第五章 4 異国の剣
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「ひゃっはー! 流石はディモリドー様だぜ、あの青い虐殺女魔族を一発だ!」
「あの異国の剣に適う奴はいねぇよ!」
周囲の死を免れたちょいザコの皆さんが、口々に勝ったも同然の言葉を投げ掛ける。
確かに攻撃を受けたのは間違いない。でも、被害を受けたワケじゃないんだ。
まったく。早合点で騒ぎ立てるのは、ザコがザコたる所以なんだろうな。
「くくく……そう、この遠き異国よりの一振り『魔魂封刀』はな、そこいらの剣とは違うのよ! 魔族を封じ込め、その力を威力に変える事が出来る『操魔封術』なる異国の法術と、鍛え抜かれた刀匠の技術の結晶でのォ」
ハゲでヒゲのでっかいのが、嬉しそうに自分の大太刀の説明を奏でている。
何かすっげーいまいましい。
「更には、この刃に封じてある魔物こそ、かの有名な『ベイデゲンの絶望』と謳われた魔界の一流貴族、『ベミシュラオ』だ! 貴様ら三流魔族が適うはずもなかろうて」
カカカと笑い、髭を撫で回す。まるで既に勝ちを得たかのような身振りだ。
「ああ、だろうな。最初に見た時より、そのバカでかい刃から薄っすらと奴の気配が感じられた」
どうやらツングースカさんは、その名を知っているご様子。
更には、ハゲチャビンのおっさんの刀の中に、そのベ……なにがしって魔物が封じ込められている事に気が付いていたらしい。
「な、なぁアメリアス……誰だそのベン……ジャミンだっけ? 知ってるか?」
「ベミシュラオ、よ。ハン、よくもアレが一流貴族だなんて言えるわね? 笑っちゃうわ!」
「ふんっ」と、鼻から息を吐きつつ、呆れ顔で語る超一流貴族のご令嬢。
って事は、結構ランクが下な人なのか。
「まぁ見てなさい。アレを一流の魔物だと言う辺り、あの髭ハゲオヤジ大した事無いわ」
にやりと微笑む。
まぁどのみち、見てるだけしか選択肢はないんだけどな。
「フハハハハ! またこの魔物の魂がのォ、同胞を殺める度、自責の念に駆られて鳴きよるのよ。ええ声でのォ」
「フン、悪趣味ここに極まれりだな。言っておくが……私は最初に貴様の得物を見たときから『魔魂封刀』と気が付いていた。これがどう言う意味を成すか、判るか?」
「バカめ、負け惜しみなど聞こえんな!」
「負け惜しみかどうか……もう一度かかってくればわかるさ――このハゲチャビン」
あ、ハゲの頭からぽっぽーって湯気が沸いた!
ツングースカさんの挑発が思いっきり効いたみたいだ。
「ぬおおおおおっ! 言わせておけば図に乗りよってェ!」
でっかい身体が、憤怒の形相で、俺の身の丈ほどの太刀を振りかざす!
奴は名前が出ないところを見ると、天主の代行者ではないようだけれど……その巨体に似合わず俊敏な動きが出来る!
きっとあの剣のステータス補正あっての事なんだろう。
そんな奴にまた先手を取られたら――流石に次は、吹き飛ばされるだけじゃ済まないかもしれないぞ。
「死にさらせェーッ!」
左から、空を切るような一文字の閃光が走る!
落ち着き払ったツングースカさんの右手が、巨大な刃の軌道を妨げるように差し出された! ちょ、ちょっと待った師団長閣下! ブロウは? 手が赤くないですよ!?
「ハッハァー! 諦めよったか」
「アホが、気付かんのか」
ツングースカさんの掌と、魔魂封刀とが交錯する。
その瞬間。
一瞬の光が二人を包んだ!
その閃光は、ハゲの持つ剣の刀身から発せられたものだ!
「ぬおおおおお!」
刀身の輝きが衝撃を生んだのか、巨漢髭の手から、大太刀が弾き飛ばされた!
これは……勝負あったのか!
「己の刃に無数の亀裂が入っていたのも気付かんとは……愚劣にも程がある」
「あ……ああ? 亀裂だと?」
デカいのがたじろぎながら言う。
「ああ。最初の一太刀で、その剣を粉砕してやろうと思ったのだが――それでは流石にベミシュラオを死に至らしめてしまう。そこで亀裂を走らせ、その中で眠る『ヤツ』を外界に触れて目覚めさせたと言う事」
「なに! そ、それじゃあ……」
慌てて吹き飛んだ剣の行方を見るハゲ巨漢。
そこには、折れた剣の刃先から、白い煙が立ち昇っている。
その煙はやがて人の呈を成し、瞬く間に一人の「男性」を生み出したのだった。
「う……うう……うあーッ! っと。えらい目にあったよ、まったく……」
身体を伸ばして首をコキコキと鳴らし、ストレッチをするその男性。
一流貴族……と銘打つ割には、ノータイにヨレヨレの上着、おまけに無精髭とぼっさぼさな長髪。
どこかラフでルーズな格好だな。
「おお、これは閣下! お久しゅう」
「アホウが。最近見ないと思っていたら、こんなところで油を売っていたのか?」
「ははは、つい酒に油断してしまって……面目次第もございません」
ボサボサ頭をポリポリとかきながら、元々少し下がっている眦が、よりだらしなく弛む。
俺にはなんとなくわかる!
あの人はまったく反省していないな。ソースは俺自身がそんな感じだからだ!
「じゃあ何か、お前はこいつを助ける為に、あの一撃を受けたと言うのか!」
「そうだ。故に一撃目では吹き飛ばされるに至った訳だが……私が無傷を見て察っする事が出来なかった時点で、貴様の負けだ。清く死ね」
「バカな……そんなバカな!」
頼りの武器を失って、敵が半端じゃない狼狽を見せている。
さぁ、どう落とし前をつけるんだろう。
「きょ、今日のところはこれで勘弁してやる! お、おぼえておけ!」
まるで使い古されたボケをかまし、その場を去ろうとするハゲのおっさん。
だが、そんな事はできる筈もなく……。
素早い跳躍を見せたツングースカさんが、一瞬でハゲ巨漢の肩口へと飛び乗り、右手を後頭部に宛がって一言。
「アホが、逃げ遂せれる訳が無かろう?」
「い、いやすまんかった! たすけてろげばっ!」
後頭部から喉元へ、赤い閃光が貫き走った。
巨躯が静かに膝を折り、崩れ去る。
その光景を見て、残っていたちょいザコさん達が、恐怖と絶望の悲鳴を上げ、一目散に逃げ出した!
「心に刻めッ! 我が名はツングースカ! 魔蒼の民、チェルノブイ族のツングースカだっ! 貴様らは生き延び、この恐怖を街に伝染させろ!」
あえて追おうとはせず、ザコ連中共に「恐怖の伝達係」と言う任を課した師団長殿。
これはこれで、かなりの宣伝効果になるだろう。
「いやぁ、お見事です閣下! そして小生如きの身を助けていただき、感謝の念に堪えません」
「まったく、貴様の腕を見込んでの『極秘任務』だったと言うのに。また『酒』絡みか?」
「あ、あははは。いやまったくアレを出されると自制が効きませんでして……おや、これはベイノール家のご令嬢ではありませんか?」
まるで話をそらすかのように、ツングースカさんの元へ近付いてきた俺達へと視線を移す。
「おや、そこのゲーベルトの少年は見かけない顔だね」
「あ、俺っすか? タイチって言います。ロキシア達の間ではベオウルフと呼ばれていますが」
「ほう、私はベミシュラオ、ドッペルゲンガー族だ」
「ドッペルゲンガー……ああ、それ知ってます、たしか人間……いや、ロキシアに化けて、その相手に死を知らせるとか死を与えるとかって……」
「その通り! 私の変化能力をツングースカ閣下から買われてね。ロキシアへの潜入工作が我が使命なんだ。最初に変化したロキシアがこの身体で、以来普段はずっとこの姿で通している。ま、よろしくな」
「……で、潜入工作員殿。私の信頼を回復するほどの情報は集めているんだろうな?」
「おっとと、これはしたり。勿論です閣下、きっとご期待に添えられるかと」
「よろしい、ならば聞こう」
「ですが……よろしいので?」
と、ベミシュラオとか言う人が、俺をチラリと見る。
「かまわん、こいつは信頼に足るヤツだ。それに、アメリアスは既に知っているだろう?」
「はっ、では。十年前に魔境ウラジオストの魔蒼の民の村を襲い、全滅――あー、いや殆どの蒼き民を虐殺した組織は、レネオ殺盗団なる組織でして……」
師団長殿の眉がピクリと動いた。魔蒼の民って……もしかしてツングースカさんの事だよな? その故郷が襲われたって事か?
「その構成員名、組織力、拠点などなど、探りを入れたものはことごとく殺されてます。現に私も捕まってしまいましたしね」
「それほど統率の取れた組織なのか」
「はい。おまけに影響力も大きく、この地を治めるワダンダール国も、ほとんど傀儡の扱いと言う具合です」
「そうか。ダークエルフの村を襲った輩は、もしかしたらここの奴等かもな……だが、かの国を動かしてまで、あの森を攻める理由は何だ……?」
ふと考えを漏らすツングースカさん。そう言えば、オークの砦を襲ってたのはワダンダールの軍隊だったけど、ダークエルフの村を襲ったのはどこかの野盗って感じだったもんな。もしかして、あの森に何かあるのかも。
「でも、さっきとっちめた巨漢のハゲが首領だったんですよね?」
「いやいや、あんなのはザコ中のザコ。組織の中にはごまんといるだろうさ」
ベミシュラオさんが頭を掻きつつ言う。
「で、この洞窟の奥ですが――レネオ殺盗団の幹部の一人が罠を張って待っています」
「罠か、くだらん! で、その幹部とやらの特徴は?」
「魔法使い系の男で、操魔封術を使い、私をあの剣の中へと封じた男です。そのほか人形を操り、遠く離れた場所から遠隔の力によって侵入者を攻撃する技を持っています。用心に越した事は無い……と言いたいところですがですが、閣下はお聞きにならんでしょうな?」
「無論だ。私の分の用心は貴様らにくれてやる」
勇ましい口調で新たな闘志を燃やす師団長閣下。
そんな姿に、アメリアスの目がポワワ~ンとハートマークになっていた。
「とにかく。このダンジョン内にいるそのひきこもりマジシャンをぶちのめせば、もっと詳しい情報が得られると言うわけだな?」
「左様で」
「さて……どうやらここからは、私の私怨になるようだ。貴様らは大魔王様の大切な臣――故に、もう戻ってもいいぞ? 私事に付き合わせる訳にもいかんからな」
一瞬胸をなで下ろした。
おそらくだが、ベミシュラオさんもほっとした事だろう。
なんだかそんなおっかない所へ冒険だなんて、まだ俺のレベルじゃついていけないだろうしな。
現地解散、大いに結構! あいた時間でどこか適当な村をめっけて、かわいい村娘をさらいにでも行こうじゃないか!
まぁ、俺の横で目をきらきらとうるませている百合っ子ヴァンパイアが、妙な事を口走らなければ、だけど。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!