第四章 7 ベイノールの館にて 3
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「アメリアス、まだ怒ってるのか? マジでごめんな……いや、違うな。アニキ! すんませんしたッ! ……いや、んな事言ったら「アニキ言うな!」って即殴られるだろ。んー……なんて言うかな?」
誰もいない薄暗く寂しい廊下を、アメリアスへのお詫びの言葉を考えつつ、ずんずんと歩く俺。
「ずんずんと歩くのはいいですけれど、目的地は判っているんですか?」
「いや、知らん」
「じゃあ、今どこへ向かってるんです?」
「とりあえず歩けば、誰かに出会ってアメリアスの部屋を教えてもらえるだろ?」
「ああなるほど、行き当たりばったりなんですね? 実に太一さんらしいです」
「へへへ、褒めても何も出ねぇぞ」
「ハァ……かわりに私の溜息が出ました」
耳元で呆れているちっこいのの言いたい事も判るさ。
流石にこれだけ邸内が広いと、適当に歩くのは良くないかもしれない。
いやまぁ、俺としては運良く誰かと出会って、すぐさまアメリアスの部屋を聞きだせると踏んでいたのだが……如何せん、深夜と思しき時間帯に、うろうろしているメイドさんは皆無だった。
まったく、こんな時こそ運のよさの数値の効力が発揮されるべきだろうに。
「つかさ、今何時だよ? 窓の外の景色は最初に来た時とまったく変わらず、薄暗いままだし……チーベル、判るか?」
「そうですね……ここアドラベルガ特有の、我々の世界で言う月のようなもの『ミスベレルの闇陽』が顔を出している状態から察するに……向こうの時間帯で八時か九時といったところでしょう」
「へぇ、アレって月じゃねぇのか?」
「はい、厳密に言えば……ですけどね。でも一般的には「月」で通っているようです。ちなみにその輝きが、魔族の身体に、特にヴァンパイア族にとって、良い影響を与えていると聞きます。」
「ふぅん、また要らん知識が増えたよ。ありがとな」
「どういたしまして」
こいつに嫌味が通じないのを再確認しつつさらに歩くと、階段の踊り場へと出た。
それは、俺達が食堂から各自の客間へと案内される際に昇ってきた階段だ。
「そうだ、もっかい食堂に行って訪ねればいいんだ!」
「そうですね、それがいいと思います」
ちっこい案内役も、俺の考えに賛同する。
この屋敷の概観は三階建てで、今いる二階から三階へと上がると言う選択肢もある。けれど、ここは確実性が高い食堂近辺での聞き込みを行うのがベストだろう。
「どこだろうな、ここ」
「完全に迷いましたね」
記憶を辿り、食堂を探すこと数分間。
気が付けば、見たことも無い場所に立っていた。どうやら中庭っぽい場所であることは判る。
「どうやら庭園のようですね……もどりましょう」
「ああ、そうだな――」
そう言いかけて、はたと言葉を止めた。
きれいな薔薇が咲き乱れる庭園の向こう、たいまつの薄明かりに照らされている神殿っぽい建物の辺りから、水の音が聞こえたんだ。
「噴水でしょうか?」
「いや、違う。あれは人が水と戯れる音だ!」
俺の中で、いくつかの可能性が書かれたカードがぐるぐると回っている。その一枚を引き抜いて、そこに書かれている「可能性」を確認すると……「お風呂」!!
「うん、間違いない風呂だ!」
「間違いないのはいいですが、なぜずんずんとそちらに向かっていくんです?」
「誰かがいるからに決まってるじゃないか」
「でも、お風呂ですよ? もし入浴中の人が女性だったら失礼じゃないですか?」
「バカ言え、こんな開けっぴろげな場所に風呂を作る方が間違ってるんだ。それに男風呂かもしれないだろ?」
「絶対にそうは思っていないでしょうけど」
チーベルの言葉を軽く聞き流し、風呂と思しき場所へと突き進む。
ほどなくして、微かに感じる湿気の香り。そう、湯気立ち上るバカでかい大入浴場が、仄かな明かりの中、俺達の前に広がっていた!
そしてそして! 湯煙の向こう側には……身体の線の細いシルエット! 女の人……もとい、誰かいる!
「あ……あー、道に迷っちゃったやー。あれー? ここはお風呂かな?」
白々しいまでの言い訳を口にしながら、それでもなおどんどんと湯船に向かって突き進む。
気付いてない、俺は風呂に誰か入っているなんて気付いていないんだ!
そして、入浴中の「誰かさん」が、そんな俺達に気付き振り返る!
「あ、す、すいません! 入浴中だとは気付かず入ってきちゃいました……」
ラッキースケベの神様! どうか、どうか入浴中の方が「若く」て「かわいい」人でありますように!
「おや、これはタイチ様。どうなさいました?」
聞き覚えのある……物腰丁寧な口調。
「あ……いや……」
確かにそこにいたのは、「若く」て「かわいい」人だった。
「セルバンデスさん……こりゃどうも」
にこやかに一礼を返す美少年。
ラッキースケベの神様、「若くてかわいい人を」の願いを叶えてくれてありがとうよ。
できれば次回からは「女性」に限定して欲しいんだけどな。
「タイチさまもご一緒にどうです? いい湯加減ですよ」
満面の笑みが俺を誘う。そう言えば、大地との戦闘のせいで、埃まみれの汗まみれだったっけ。
ここはアメリアスの部屋の場所を聞きながらひとっ風呂なんてのもいいかもしれないな。
「いいんですか? じゃあ、俺も入らせていただきます」
「どうぞ、脱衣場はあちらですよ?」
湯船でズボンを脱ぎかけた俺に、優しい指示が飛ぶ。
俺は苦笑いしながら脱衣場へと向かい、ズボンとブーツを脱ぎ捨てた。
ふと気が付くと、傍らを飛ぶ小さいのまでもがホムンクルスチックな衣装を脱いで、小さな手ぬぐいを身体に巻いているじゃないか。なんだ、お前も入るのかよ?
「はい、お風呂だいすきなんです」
「にしたってだな、恥じらいとか無いのか? まぁそんなチンケな身体では欲情しないけどさ」
「特にそう言った感情はないですね」
「な、何? そう言えばバスタオル一丁でも恥ずかしさを見せる素振りも無かったよな? 天使ってのはハダカ見られても平気なのか?」
「割と平気ですかね? 天界では、そういった太一さんのようなやましい心を持った者が、皆無だからではないでしょうか」
「わ、悪かったなやましくて……じゃあさ、やましいついでに、その……おっぱいとか触ったら?」
「あー、その時はぶん殴ります」
あ、やっぱそっすか。
「そ、それじゃあ失礼しまぁーす」
「どうぞどうぞ、お気遣い無く」
脱衣所からタオルを一枚拝借して、湯船へと入る。勿論、タオルは折りたたんで頭の上だ。
「うぃ~……生き返る~!」
「まるでおっさんですね?」
俺の横で湯船につかったチーベルが言う。お前、ここ男風呂だろ? 何一緒につかってんだよ。
「ああ、ここは混浴ですよ? 我々のような使用人専用、ですが」
「ぬはう! ま、まじですか!」
「はい。あーですが、今日は皆、先に入浴を済ませてしまって、私が最後なのです」
「ぐ、ぐぬぅ……あ、いや……あははは、そ、そんな、混浴がしたいなんてこれっぽっちも思ってないですよ」
灰銀色の髪の毛を揺らし、はははと愛想よく笑う。
「タイチ様は面白い方なんですね?」
「いやぁ、それほどでも」
そう言う事は、かわいい「女性」に言われたいもんなんだけどな。
だが! 湯煙と薄明かりの中で見るセルバンデスさんは……何というかその……女性染みていて……俺の中の未知なる性癖のジャンルが開花しそうで怖い。
本当に男性なのか? そんな疑問に、湯船の中のシークレットウェポンを伺ってみる。
―――― ク ッ ! ま 、 負 け た !
いや、もうそんなレベルじゃない! セガマークⅢとプレステ3の性能差くらいの隔たりがある!
ぐぬぬ! 俺は……俺はなんてちっぽけな存在なんだ!
そんな心の中で悔し涙を流す俺の大胸筋の辺りを指でなぞり、セルバンデスさんは言う。
「タイチ様は、たくましくってうらやましいですね」
いや、君の方がたくましいよ……ごく一部だけ。
「私は見ての通り、貧相を絵に描いた様な華奢な身形。いつも女性と、女の子と間違われてしまうんですよ、それ故、タイチ様のような筋肉質の男性には、すごく憧れを持ってしまいます」
「はは……あははは……」
言いつつ、俺の腕の上腕二頭筋の辺りを撫で擦る男の娘。たすけて! 俺のケツがいい男に掘られてしまう!
俺の貞操のピンチが危機であぶない! と、とにかく話をそらすんだ!
「そ、それはそうと……アメリアスの部屋はどこかな? さっきから探しているんだけど……」
「なんです? 夜這いでもおかけになられるんですか? それは命知らずな……おっと、これは失言! どうかお忘れください」
「お、おう…………まだ死にたくないし」
ククっ……と声を殺して笑うセルバンデスさん。
「ああ、誤解無きよう。お嬢様に命を奪われると言う意味ではなく、お嬢様を守護する二人に命の火を消されてしまうでしょう、と言う意味です」
「守護する二人? なんすか? ボディーガードが付いてるんですか?」
「はい、我が配下『ベイノール・ガーディアンズ』で一二を争う猛者達『マリィ』と『アニィ』なる双子のヴァンパイアです。就寝中のお嬢様に近寄る輩は、彼女等二人によって排除されてしまいます」
やけに物騒な事を言いつつ、にこりと微笑む美少年。
「心配しなくとも、アメリアスに『間違っても』夜這いをかけようとは思わないさ。ただ、さっき失礼な事を言っちゃったかな? と、気になってさ……謝りに行きたいだけだよ。まぁ、その前に……君に今この場で排除されなけれれば、だけど」
湯船の中で揺らぎ見える、セルバンデスさんの右手。
爪が長く伸び、腕の筋肉が膨張し、血管がビッキビキに浮き出ているのが判るよ。
もし俺が変な素振りを見せたら、アメリアスのため、俺を何の躊躇いも無く排除する気でいたんだろう。
「これは失礼を……どうかお許しくださいませ」
深々と頭を下げ、右腕の殺意を一瞬で納めた。どうやら一応は信頼してもらえたみたいだ。
「お嬢様の部屋は、北棟三階の奥でございます。なぁに、行けばすぐわかります……扉の前で、二人のメイド姿の少女が立っていますから」
まるで俺を挑発するかのような言い方だ。
行って二人のメイドさんにしばかれて来いってか?
上等だ! 謝りに行ってやらぁ!
……明日の朝にね。
最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!




