第三章 5 好敵手
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
「まったく困りましたわね。ですから私は火を射掛けた後、素早く攻め入るべきだとと申しましたのに……隊長殿が『燃え落ちるまで食事にしよう』なんて仰るからこんな事になって……半数以上の兵を失うとは大損害。これでは私クビですわね」
一人ぶつぶつと嫌事を口にしながら、純白の兜をその小さな頭に被り、これまた白と金との装飾豊かな腰の鞘から、スラリと見事な輝きを見せる刃を抜き去る。
流石にこのセフィーアなる人物、大地よりも長くこの世界に出入りしているようで、自分に宿る神様の力を制御しきっているのだろう。
それ故の余裕としか思えない。出なけりゃただの大ばか者だ。
「魔物さん、一応名を伺っても?」
「大魔王軍近衛師団長、ツングースカだ」
「クリシュナ傭兵団の白き天使のセフィーアと申します。ワダンダール国にはブェロニーの地獄森攻略部隊の副隊長として雇われて来ておりますの」
「モンスターであるこの私に、古式の礼を尽くした戦の前の名乗り上げとは……痛み入るぞ? セフィーアとやら」
「うふふ、育ちがいいもので」
胸の辺りに両手で剣を持ち、まるで戦の神様に祈りを捧げるような仕草を取るセフィーア。
途端、あの時の大地にも現れた現象が起こる!
「ではそろそろ地獄へ送り返してやる、クソ醜い魔物の長よ!」
ア、アンタ誰! とも言うべき声変わり。おっとりした口調はどこ行った?
女性の声ではあるものの、若干ハスキーでワイルドな印象を受ける物言い!
やはり任意で神様呼べるんだ、この人。
「ふん、『天主の代行者』か。神とやらもずいぶん暇そうだな?」
その異変はツングースカさんも感じ取ったらしい。
つか、天主の代行者? この世界では……少なくとも魔族には、大地やこの人のような輩をそう呼んでいるのか。
「知る者は少ない。ごく最近その存在が知られ始めたばかりだからな」
「その通り。なにせその存在を知ったクソ魔物はほとんど殺してやったからな! そして――お前達ゴミも例外ではないッ!」
――ドンッ! と、地面を蹴り付ける音が聞こえるほどの、セフィーアの脚力。
互いの間合いが一瞬で縮まる。
敵にイニシアティブを取られたツングースカさんが、受け手に回る。初めて見る、師団長殿の守勢だ!
相手の繰り出す剣先をセンチ単位でかわし、ときに一瞬見せる隙を見逃さず、赤い発光体を帯びた手刀で切り返す。
いきなりギアがトップ同士の戦いは、一瞬の迷いが死に繋がるんだなと思わせる激闘だ。
ちくしょう、俺の目では追いつけない。
「どうした、そろそろ準備運動も飽きただろう? 手加減は要らんぞ、決め手を見せてみろ!」
そう叫ぶツングースカさんの右手が、左から右へと水平に走る。
その際、まるで遠心力で伸びたかのように、右手の赤い輝きがビュンッ! と果てしなく伸びた! ――伸びた? いや、あれはまるでレーザー光線かビーム兵器を発射して、辺り一面をなぎ払っているようだ!
だが残念な事に、一瞬で攻撃の本質を見切ったセフィーアが仰け反ってそれをかわしてしまった。 そして体勢を立て直すべく距離を取り、一言。
「くだららいな、虫けらよ。それがお前の大技か? 残念だが不発だ!」
「不発なものか、周りを見てみろ」
そう、まったくの不発じゃない。
周囲を取り囲んでいた兵士達が今の咄嗟の攻撃に巻き込まれ、声を出す間もなく、その半数が綺麗に二等分されていたんだ!
流石は魔族の最高幹部、何時いかなる時でも人間を殺すことを忘れない、モンスターの鏡のようなお方だ。
「「「うわああああああああ!!」」」
後方で見ていた残りの兵士達が、遅れて事の重大さに気付き、悲鳴をあげて逃走を図る。
「あんなゴミでも、勝負に水をさしてくる恐れがあるからな。貴様との戦いに集中したい」
「その点においては同意しよう。されば、次は我が番である!」
刀の柄の部分が大天使、つば部分がその天使の羽根と言う、凝った装飾のセフィーアの剣。それが上段振り上げから突きへの構えを取った瞬間、激しく閃光を放ち出した。
俺達の目には眩し過ぎるほどの、神々しい輝きだ!
「まったく嫌な眩しさだ、イライラする」
「良かったな、貴様はもう死ぬ身だ。もうイライラする事もあるまい――食らえ、忌まわしき子よ。純白の一閃!」
瞬間、一際眩い白の輝きが、セフィーアの剣を、いや、セフィーア自体を包んだ!
そしてその直後の事――白い閃光が、ツングースカさんへと伸びた!
「ビ、ビーム!? 超ぶっといビームか!」
「いえ、違います! あれは……セフィーア自体が超高速で疾駆して、彼女自体が野太いエネルギー弾となるファイナル・ブロウです!」
解説のチーベルさんが、舌好調で仕事をこなす。
つか……ツングースカさん一瞬よろけたぞ! 当たったのか? 食らっちまったのか!
「いえ、かすった程度でしょう。当たってはいないと思われます」
「ちょ、待てよ! カスった程度でアレか!」
見ると、白い輝きの一閃がたどり着いた先に、セフィーアがいる。
また剣を構えてるよ、今の技でもう一度師団長へ突進して行く気だ!
「よくぞかわした! ではじわじわと弄り殺しにしてやる。ラインヴァイス・シュトラール!」
「つああああッ!」
また掠めた? いや、今度は……ツングースカさんの軍服チックな衣装の腕の部分が剥ぎ取られ、蒼色の肌があらわに……それどころか、焼け焦げたような跡が付いている。どうやら左腕に食らっちゃったみたいだ!
「ツ、ツングースカさん!」
「ばかもの、情けない声を出すな。これは食らったんじゃない。食らわせてやったんだ!」
「え、ええ? そ、それは一体……」
ツングースカさんより五十メートルはあろう先。閃光の突進が止まった場所、そこに立つセフィーアに目を向けると……。
「あ、セフィーアの右腕の二の腕辺りのアーマー部分がひしゃげてますね! これは双方相打ち……」
「いや、剣の鞘を左に差している……セフィーアは右利きだ。これならツングースカさんに分があるかもだ!」
が、俺達の解説に、ツングースカさんが返す。
「私は左利きだ……」
あ、そっすか。じゃ、イーブンだわ。
「おのれ、劣悪極まる魔物の分際で味な真似を」
「さぁ来い! どっちが強いか、拳で語ろうじゃないか!」
「面白い!」
言って、セフィーアが剣を鞘に収めた。いやいや、何が面白いんだか? それって、まるで格闘マンガのライバル同士の台詞じゃないですか!
「うおおおおお!」
「でりゃああああ!」
双方同時に駆け、一瞬で間合いを縮める。そしてぶつかり合うかと思われた刹那、互いの利き腕がターゲットの顔面へと伸びた!
――ドォンッ!! と言うけたたましい余波が俺のところまで伝わってくる。
それほどの衝撃を放つ、クロスカウンター。常人なら首ごと吹っ飛んでいるだろう。
「両者同時です! おそらくは同じダメージでしょう!」
その言葉通り、一瞬両者の足の踏ん張りが、ほぼ同時に緩んで倒れ――ない! 踏ん張った! 両者気合で耐え抜いた!
「このクソ魔物がぁぁぁぁぁ!」
「アホ神め、地獄に連れてってやる!」
地に根を生やすように立ち、ガチ勝負のインファイトが始まった!
二人の腕が、まるで幾本にも見えるほどのラッシュ合戦――その互いの拳を意地と精神力で全て受けている。男前過ぎる我慢比べだ!
「まるで子供の喧嘩ですね」
「実力もバトルスタイルも似通ってるんだ。結局これで消耗戦が手っ取り早いんだよ……たぶん」
依然どこかで読んだバトル系ライトノベルで得た知識を披露する。
真偽の程はどうだか判らないが、なんとなく「ああ、そんな感じね」と言うイメージはある。
「死ねェェェェ!」
「くたばれッ!」
――ゴインッ!! と言う鈍い音が炸裂した。それは双方の顎を狙ったアッパーカットが、ほぼ同時にヒットした音だった。
二人共に後ろに仰け反り、ひっくり返りそうな体にあわてて生動をかける。
意図せず改めて開いた間合いに、二つの意地は大技を繰り出すポーズを取る。
体力の削りあいの末、どちらも一撃食らえばジ・エンドと言うシチュエーション。まさに舞台は整ったという感じだ!
「ハハハ、いくぞクソ魔物よ。恨みっこなしだぞ?」
「やなこった。私が死んだら恨みまくってやるからな」
肩で息を整えながら、二人の「男前」が対峙する。次の一撃で勝負が決まる……緊張の一瞬だ!
「「ウオオオオオオオッ!」」
同時に放たれた野獣のような咆哮。そして――
「滾れ、我が血!!」
「純白の一閃!!」
力と力がぶつかり合った! 激しい光と、吹き飛ばされそうな衝撃波が、俺達を襲う!
「うわあああ!!」
「きゃあ!」
咄嗟の出来事に、目を覆う俺とチーベル。そして静寂が訪れたのを耳と肌で感じ、再び目を開けて行方を伺った。
――キィィィィィンッ!
なんだかそんな擬音が視認できそうな光景が、目の前にあった!
ツングースカさんの、赤い閃光をまとったまままっすぐに伸ばした掌の中指と、セフィーアの剣の切っ先が、信じられないくらい絶妙なバランスで突き合っている。
針の先にも等しい接点に、全神経と己の命を賭けた力比べ! ちょっとでもバランスを崩したり、攻撃の手を緩めようものなら、それは即、死を意味している。
究極の実力拮抗……つか、どこまでも仲いいな、この二人。
「これは下手に動けませんね、果たしてどういう結果が待ってるんでしょう?」
「ああ、俺達は固唾を呑んで、運命を見守る他は無い……10分でも……20分でも……二人のどちらかの心が折れるまで!」
ツングースカさんが勝てば万々歳! 負ければ俺もゲームオーバー……俺はこの二人に運命を預けている。そうだ、俺も戦っているんだ!
たとえ、30分経とうが、1時間が経とうが、俺は二人を見守る義務があるんだ!
3時間経過した。
もう12回ほど、心の中で「ええかげんにせぇ!」とツッコミを入れたっけ。
「まだやってますねーあの二人」
「うん、ずっと動かないであのままだもんな。すげー忍耐力だよなー」
既に日も暮れ、元々薄暗かった森の中は漆黒に包まれている。
砦で怯えていたオーク鬼達も、恐る恐る出てきて二人の戦いを見守っていたが……1時間ほど前に皆飽きて帰っていった。
「ああ~……早く帰んないと午後の授業に間に合わねーなぁ……」
そんな事をぽつんと語る俺に、チーベルが語りかけてきた。
「あ、太一さん。今気が付きましたけど、レベルが1つ上がってますね?」
「ん? どれ、確認ステータス……っと。おお! レベルが11になってら」
「前のエルフの村で倒したロキシア、あれでレベルが上がったんでしょうね」
「ああ、かもな。ファンファーレとかくらい鳴ってもいいのにな」
どうでも良い、うだ話だ。
「あ、もしかしたら技なり魔法なり新たに覚えたんじゃないですか?」
「どうだろ? 確認っと……お、1つ魔法が増えてるよ……なになに、燃え上がる鷹? うわ、なんかかっこよさそう!」
「ええ、かっこいいですよ! しかもMP10を消費するだけで、威力は25から30ほどもあるんです。おまけに爆発系なので、ダメージ範囲は広いですよ?」
「おお~、なかなかの魔法を覚えたな。この瞬間がRPGの醍醐味なんだよな……実は学校の授業中とか、かっこ良く魔法を打ち出す仕草とか考えてたんだぜ? こう、掌を広げてから『さっ!』っと前に出して『ローエン・ファルケ』って――」
言い訳になるけど……まぁ普通、大概のゲームってのはさ、インフォメーションやステータス画面出してる時は、攻撃や魔法は出ないよな。
出ない筈なんだよ……普通はな。
――けど。
「あ」
でちゃった。
なんか俺の掌から、炎をまとった鳥みたいなのが。
で、そのローエンファルケとか言う爆発系魔法が飛んでった先ってのは……
「ドオオオオオオンッ!!」
延々と力比べをやってらっしゃるお二人さんの、ちょうど力の接点あたり。
つまりは……物凄く洒落にならん場所だ!
「どわっ!」
「うわっ!」
突然の爆発に、後ろのめりに吹き飛ばされる二人……うわ、今度こそ俺の人生終了だわ。
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!