第一章 1 太一と大地
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
お気付きの至らぬ点等、ご一報頂けたら幸いです
失敗ってのは誰にでもある。要はその失敗を繰り返さない事だ。そして経験者は次の世代のために、戒めとしてそいつを語り継ぐべき義務がある。
いきなりな語り出しに少々面食らったかと思うが、これには事情がある――そう、しくじっちまった。
俺ともあろう者が、不覚ながら大きな失敗をやらかしてしまったんだ。
ちょっと考えれば判る事だった。まったく、あの時の俺はどうかしちまってたらしい。実に悔やまれる事態だ。
では俺が犯してしまった大失態による結果を、後の世の教訓とするべく、恥ずかしながらここに披露する事にしよう。
『タイチー♪ 今日は超ビッグニュースがありまーす! な、な、な、なんと! ……でもやっぱ帰ってきてからのお・た・の・し・み と言う訳でソッコーで帰ってきなさいね~! 遅くなったら承知しないんだから(ぷんぷん!)追伸・今日の晩ご飯はすきやきでーす。 愛する母より』
わなわなと震える俺の掌の中、ケータイ画面にまるで死の呪文のように踊る文字列。ふんだんに使用されたデコメに、文章の終りにはニコニコ顔やら怒ったような顔文字達。「お・た・の・し・み」の最後に至ってはハートマークまで使用してやがる。
この狂気に満ちた様な内容文。そいつは、容姿も心も歳より若いとご近所でも評判の我が母親から、ついさっき送られてきたメールだ。
昨晩俺のメールアドレスを、問われるがまま何気なく母親に明かしてしまったと言う行為。
まさかその愚行に、これほどの破壊力があるとは思わなかった。正直画面を見た途端、体中の血液が凝固するような感覚を覚えたよ……肉親にザラキかけてどーすんだ母ちゃん。
とまあ、学校からの下校途中である杉林商店街のアーケード中央に佇む俺は、えらいものを見ちまったとばかりに、見事な挙動不審ぶりを見せていたらしい。
――らしいというのは
「どうした太一? そんなにキョドって。トイレでも行きたくなったのかい?」
俺の少し前を歩くヤローの言葉だ。
「お、おう……いやなんでもない! なんでもないよ大地」
俺は慌ててケータイをポケットに仕舞い込み、声の主に歩み寄った。
「メールになんか書いてあった? 顔色変わったけど?」
「あ、いや……母ちゃんが用事あるから早く帰って来いって」
母親の、おそらくは悪意無いメッセージに怒りを覚えつつも、俺はいたって平常心で、要点だけをかいつまんで答えた。
幼稚園のちっさい組からの付き合いであるこいつに、母親からの迷惑メールを見られてしまっては、そいつは末代までの恥辱だからな。
「そっか、じゃあ今日は旭日堂書店寄らずにまっすぐ帰るか」
旭日堂書店。杉林商店街の外れにある大型書店だ。
ここは近隣の書店に比べライトノベルコーナーに力を入れており、新旧のタイトル共に何かと品揃えがよく、俺達ライトノベル愛好者にとっては、まさに頼れる味方なのだ。
ま、最近たま~に奇妙なラノベを「おまけ」として無料サービスしてくれるなんて、ありがた迷惑なサービスをはじめたようだけどさ。
「あ、ああ。わりぃな」
そう言って踵を返そうとしたその時。
俺達の後ろから商店街の雑踏に紛れて、聞き慣れた可愛い声がした。
「佐藤くーん!」
そいつは濃緑のブレザーに、チェック柄も愛らしい少々短めのプリーツスカートと言う、俺達と同じ杉林高校の女子用制服を見事に着こなしている、明るい笑顔の女の子だ。
「「おうっ!」」
その呼びかけに、俺と大地から同時に発せられた挨拶。
そう、俺もコイツも苗字が同じ『佐藤』なんだ。おまけに俺が『たいち』でこいつは『だいち』と言う、よく似た名前ときたもんだ。
幼稚園の頃からお互いを分身のように感じ、以来ずっと腐れ縁が続いていると言う訳なんだよな。
「今日も旭日堂書店に行くんでしょ? 私も行く!」
その声の主、同じクラスである倉田美奈が、左サイドテールの髪の毛をぴょこぴょこと跳ね揺らしながら駆け寄って来る。
いつもながら、その姿は『微笑ましい』という言葉がよく似合うよ。
「いや、今日はいかない。太一のやつが母親との急用ができちまったんでこれから帰るんだ」
「えー! ニセ佐藤くんは行かないのー?」
「ニセって言うな」
「じゃあぱちもん!」
「もっと悪いわ!」
まったく、名前が良く似ていると言うのも少々考え物なんだよな。
後ろから見れば双子かな? と間違われるほど背格好はほぼ同じなのだが、成績も運動神経も、そしてルックスも(俺調査による結果)俺よりほんのちょっと上を行くこの佐藤大地がいるお陰で、俺はいつも「にせもの」だとか「ぱちもん」だとか「二号」だとか「ルイージ」だとか言われているんだ。
「俺はオリジナルだ! どっちかってぇと大地のほうが偽者だろう!」
「『俺には無いが大地には濁点があるだろ! そいつが偽者の証拠だ!』でしょ? はいはい、聞き飽きた」
「ははは……いいよ、俺が偽者で」
爽やかな笑顔で、この場を収めようとする大地。
ちくしょうめ。更に付け加えるなら、悔しいがこいつは俺より出来た人間なんだ。
確かにこいつから比べれば、俺なんざは偽者悪者失敗作と散々に言われても仕方が無いだろう。
「じゃあしょうがないね。佐藤くん一号、私と一緒に書店にいこ!」
と、美奈がさもそれが自然な行いかのように、大地の腕を取り、くいっと引っ張る。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 何だそのうらやましい展開は! おい美奈、そんなことしたら俺達三人のパワーバランスが崩壊しちまうだろうが!」
「何で? 別に良いじゃない。それに何よパワーバランスって?」
無邪気と童心が渦巻く、美奈の心の内。そいつがありありと判るような笑顔で、小首をかしげる。
この高校に入学してからすぐ、ラノベ好きという共通の趣味から、同じクラスである俺達二人と仲良くなった倉田美奈。
未だ中学一年生程度を思わせる背格好に顔つき、そして明るく気さくな性格は、俺達二人からすれば天使のような存在だ。
その天真爛漫な性格からもうすうすは判っていたけれど、未だ色恋事にはまったく関心が無いようで。
もっとも、俺達二人に魅力が無いという可能性もあるのだが……まあそれはあくまで可能性だから。
とにかく、今まで三人揃っていつも一緒だったんだ。俺だけ置いてけぼりなシーンを見せ付けられたとあっちゃあ、心の底に奇妙なもやもやが湧き出てきちゃうじゃないか。
俺も一緒に行こうかな? そんな弱気な考えまで浮かんできたよ。大体母ちゃんの用事シカトなんて、日常茶飯事だしなぁ。
そうだよな、母ちゃんとの信頼関係より、俺達三人の関係保持が急務だよな!
……いや、いやいや! 俺も男だ。一度口にした事は曲げない、吐いたツバは飲まないんだ。俺はそんな女々しい――
「あーやっぱ俺も行こうかな?」
そう考えている途中にも関わらず、無意識にポロリと言葉が零れた。
何て情けないんだ! 俺の中の燻る嫉妬心よ! まだ脳内会議の途中だというのに何故そんな言葉を口走らせる?
いや、だがこれでいい。これでいいんだ。
俺はどうせへタレだ、クズだ、所詮ダメ人間がお似合いだ。だからそんな女々しい考えを披露したとしても、今はこの三人の関係を保つ方が先決なんだ。さあ美奈、大地、三人で仲良く書店へと向かおうじゃないか!
「なに? 佐藤くん二号はお母さんとの用事があるんでしょ? 早く帰ってあげたほうがいいよ。じゃあね!」
にこりと微笑み取り付く島も与えず、冷たい言葉を返す美奈。
ちょ、ちょっと待てよオイ! それはアレかい? 俺は邪魔者だってのかい?
二ヶ月という短い間ではあったけどさ、今まで三人仲良しバランスを保ってたじゃないか。ここに来てまさかの空中分解ですか? そいつはちょっと悲しいですよ美奈さん!
「じゃあな太一、後でメールするよ」
「あたしもメールするねー!」
「あ……いや……その……」
揃ってバイバイと俺に手を振り、なにやら楽しそうに微笑み歩き出す二人の姿。
そして商店街を行き来する人々の雑踏の中、一人ぽつんと取り残された俺。
すごい……すごいよ母ちゃん。
あんたの送ってくれた呪いのメールは、見事俺達三人の人間関係までも崩壊させる威力があったよ。
あぁ、何か少しだけ心が闇に犯された気がするのは、俺の気のせいであって欲しい。
次話予告
帰宅した太一の前に現れた、一人の西洋人美少女。
母親は言う「今日から我が家の一員になったのよ!」
その美しい微笑の奥に果てしない怪しさを秘めた少女の正体は?
次回「ベルアゼール」
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!