第五章 2 大魔王様とアメリアス
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「ところで……今日のお仕事は何でしょう? またどこかへ助っ人に行くんですか?」
今更ながらに、本日の用向きを尋ねてみる。
「うむ、助っ人と言えばそうなるが……昨日行ったブェロニーの地獄森の近くに、新たなダンジョンを設けようと思う」
「だ、ダンジョンっすか!」
それはRPGの醍醐味!
お宝の宝庫!
そして地上より強いモンスター達!
一般プレイヤーなら、そこは攻略するべき場所だろうけれど、今の俺はモンスター側。
ダンジョンを作って楽しめるのか。
「罠とかいっぱい仕掛けるんですか? あ、どうせなら宝箱全部ミミックにしてやればいいんじゃないっすかね?」
「罠はある程度仕掛けるが、そこは魔窟、魔巣となるんだ。知能の低いモンスターが自ら引っかかる場合があるからな」
「あ、はぁ……自制心のない奴もいるんですね」
「ご飯食べるときのあなたのようにね」
アメリアスが茶々を入れる。
どの口が言うのか……お前だって戦いとなると自制が効かなくなるくせに。
「現在あの森の南に、深い洞窟がある。そこにモンスターを住まわせ、ダンジョンとさせるのだが……どうも先客がいるらしくてな」
「先客、ですか?」
「ああ。昨日のうちに偵察を出したのだが、伝令妖精の報告によると、どうやらロキシア共の一群がそこを根城としているようだ」
「なるほど、山賊か何かが拠点にしてるんですね? なら、そいつらを仲間にして、モンスター化させるってのはどうでしょうか?」
「ロキシアを仲間にするだと?」
途端にツングースカさんの雲行きが変わる。
ああ、そういえばこの人って、人間ブチ殺すの大好きなんだっけ。
「そんな選択肢はあり得ん!」
「は、はい。すいませんでした……」
「まったく、何言ってんのよ! あいつらは卑怯で残忍で、おまけに利が傾くと、すぐさま裏切る卑劣な奴らなのよ。奴らと共闘だなんて、身体にわざわざ病気虫を飼うようなものよ」
この世界の人間って、そこまで酷いのか……まぁ、俺らの住む元の世界の人間にも言える事だけどさ。
「とにかく、今から行ってそいつらを排除する。まぁゴミ掃除だが気を抜くなよ?」
「「はいっ!」」
二人そろっての返事が、小気味良く室内に響いた。
「ではその前に……大魔王様への謁見だ。かまわんな? アメリアス」
「え……は、はい」
さっきとはうって変わって、なんとも歯切れの悪い返事を返すアメリアス。
う~ん、やっぱ大魔王様と彼女の間に何があるのか、ちょっと気になるな。
厳粛な気分にさせる重々しい扉を開くと、そこには毎度の事ながら苦虫を噛み潰したような表情のキンベルグさんと、玉座にちょこんと座った大魔王様の姿。
「ね、姉さま! ……いや……アメリアスよ、よう参った。久方ぶりじゃな?」
「はっ! 大魔王様にもお変わりなく、このアメリアス、恐縮の極みでございます」
なんか今ちっこいのが「姉さま」とか言ったな? え、この二人って姉妹なのか? まぁ似てるっちゃぁあ似てるかも……。
だが、姉妹にしてはやけによそよそしいな。
おまけにアメリアスは大魔王様の方を見ようともしないし。
「大魔王様。これより我が三名、ブェロニーの地獄森周辺制圧のためのダンジョン製作に出立して参ります」
「そうか、くれぐれも油断無きよう」
「「「ははっ!」」」
三人そろっての一礼の後、踵を返す俺達。
と、その背中に大魔王様の声。
「ア、アメリアスよ……そなたはちと残れ……」
大魔王様にしては力なさげな声だ。
だが、そんなちび助の言に……
「失礼、大魔王様。我々は只今より任務にあたります故……」
そっけなく答えるアメリアス。
そんな彼女に向け、ツングースカさんの温和そうな声が届く。
「アメリアス部隊長、大魔王様の言に従え」
「で、ですが……」
「なぁに、心配するな。貴様を置いてけぼりにはせんよ」
「…………」
ただ押し黙って、立ちすくんでいる。
「我々は私の執務室にいる。大魔王様の用件が済み次第、来い」
「……はい」
俯く彼女を一人残し、俺とツングースカさんは、謁見の間を後にした。
執務室へと戻ると、ツングースカさんは自分の椅子へドッカと腰を下ろし、一息ついた。
「ふぅ……タイチ、貴様も楽にしていいぞ?」
「あ、はい」
「楽に」とは言うものの、さっきの大魔王様とアメリアスの事が気になって、なんとなく気が休まらないな。
そんなそわそわした俺を見て、ツングースカさんが言う。
「ははは、どうした落ち着きの無い。新しい武器を携えて、早速暴れてみたいか?」
「あ、いぇ……そ、それもありますが」
「なんだ? もしかしてアメリアスの事か?」
「あ、はい」
「ははは、貴様は心配性だな? だが、そんな相手に気配りの出来るところ、私は嫌いではないぞ」
「は、はははは……ありがとうございます」
「と言う事は、大魔王様とアメリアス部隊長の間柄を……まだ知らぬと言う訳だな?」
いとも簡単に見透かされるあたり、余程ソワソワしてたんだろうな、俺。
「……はい。他人の間柄には、興味本位で首を突っ込むなって……昔よく親に言われてたもので」
「そうか。だがこれは、魔界の者ならば大概は知っている事。また、耳にしていおかなければならない事だ。まぁ聞け」
「わかりました。じゃあ拝聴いたします」
畏まり、ツングースカさんの言葉を伺う。
「大魔王様の魂の受け皿たる人物は、魔界の最高貴族の四家のうちから、交代で輩出される。此度の大魔王様の受け皿たる身体を差し出す番はベイノール家でな……」
「え、じゃあアメリアスが?」
「そうだ。本来ならば、正当な世継ぎを大魔王様の身体として提供するのだが――彼女は……アメリアスはそれが叶わなかった」
「え? 何故です? あいつの性格が粗暴だからですか! あいつの根性がひん曲がっているからですか! あいつの高飛車なツン属性が超メンドクサイからですか!?」
「誰が粗暴で根性曲がっててツン属性だ!」
いきなり心胆を寒からしめる声と、次いで「ごちんっ!」と言う音と共に、後頭部へと衝撃が走る!
「いててて! あっ! な、なんだアメリアス。いつの間に……」
流石はコソ泥スキルの持ち主! 忍び足に定評のあるアニキだ。
「すまん、アメリアス。今タイチに貴様と大魔王様の――」
「いえ、いいんです、師団長殿……私がちゃんとコイツに知らせておけばよかったまでの事。そのためにわざわざ閣下の手を煩わせてしまって……申し訳ありません」
「いや、いい。それより……もういいのか?」
優しく尋ねるツングースカさん。
そんな温和な目を見てると、虐殺魔である彼女がうそのようだ。
「はい……せっかく大魔王様たる威厳を身につけさせるために、そして里心を起こさせないためにと、辛い心を抑えてきたと言うのに……あの子ったら……はっ! も、申し訳ございません! 大魔王様に対し、軽々なる口の利きよう。処罰は覚悟の上!」
「もういい、気にするなアメリアス」
「は、はい……」
アメリアスの瞳が潤んでやがる。
にしても、だ。酷い話だな……まだ年端も行かない子供を家庭から切り離し、しかめっ面の爺さんがいるにしても、あんなところで一人ぼっちにさせるなんてさ……。
そりゃあ、姉ちゃん見たら恋しくもなるさ。
「でも何故です? アメリアスは長女でしょ? 世継ぎなら順番ではアメリアスの方が先でしょうに
」
「それはだな……」
言い辛そうにしているツングースカさんの言葉を割って、アメリアスが言う。
「簡単な事。私の血の半分は、ロキシアの血が流れてるのよ」
「うえええぇ! ま、まじですか!」
「嘘言ったって仕方がないじゃない? ま、みんな知っている事よ、気にもしてないわ」
あっけらかんと言う。
なるほど、そう言えば、普通の人と同じく夜に寝るってのも頷けるよ。
けれど、気にもしていないってのはどうだかな……自分がもし、パーフェクトなヴァンパイアだったら、かわいい妹を辛い目に合わせずにすんだと自身を責めてるんじゃないか?
だって、ベルーアにヴァンパイアの血が混ざっていると言う話を聞いて、無条件で同情心を抱くほどだしな。きっと心はガラス細工のように繊細なんだろう。
ん? ベルーア……?
はっ! そ、そういえばあいつは? ベルーアは?
「ああ、彼女なら朝一番に出て行ったわよ?」
「え、何故?」
「何でも、調べたい事があるからロキシアの都に潜入して、王立図書館に行くって」
「調べたい事? なんだろな?」
「さあ、そこまでは知らないわ。あ、でも――一応彼女に伝令妖精を共させたから、何かあれば伝令がくるわ」
「そうか、それならいいや」
一人で大丈夫かな? ベルーアのやつ。
もし大地達に見つかりでもすれば……きっとロキシアの裏切り者として、何らかの攻めを受けるはず。
まぁ、彼女はチーベルとは比較にならないくらいまともな案内人だ。
きっと自分自身の力……もしくは天使の力を使って、うまく切り抜けられるだろう。
「ではそろそろ行くか?」
「「はい!」」
そう言うと、ツングースカさんは呪文と行き先を唱えた。
あ! そうだ、ツングースカさんってテレポートの呪文が下手――!
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!