第三章 7 暗雲
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「睡眠中♪ 起こしたらめっちゃ後悔させるからね!」
ピンク色のかわいいメッセージボードがちょこんと立ち、行く手を阻んでいる。
グレイキャッスルの謁見の間の前の荘厳な扉の前で、俺とツングースカさんは二人そろってため息をついた。
現在大魔王様は、謁見の間のその奥の自室にて、夢の中へと旅立っておられるらしい。
「そうか……もうそんな刻限だったか」
せっかく大魔王様へ事態の報告をとやって来たというのに、すでに「本日の営業は終了いたしました」とは……つか、寝るの早すぎんだろ! 小学生かよ。
――まぁ、ある意味小学生か。
「仕方が無い。私は執務室へと出向き、キンベルグ殿へ事態の報告を述べてから帰る。貴様はどうするか?」
「あ、はぁ……出来ましたら自由行動の許可を頂きたく……」
とにかく自由に動き回りたい! ビバ、フリーダム! だ。
俺にもプライベートな時間があってもいいじゃないか!
「よかろう、許可した。だが明日には戻って来いよ? 貴様にはまだやってもらうべき事がたくさんある」
ま、また俺の自由を奪うような恐ろしい事を!
「わかりました。ではこれにて……あ、お体の傷。どうかお早く治療なさってください」
「うむ、心配無用だ。が、せっかくの貴様の言だ、受け入れよう」
俺はツングースカさん……と、衛兵のよろいおばけ(俺称)達に一礼して、逸る心を抑えつつ、その場を後にした。
さぁ! れっつ村襲撃!
――っと、その前に。
「元の世界に返らなきゃ、ですよね」
チーベルが言う。
「ああ、そうだ。現実世界回帰ウィンドウ……っと。んで、『回帰』をポチっとな」
そう、一旦元の世界へ帰って、昼の授業を受けなきゃいけないんだ。こっちの世界でもあっちの世界でも、なんだかんだで縛られて……若年者はつらいよ、まったく。
意識が戻り、目を開くと同時に、そこはかとなく臭うデンジャラスな芳香。
隣の個室で「う~~~ん!」と唸っている中年男性の声から察するに……まぁあれだ、
「即、緊急離脱!」
息を止めて駆け出た廊下。
そこにはまだちらほら生徒の姿がある。
って事は、まだまだ授業開始までは余裕があるという事か。
なんだ急いで帰ってくる事もなかったんだな? 一瞬思い考えたそれを、頭を振るいつつかき消す。
いやいや、これでいいんだ。調子に乗ってあっちの世界でグズグズしていたら、またどんな厄介に巻き込まれるやもしれないしな。
もしアメリアスなんかにばったり出会ったてたら「いい所であったわ、ちょっときなさい!」って、また戦闘行為を強要されるに違いない。
そう、用心に越した事はないんだ……なんか俺、ちょっと人間的に成長したかな?
一階にある職員用トイレから二階にある1年B組へと戻る道すがら、3階からの階段を下りてくるベルーアとばったり鉢合わせる。
そう、ベルーア一人きりだ。
「よう、ベルーア。大地は一緒じゃないのか?」
俺の問いに、少し憂いを湛えながら返す。
「はい……先にログアウトしてきました」
「何? 先にログアウト? じゃあまだ大地は一人で向こうの世界にいるってのか?」
「そうです」
「な、なんでまた……戻ってこられない事情でも出来たか?」
「いえ、自ら望んでまだ少し居残ると……それで、先に私だけ現実世界回帰ろと……」
まったくあの野郎、俺でさえ「元々の世界で支障を来たさない、分別ある行動」に気を使っているってのに。
だが、ベルーアの少し陰った表情を見るに、二人の間に何かあったような感じがしないでもない。
「いえ……何も。何もありませんよ?」
俺の一抹の危惧に、笑顔で否定を見せる。
なんだか無理やりな笑顔にも思えるが……。
「まぁいいさ、信じるよ。なにせ大地の事だもんな、あいつが何か問題起こすような事するわけないし」
俺も出来うる限りの笑顔を作ってベルーアに微笑みかけ、安堵を誘う。
「ありがとうございます、太一さん」
ベルーアに、かわいい笑顔が咲いた。
なんだか逆に、俺の方が安心させられた気がするよ。
「ちょっとぉーお二人さん! 一体どこ行ってたの? 私だけ仲間外れにしちゃってさー」
階段から教室一つ向こうの1年B組付近まで差し掛かった辺りで、美奈が俺達を見つけ、ぷりぷりと怒った表情で詰め寄ってきた。
「ああ、わりぃ! どこってのは……えーっと……」
「ごめんなさいね、美奈さん。私の国では、食事は静かに、厳かに頂くのがしきたりだったもので……どこか静かに食事が出来る場所をと、太一さんに無理に頼んで付き合ってもらってたんです」
「そう、こいつが静かに食事したいって言うから……人の来ないベン――じゃない、と、図書室で飯食ってたんだ」
ベルーアの咄嗟の嘘が炸裂し、俺もそれに合わせる。
まったく、上手い具合に言い繕いやがって。こいつの言う事は信用できねーな。
……ん、信用できない? 待てよ、それってさっきの事も……。
「それはそうと佐藤くんAは?」
「あ? それって俺が『B』って事か?」
「あったりー!」
まぁAでもCでも何でもいいが……。
「いや、知らない……昨日もこんな調子だったし、どこ行ってんだか……なんか心配だな?」
そ知らぬ顔でさらりと嘘をつく。所詮俺も嘘吐きだ。
「そっか……心配だね」
「ああ、どこ行ったんだろうな?」
調子を合わせてすっとぼける。多分ではあるが、ベルーアが三階から降りてきたって事は、おそらく誰も来ない音楽準備室か、美術準備室にでも隠れているんだろう。
まったく、早く戻んねーと授業に間に合わねぇぞ?
五時限目のチャイムが鳴っても、教室に大地の姿は無かった。
そこだけぽっかりと空いたが机が、なんだか寂しそうに主の着席を待っているように感じられる。
「大地、どうしちまったのかな?」
ふと漏らした言葉に、隣で机を並べて授業を受けていたベルーアが、自分のノートへなにやら走り書きをし、俺へと見せてきた。
「あ? なになに……『実は大地さんのことでご相談が』だと? やっぱ問題抱えてたんじゃねーか」
小さな声で、ベルーアへと問い詰めた。するとまたノートに走り書き。
『ごめんなさい。でも、あの時はどうするべきか迷ってて』
で、俺もつられて筆談。
『で、なんだよ? 相談て』
『はい、実は大地さんの様子が変なんです』
変? 俺と違い、あいつに限って「変」なんて言葉を使う必要性は無いはずだが?
『どう「変」なんだ?』
『なんと言うか、怖いんです』
『怖い? なんだ、あのカルシウム不足の神様がずっと取り付いてるってのか?』
『いえ、声や言動は元に戻っているのですが、戦い方や素行が少し荒くなっているというか』
どういうこった? 品行方正の見本のようなあいつが、素行不良だと?
『具体的には?』
『他の天主の代行者とパーティーを組んで、手当たり次第にモンスターを狩っているんです。しかも楽しそうに』
『まぁ、そういうゲームだからな』
『ところがその後。私が町で買い物を済ませている間に、大地さんは酒場で連中と密談を交わしていたんです』
『どんな?』
『さぁ。そこまではわかりませんが、その後私に』
その後に綴られた言葉は、俺の目を疑うものだった。
『別行動をとろうと申し出てきたんです。つまり付いて来るな、と』
「な、なんで?」
思わず声に出る。黒板に向かっていた社会科担当の教諭が振り向き、一瞥をくれた。
「す、すいません……」
思わず小さくなって平謝り。
が、そんな事はどうだっていい! 大地が何故、案内役であり、物語のメインヒロインであるベルーアを邪険に扱ったのか? 意味がわかんねぇよ、大地さん!
『そこでです! 大地さんが何をしでかすのか、こっそりと見に行こうと思うのですが』
『ああ、そうだな。まぁがんばって』
『 行 く の で す が 』
力強い筆圧で書かれた文字に、彼女の思いの全てが集約されていた。
判ったよ、付いて来いっつーんだろ? めんどくせぇ。
『そのかわりと言っては何ですが、いいものを差し上げます』
『お、なんだ?』
『「翡翠の翼――フリューゲル・ヤーデ」です。それを差し上げましょう』
『ごめん、なにそれ?』
『翼の形をしたヒスイのイヤリングです。これを付けていれば、一度行った場所へ瞬間移動できる優れ物ですよ』
『うわっ、ルーラできるってか! ほしい、めっちゃほしい! くれ!』
『では、商談成立ですね?』
『しかたねぇ』
『チーベルに持たせます。どうかそれを付けて、初めて我々が出会ったマリクスの平原へ飛んできてください』
『あいよ、わかった』
『でもよ』
『はい?』
『わざわざ今、筆談する意味あったのか?』
『それはですね……授業と言うものがあまりにもヒマだったもので』
うん、それは同感だ。だがな……お陰で授業の内容をノートに取れなかったじゃねぇか。
俺、単位ヤバいんだぞ?
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!