第四章 4 時間切れ
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
闇の中で硬直する俺と大地。
一体何が起こったのか? 判っているのは、俺が大地の攻撃を防いだって事だけだ。
「そうか、なるほどな……これは寸分違わぬ模造刀だったか。道理で血を啜ってもなかなか目覚めぬ訳だ……まったく、手の込んだ事をする」
突如、「カランッ!」と言う金属音が響いた。
おそらく大地の持っていた剣が、床に落ちた音だ。
いや、落ちたんじゃないな。正確には「手放した」んだ。
俺が振り上げた鉄製の棒のようなものと、大地の剣とが衝突した際の手ごたえ。あれはきっと、奴の剣が折れてしまったのだろう。
「おかげでいい面汚しだ。ベオウルフとやら、この代償……高くつくぞ?」
「わ、悪いが俺は素寒貧だ。代償なら大魔王様にツケといてくれ」
「我に軽口をたたくなァ!」
虫の居所の悪い大地が、俺のどてっぱらに蹴りを炸裂してきた!
「グハァッ!」
内臓が飛び出すんじゃないかってほどの痛みが、腹から全身を駆け巡る。
本当に耐えられるほどの痛みしか感じないのか? もう既に耐えれないんですけど! つかごめんなさい、もう死にます。
「貴様とは奇妙な縁を感じ、手加減をしていたのだが……そもそも、それが過ちだったか」
はは、手加減だってさ。
ある程度は本気出してると思ってたんだが……もう夢も希望もなくなったな。
ああ、心が折れた……そう思った瞬間だった。
「ぐわあああああっ!」
外から、若い男の悲鳴にも似た叫び声が聞こえた!
「何ッ! ヴェロニキサス!」
表に視線を移した大地が、驚きの声を上げる。
そして俺へのトドメの事も忘れ、外へと駆け出していった。
一体何が起こったんだ? 足元のおぼつかない身体を、手にしていた鉄の棒を杖代わりにして支え、俺も外の具合を伺い知る。
そこには――地に伏し、きらきらとした光の結晶となってこの世界から去る、巨漢の……そう、「とめきち」とか言うロキシアの姿。
そして、満月をバックにした巨大な蝙蝠のようなシルエット。
それは、翼を生やしたアメリアスだ! 月夜の薄闇に浮かぶ漆黒のシルエットに、目だけが赤くらんらんと輝いている様子は、まさに水を得た魚と言った趣だ。
にしてもアメリアスのやつ、もう天主の代行者を一人やっちまったのか。
昼より夜の方が強いとは聞いていたが……これほどまでに強いとは、なんとも頼りになるアニキだな。
「夜の刻を得たヴァンパイア族をなめないでよね!」
空中で羽ばたきながら見得を切る姿は、なんとも様になっていてかっこいいじゃないか。
「くそう……ヴェロニ――とめきちが逝ったか。おまけに俺も、これからってところでタイムアップとは……少々無茶をしすぎたな。仕方が無い、ベルガ、マルりん、一度引こう」
「そ、そうですね……僕も残念ながら時間切れですし」
「え~っ。あたしはまだやれるよー!」
「ダメだ。お前はここの僧等との戦いで、かなりのダメージを受けたはずだろ? ゲームは始まったばかりなんだ、一度引いて体勢を整えよう!」
あれ? この声は……俺の耳に、聞きなれた声が入ってきた。
なんだか久方ぶりにも思える、「普通」の大地の声だ。
どうやら今は神様の力は使ってないらしい。
「わかりましたよ~大地さん。ちぇ、いいところだったのになぁ」
そう言うと、ベルーアと対峙していたマルりんなる少女が、大地とベルガの元に「とてとて」と駆け寄って行った。
「ベオウルフ、今日のところはお前達の勝ちだ。そこで昼間の貸しを今、返してもらう……いいだろ?」
「貸し?」
「見逃してやっただろ?」
「あ、ああ……別に追うつもりは無いさ」
そう、俺だって死にそうなんだ……誰が好き好んで追うもんか。
「な、何言ってんのよ! 今が追い討ちをかけるチャンスじゃない! 今やらないと、この先またいつエンカウント出来るかわからないでしょ?」
アメリアスが血相を変えて言う。
まぁ確かにそうだけどさ……でも大地を倒されるのも、それはそれで俺的には迷惑なんだ。
ここは速やかにご退場願うのが得策なんだよな。
「アメリアス、俺達は昼間見逃してもらってるんだ。借りたモノは返そうぜ?」
「ぐぬぬ……ま、まぁいいわ。弱っている敵を倒しても自慢にならないし、楽しみは取っておいたほうがいいものね」
アメリアスが腕を組み、歯噛みしながらぷいっと顔を背ける。
些かご機嫌斜めだが、どうやら堪えてくれるようだ。
「心配せずとも時期にまた合えるさ。な、そうだろ? 『大地』」
「あ、ああ……」
一瞬、大地が何かを感じ取ったかのような表情を見せた。
「必ず借りは返してやる。覚悟してろ、太……ベオウルフ」
そして大地とその仲間は、飛翔の呪文により光の矢となって上空高く舞い上がり、いずこかの街へと去っていった。
「よかったですね、太一さん。何とか今回も生き延びることが出来ましたよ」
「ああ……」
どこに隠れていたのやら、チーベルが俺の肩にパサパサと飛んできて言う。
「でもこれで、おもいっきり目の敵にされてしまったんだろうな。俺達」
一言零して、一気に力が抜けたようにヘナヘナと座り込む。
――ふと間近に、緋色に光る魔物の視線!
「うわっ」
情けない声を上げて後づさる。が、よくよく見れば……魔物「ゲーベルト族」である俺の顔だった。
「な、なんだよ……びっくりさせんなって。にしても、俺ってこんな顔してたんだな? こうしてマジマジと見ると、なかなかの面構えじゃないか」
何かに映り込んだ自分の顔を、改めて確認する。
……って、今はそんな事してる場合じゃないだろ?
つーかこれ……今、手に持っているこの棒のようなものって……「剣」だったのか!
自分の姿が鮮明に映るほどにこの剣の刃は美しく、それはいかなる傷をも寄せ付けないという、堅固さの証明のようだ。
「太一さん! な、何故あなたがそれを?」
ベルーアが驚きの声を上げた。
「それ? それってこの剣の事か?」
「ええ、そうです。大地さんの中にいる神の愛刀『グエネヴィーア』です」
「ふんがっ! な、なんでそんなもんを俺が持ってんだよ!」
「聞きたいのはこっちの方です! 何故持ってるんですか? 大地さんから奪えたんですか?」
「い、いや……そこの部屋の中に落ちてた。んで、咄嗟に拾った」
「はぁ……そ、そうですか」
ベルーアが、あっけにとられたような表情で返す。
「それはアレですね。『隠し部屋に隠されていた』と言う奴ではないでしょうか?」
チーベルが横から口を挟む。
「隠し部屋? なんだよそれ」
「はい、きっと祭壇に祭られていたのは精巧なダミーで、こちらが本物だったのでしょう」
「盗難予防のために、か。そう言えば大地もそんな事言ってたような? しかしながら運が良かったんだな、俺」
「そうね、でなきゃこんなトコ、一生判んなかったでしょうね」
翼を収め、いつもの表情に戻ったアメリアスが、俺があけた壁の穴から隠し部屋の中を伺いながら言う。
「あ、タイチ! いい物が落ちているわよ?」
「ん、なんじゃらほい?」
隠し部屋を物色していたアメリアスが俺に言う。
いい物と聞いて、ちょっと心がわくわくするのは、俺がビンボー性故の事だろうな。
「ほら、これ。その剣の鞘じゃないの?」
アメリアスに手渡されたもの。それは燃えるような赤に金色の装飾が美しい、一振りの鞘だった。そいつが月明かりに淡く照らされて、まるで位の高い貴婦人を思わせる気品を放っていた。
俺は静かに、その鞘へと剥き身の剣身を滑らせた。
カチン――と言う小気味良い音が微かに響く。
「いい拾い物だな? なんだか俺まで強くなった気がするよ」
「まったく、いい気なものね。そんな剣拾っただけで、強くなれるワケないでしょ?」
「あはは……そりゃそうだな」
呆れ顔でアメリアスが言う。自分でもアホな言い分に、照れながら笑って見せた。
けれど! 俺の傍らを飛ぶ小さいのは、「そんなことは無いですよ」と、小さく耳打ちしてくれた。
なんだ、今更俺に点数稼ぎか? おべんちゃら言ったって何も出ねぇぞ!
……あ、幸運のタネならあげてもいいけどな。
「別におべんちゃらでも何でもありませんよ? 実際にその剣の加護により、太一さんの力はパワーアップされているんです。ステータスを見れば判りますよ」
「ま、マジか! ステータス表示っと……おお、マジだマジだ! わざわざ赤色で、剣による修正値が書き込まれてるぞ!」
そいつはなかなかの修正値だった。体力にプラス20、防御力にもプラス20。さらに俊敏性も15アップして、攻撃力が30も増加してるじゃないか……と、運がプラス40って……なんぞこれ?
「ああ、そう言った武具にはつきものの『神の祝福』でしょう」
「魔族が神様に祝福されるってのか? なんだか素直に喜べないな」
「まぁ、それは使う者の心がけ次第じゃありませんか?」
チーベルが、なんだか真っ当な事を言ってる気がする。
けれど、これ以上幸運が上がった所でどうなるんだ? ラッキースケベの頻度が上がるんなら、我慢してでも幸運のタネを食いまくってやるんだがなぁ……。
「そんな馬鹿な事は起きませんよ……多分ですけど」
「多分?」
「まぁその……発動条件がシークレットなブロウや、良く判っていない隠しスキルやなんかがありますので……そう言えば、この剣の所持者は持っただけで無条件に使える技があるようですよ?」
そんなチーベルの指摘を受け、この剣「グエネヴィーア」の詳細を開いてみた。
「ああ、本当だ。薔薇の月だって。なんかかっこいいな? どんなブロウだろ」
好奇心に誘われながらも、ローエン・ファルケのときみたく「突然技が出た!」とかになると困るので、とりあえず自重しよう。
「さて、と。これ以上こんな所にいても仕方が無いな。アメリアス、そろそろ帰ろ……あれ、どこいった?」
くるりと見渡しても、彼女の姿が見えない。
チーベルとステータス確認に気を取られている間に、帰っちゃったか?
「いえ、アメリアスさんならあそこに……」
と、ベルーアが指差す方向へ目を向ける。
俺達が駆けてきた楼閣の長い廊下の出口付近……高位を思わせる司祭服に身を包んだ遺体から流れ出ている血を指で救って舐め――って、ををいっ! 何やってんだお前!
「はっ! つ、つい聖者の血の魅力に我を忘れて……って――な、何もしてないわよ! わ、私のような気高いヴァンパイア族の高位貴族の者が、道端に流れている血を舐めようとなんかする訳無いでしょ!」
うーん、俺の超ものすっごい勘違いかな?
俺には舐めようとしているように見えたけど……まぁ、まだ命が惜しいから俺の見間違いって事にしておこう。
「そ、そんな事よりこれからどうするの? タイチ、あなたどうせ寝泊りする場所無いんでしょ? なんだったら、私の屋敷で泊まらせてあげてもいいわよ」
「ま、マジっすかアニキ! 恩に着ます」
「それと――ベルーア、あなたはどうする気?」
ベルーアに伺うアメリアス。突然の事に、ベルーアが困惑の表情を見せる。
「ベルーア、お前も今日は泊めてもらえよ?」
「でも……私は人間――」
「だ・け・ど、ちょこっとはヴァンパイアの血が流れているんでしょ?」
ああ、そう言えばそんな「設定」だったな?
「そう……なら一晩だけお邪魔しても?」
「結構よ! ならさっさと帰りましょ。ここにいるとお腹が空いて……もとい、穢れた土地の『気』に、頭がおかしくなりそうよ」
「じゃあ、ベルーアとチーベルは、俺が連れて帰る。で……だ。翡翠の翼を使ってもいいだろ?」
「……まぁいいわ。でも! 向こうに着いたら即、外すのよ! いい?」
「ういっす」
「じゃあ先に行ってセルバンデス――執事にその旨を伝えておくから、着いたら声をかけてみて。それから、行き先名はこうよ……ゴーンドラド・デ・ベイノールパレス!」
そう言い残し、アメリアスが光の結晶となって天高く舞い上がって行く。
俺は皮のパンツのポケットから深緑色のイヤリングを取り出し、耳に装着して言った。
「んじゃあ、俺達も行くか」
「はい」
俺の方にちょこんと座り、いつもの如く元気に答えるチーベル。と、ベルーアの返事が無い。
「ベルーア?」
「え……は、はい」
なんだか思いつめた表情だ。
「行こうぜ?」
「あ、はい。そうですね、行きましょう」
どこと無く憂いを秘めた顔つき……。
なんだか重大な事を感じ取ったかのような不安げな眼差し……そんな彼女の姿が、俺の心に影を落とす。
まぁ、俺の杞憂に終わればいいんだけどな……。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!