第四章 3 太一VS大地 2
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「なんてこった、ちくしょう……」
思わず声が漏れた。
当然その声は、そこにいる三人のロキシア達、そして今まさに剣を抜き取ろうとしている大地の耳にも届く。
「おやおや、誰かと思えば……昼間のガラクタ魔族か。もう再戦を申し込みに来たとはせわしないヤツだ」
冷徹な笑いと共に言う。いやいや、誰もそんな事申し込みに来てませんって!
「……こいつは驚いた! ベルーアも一緒か?」
そして、俺達の背後にいた元の仲間を見つけ、吐き捨てるように声をかける。
「俺に捨てられて魔族に鞍替えとは、なんとも節操の無いヤツだな」
「……何とでもご随意に」
一瞬怯んだ様子のベルーアだったが、気丈に大地と向き合い、答える。
そりゃあ怯みもするよ。
なんたって、丸腰状態でもバケモノ染みた強さだってのに、そいつが専用の武器を持ったんだ。
逃げ出したくならない方がおかしいって!
「あー……どうやらお取り込み中のようだな……仕方ない、また出直してくるよ」
「まぁそう言うな。これから我のパワーアップイベントが始まるのだ、ゆっくり見て行け……冥土の土産にな」
言って、剣の柄にかけた大地の手に、力がこもる。
ズズズ……と、金属と岩のこすれる音が鈍く響く。
そして「フンッ!」と気合を込め、一気に引き抜いた!
スラリと抜きでたそれは、錆も刃こぼれも、さらには刃に一点の曇りすら見受けられない。武器屋からの卸したてを思わせる輝きを放っていた。
「久しぶりだ、我が剣……『グエネヴィーア』よ! また共に暴れようぞ」
例えるなら、「悪魔に取り付かれた魔族」とでも言おうか。おっかなさが二乗三乗された大地が、ご満悦な表情で愛刀との再会を楽しんでいる。
「へぇ、これみんなアナタ達でやっちゃったワケ? ここの僧兵も神官も、司祭に至っては悪魔さえも恐れをなすデビルバスターだと聞いていたんだけど……結構やるわね? どう、よかったら大魔王軍に鞍替えしない? 私が請け負うわ」
何を言い出すのやら、アメリアスが突然の佐藤大地スカウト宣言! こら、こんな人仲間に入れるんじゃありませんよ!
「はははは! 面白い事を言う。そうだな、大魔王に成り代わって、この地を支配するというのも悪くない」
「成り代わって? それこそ面白い冗談よ。あなた如きが大魔王様に太刀打ちできると思ってるの? いえ、私にすら勝てないでしょうね」
「ほう、それは手厳しいな。では試しに我が配下の者達に、その実力を問うてみよ? 奴らに勝てれば、その後の話くらいは聞いてやる」
ほら、もう話がややこしくなっちまったじゃねぇか。って、アメリアス! 既に臨戦態勢とってんじゃねぇよ!
「いいわよ、かかってらっしゃい! 何なら3人いっぺんでもいいくらいよ?」
「そうか。ベルガ、とめきち、その女の相手をしてやれ。マルりん、お前はあの後ろの外套をまとった金髪をやれ。油断するな、ヤツは手ごわいぞ」
「御意のままに!」
「了解!」
「はーい!」
三者三様の受け答えをするロキシア達。
「とめきち」や「マルりん」なんて名前なあたり、どうやらあの三人のロキシアも天主の代行者か……どれ、名前表示っと。
ふぅん、赤を基調とした小粋な色の甲冑を着ているのが「レベル30 ベルガ」で、体躯がデカくて重量級の大斧を持ったヤツが「レベル29 とめきち」か。あと、比較的小さめの体に、さっき発した「はーい!」と言うかわいい女の子の声が「レベル25 マルりん」ね。
そして……レベル29 さとうだいち、と。
昼間からかなりレベルが上がっている、ずっとこいつらと一緒にモンスターを狩りまくってたんだな。
しかしまぁこのチーム、ベルガってやつだけ名前が浮いてんなぁ。つーかお前ら、ちゃんとカッコいい名前付けろよな。
……人の事は言えないけど。
などと考えている間に、三人が各人のターゲットを仕留めんと、ゆっくりとした歩調で歩き出した。
それぞれがまるで「これから狩を楽しむ」といった、余裕を感じさせる動きだ。
――で、必然的に余っちゃう、俺と大地の二人なのだが……さあ、どうしよう。
とりあえず最近のラノベの話でもしようか? あ、そうだ! 今週のSAO見たか? 俺はDVDに録画してまだ見てないん――
「貴様は我が相手をしてやる。感謝せよ、破格の扱いだぞ」
「うわーありがたくねー」
現実逃避の俺を、無理やり現実へと引き戻す一言! そのショックに、思わず声が出たよ。
「眠りから目覚めた我が剣の、喉の渇きを潤す血を献上できる名誉だぞ。ありがたく拝領せよ!」
大地の口元の笑みが消えた!
途端、一瞬で祭壇の上から俺の元へと、飛ぶように間合いを詰めてきた!
「死ぬがいい!」
「ぬわっ!」
俺の首の辺りを、煌く一本のラインが左から右へと走る!
その一閃を、俺はバックステップで回避!!
なんとかかんとか、ギリギリで事無きを得る。
「いいぞ、よくかわした。では次だ!」
……かわした? 違う、来ると判って咄嗟に「逃げた」んだ。
勘違いすんなよな、大地。誰がお前みたいなおっかねぇのと戦うか!
そんな逃げ腰の俺へと、今度は無数の剣の切っ先が飛んできた! やっべえ、どうにも避けきれそうに無い!
「痛て、いてて! ちょ、危ないって!」
そんな命のやり取りに、間抜けな悲鳴が響く。
避けきれない攻撃を前に、咄嗟とは言えまだそんな余裕ある言葉が出るその訳は――大地がギリギリ薄皮二、三枚を切り裂く程度の攻撃しかしてこないと言う、手加減を見せているに他ならない。
どうやらコイツ、俺を嬲り殺す気だ!
「はっはっは、楽しいな。貴様をいたぶると、何故か胸が空く」
「ふ、ふざけんな! ローエン・ファルケ!」
余計なおしゃべりのために出来た一瞬の隙。そこに燃え上がる鷹をぶち込んだ。
ド ン ッ ! と激しい爆発音と共に、一瞬だけ周囲の景色が鮮明に浮き立つ。
見事、大地の体に直撃を見舞った!
が、結果はやはり――
「ほう、なかなか面白い事をする。蚊に……いや、オマケして蜂に刺された程度には痛かったぞ」
どーせ効かないのは判ってんだ。
でも、インターバルくらい取れるだろう。こっちゃあ身体中切り刻まれてズキズキ痛いんだよ。
「そうか、切り刻まれるのは嫌いか。ならこういうのはどうだ?」
言い切るとほぼ同時に、瞬時に俺との間合いを縮める大地。
左の腕がぬっと伸びてきて、俺の首元をムンズッ! と掴んだ。
「ゲッ! ゲホ! ぐあっ、苦し……」
「おう、いい声だ。そこいら辺の小鳥の囀りより心が和む」
友人の断末魔の声にヒーリング効果を求めるってか。
そんな下衆な趣味の奴にはお仕置きだ!
「ロ……ローエン・ファ――」
苦しさを堪え、大地の顔面に右手を差し向け叫ぶ。
――が! そんな一瞬の動作にも、大地は容赦しなかった。
「阿呆が、囀っておればよいものを!」
左腕が俺の首を絞め掴んだまま、大地は大きく振りかぶる。
そして、まるでピッチャーが投げるボールのように、俺を寺院の壁へとブン投げた!
―― ド ゴ ォ ォ ォ ォ ン !
「ぐあああああッ!」
石壁の崩れる音と、俺の悲鳴。
壁を突き抜け、おそらくは楼閣の一室と思しき小部屋の中まで投げ飛ばされた!
いててて……体が頑丈なのはありがたいが……もうギブ、動けねぇ。
「まだ生きているか、そのしぶとさ、気に入った」
「そ、そりゃどうも……」
「玩具は頑丈なほどいい。叩き壊し甲斐がある」
大地、お前はそんな乱暴な子じゃなかっただろ? お母さんは悲しいよ。
「が、これ以上痛めつけるのは酷と言うもの……せめてもの慈悲だ、一思いに死なせてやる」
右手に月明かりを帯びて、艶かしく輝く剣を持つ「恐怖」が、ゆらりと近づいてきた。
何度目だ? 「もうダメだー!」と感じたのは。しかも今回のは飛びっきりの大物だ!
大物過ぎて、もはや全体像すらわかんねぇくらいだ。
だが――そんな漠然としすぎた恐怖の時ってのは、意外と目の前の実態が見えず、逆に冷静さを失わずにいられ場合がある。
そうだ、きっと今が「そんな場合」なんだろう。
俺は案外冷静に、ぶち込まれたこの室内を見渡した。
何のため? 無論、逃げるための扉を探すためだ!
――が、いくら見渡しても、それらしきものは無い。いくら暗闇とは言え、扉と壁の識別程度は出来るんだ。
が、それがまったく無い!
三メートル四方の小部屋の三方向、共に壁、かべ、カベなんだ。
因みに、さっき俺が突き破った壁にも、出入り口らしきものは無い。四角四面、天井や床まで、どこを見ても出口が無いんだ!
一体何なんだよ? この部屋は!
「部屋そのものが石の棺とは、いい死に場所じゃないか」
「そ、そうだな……俺にはもったいないから、どうせなら外で死なせてくれよ?」
「生憎、我は気が短いのだ。ここで死ね」
突き破られた壁の穴から、室内へと入ってきた大地。
その右手に持たれた剣が、ゆくりと振り上げられた。
「トドメだ!」
へたり込んだまま後ずさる俺。
その時、俺の右手にコツンと何かが当たった。
無意識のうちに視線がそれを捕らえ、一瞬だけ視界に納めた俺の判断は――「棒?」
咄嗟にそいつを握り締め、上段から今まさに襲い来る鋭利な刃と対峙させるために、力の限りその「棒」を振り上げた。
「ガキィィィンッ!」と言う強烈な金属音。激しい火花が飛び散り、一瞬だけ室内を照らした。
「な、何ィ!」
刹那に垣間見えた大地の、驚いた表情。
そして、小さく制動のかかった俺の振り上げた「棒」が、勢いもそのままにさらに進み、微かにだが、奇妙な手ごたえを俺に伝えたのだった。
「ぐわぁっ!」
次の瞬間、大地が声を上げた。
俺は闇の中、ワケが判らず……ただ、左手に「握り心地の良い棒」を握り締め、呆然としているだけだった。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!