第四章 6 ベイノールの館にて 2
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
アメリアスの父ちゃんに、やたらと広い建物の中を案内されること数分。
やっとたどり着いた食堂の間。
食堂? うん、食堂だ……写真でしか見たことの無い、超高級ホテルのな。
とりあえず長いテーブルと椅子、そして純白のテーブルクロスの上には、金色の燭台と瑞々しいフルーツの盛り合わせがあり、かろうじてここが食堂だと感じさせてくれるけど……いやいや、もうこれは「食堂」と言うより、どこかの美術館だろ?
「さぁ、各自寛いでくれ給えよ?」
その言葉に従い、各々給仕さんが引いてくれた椅子に腰掛ける。
そう言えば、この世界でも腹が減るんだな。
まぁ幸運のタネのクソまずい味も感じた事だし、不思議じゃないか。
にしても、だ。ヴァンパイアの人……いや、魔族って何食うんだ?
クソまずいものはクソまずいと感じるんだから、舌の感覚は人間のそれと同じなんだろうし……ロキシアの血のスープとか出されても困るぞ?
「あ、あの……ヴァンパイアの皆さんってどんなものを口になさるんですか? ロキシアの血をストレートでとか……まさかロキシアの踊り食いとかないでしょうね?」
「ははは、何を言ってるのかね? 普通の食事だよ……ただ普通と違うと言えば、贅と美を兼ね備えた一流の物しか口にしない、と言うことくらいかな? はははは」
高らかに笑うアメリアスの父ちゃん。
と、そんな親父に、カーディガン調の上着を羽織ったアメリアスが、こちらを見る事も無しにそっけなく言う。
「お父様。昼に申し上げた通り、タイチは記憶を所々なくしているのです」
言い終わった後も、なんだかツンとした表情が見て取れる。
まださっきの事、怒ってんのか?
「おお、そうだったね。では教えてあげよう! 我々ヴァンパイアも、君のようなゲーベルト族も、元はロキシアの亜種なんだ。だから食べ物だって普通のものを普通に食べるし、生活習慣もほとんど同じだ。ただ、我々ヴァンパイアがロキシア達の血を啜るのは、そうしないと生きていけないからだ。それは喉の渇きを潤すのと同じく、魂の飢えを満たす行為なんだよ……判るかね?」
「はぁ、なんとなく判ります」
要はカッパの頭のお皿に水がなくなったら死ぬ、みたいなものか。
「さて。今宵は特に、当家自慢のシェフに腕を振るうよう命じてある。存分に堪能してくれ給えよ、諸君」
幾人かの給仕の女性が、ワインらしき飲み物を注いでくれたり、「まさに肉!」と言う感じの肉を切り分けてくれたり、スープを絢爛な深皿に注いでくれたりと、厳かに、そしてテキパキと仕事をこなしてくれている。
ああ、こんなのドラマやアニメの中でしか見た事ねーぞ……マナーとかあるんだろ? 下品に食ったら即退場! とかじゃないだろうな?
「では諸君、いただこうじゃないか」
「では、お言葉に甘えて……」
せめて「頂きます」の合唱だけでもして、お行儀のいい子をアピールする。
にしても……いい匂いだ!
目の前に居並ぶ豪華な食事達は、シェフの渾身の作と言うだけあって、どいつもこいつもいい面構えをしてやがるぜ。
だが……こういった場面のお約束として、食ってみたらすっげーマズい! と言うオチが待っているような気がしてならないんだけど――ええいままよ! この何の肉かもわかんねぇステーキらしきモノからいったれ!
「ぱくりっ…………う、う、う、美味ぇ……あはははは! すっげぇうめぇ!」
いやもう、俺の感情が壊れた! 無意識に笑いがこみ上げてくる!
驚くほどに美味いものを食うと、感情ってバカが付くくらいハッピーになるんだな!
「そうか、うまいかね! 実にいい食いっぷりだ! いいぞいいぞ、どんどん食べ給えよ!」
「ふぁい! そうさせていただきまふ!」
「お行儀悪いですよ、太一さん」
遠慮? 何それ? と言わんばかりの食いっぷりに、肩に止まっていたチーベルが諭す様に言う。
「あほ、死ぬほどうめぇんだぞ? 肉が口の中に入れたとたん、味だけ残して消えるんだぞ! スープなんて、念仏唱えてた坊さんが垣根を飛び越えてくるくらい絶品なんだぞ! そんなのを黙々と食えってか? それこそもったいないオバケのバチがあたるぜ?」
自分でも良く判らない理論で返す。ため息と呆れ顔でやれやれと首を振り、チーベルはベルーアの元へ、ヘロヘロと飛んで行った。
だがまぁ、落ち着いて、よく味わって食えってのは正しいかもしれない。
今後いつこんな美味い料理が食べられるのかわからないんだ。じっくりと味わって、脳の隅々まで記憶を刻み込んでおくのもいいだろう。
「こんなおいしい食事を毎日いただけるなんて、これ以上の幸福はありませんね」
ベルーアの小さな口が、お上品に食の感想を述べる。
はははと笑いながら頷くアメリアスの父ちゃん、そして……それとは対照的に、余程俺の一言が効いたのか、無言で、どこか作業的に食事を進めるアメリアス。
毎日食べなれているのかな? こんなに美味しいし料理だってのに、心がお祭り状態にならないってのは、それはそれでなんだかかわいそうだな。
それに、だ。そんなブスっとしながら食べちゃ、せっかくの味も半減するだろうに。
「ご馳走様……もう結構です」
アメリアスがそう一言零して、ナイフとフォークを静かに置き、膝にかけていたナプキンで口を上品に拭う。
「んん? もうかねアメリアス。どうしたんだね? あまり食べないねぇ」
「ええ。あまり食がすすまないんです」
「そうか。今日は疲れているのだろう……もう休みなさい」
「そうします……では、みなさんはごゆっくり」
一礼と共に、卓を離れるアメリアス。
怒っていると言うより……なんだか元気が無いみたいだ。
そんな姿を見て、また一つ俺の心の中に、心配事の種がぽこんっと芽を出した。
「やっぱあれ……俺のせいだよな?」
「死ぬ……多分動いたら死ぬ」
満腹中枢のリミッターをはずしたせいで、俺の腹は軽くメタボ気味となっていた。
「あんなにバカみたいに食べるからですよ? 少しは遠慮したらどうですか?」
「うん、今度からはちょこっとだけ遠慮するよう心掛けるよ」
ベッドの上で、打ち上げられたトドのような姿で苦しむ俺を見て、チーベルが「やれやれ」と首をすくめる。
「……にしてもだな、チーベル」
「はい、なんでしょう?」
小さな身体が俺の枕元に飛んできた。
「アメリアスにベルーア、二人共に沈んでるよな」
「そうですね……ベルーアはともかく、アメリアスさんの消沈は太一さんのせいかもですよ?」
「やっぱそうだよな……俺のせいだよな」
「いえ、まぁ……完全にそうだとは言い切れませんけれど……きっかけはきっと太一さんでしょうね」
鋭いところを突いてくる。――が、だよなぁ。
俺の一言が……そう、「大魔王様云々」って事が、何か地雷を踏み抜いた感じがするんだよなぁ。
「それと、ベルーアだ。あいつの心労は『大地』の事だろうしなぁ」
「こればっかりは、我々でどうしようもありませんね?」
「うーん、俺に力があればなぁ……ちょっちょいのちょいで大地をやっつけて、あいつの目を覚まさせてやるのになぁ」
もちろん、俺が村を襲ったり、若い娘さんをさらったり、ハーレムを作ったりして十二分に楽しんだ後にだけどな。
「アレですね、こんな状況ってよくありますよね? 恋愛ゲームやなんかで」
「うん? 恋愛ゲーム……ああ、女の子と仲良くなる、所謂ギャルゲってヤツか?」
「はい、そういったシミュレーションゲームの分岐によくあるじゃないですか? Aの悩みを聞きに行くか? それともBの部屋に行って謝罪するか? はたまた寝るか、みたいなのです」
「おい、チーベル! そんな仲間が悩んでいたり怒ってたりしている様を、まるでゲームのような目線で見るなんて不謹慎にもほどがあるぞ!」
「ナシですか?」
「…………もちろんアリだな」
「正直ですね。ではでは選択肢ターイム! 行動は三択です、どうなさいますか?」
うう、突然俺に突きつけられた選択肢!
アメリアスに詫びを入れ、ネガティブな雰囲気を解消してやりに行くか?
それともベルーアの悩みを聞いて相談に乗り、心密度アップのイベントを堪能するか? はたまたメンドクセェからもう寝ちゃうか?
俺としてはもう眠いので、寝るって選択肢が一番そそられるのだが……これがもし、だ! ギャルゲーではなく……エロゲーだったならどうだ?
ゲームの世界なら、ここで一旦セーブして、双方のルートに望むのが製作者サイドへの礼儀であり、俺達プレイヤーの義務だろう。
だが……今は仮にも現実世界。そんな美味い話には行かないよなぁ。
「なぁチーベル。どうすりゃいいんだろうな? 出来ればアメリアスルートも、ベルーアルートもしっかりとフラグを踏んで双方のグッドエンドを拝みたいんだが――」
「えっと……何をおっしゃっているのかわかりませんが、両方行けばいいんじゃないんでしょうか?」
「……え? 両方行っていいの?」
「……え? だめなんですか?」
……よくよく考えたら、何もそんな事で悩む必要は無かったんだよな。アホだ、俺。
「あー……うん。と、とにかくだ! アメリアスが寝ちまう前に、先にあいつのところへ行って『正直すまんかった!』って詫びを入れよう」
「そうですね、そのほうがいいかもです」
そうだよな……親密度アップのイベントってのは、夜もとっぷりと更けたド深夜の方がエロエロ……じゃない、いろいろといいもんな。
そう心に秘め、俺はアメリアスの部屋を探すべく、長い長い廊下をひたひたと歩き出した。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!