第四章 9 ベイノールの館にて 5
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
二階へと降りた俺達は、自分の部屋を探すこと10分弱、無事部屋を見つけ帰還を果たす事が出来た。
……二度ほど自分の部屋の前を通り過ぎていた事は、俺とチーベル二人だけの内緒だ。
「あれ? ベルーアの部屋に行かなくてもいいんですか?」
部屋に入ろうとする俺に、チーベルが尋ねる。
「えーもうめんどくせぇよぉ。ねむいよぉ。明日にしようよぉ」
「まぁ、それはかまいませんが」
「それにお前分身だろ? 超能力とかテレパシーで会話できないのかよ?」
「前にも言った通り、そんな機能は備わってません」
「ああ、そうだっけか。まぁ、なんいせよ夜の眠い時間ってのは、感情や思考がおかしくなっちまうんだ。だから睡眠をとって、感情や思考が正常な朝になってからにしよう」
「はぁ、そうですか」
そんなこんなで部屋に入ると、突然のかわいい声が俺を出迎えた。
「おかえりなさい」
「うはわっ! な、なんだベルーアか。脅かすなよ?」
「すいません、お留守でしたから待たせてもらいました」
「お、おう。それはまったくかまわないけど……そう、ちょうどお前の部屋に行こうと思ってたんだよ!」
「私の部屋に、ですか?」
「ああ。お前、なんだか心配事を秘めてる感じだったからさ……多分大地の事だろうけど」
「…………調子いいですね」
横でぱたぱたとはばたくチーベルが、ジト目で俺を見ながら言う。
ええい、うっさい! こっち見んな!
「心配してくださってありがとうございます……実は私もその事について、ご相談にとやってきたんです」
「え? そ、そうなんだ。ああ、話を聞くよ」
喉元まで出掛かった「えー眠みぃからあしたにしよーぜー?」と言う言葉をグイッと飲み込み、紳士的を気取ってベッドに腰掛けるよう進める。
俺はその横に座り、改めてベルーアを見た。
目を伏目がちに流し、何かを思案している様子。そんな彼女はなんだか見るに忍びないな。
「太一さんは大地さんの事、どう思われます?」
「ん、どうって……?」
「この世界に来てからの、あの変わりようです」
「って言われても、アレじゃないか……あの本の物語に沿っての行動――!」
言われて気が付く。
俺が読んだあの本、「主人公」ってのはそんな性格じゃなかった。
いや、むしろあんな性格のキャラクターがいたのを、俺は覚えている。
「そうです。そのキャラクター……本来、大地さんが演じるはずだった登場人物――今の太一さんの役『ベオウルフ』です」
「ああ、やっぱそうか。あいつがいつもゲームなんかで使う名前の『ベオウルフ』でピンと来たよ。うーん、どのみち俺と大地は戦う運命にあったんだよな」
「そうです。ですから最初、こちらの世界に来る前『この役はお嫌でしょ?』と尋ねたじゃありませんか?」
「ん、ああ。そう言う意味だったのか。俺はまた、すぐ死ぬ系の端役モンスターだからだとばかり。そう言えば……本来ならこの先、俺の役はどこでリタイアすんだ? それまでにハーレム……じゃなくって、やりたい事とかやってしまわなきゃいけないしな」
「え? どこまでって……最後までじゃありませんか」
「あ、そうなんだ。最後まで俺生き残れるんだ?」
俺の暢気な一言に、ベルーアが詰め寄るように言う。
「も、もしかして……最後まで読んでらっしゃらないんですか?」
「あー……その……うん」
「え? お二人の結末を了承なされた上で、この役を引き受けたのでは?」
「いやその、村を襲ってハー――俺も仲間に入れて欲しかった一心で……」
ベルーアが、チーベルまでもが俺をあきれた目線で見てやがる。
「でさ、俺の役って最後どうなるんだ?」
「最後は……ラスボス扱いで、主人公と一騎打ちです」
「ちょ、ちょっとまて! ラスボスってどーゆー訳だよ! 大魔王様は? あいつがラスボスじゃねーのか?」
「いえ、あなたの役『ベオウルフ』が、大いなる力を得、大魔王の座に君臨するのです」
「おいおい、俺はそんな事しねーぞ! なんであんなチビ助を手にかけなきゃなんねぇんだよ!」
「いえ、大魔王が突然死ぬんです……」
「死ぬって……おいまさか……」
「ああ、いえ。死ぬというのは語弊がありました。大魔王の受け皿たる身体が、寿命を向かえ、死んでしまうのです」
「寿命って……あのちっこいのはまだまだ子供だろ?」
「子供? 子供なのですか? あの本では、大魔王の器たる魔物と言うのは、高齢のお爺さんだったんですよ」
「え? じゃ、じゃあなんだ? そこも話が変わってるってのか?」
「はい。私と大地さんが最初にアメリアスと戦う場所、そして太一さんの役ベオウルフと初めて敵対する場所やシチュエーション。ほかにも細々した所があの本と変わっていますね」
なんだか話がややこしくなってきたな。
「で、でもさ……それって誤差の範疇じゃないのか?」
「私も最初そう思いました。ですが……もしかしたら、基本的な役割の変更で、ストーリー自体が変わってきているのかもです」
「いやいや、俺と大地の『演じる役』が変わったってだけで、なんでストーリーが変わるんだよ?」
「この物語を演じるメインプレイヤーの性格が反映されるんですよ」
「おい、バカ言うな! 大地はそんなやつじゃねぇ! あいつがたかだか一本の剣欲しさに、人間側の――ロキシアの寺院を襲撃する筈無いって!」
今度は俺が興奮気味に、ベルーアへと詰め寄った。
「私だってそう思います。初めて出会った時、すごく好印象でしたし」
当然だ。
あいつは俺なんかより、ずっといい奴なんだ。所詮俺のような三流モンスターが似合う奴とは大違いなんだよ。
「やっぱアレだよ。あの中にいる神とかに操られてるんだって」
「私もそう思いたいんです……が……」
「が……って何だよ?」
「現実世界での変わりようを見るに、そうとは言い切れないのです」
「どういう意味……そ、そういえば態度がおかしかったよな? でも、あれはあの神に操られた副作用っつかなんつーか――」
「現実世界において世界の影響はまったく及びません。もし、現実世界で豹変してしまったとすれば……それはプレイヤーの心持ちの有り様次第と言う事です」
「じゃあなんだ、アイツはこっちの世界に染まってしまったって事かよ?」
「もしくは……元々そう言った性格の持ち主であったか――」
「ふ、ふざけんな! アイツに限ってそんな事あるわけネェよ!」
「お、落ち着いてください太一さん! あくまで仮定の話です」
チーベルの一言に、はっと我に返る。ベルーアの瞳が怯えているじゃないか。
「す、すまないベルーア……少し興奮しちまったようだ。なんかさ、自分の事を悪く言われているようで……本当にすまない」
「いえ、いいんです。お気になさらないでください。それに、悪いのは私――そう、『私の本体』なんですから」
そう言えば、事の原因を作ったのは現実世界のベルーアだ。
あいつが俺と大地を間違わなければ、こんなにややこしく……ん? ちょっとまってくださいよ? もし間違わずに大地が今の俺『ベオウルフ』の中の人をやっていたとしても、ひょっとしたら結果は同じだったんじゃないか?
一体どう言った人選でアイツが悪役に選ばれたんだよ!
「そ、それは……言いにくい事ですが、あなたがそう望んだからです」
「――っ! お、俺が望んだ?」
心の奥底で、親友が邪魔だと感じていたのか? いやま、確かに名前も背格好も似ている大地の事を邪魔っけに思った事はしょっちゅうだ。
でもそれは……親友であるが故の馴れ合い、言わば「プロレス」だったんだ。それなのに……。
「でも安心してください。ストーリーの結末は、激闘の末にお互いを認め合い、互いの勢力は和平を結んで末永く仲良くなると言うもの……の、はずですから」
のハズ――か。ベルーアも自信ないんだな。
「本当に申し訳ありません……あっちの世界の『私』がしっかりさえしていれば、こんな事にはならなかったかもしれません」
「いや、どの道こうなっていた『かも』しれなかったんだ。お前のせいじゃない――」
見ると、ベルーアの透き通るような頬を、一筋の輝きが伝い落ちている!
「お、おいおい! 馬鹿だな、泣く奴があるかよ! それにほら見ろ、お前の分身であるチーベルなんて、一ミクロンもそんな後悔なんぞ見せてないんだぞ? お前も気にすることないって!」
「で、ですが……」
「そ、それにだ! 俺は案外この魔物の世界ってのが気に入ってる。魔物側にも言い分、信義みたいなものもあるって事がわかったし、一概に悪だと決め付けるのは短絡的だと教えられたよ」
「た、太一さん……」
「そう、ケッコー楽しいぜ? 魔物ってのもさ! な、チーベル」
こっぱずかしい台詞を誤魔化すため、助け舟を得ようと、チーベルへと目を移す。
「えーんえーん。ごめんなさいたいちさーん、わたしたちのせいでこんなことになっちゃってー。えーん」
棒読みで泣き真似を見せるアホがいた。
やっぱ現実世界のベルーアのアホ成分のみが結集されて、チーベルを形成してるんだな。
「もういい。とにかくだ、お前は何も心配しないでいい。それに、だ。冒険ってのはさ、先が判らない方が面白いじゃないか?」
「太一さん……」
「だからさ、もう泣くなって。ホラ、シーツで悪いが、これで涙拭けよ……せっかくのかわいい顔が台無しだぜ?」
「あ、ありがとうございます」
ベッドのシーツをむんずと掴み、無理やり引き寄せる。もうちょっとかっこいい、スタイリッシュなやり方はなかったのか、俺!
「太一さんって本当はお優しいんですね?」
「ば、バカ言うなよ……」
顔から火が出ているんじゃないかと思うくらい、顔面がほてっているのを感じる。
な、なんだよ、チーベル! 何ニヤニヤしてこっちを見てるんだ?
いいからあっち向いてろ。
「今日はありがとうございました。話を聞いて頂いて、気持ちが少し楽になりました。もう部屋に戻りますね」
「お、おう……こんな程度しか答えられないけど、そんなんでよければいつでも話を聞くぜ?」
「ありがとう、太一さん」
そう言うと、オッドアイの白金髪美少女がそっと近づいてきて……優しく、俺のほっぺにキスをした。
「おやすみなさい」
「へ……は、はい」
頭は真っ白で何も考えられず――ただ、ベルーアの髪の毛の甘い香りだけが、やけに印象に残ってた。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!