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第四章 8 ベイノールの館にて 4

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。

 セルバンデスさんとの男同士の裸の付き合いと言うとんでもないフラグを踏み、危うくセルバンデスさんルートを攻略してしまいそうになる自分に制動を掛ける。

 あのまま一緒に入浴を続けていたら、きっといろんな意味での未知なる扉が開かれ、俺の中の歴史に新たな一ページが刻まれていた事だろう。


 とにかく大浴場からの離脱を図り、館の中へと戻る。

 で、結局セルバンデスさんに教えられた通り、三階のアメリアスの部屋へと向かってしまう俺。


 ビビリと思われるのも癪だし、その双子のメイドさんってのにも興味があるし。

 まぁ見てすぐ帰る分には問題は無いだろう。





「ちょっと気がかりなんですが……」

「ん、何だ?」


 三階へと昇る階段の途中、チーベルが俺へと耳打ちする。


「アメリアスさんのお母様はどうなさってるんでしょうか? 一向にお姿が見えないところを見ると……」

「なぁ、チーベル。昨日今日来たばかりの者が、ヨソのお宅の家庭の事情を根掘り葉掘り詮索するもんじゃないぞ」


 俺だって気にはなってたさ、できればさらっと聞いてみたかったのも事実だ。

 でも流石にそれは気が引けた。

 おまけにアメリアスの持つ、大魔王様へのわだかまりが一体何なのか? 知りたいってのも、正直なところ気持ちとしてあるんだよな。

 

 でも、だ。

 人には踏み込まれたくない心の聖域ってもんがあるんだよ……。

 そう、俺だって……俺だって、超ベッタベタな俺様ツェー! なチートハーレムMMORPG世界の物語が実は大好物だって事、誰にも知られたくないもんな。

 そこに踏み込まれでもしたら、流石の温厚な俺も…………恥ずかしくて号泣すると思う。


「意外なところに常識人ですね、太一さん」

「うっさい、意外って言うな。黙って飛んでろ」


 ちょいと赤面しつつ、三階までの階段を昇りきる。

 と、なるほど……セルバンデスさんが言った言葉の意味がスッゲー判った。

 踊り場を離れて、廊下に差し掛かった直後だ。痛いほどに伝わってくる緊張感。

 それが歩一歩と足を進めるにつれ、次第に殺気へと変わっていくのがひしひしと伝わってくる。


「すごい威圧感ですね」

「ああ、俺みたいな三流魔物ザコモンスターでもビンビン感じるよ……いや。ザコだからこそ、身体が無意識に危険を警告してるんだろう」


 一つ目の曲がり角が、ランプの薄明かりにボンヤリと口を開けているのが見える。その角を曲がり終えると、さらに奥へと進む廊下と、別館へと続く渡り廊下が見える。異様な殺気は、その渡り廊下の先から漂ってきているようだ。


 どうする? 引き返すんなら今のうちだぜ?

 そんな考えが俺の脳裏をよぎる。ええい、アホか! 俺はただ、仲間に会いに来ただけなんだぞ?


 ……夜中遅くに、だけど。


 いやまぁ、警戒されたり怒られたりするのは当然だわな。

 しかも相手は、魔界の大貴族のうら若きご令嬢なんだぜ? 殺されたって文句は言えないよな。

 じゃあなんでそこまでして行くのかって? それは至極簡単!



 ――俺があいつに今すぐ謝りたいから、だ。



「う~ん、俺ってそんなキャラだっけ?」


 自問自答する。


「もしかしたら、あの本の力により強制的な脚色の力が働いてるんじゃねーのか? そう、これはきっと、アメリアス攻略ルートの強制イベントなのかもしんねーな。はは、だから俺が言いたくもない言葉、行動をとってるだよ、うん」


 そんな自分への問いかけに、チーベルが核心を突く答えをくれた。


「そんなことある訳無いですよ。それはきっと、エロゲか何かと勘違いして、その先にある濡れ場イベントとかに期待しての事じゃないんですか?」

「うぐぎぅ! な、なんで俺の心を読めるん……いや、いやいや! け、決してそんなやましい事を期待してじゃないぞ」

「そうでしたか、もうしわけありません」


 傍らを飛ぶチーベルが、どこか含みを持つ言い方で謝る。

 でも実際はどうなんだ? そんな命の危険を冒してまで、行く価値があるのか?

 けれど、そんなことを考えても俺の足は止まらない。

 ただずんずんと、殺気が流れ漂う根元へと、歩みを進めるだけだった。


「います……ね」

「ああ……居るな」


 長い渡り廊下の先、別館である北館への入り口付近。

 近づくものは皆排除します! と言う警告の殺気を放つ二人の無表情な少女の姿が、吊るされた古風なインテリアランタンの薄明かりに照らされて、ぼんやりと浮かんでいた。

 メイド服にメイドカチューシャという、アキバ辺りでよく見かける、もえもえキュンな姿のそっくりさん二名。

 右の少女はロングヘア、左の少女はショートフェザーという甘蜜色の髪の双子姉妹だが、そのかわいい顔からは予想だにし得ない程の威圧感を放っている。


「それ以上近づけば、あなたを強制排除します」


 彼女達まで約3メートルの辺りに足を踏み入れた途端、髪の長い方の少女が一言警告を発してきた。


「あ、ども。怪しいモンじゃありません。えっと……俺はタイチって言う、アメリアスの同僚で――」

「如何なる方もそれより足を踏み入れる事は、罷り成りません。お引取りください」


 またもや、ロング髪の子が口を開く。


「じゃ、じゃあさ、アメリアス呼んできてよ? 居るんだろ?」

「お嬢様は只今ご就寝中でございます。どうかお引取りを」


 融通の利かんやっちゃな。


「俺はただ、あいつに謝りに来ただけなん――」


 ちょっとイラッときた俺は、興奮気味に彼女等二人へと詰め寄った。


 直後!

 俺の右ほっぺたの辺りを駆け抜けた一陣の風……続いて、つつつっと肌を伝う、生暖かい一本の筋。

 なんだ? と考えているうちに、ヒリつくような痛みが俺の頬を走った!


 こ、これは……攻撃された!

 ちょっと待て、何された? 見えなかったぞ! つか、動いた素振りもなかったんですけど?


「警告したはずです。それ以上近づけば、命は無い、と」

「ああ、確かに聞いた。俺の不注意だ」

「では、お引取りください」

「んーでも、それも拒否したい」

「今の一撃は、あなた様がアメリアスお嬢様の命の恩人だと伺っていればの手心。本来ならば、首と胴が離れています」


 おっかねぇ事を、無表情でさらりと言う。髪の長い少女。

 つか、ショートヘアの子は無口キャラかな? ……なんて悠長に考えてる場合じゃないな。

 ここは一つ俺も戦闘態勢を……と、思って初めて気が付いた。


「部屋にグエネヴィーア忘れてきた……」


 いやまぁ、あったところで勝てる気はしないんだけどさ、ステータスアップと必殺のブロウとかに期待できたかもしれないし……ああっやっべぇ! 俺がヘタに戦闘態勢なんかとっちゃったから、相手の二人も身構えちゃったよ!


「最終警告です……あなたが生き残る選択肢は二つ。我々と戦って勝ち、お嬢様とお会いする機会を得るか。それともこのままこの場を去るか。返答は今すぐお願いいたします」

「選択肢は二つ? 三つの間違いだろ?」

「二つです。我々への懐柔の余地はありません」


 厳しい口調でピシャリと言い切る。

 選択選択って、こっちの世界に来てから俺の自由な決定権はものの見事に剥奪されっぱなしだな。 ようし、こうなったら俺も意地だ!


「懐柔? そんなしち面倒臭い事するか。まったく、友人に会いに来ただけだってのにごちゃごちゃと……俺は勝手に自分自身の用事を済まさせてもらう。止めたかったら止めてみろ」

「判りました。では、それよりこちらへと一歩でも足をお出しになった時点で、戦闘開始とさせていただきます」


 凍て付くような声で俺に言う。


「好きにしろよ、俺も好きにするさ」


 言いながら、俺はすぅーっ! と大きく深呼吸をして、丹田のあたりにふんすっ! と力を込める。

その俺の動きに、目の前の二人の美少女に緊張が走った。



 ―― い く ぞ !



「 お お ー い 、 ア メ リ ア ス ー !  さ っ き は ゴ メ ン な ぁ ー !  悪 気 が あ っ て 言 っ た ん じ ゃ な い ん だ 、 許 し て く れ ー !! 」



 おそらくはこの館全域に響き渡ったであろう、喉が裂けるほどの気合を入れた大声! 


「と、突然大声出さないでください太一さん! 耳がおかしくなりますよ」

「だって、通せんぼされた上でアメリアスに詫びを入れるとなれば、こうするしか方法ねーじゃん」

「そんなときは前もって言ってください!」

「お、おう。そいつはすまんかった」


 と、そんな俺とチーベルのやり取りを、口をぽかーんとあけて見ている二人のメイドさん達。

 まぁそりゃそうだ。臨戦態勢をとっていた矢先に、気の抜ける大声だもんな。

 呆気に取られるのも無理ないさ。


「プッ……ププッ……クスクスクス……あはははは」


 そして二人が目を合わせて……笑った。

 そこには殺気も威圧感も無く、歳相応の女の子の笑顔と笑い声が溢れていた。


「あ、あねさま……この子おもしろい……クスクス」

「だ、ダメよアニィ。お仕事中に笑うなんて不謹慎だわ……うふふふ」


 二人揃って、俺の絶叫が余程ツボに入ったらしい。

 と、そんなかわいい笑い声の向こう側。

 守られている扉のその奥から、くぐもったような怒声が響いてきた。


「う、ううっさいうっさい! 何ハズカシイ事言ってんのよ! このアホバカ茶色!」

「お、反応があった。つー事はちゃんと伝わったって事だな。うんうんよかった」


 途端、二人のメイドさんが新たに殺意をまとい直し、顔つきが武張った表情へと戻る。

 だがそれも、どこか形式ばった感じにしか思えないのは、きっと俺の勘違いじゃ無いだろう。


「さぁて、用事も済んだし……帰ろ、チーベル」

「あ、はい」


 踵を返して、俺とチーベルは二階への階段を目指す。

 急に大声を出したせいか、なんだか喉がイガイガするけれど、なんだか心はさっぱりした気分だ。


「ストレス発散のために、叫ぶのもいいかもしれませんね?」

「ははは、そうかもな。そういえば昔、大地と大喧嘩したことあってさ」

「へぇ、あんなに仲がいいのにですか?」

「ああ、大声で怒鳴りあって……んで、お互い腹の中をぶちまけあって、すっきりしたところでどちらからとも無く謝ったんだ。いや、先に謝ったのは俺だったっけかな?」

「へぇ? 大地さんからというイメージの方が強いです」

「んー、でもあれだ。あいつとはちょくちょく喧嘩もするんだが、その都度どちらが悪くても、俺がすぐに謝りに行ったっけな」

「太一さんがですか?」

「ああ。アメリアスの言い分じゃないが、『鉄は熱いうちに打つべき』だろ? 時間をあけちまったらさ、冷め切って修復できる仲も修復できなくなる気がするんだよな」

「おっしゃる通りですね」

「でもな、その喧嘩と仲直りを繰り返す度、俺と大地の友情とかそんなもんが、より強固になっていった……はっ! な、何ハズカシイ事言わせるんだよ!」


 はたと気が付き、顔面から炎が吹き上がる。うひゃー、俺なに語ってんの?


「ふぅん、なるほどね……そうですか」


 顔の近くをヘロヘロと飛ぶ小さい奴が、なんだかニヤニヤとしながら俺にウンウンと頷く。


「実は私、案外本当にあの本の力でイベント事が起きているのでは? と思いかけていたんですが……どうやら、太一さんご自身の意思によるものだったんですね?」


 チーベルが屈託のない笑顔で言う。


「…………え、これってイベントと違うの?」

「先程も申し上げた通り、そんなのありませんよ? メインストーリー以外は自由意志ですから」

「じゃじゃじゃじゃじゃあ、もし運が悪かったら……俺、死んでた?」

「はい、間違いなく」


 イベントだからこそ、死ぬ事は無いとタカをくくっていたのに……今思えば、俺はなんて無茶をしたんだろう。

 今になって肝が冷えてきたよ。



最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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