第五章 5 ちょっとした奇跡
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
公の任務終了宣言がツングースカさんの口から発せられ、ほっと一息つく。
が、思った通り俺の横にいる「アイツ」から、懇願にも似た声がする。
それはもちろん――。
「待ってください師団長殿! 私は……いえ! この場にいる三名は、師団長殿のお力になりたいのです! ぜひお供させてください!」
露骨に嫌な顔をするベミシュラオさん。
きっと、俺もあなたと同意見です。
「だが、ここよりは私事の戦いだ。貴様ら無関係の者を巻き込むわけにはいかん」
「む、無関係だなんて! 我らは大魔王様の下、皆、家族も同然ではないですか! 師団長殿の私怨は我々の恨み、是非ともお供のご許可を!」
「その申し出はありがたいのだが……その二人は何と言うかな?」
俺達二人の心を見透かしたような微笑みが投げかけられる。
そんなツングースカさんの笑顔と、横でアメリアスの放つ殺気……これじゃ逃げられないじゃないですか。
「も、もちろんお供したいですよ」
ついつい賛同の意を口にしてしまった。
だがしかし! ここは一人でも多く道連れ……もとい、仲間が多い方がいいよな。
「……ですよね、ベミシュラオさん」
「えっ、小生? ……あ、ああそうとも」
俺に振るか? と言う表情を見せる。が、既に遅しだ。
ツングースカさんが、満足そうな笑みを浮かべてこっちを見ているもんね。一緒に被害を被りましょう、ベミシュラオさん。
「すまないな、貴様達……恩に着る」
「と、とんでもありません、師団長殿! 我々もあなたにお供できて光栄です! ね、そうでしょ、二人共?」
「う、ういっす」
「は、はぁ……まぁ」
「 し ゃ き っ と 答 え ろ ! 」
アメリアスの檄が飛ぶ!
「「ハイッ!」」
俺もベミシュラオさんも直立不動で答える。
まるでケツを引っ叩かれたようだ!
「よろしい! では参りましょうか、師団長殿」
「あ、ああ……では貴様ら、気を抜くなよ」
「「「はっ!」」」
そんなこんなで俺達魔物パーティーは、漆黒の口を空けている洞窟へ、はからずもダンジョン探索&ボス退治に向かう事となった。
って、これって人間と魔物逆じゃね?
転々とたいまつの明かりが続く、かなり広い洞窟内は、異様な匂いと気配に溢れかえっている。
時折見える岐路に、ベミシュラオさんの案内が役に立った。
「ベミシュラオさん、剣の中に封じられていても、意識はあったんですね?」
「ああ。故に仲間に危害を加える時はたまったものじゃ無かったよ」
苦笑いで頭を掻く。
「そう言えば……本当に一流貴族なんですか? あのハゲは『なんとかの絶望』とか二つ名を語ってましたけど」
「あはは、いやぁまいったな。あんなのはウソだよ。つい酔っ払って気が大きくなってねー」
「フン、『ベイデゲンの絶望』ってったら、ベイデゲン地方における師団長殿の通り名の一つじゃない。何勝手に拝借してんのよ」
「これはお恥ずかしい……」
またポリポリと頭を掻く音がする。
そんなに掻きまくると、髪の毛が抜け落ちるんじゃないスか? なんかどこまで本気かわからない、飄々とした人だ。
「まぁベイデゲンを襲った時は、これも同行していたのでな……広義の意味では、ベミシュラオもベイデゲンの絶望の一人だ」
「これは閣下、痛み入ります」
根本的には知識人なのだろうけど、どこか感じる……俺と同じく自由にあこがれる気質。
判るよ、あなたにも自由が無かったんだね。
「さて、お喋りはここまでだ。お出迎えが来たらしいぞ?」
ツングースカさんが言う前に、既にアメリアスが戦闘体制を取っていた。
つか、お前は師団長殿のコート守だろうに。
「アメリアスは下がってろよ、俺達三人で片付けるからさ」
「うっく……そ、そうね。このコートをお守りしなきゃいけないし」
「アメリアス嬢、よろしければそのコートは小生がお預かりいたしますが?」
「ば、バカ言わないでよね! あなたのバッチイ手で師団長殿のコートに触るなんて、斬首モノの不敬よ!」
えらい言われ様だな。
だがそんな酷い言葉にも、笑って返すベミシュラオさん……なんつーか、大人だよな。
「はは、斬首は御免被りたいですな。仕方ない、しばらく閉じ込められていた鬱憤、晴らすとしましょうか」
言って、首をコキコキと鳴らしウォーミングアップを果たす。
途端、ニヤ付いていた顔が、瞬時に真顔となり――。
「それっ! 突撃!!」
掛け声とともに一閃となって疾駆し、敵と思しき一団へと踊り込んだ!
これは……とてつもなく早い! そして強い!
薄闇に見える人影を、疾風で駆け抜けざまに倒していく。
次々と倒れる敵に、様子を伺っていたツングースカさんの何かがはじけた!
「タイチ! 我々もうかうかしておれんぞ! 突撃だ!」
「は、はい! チーベル、下がってろ」
「わかりました!」
気合の返事と共に、グエネヴィーアを鞘から抜き出し、敵陣の中に切り込んだ!
「うりゃあああ!」
駆け寄ると、視界に敵の姿が映る。
その姿は――人形?
フランス人形っぽいものや、カラフルな衣装に身を包んだピエロの人形。果ては日本人形っぽいものまであるぞ!
そんな人の身体ほどもある大きな人形達が、不気味に、じりじりと迫っている。
そうか、こいつらがベミシュラオさんが言ってた「ダンジョンのボス」が遠隔操作で操る人形共か。
「こいつらは然程強くはありませんが、何せ数が多い! どうします? 一度引いて体制を整えますか?」
ベミシュラオさんの無難な提案。
が、当然の如く、我等が師団長殿はそんな提案を一蹴した。
「引くだと? わるいな、戦いの最中で引いた事がないため、私は引き方を知らんのだ」
「はは、でしょうな」
やっぱ想像通りの答えが返ってきたか。そんな表情を見せる
「だが、少々めんどくさくなってきたな……タイチ、ベミシュラオ、下がれ!」
咄嗟の声に、考えるよりも早く体が反応していた。
俺とベミシュラオさんは、身構えるツングースカさんより後方に位置を取り、事の成り行きを見守った。
きっと、ザコをまとめて消し去るブロウを放つのだろう。
「最大に滾れ、我が血よ!!」
両の掌から真紅の光が迸る!
まるで怪物の咆哮のような、耳をつんざくエネルギーの射出音。洞窟内の空気が振るえ、俺達の身体を駆け抜ける。
そして、赤一色の世界が暫し続き、次第に元の闇を浮かばせはじめた。
そして前方には――ただ、黒い世界がぽっかりと口を空けているだけの状態が、ずっと先まで続いているようだ。
まさに一網打尽!
……だけど、このダンジョン、今の攻撃でだいぶガタが来たみたいだぞ? 変な地鳴りと、天井からの落盤が、そこかしこに見て取れる。
「ちょ、ちょっとばかり気合入れすぎなんじゃないですか? ツングースカさん」
「やぁ、すまんな。貴様達の戦いぶりを見ていると、どうもじれったくてな……つい力んでしまった」
笑いながら答える。まだぜんっぜん余力アリ! って表情だ。
まったく、この人の底が知れないよ。
「とにかくほぼ掃除が終わったみたいですね。チーベル、アメリアス、行こうか」
「はい、太一さん」
と、チーベルの声はすれども、アメリアスの反応が無い。
もしや、と思い振り返り……
「やっぱりだ。いまの師団長殿のブロウに、目がハートマークになってやが――」
やれやれとかぶりを降っている俺の目に、怪しい影が映った!
アメリアスの斜め後方の岩場の影から、ぬっ! っと襲い来るそれは、どうやら奇襲用に伏せてあったクマさんの人形だ!
「あぶない! アメリアス」
気付かないアニキ、咄嗟に駆け寄る俺!
「ロート・シルト!」
かわいいクマさんのいかつい右腕の一振りが、ぎりぎり間に入った俺の防御をねじ伏せる!
愛らしいクマさんのぬいぐるみの癖になんてバカ力なんだよ。
クソッ! そーゆー奴には一刀両断!
「食らえ、クマちゃん!」
上段からの振り下ろしが、クマ太郎の頭部へと見事に決まった!
まるで感じない手ごたえのまま一刀のもとに切り伏せる。まったく、いい切れ味だよな。
「た、タイチッ!」
「ああ、へでもないさ。それよりアニキ、ボーっとしてちゃ困りますぜ?」
「あ、うん……ごめんなさい」
これには、ちょっとびっくり!
アメリアスから素直なお詫びの言葉が出るなんて、何の奇跡だ?
「どうしたアメリアス部隊長。気分でも悪いのか?」
「い、いいえ! なんでもありません」
「そうか、ならいいが」
アメリアスの奴、流石に「あなたに見とれていました~」なんて言えないよな。
「まぁ、これでまた一つ貸しだな……今晩も帰ったらディナーをご馳走してもらおうかな?」
アメリアスの傍らで、小さく耳打ちする。
「う、うっさい。ご馳走くらい、いくらでも食べさせてあげるわよ! ブタみたいにバクバク食べて、お腹が裂けて死ねばいいんだわ」
命の恩人に何て言い草だ。まぁ、下手に落ち込まれるよりはマシだけど。
そう考え、先を急ごうとしたその時だ。
「あ、ありがと……」
本日二度目の「奇跡」が、俺の耳に小さく届いた。
なんだろう……これって、もしかして死亡フラグ? 俺、この闘いで死ぬのかな?
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!