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第三章 4 セフィーア

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 テレポートアウトから獣道をひた走ること十分弱。

 木々の燃える煙の匂いを辿り、小高い傾斜の上からやっと見つけた目的の村。いや、村と言うよりは小さな砦と言っていいだろう。

 森の中の小さく開かれた場所にあるそれは、四方を木と岩の防壁で囲い、お粗末ながら弓を射る櫓まである。聞けばオーク鬼の集落なのだそうな。


 が、現在櫓は半壊状態。

 おまけにその四方の防壁に火がかけられ、今にも燃え落ちそうだ。


「ロキシア共め、防壁が燃え尽きるのを待つとは悠長な事を。そんな事だから、私の到来を許してしまうのだ」


 闇色のトレンチコートを脱ぎつつ、ツングースカさんが言う。俺はそのコートを受け取りながら、周囲の状況を伺った。

 およそ百ほどの、揃いの甲冑を着た者達が四列の縦隊で臨戦態勢をとり、集落へと続く道を埋め尽くしている。

 統率が取れているなぁ、これってどこかの国の軍勢なんだろうか。


「なぁ、チーベル。アレってどこの軍勢だ? アホみたいにいっぱい立ってるあの旗印とか、見てもわかんねぇか?」

「すいません、そこまでは……」

「この森のすぐ北西に位置する、ワダンダールと言うロキシアの小国だ。が、どこの軍勢かなど、そんなものは問題ではない。奴等が何分間、私を楽しませてくれるか、だ」


 にやりと笑い両の手を赤く染める師団長閣下。

 もう既に戦闘準備アクセル全開のご様子だ!

 とにかくチャッチャとやっつけて、さっさとゴーンドラドへ帰りましょ。



「 さ ぁ て 、 ロ キ シ ア の 諸 君 ! 祭 り の 開 幕 だ ! 」



 流石に二試合目ともなると、ハナッから気分も高揚しているのだろう。両手を広げ、高唱するかのように叫んで、相手の注意を誘う。

 ああ、とんでもないお祭り――「血祭り」の始まりだ!


「うおおおおおお!! 血が滾るぞォクローフィザキパーィエト!」


 彼女の血の迸りを思わせる赤が、両の手からグンッと伸びた。

 それが開始の合図のように、ツングースカさんが傾斜を駆け下り、草木を掻き分け、敵陣めがけて風のように駆け抜ける。


 突然の魔続出現に、気後れしている様子のロキシア勢。

「何だ?」「魔族?」「たった一匹で?」「何をしに?」そんな思惑が奴らの口々から漏れる。


「何をしに? ハハハッ決まっているだろう。 大 虐 殺 の た め だ ! 」


 身構える事すら出来ないまま、最初の血飛沫が上がった!


「遅い! 遅いぞォ!」


 背後で燃え盛る朱色と、流れるように敵中を進む二本の赤いライン。

 そしてそれが踊るたびに吹き上がる、紅の飛沫。

 悲鳴と叫び、怒号と笑声。瞬時にして森の中の小さな道は、まさに赤いカオスの世界となった。


「あんな狭い場所に密集隊形なんて、周囲の警戒を怠った証拠です。敵はかなり油断してますね」


 チーベルが戦術評論家よろしく、ロキシア勢の脇の甘さを指摘する。

 確かにそうだ、多勢に無勢と踏んで、暢気に構えていたのだろう。

 おまけに命令系統もままならない様子だ。たった一人に混乱状態を強いられらロキシア勢、攻めるにも引くにもスシ詰め状態で身動きが取れず、ただいたずらに被害ばかりが増えている。

 これじゃ、お話にならない。


「あー、あれが小隊長でしょうか? なんか一際豪華な鎧をまとったのが後方の陣幕から出てきましたね」

「みたいだな……あーあ、よしゃいいのに、陣頭に躍り出て指揮を執り始めちゃったよ……あ、ほら言わんこっちゃ無い。ソッコーで首と胴がさよならしちゃったじゃないか」


 とにかく、普通の人間ではツングースカさんの俊足と機敏さに対応できない。

 可愛そうだが、俺達がここへ来た時点で勝敗は決していたようだ。

 ロキシアの皆さん、迷わず成仏してください……ナムナム。


「あ、また『ソレ』っぽいのが陣幕からゆっくりと出てきましたね?」

「ホントだ。やけににおっとりしてるな、やる気無ぇのか?」


 またもや被害者候補が一人、余裕とも煩雑そうとも思える足取りで現れた。


「あ、でもなんかアレってかっこいいですね?」

「そうだな。全身純白に統一されている上に、金色のアクセントをあしらってるご大層なアーマーとフルフェイスのヘルメット。おまけに白に裏地が赤のマント……あれ? なんか知ってる気が……」


 頭にハテナマークを浮かべている俺に、チーベルがヤツを指差してせわしなく言う。


「み、見てください太一さん! あれ、アレッ!」

「ん、何だよ? …………あーッ! 鎧に……お、お、お、おっぱいがある!」


 そう! その鎧には、胸元に立派な二つの隆起が見て取れた。やつは……女性だ!


「そんなとこじゃありません! 名前ですよ、名前!」

「名前? お、おう。そういやそんな機能もあったっけか。んーどれ、『名前、確認」と……ッ!」


 そこには見覚えのある名前が表示されていた。

 いや、俺とは直接の関係は無いが、この場に居ては少々困る名前なんだ。


「セフィーア……た、確か主人公の学校の先輩で、『神の能力を使える者』の一人……」


 そうだ、おっとりほんわかな性格の女性剣士で、でもその能力は大地のソレに近い強さを誇るとか何とか。

 これはツングースカさん手を焼くかもだぞ?


 いや、懸念はそれだけじゃない!

 彼女が居るって事は……もしかして大地もここに居るって事?

 そうなると少々どころじゃなく、めちゃめちゃ困る!

 ケンシロウとラオウをいっぺんに相手するようなもんだぞ!


「いえ、それは無いと思われます。物語の進行ペースで言うと、二人はまだ出会っていないと思われますね」

「そ、そうだった。が、この先合流するのは確定事項なんだよな……今、この場で彼女だけ倒せれば、後々の憂いを少しでも払拭できるんだけどな」

「とりあえず、彼女の事を師団長さんに知らせた方がいいのではないでしょうか?」

「うーん、そうだな。下手に余裕ぶっこいて返り討ちにされちゃ困るもんな」


 そう考えた俺は、トレンチコートを小脇に抱え、小高い傾斜を駆け下り、敵の流した血の川を駆け抜け、怖気付くロキシアの軍勢相手に挑発をかけている「恐怖」の元へと急いだ。


「どうした、ロキシアの勇者共! 私を止められるものはいないのか?」

「ツングースカさん――いえ、師団長殿! 注進であります」


 俺も場の空気に酔って、ソレっぽく向上を述べてみる。


「うむ、聞こう」

「先ほど後方の陣幕より、白い甲冑の女性剣士が現れました。ヤツは特別な存在であります。どうかご留意ください」

「ほう……どう特別なのだ?」


 両の手の赤い輝きを一度収め、笑顔で俺に振り向くツングースカさん。

 数が半減したとはいえ、未だ多人数の敵を前にしながら、まるで自室でくつろいでいるかのような態度を見せている。

 大地のやつ、近い将来こんな人と戦う羽目になるのか……ご愁傷様。


「やつはその、端的に申しますと……強いです!」


 と、ツングースカさんがにやりと笑う。


「どれくらいだ?」

「は、……えーと、ア、アホほど強いです!」


 な、何言ってんだよ俺! もっと形容する相応しい言葉があるだろ!

 いや、あるだろうけど俺の引き出しには無い!

 しかしながら……そんな俺の例えが気に入ったのか、目の前の青い殺戮マシーンさんは、大いに馬鹿笑いを見せた。


「あはははははっ! そうか、アホほど強いか! いいぞ? 気に入った!」

「あ、あはは……そ、それはどうも」

「うむ、せっかくの注進だ。その白いヤツとやらの事、心に留め置き、気をつけながら殺すとしよう」


 あんた殺す事しか頭に無いんかい。


「あ、どうやら白い剣士がこちらにやって来たようですよ?」


 チーベルの言葉に、俺もツングースカさんも、それへと視線を移す。

 まるで、ここで起こっていた事が些細な出来事かののように周囲を見渡し、ゆっくりと兜を脱ぐ。

 鮮烈な赤毛がふわりと舞い落ちた後、ふるふると頭を二度三度振って、髪の毛の乱れを整えだした。

 なんだかおっとりしていると言うより、肝が据わりまくっていると言う感じだ……違う意味で恐怖を覚えるよ。


「あらあら、隊長殿はお亡くなりになりましたか。これは大変……まぁいいです。所詮は貴族のボンボンで、お金に飽かせて就いた隊長の座ですもの。真っ当な結果ですよね」


「隊長」だったものを一瞥して、彼女は言う。あれ? こんなに毒舌キャラだったっけ?


「魔物さん、お礼を言いますね。その無能を処分していただいて……ありがとうございます」


 まるでどこぞのご令嬢が知人に挨拶でもするかのような微笑で、ぺこりと会釈をするセフィーア。


「おっと、そんな酷い事を言うもんじゃない。じき貴様もヤツの所へ行くんだ、そんな事を言うと向こうで嫌われるぞ?」

「それは違いますわ? 私は天界に召される身ですもの……そうそう、あなた方は死ねば地の底に落とされるのでしょ? なら申し訳ありませんけれど、地獄で隊長殿のお世話をしてあげてくださいな?」

「生憎、この先1万年後までスケジュールが詰まっていてな……地獄に行くような暇は無いんだ。すまんな」


 余裕を見せる楽しげな会話。

 だがその言葉の裏では、すでに火花が散りまくってんだろうな。


「とりあえず我々は一度兵を引かねばならないのですが……それではあなたのフラストレーションがたまるでしょう?」

「良く判っているじゃないか? ナマクラ兵士ばかりで少しイライラしていたんだ」

「よろしいですわ、なら私がその欲求不満を解消して差し上げましょう」

「そいつはありがたい。ではお言葉に甘えよう!」

「あなたのイライラが解消出来るよう、私も精一杯お付き合いいたしますわ。でも、命の火まで解消させてしまったらごめんなさいね?」

「なに、気にするな。では――滾れ、我が血クローフィ・ザキパーィエト!」


 ツングースカさんの両の手の赤色の光が、いつもより一際長く伸びた!

 これは……とんでもない戦いになりそうだ!



次話予告

激しすぎる二人の戦いに、巻き込まれる兵士達。ドン引きする太一。早く現実世界に戻らなければならない事も忘れて、その戦いに見入るほか無かった。

次回 「好敵手」


最後まで読んでいただいて、まことにありがとうございました!


まだまだ日中暑い日が続きます、皆様お体を大切に!

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