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第五章 1 登城と百合属性

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 ――朝。

 俺を目覚めさせたのは、小鳥のさえずりとまぶしい日差し。

 そして朝食の目玉焼きが焼ける音と、入れたてのコーヒーの香り。

 

 などではなく――アメリアスの怒号と、顔面を踏んづける足の裏の感触だった。


「いつまで寝てんのよ、このアホ茶色! いい加減にお・き・な・さ・い・よ!!」


 うら若き美少女に、罵声と共にぐりぐりと踵でほっぺたの辺りを踏まれると言う、ある種の性癖の方々なら、三万円は黙って差し出すだろうと言うプレイでの朝の目覚め。

 おまけに胸糞の悪い、朝だか夜だかわからない窓の外の風景。

 なんか表でちっこいガーゴイルみたいなのが、餌の取り合いでぎゃーぎゃー喚いてるし。

 せめて幼馴染が起こしにくるみたいなシチュエーションでの目覚めなら、まだなんぼか良かったのに。


「いつまで寝てるのよ、さっさとおきなさ――」


 突然、俺のベッドのシルクシーツを剥ぎ取るアメリアス。


 が! そこには幼馴染の寝起きシーンお決まりの……!


「ひぃ! こ、このド変態茶色がぁ!」

「こ、これは生理現象でしかたなどぐふぅッ!!」


 腹に蹴りを見舞われ、「そのまま死ね!」とばかりにシーツをかけられた。

 どうやら早速「あの本」が、俺の願望を聞き入れてくれたらしい……ちくしょう、いつか燃やしてやる。


「う~……おはようアメリアス。さわやかな朝だね」


 とりあえず現実逃避。

 今までの事は全て忘れて、幼馴染の女の子に優しく起こされた。と、自分に言い聞かせる。

 見ると、昨日の戦闘服? のような感じの、また違った衣装に身を包んでいるアメリアス。

 なんだか気合十分って感じだな……つか、朝から何ハッスルしてんだよ。遠足前の小学生か?


「さっさと起きろ、バカ茶色! もうとっくに登城の時間よ」

「ういっす……つか、もうそんな時間かよ? どうせならもっと早く起こしてくれよな」

「お父様が、ゆっくり寝かせてあげなさいって仰ったのよ。さぁ、さっさと起きてお城に行くわよ!」

「あ、朝ごはんは?」

「んなもんないわよ!」

「ちょ、おま……朝飯食わねぇと力がでないよ、トニー!」

「何訳のわかんない事言ってんの! うちは貧乏だから朝ごはん食べる余裕は無いのよ! いいから起きろ!」


 お前こそ何を訳のわからん事を言ってんだ?


「と、とにかく、だ。身体の一部分のレッツパーリィ状態を沈静化するために時間が欲しい。表で待っていてくれ……」

「いい、3分よ? 3分で一階に来なかったら殺すからね!」


 昨日感じた双子のメイドさんよりも恐ろしい殺気を発しながら、アメリアスが俺の部屋を後にする。


「おはようございます、太一さん」

「んあ、お、おはようチーベル……今何時くらいだ?」

「はい。現実世界でいいますと、まだ6時位かと」

「な、なんだって? まだぜんぜん早いじゃないか!」

「そうですね……でもベイノール家ではこれが普通なのでは?」

「うう、あの野郎。なんでこんなに早く起こすんだよ……まぁいい、さっきの蹴りで目が覚めちまったしな」


 そう言ってベッドからもそりと起き上がり、ささっと洗面所で顔を洗い、身支度をする。

 なんともせわしない朝の目覚めだ……一体どこの軍隊だよ?

 まあ一応「魔王軍」だけど。





 グエネヴィーアを片手に、チーベルを従えて、一階へと大欠伸と共に降りる。そんな俺を見て、またまたアメリアスの罵声が飛んできた。


「遅い! 何やってんの、さっさと降りてくる! このアホ茶色」

「うっさいなぁ。もしかしてアメリアスさんよ、昨日の大声での謝罪がお気に召さないで、それで俺に酷い仕打ちをしているんじゃないのか?」


 そう言った途端、アメリアスが何かを思い出したように急に顔を赤らめた。

 そしてさっきよりも大声で、俺に食って掛かる。


「そ、そんな事ある訳ないでしょ! あんなツマンナイ事、いちいち覚えてるワケ無いんだからね!」


 う~ん、こりゃ本当に違うようだ。

 だって彼女の素振りは、どう見ても今の今まで昨日の事は覚えていない、もしくは、まったく気にしていなかったと言う感じがする。


「とにかく、今から登城するから……ついてらっしゃい!」

「うぃ~っす」


 まだまだ半分寝ぼけ眼で、アメリアスの背後を歩く。

 と、そんな眠気が一気に吹っ飛ぶような光景が!


「「「 行 っ て ら っ し ゃ い ま せ 、 お 嬢 様 。 タ イ チ 様 」」」


 でかい門扉へと向かう小道の両側を、ずらりと居並んだメイド服と燕尾服の人達。

 まさに大貴族の豪勢なお見送り、もしくはすっごいヤクザの人の出所のお出迎えと言う感じだ。

 一斉にお辞儀と言ってらっしゃいの大合唱に、ただ呆気にとられる。

 だが、アメリアスにとって、これは日常なんだろうな。眉一つ動かさないで平然と歩いてるよ。


「行ってらっしゃいませ。お嬢様、タイチ様」


 お見送りの行列の最後尾。

 一人、道の中央に立つセルバンデスさんが深々とした一礼で、迎えてくれている。


「じゃあ、行ってくるわねセル。あとの事はよろしく」

「はい、心得ております」


「うん」と小さく頷くと、アメリアスはまた颯爽と歩き出した。

 ふと見ると、昨日の甘蜜色の髪の毛の姉妹も、最後尾あたりに並んで立っているのが見えた。


「あ、昨日は迷惑かけてごめんな。別に二人を困らせようとしたワケじゃないんだ」

「よく存じております」


 俺へと、改めて深々としたお辞儀をする姉妹。

 当然の事ながら、昨日感じた殺意や威圧的な感覚はま~ったく無い。


「ほら、なにグズグズしてんのよ? 置いてくわよ」

「お、おう……」


 まさにアニキに従う舎弟その一!

 肩で風を切って歩くその後ろを、俺はちょっとビビりながら付いていった。





 グレイキャッスルへとたどり着いた途端、真っ先に向かった場所。

 それは、大魔王様への謁見の間……ではなく、キンベルグさんの執務室の横の部屋、幾人かの魔族っぽい人だかりがある、扉の前だった。

 なんだ? 皆女性タイプの魔族じゃないか。キャイキャイと小声で騒いでいるあたり……もしかして。


「うん、やっぱりもうお着きになっているようね」


 人だかりを見て、アメリアスが小さく頷く。


「みんな、どいて。これから中に入るんだから」

「えっ! な、何? アメリアス、中に入るって……呼ばれてるの?」

「ふふん、まぁね!」


 得意げな表情で胸を張る。

 それに呼応するかのように、周囲にいた魔物少女達が、一斉に「いいなぁ~!」の合唱をあげた。

 うおっ! 泣いてる奴までいるぞ? なんだこいつら、さすがに引くわ……。


「師団長殿、サトウタイチとアメリアス、只今出頭いたしました!」


 ノックと共に、アメリアスが声を張る。


「かまわん、入れ!」


 かっこよくも美しい声。

 なんだっけか。そう、タカラヅカ歌劇団ってやつの男役の人みたいな、この凛々しい声……ツングースカさんだ。


「さぁ、ボサっと突っ立ってないで入るわよ! ではみなさん、ごきげんよう」


 悔しさ溢れる悲鳴の中、アメリアスが俺の耳を引っ張りながら、悠々と室内へと入る。 


「いてててて……耳を引っ張るなって! あ、ツングースカさんおはようございます! もうお体の具合はよろしいんですか?」

「うむ、おはよう。私を誰だと思っている? あんなカスリ傷など、一晩寝ればすぐ治るさ」

「ははは、流石ですね」


 机の上で書類とにらめっこをしていた顔をこちらに向け、にこやかに答える俺の上司。


「こ、コラッ! 『さん』じゃないでしょ! 師団長殿とお呼びしなさい!」

「いででででっ! だから耳をひっぱんなって!」


 引きちぎる勢いで俺の耳をむんずと持ち上げ、ぶんぶんと振る。

 その様子に、ツングースカさんの口から笑みがこぼれた。


「フフ……仲がいいな、貴様ら」

「と、とんでもございません! このアホを躾けているだけですわ! このバカが無礼を働き大変申し訳ございません、飼い主の私の不徳のいたす所存であります!」


 俺はいつからお前のペットになったんだオイ?


「それはいいが……アメリアス部隊長、貴様はどうしてここに?」

「は、はい! この者、タイチがどうしても付いてきて欲しいと泣きついて参りましたので、仕方なく……」


 ははぁ、なるほどな。

 こいつ、俺をダシにして、憧れのツングースカさんと懇意になろうって訳か。そこまで百合属性だってのは気が付かなかったなぞ。

 しかしながら、こいつがお姉さまLOVE的な百合っ娘属性だったとは…………



 大 い に 結 構 !



 いやいや、そんな展開も大歓迎だよ、アメリアス君!

 早速昵懇の仲となって、ツングースカさんと超絶ハードな濡れ場を展開してくれ!

 そしてラッキースケベの神様! そのシーンにうっかり出くわす俺! みたいな展開よろしく!


「こら、タイチ! ダメだぞ? 他所の部隊の、ましてや部隊長に迷惑をかけるな。ちゃんとお詫びして、自分の任に就いてもらえ」


 え、俺が怒られた? ツングースカさん、まさかの百合属性拒否だと!


「すまないな、アメリアス。私からも謝る。もう行っていいぞ?」

「あ、え、いや……師団長どの、私は別に……」


 アメリアスの奴、しどろもどろで取り繕ってやがる。


(太一さん、ここは一つ助け舟を出されては?)


 チーベルが小声で妙案を呈する。

 ほほう、それはいいな。ここは一つ、高値で恩を売ってやるか!


「あー……ちょっと待ってくださいツングースカさん。こいつ……あ、いえアメリアスには、昨夜大きな貸しを与えたのです。で、本日これからの戦闘で、その貸しを返してもらおうと……それに、アメリアスの部隊は最近待機命令ばかりで、これという戦いが無いらしく……どうかアメリアスの同行の許可を頂きたく、よろしくお願いします!」


 などと、口から出任せる。これもベルーアやチーベルの影響かな?


「んー、ならば仕方が無いな。貸し借りは大切な事、それをおろそかにしない貴様の言や良しだ。かまわん、同行を許可しよう」

「は、ありがたき幸せ!」


 はははっ。アメリアスのやつ、ツングースカさんに同行できて嬉しいやら、俺に貸しを作って悔しいやらって微妙な表情をしてやがる。


「ところで、昨夜の貸しとは何だ? あれから貴様達は何か戦闘行為を行ったのか?」

「あ、はい。アミューゼル寺院へと出向き、四名の天主の代行者とその……」

「何! 戦ったのか?」

「はい、うち一名を討ち果たし、残りの三名は逃亡。戦利品として、この剣を手に入れました」


 そう言って俺は、手に持っていたグエネヴィーアをツングースカさんに見せた。

 途端、彼女の表情が変わった。


「ほぉ、それは神威武器じゃないか。神殿の警備は厳重、おまけに天主の代行者が四名。という事は……漁夫の利を得たワケか?」

「ははは、慧眼恐れ入ります」

「だが、代行者を一名屠るとは……たいしたものだな」

「それは……アメリアスの仕事です」


 俺は横で未だ固まっている同僚を指差し、手柄を褒め湛えた。


「ほう、流石はベイノール家のご息女だ。いい仕事をする」

「え……いえ、あの……あ、ありがとうございます! ……ですが」

「ん? 何だ」

「奴らのうちの一人が、急に戦闘力が弱まって……その、普通のロキシアとなんら代わらない能力となり……結果、容易く倒せたという訳で……」

「あ、そういえば大地――あ、いやリーダー格のやつも、そのお付の奴も、『時間切れ』だとか言って、その後、取り付いていた神が落ちたような……」

「ふうむ、それは面白いな。天主の代行者は時間制限があるという訳か……という事はだ。昨日私と戦っていた『奴』も、あの時、誰かさんに邪魔されずにいたとしたら……私の勝ちは揺ぎ無かったという訳だな?」


 ぎくぅっ! そ、そう言えば……あの時の戦いって、3時間程経ってたっけ? もしかしたら、あと数分程度で神様の力が無くなって……そのため、あの敵はあんなにあっさり身を引いたのか!   ど、どうしよう。俺めちゃくちゃアホな事やらかしちゃったのか?


「あははは、まあいいさ。あのまま戦って、力の弱くなった奴を倒したところで、何の自慢にもならんしな」

「ほっ……あ、いえその……申し訳ありませんでした!」

「なに、かまわんよ」


 笑顔で答えるツングースカさん。

 けれどその瞳の奥には、あの時の戦いを思わせる闘志のようなものが、その顔を伺わせていた。

 俺の今の話で、彼女の戦闘意欲に早速火が付いてしまったのかも……今日もまた、血の雨が降るな。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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