるツングースカさんの傍らへと歩み寄り、下っ腹に力を込めて叫んだ!



「 も う や め て く だ さ い 、 姉 さ ん ! 」



 一瞬、刻が止まった。


 そう思える程に、この空間は物音一つ聞こえなくなった。

 やがて、ドサリッと鈍い物音。それはヒロタロウが地面へと崩れ落ちる音だ。


「シベリアス……いや、タイチ……か」


 一瞬見せた「残念」といった表情。

 恐らく俺を誰かと……そう、弟さんだと思ったのだろう。

 そう思うと、ツングースカさんのプライベートな過去にまで、無神経にずんっと足を踏み入れてしまった気分になる。

 けれど! 我らが師団長殿に、自我と自制の心を取り戻していただくため。叱責は覚悟の上だ!


「ツ、ツングースカさん……もうその辺でトドメを……それ以上続けると、あなたがあなたでなくなってしまう」

「あ……ああ」


 顔に飛んだ鮮血を、グイっと服の袖で拭う。「ふぅ」とため息を零し、ヒロタロウへと背中を向けた。


「タイチ、後は頼む……」


 さっきまでの無想の形相が一転。いつもの、それでいてちょっと物憂げな顔付きへと変わった。


「は、はい」


 俺はグエネヴィーアを鞘から抜き去ると、既に動かなくなったダンジョンのボスの喉元へと、トドメの一撃を食らわせた。

 途端、ヒロタロウの身体が光の結晶へと変化し、音も無く舞い上がり、やがて闇に解けていった。


「終わりました、師団長殿」


 小さく一礼して、報告を述べる。


「ああ、ご苦労」


 一言の後、空気を振るわせる怒号が、次いで発せられた!



「 ベ ミ シ ュ ラ オ !! 」



「は、はは!」


 呼ばれて、慌ててツングースカさんの下へと飛んでいく。


「貴様、何故余計な事を喋ったのか!」

「面目次第もございません。お叱りは覚悟の上」

「よかろう! 死して償わせてやる。覚悟せよ!」


 ツングースカさんの右手が真紅に光る! ま、まさかベミシュラオさんを――!


「ちょ、ちょっと待ってくださいツングースカさん! それはあまりに――」


 そんな俺の制止を他所に、ベミシュラオさんが笑顔で言う。


「いいさ、気にするほどの事じゃないよタイチくん。小生のやっすい命で、閣下の御心が邪神ずれに食われてしまうのを防げるならね」


 そして改めてツングースカさんへと畏まり、沙汰を待つ。

 ちょ、おっさん……かっこよすぎじゃないっスか!


「フンっ、忠犬ぶりよって。まぁいい、我が主は大魔王様のみ……私とて、邪神ルシファーに仕える気などさらさら無いからな。今回だけは大目に見よう」

「は、ありがたき幸せ」


 と言いつつ、ツングースカさんの表情には、微かに笑みが伺えた。


「師団長殿、お疲れ様でした。コートをおかけしましょう」

「うむ、ありがとうアメリアス。要らぬ気を使わせてすまんな」

「いえ、とんでもございません!」


 ぷるぷると首を振りつつ、ツングースカさんの肩口へとコートをかけるアメリアス。

 とりあえずは一段落付いたって事なんだろうけど……見ているだけでも変に疲れる戦いだった。

 出来る事なら、気を使わずにやりたい放題に暴れる方がいい――ふとそう考えてしまう自分が、魔族に馴染みつつあるんだなと感じてしまう。


 俺、普段の生活に戻っても大丈夫なのかな?


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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