第三章 6 帰り道
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「し、しもうた!」
正にやってもうたってヤツだ。
最強同士のガチな戦いに、おもっくそ水を差してしまった。
しかも爆発系魔法なんてデンジャラスなものをぶち込んで!
「うっ……く、クソォ! このゴミ魔物がぁ!」
「た、タイチ……きっさまァァァァッ!」
吹き飛ばされ、へたり込んだままの二人から、最大級の怒りが俺へと向けられた! どうする、笑ってごまかすか? それとも逃げるか?
いや、ゲザろう! 土下座して誠心誠意謝れば、何とか九割殺し程度で済ましてくれるかも……でも……おっかねぇよう!
「そ、そこまでです! お二人とも!」
突然、俺の横でパタパタとはためいていたちっこいのが、怒髪天の二人に対して意見した!
チーベル、お前根性あるな? もうヤケか? 自暴自棄なのか?
「このままではお互い自滅してしまいます! お二方共まだこの戦乱の世に必要な力! 太一さんはそう思われて……命を賭して魔法を放ったんです!」
「えっ?」
「 で す よ ね ! 」
「あ、はい」
えーと、つまりは……俺の命はどーなってもいい! だがあなた方はまだまだこの世界に必要な人材だー! と、言いたかったんですね、俺。
「小賢しいわ!」
「うひぃ!」
ツングースカさんの怒号が響く! まるでぶん殴られたような感覚だ!
「ふぅ……ですが、事実には変わりありませんわ」
ボッコボコになった純白の鎧姿のセフィーアが、普段のおっとりした口調で零す。どうやら彼女の中にいた神様はどっか行っちまった様子だ。
「あぁ、疲れましたわね。とりあえず、私は一度引きますわ。あなたもそうなさいな?」
「フン、好きにしろ……」
そっぽを向いたまま、小さく鼻を鳴らすツングースカさん。
「そういえば、そこのあなた……あなたの名も教えていただけますかしら?」
と、セフィーアが俺を指差し問いかける。
「お、俺?」
「当然ですわ。この私に傷を負わせて、生きて帰れるという栄誉を授かれるのですから」
そう言われると、なんかすごい名誉な事に思えてきた。
「えっと……」
「こいつの名はタイチ。我が大魔王近衛師団のルーキーだ」
言いにくそうにしている俺を見て、ツングースカさんがあさっての方を向きつつ、成り代わってぼそりと呟く。ああ、そんな簡単にバラさないでくださいよ。
「ろ、ロキシアへの通り名は『ベオウルフ』です……だ! その名で覚えておけ!」
咄嗟に、あの本での今の俺の役である魔族の名を告げる。もしも「タイチ」って名が大地の耳に入っちゃマズイからな。
「そうですか、ベオウルフですか。良い名前ですね?」
変形したヘルメットが、小首を傾げて言う。おそらく、その中では微笑が俺に向けて作られていると思う。いや、思いたい。
「それではみなさん、再戦の時までご健在であられますように」
「フン、次は返り討ちにしてやるから覚悟していろ!」
律儀にも一例を見せてから、踵を返し、ゆっくりとした歩調で歩き出すセフィーア。
純白の姿が次第に闇へと溶けて、やがて見えなくなった。
「プハーッ! こたえたぁー!」
彼女の姿を最後まで見送ったツングースカさんが、突然ごろんと仰向けになって、叫ぶように漏らす。
そこにはどこかしら、喜びにも似た感情が見え隠れしている気がする。
命が助かったから? ライバルにめぐり合えたから? それともどつきあいで何かしらの鬱憤が晴れたから?
いずれにせよ、今の彼女は満足感に満ちた顔をしている。
ここは一番、余韻を楽しんでもらうため、そっとしておくのが利口だろう。
……あんまり時間無いけど。
「……タイチ」
「あ、はい!」
程なくしてお声がかかる。
もしかして、気の緩みから全身が動かなくなったとか?
「だ、大丈夫ですか?」
「ん? 何がだ」
「け、怪我ですよ!」
「ははは、こんなのカスリ傷だ。気にもならん」
ツングースカさんは笑ってのける。
けど、体をちょいと動かすたびに一瞬見える苦痛の表情を見るに、大丈夫じゃないのは明白だ。
「そんな事よりだ……さっきは……その……怒鳴ったりしてすまんな」
「え? あ、いえ……怒鳴られて当然かと」
「正直、ほっとしたよ」
半身を起こし、こちらを向いて笑顔で言う。
「ほっと、ですか?」
「ああ、だってそうだろう? あんな無様な泥仕合の結果、双方ともに相打ちなんて洒落にもならん」
「そうで……あ、いや! ツングースカさんの勝利でしたよ! 絶対」
「はは、向こうも向こうで『自分の勝利』と思っているだろうな」
「ははは……」
愛想笑いを浮かべる以外、術が無かった。
「ときにオーク達はどうしている? 皆無事か?」
「あ、はい! 小一時間ほど前まではお二人の戦いを見守っていたのですが……一向に進展の無い気配に飽きて、戻ってしまいました」
「そうか、まったく気が付かなかった」
そりゃそうでしょうよ。あの時ツングースカさんの中の世界では、あなたとセフィーアの二人だけしかいなかったでしょうから。
「そうか、まぁ使命も果たしたし良しとしよう」
「そうですね、じゃあもどりましょう!」
いやったー! これで時間内にかえれっぞー!
「なんだ、もう帰るのか? お前はここに残っていてもいいんだぞ?」
「は? そ、それは何故です?」
「ははは、お前はオークの娘さん達を救った英雄の一人だろうが?」
「いえ、俺なんて何も……つーか、オークの娘さんって……オークにそんな若さや性別なんてあったんですか!」
「照れなくてもいい。今宵はここで英雄の特権を楽しんで行け。私が許可する」
「な、なんて事を!」
そんなの死んでも嫌です! つか死にます!
「そうか? 意外と堅物だなお前は」
とりあえず余計な気を使われて置いてきぼりにされないため、是が非でも早く帰る理由を探さないと!
「そ、そんな事より――そう、早く城に戻って傷の手当てを!」
「ん? あ、ああ……そうだな……そうしよう」
ゆっくりと起き上がろうとするツングースカさん。俺はそんな彼女に肩を貸し、起き上がる手助けをする。
「フン、余計な世話をするな」
「まままあ、そうおっしゃらずに……」
口では嫌事を言いながら、体は素直に俺の補助を受け入れている様子。
俺より少し大きめのガタイを支えようと、彼女の小脇に体を差し入れた。
(う……こ、これは!)
俺の鼻をくすぐる、甘くときめく大人の香り!
魔族でも、一応は身だしなみとか香りとかを気にするんだな。
(あぁ……敵の攻撃……精神ポイントに八千のダメージ、プラス俺戦意喪失状態!)
と、そんな香りに魂を抜かれかけていた矢先!
ツングースカさんの体が、ふらりとバランスを崩す。
そしてあろうことか、彼女の胸元の、なにやらでっかくてやわらかいモノが、俺の顔面にむにゅんとぶつかってきた!
(ぐはあっ! さらに敵の攻撃! 俺に一万ポイントのダメージ! 残りライフ1!)
この程度の衝撃で、俺の股間……もとい、足腰はノックアウト状態だ!
「おおっと、すまない……情けないな、あれしきの殴り合いで足に来るとは……私もまだまだだな」
「ふひー! お、俺もまだまだっス!」
「そうか、お互い精進しよう」
ツングースカさんはそう言うと、肩はもういいとばかりに俺から離れ、自らの足で歩き出した。
よかった……あのままだと、俺が鼻血を出してぶっ倒れていたところだ。
戦ってもいないのに失神なんて、生涯の恥だもんな。
あっと、そんな事より――。
「あ、待ってください! コートを……」
「おお、そうだった……すまないが、肩にかけてくれ」
言われた通り、小脇に抱えていたコートをそっと肩にかける。
「じゃあ帰るか」
「はい」
トレンチコートに腕を通さず颯爽と歩く様は、憧れの対象となるに相応しい出で立ちだった。
グレイキャッスルまで歩くこと15分程の距離にテレポートアウトした、俺とツングースカさん。
森の辺りはすっかり夜だったのに、この近辺は気味の悪い雲に覆われていて昼間でも薄暗く、夜も昼もわからない状態だ。
一体、今何時頃だかわかりゃしねぇ。
城までの道中は無言ながらも、気まずい雰囲気などは無く、俺はただ彼女の背中を見ながら歩いていた。
「今日もたくさんロキシアたちを殺したなぁ……」
「はぁ、そうですね。殺しすぎたほど殺しましたね」
ツングースカさんが、俺の何気ない一言に振り向き、眦から少し冷ややかな視線を送ってきた。
「『殺しすぎた』などと言う事は無い。まだまだ殺し足りんくらいだ」
至って冷静に語る。
彼女の何がそうさせるのか、それが魔物の業なのか。それとも……。
「ロキシアを殺す事。殺して殺して、皆殺しにする事が私の宿命……科せられた業なのだ」
固まる前のコンクリートに、血と墨汁を入れてかき回したような色の雲が広がる空。
そんな上空を仰ぎながら、ツングースカさんはそう一人呟く。
「そうとも……このくらいの数じゃ、皆はまだ満足してはくれないだろうさ」
立ち止まり、ポツリと零した。
俺はただ、そんなツングースカさんを黙って見つめるしか術は無かった。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!