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第三章 3 時間が無い!

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


お気付きの至らぬ点等、ご一報頂けたら幸いです



 ブェロニーの地獄森。

 そこは戦いの経験があまり無いオークやゴブリン種の棲家。

 そして邪教に魅せられたエルフが、落ち延びる先として有名らしい。

 俺の横ではたはたと飛んでいる案内人曰く、「大地さんのような人間側にしてみれば、所謂初級から中級に上がるクラスの冒険者が、EXP稼ぎにちょうどいい場所」だそうな。


 普段は少人数のパーティーがやって来て、小規模な戦闘が数回繰り返されるだけだと言うのだが、今回はどうやらそうではないらしい。

 なにせ相手のロキシアの数が、一度期に四~五十人を超える大所帯で攻め寄せてきたそうだ。


「先程もたらされた『伝令妖精』の報によると、その圧倒的な数に、少数で点在しているかの森の住人達は、ことごとく各個撃破されているらしいのだ」


 瞬間移動で飛んできた森の中で、木々をなぎ倒しながら俺の前を歩くツングースカさんが語る。


「そうですか、わかりました……あの、一つ聞いてもいいですか?」

「許可しよう」

「何故こんな誰もいない、鬱蒼とした森のど真ん中にテレポートアウトしたですか? もう歩く事小一時間程度ですが」


 一瞬の沈黙の後、まるで事のついでの様に返答をくれた。


「……奇襲のためだ」

「そうでしたか……いやぁ、俺はまた瞬間移動での出現する場所を間違えたのかと――」

「……」

「……」



「あー、間違えたんですね?」



 チーベルがさらりと言う。だ、黙れアホ! そんなあからさまに言うヤツがあるかー!


「タイチ……と言ったな?」

「は、はい!」

「いかな魔物でも、得手不得手と言うものがある」


 木々をなぎ払う音が、より一層激しくなった。

 それは「判ってるよな?」という、無言の圧力に他ならないだろう。


「は、はい! 決して口外はいたしません!」

「ま、いずれにせよもうすぐだ。ホレ、もうここまで声が聞こえている」


 その言葉に耳を澄ますと……木々をかき乱す音に紛れ、悲鳴染みた声や怒声が微かに聞こえた。


「時間が無い、ぐずぐずするなよ!」

「は、はいい~!」


 猛烈な勢いで障害物を排除し進むツングースカさん。

 俺はと言うと、その後を付いていくのでやっとと言う有様だ。


 そして次第に大きくなる怒号と悲鳴、そして鉄と鉄がぶつかり合う音。更には火炎系の魔法が着弾して爆ぜる爆音が、時折空気を震わせていた。


「さぁ着いたぞ! ははは見ろ、いい狂気具合じゃないか!」


 髪の毛に小枝やら葉っぱやらを付けたツングースカさんが、大胆に笑って言う。

 いや、そんな大っぴらに登場しちゃったら、奇襲の意味が無いじゃないですか!


「奇襲? 誰がそんな卑怯極まる戦いをするか。正面からの力押し、私はこれ以外に戦う術を知らん!」


 さっき奇襲のためって……まぁいいや。


 それにしてもやけに楽しそうな口調だ。

 そんなに楽しい光景が広がってるのかな? そう何気なく思い、俺は彼女の背後からひょいっと顔を覗かせた。


 ――その時! 


 真正面から俺の顔面へとめがけ、何かが飛んできた!


「ひぃ!」


 咄嗟の事に肩をすくませ、目を閉じてしまった。


 ……が、何も起こらない。


 恐る恐る目を開けると――俺の顔のそばで一本の弓矢を握り締めたツングースカさんの腕が見えた!

 も、もしかして流れ矢を、俺の顔寸前で掴んで止めた?


「さぁて、楽しもうか!」


 今の芸当を見るに、その言葉は虚勢や冗談ではなく、掛け値なしの真実なんだろう。


「ではタイチよ、これを持っていてくれ」


 一言と共に、俺へと差し出されたもの。

 それはツングースカさんが羽織っていた、艶やかな闇色のトレンチコートだった。


「は、はい」

「絶対に傷をつけるなよ?」

「わ、わかりました!」


 俺の父ちゃんも革製品を持っていて、幾度も触った事があるからから判る。

 普通に買うとウン十万はするだろう、ズシリと重いかなり見事な本皮製の高級品だ。


「さっき森の中を通った時に付いた傷はカウントしないでくださいよ」

「鋼鉄よりも硬い人食い雄牛(マンイーター・ブル)の皮をなめした逸品だ。そんなものでは傷も付かん」


 その人食い雄牛ってのがどんなモンスターなのかは判らないけれど、きっと今それと出会ったら……座りしょんべん余裕だろうな、俺。


「さぁて、宴の幕開けだ!」


 まるで、のしりのしりと大地を踏みしめるように、悠然と歩くツングースカさん。

 その眼前には――燃える落ちる簡素な家々と、転々と見える躯。重装な鎧をまとい、大きな得物を振るい暴れ狂う、人らしき者達。

 そして逃げ惑い、或いは果敢に戦う、これまた人らしき者達。

 その褐色の肌の色と長い耳、華奢な体躯に軽装な戦装備を見るに……どうやらここは、エルフの集落。

 そうか、邪教を崇拝してるって言う、ダークエルフの方々なんだ!


 そうこうしているうちに、数人の荒々しい侵略者が彼女の姿を捉え、新たな獲物の到来を喜ぶように踊り迫って来た。

 ちょっと、ツングースカさん! 武器も何もなしに丸腰では些か分が悪いのでは?


「あ、俺も加勢しま――」


 しかし、その言葉を言い切るまでも無く、俺の懸念は解消された。



「血まみれのナイフ《クローフィ・ナイフ》!」



 そう発した瞬間、彼女の両手が赤く染まり、不用意に迫り来た三人の敵に、目にも止まらぬ手刀の一閃を食らわせたのだった!


 ――スパッ!


 そういう擬音がふさわしいだろう。

 相手の巨躯共は頑丈そうな鎧を着ているにもかかわらず、ものの見事に真っ二つとなって地に転がり、六つの肉片となって血の海の沈んだのだった!


 そんな技を見せられてか、急に二の足を踏む侵略者勢。

 が、彼女にすればそいつはまだ準備運動だったようで――


「ワハハハハッ、血が滾るぞクローフィザキパーィエト!」


 高らかな叫びと共に、手刀の紅色が長く伸びた! まるで二本の赤く長い剣を携えたように見える、とんでもなく勇壮な「技」だ。


「ひ、怯むな、かかれ!」


 遠巻きにその状況を見ていた男が、彼女への一歩を踏み出すのを躊躇う仲間達へと檄を飛ばす。 が、その一言が、彼にとっての不運だった。

 途端、獣が獲物に襲い掛かる如く、ツングースカさんはその男へと瞬時に間合いをつめた――まるで疾風だ。


「ならばお前が進んで一番に来い!」


 そして一瞬で数ブロックの肉片に変えられた「男だったもの」に向かって、吐き捨てた。


 この瞬間、戦いはダークエルフの皆さん対侵略者共から、ツングースカさん1人対獲物の皆さんへと切り替わった!



「 も っ と 楽 し ま せ ろ ォ ッ ! 」



 戦場を逃げ惑う、重鈍な鉄の戦士達。

 それを追い、炎の中を駆けまわる二本の赤い閃光。

 血飛沫が天高く上がる度、一瞬だけ断末魔が聞こえる。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ!


 俺は目の前に広がる光景に、ただ見入るだけだった。

 けれど、ふと気付く。

 ツングースカさんに手渡されたトレンチコートを抱える俺の手に……必要以上の力が込められているのを。

 それは恐怖からじゃない。

 仲間の危機を救う、最強無双のヒーロー……そんなある種のカタルシスに見舞われて、俺の中の「何か」が漲っているのかもしれない。


「か、かっこいい……」


 誰に言うとも無く零す一言。

 それはもう、完全に魔族側に立っての言葉だった。


 と、そんな事に感じ入っている俺の耳に、突然チーベルの叫びが舞い込んできた。


「太一さん、右から!」

「ウオオオッ! 死ねぇ!」


 咄嗟の声に振り向く。

 大斧を振りかざす、まだ若そうな「人間」の姿。

 狂気をまとった相手の形相に、俺の中で誰かが叫ぶ。「殺れ! こいつは敵だ!」


「ブリッツ・ヴォルフ! 速射三連!」


 相手へと差し向けた右手から、三匹の雷狼が躍り出て、俺を殺そうとしている相手に襲い掛かった。


「ぎゃああああ!!」


 三匹の狼によって仕留められた男が、感電して口から泡を吹き、ドサリと倒れる。

 何かが焼け焦げたようなすえた匂いが鼻を突き、普段の俺がまた戻ってきた。


「やった……のか?」


 白目を向いてピクリともしない男。おそらくは死んでいる。

 けれど、遺体が消えずに残っているところを見ると、こいつはもともとこの世界の住人だったんだろう。


 不思議と罪悪感は無かった。


 あるのはただ、命が助かったという思いと……ツングースカさんのコートを守れたと言う安堵感だけ。

 俺の心は――こうやってどんどん魔物のそれになっていくのかな?





 ツングースカさんの大活躍によって、粗方の敵が片付いた。


「くそう、何人か取り逃がしてしまった。脱兎のごとく逃げ去るなど、奴ら戦士としての自覚は無いのか?」


 と、無念の臍を噛むツングースカさん。


「ツングースカさんが強すぎるところを見せすぎなんですよ。ある程度油断させなきゃ逃げちゃいますって」


 預かっていたトレンチコートを手渡しながら、俺は彼女に言った。


「そうだな、今度からは気をつけよう」


 笑顔で答える彼女からは、さっきまでの悪鬼羅刹のような戦いぶりは連想できないだろうな。


「ありがとうございました、師団長さま! このご恩に何か報いられれば良いのですが」


 生き残ったダークエルフの人達が、感謝を述べに集まってきた。


「かまわん。今後も大魔王様に忠誠を尽くせ」


「はは、ありがとうございます」


 大活躍をしたヒーローなのに、そっけなく答える。ちょっとは英雄を気取って威勢を誇っても、バチは当たんないのにな。


「あなたも活躍なさってましたよね? ありがとうございました、魔勇者様!」


 まだ若そうな外見の美しいダークエルフのお嬢さん方が、俺を囲んで羨望のまなざしを向けている。


 も、もしかしてこれは――ダークエルフの酒池肉林ってやつか!


「い、いやぁ、当然の事ッスよ~!」


 テレながら答える俺に、褐色の娘さん方は「そんなおくゆかしさがステキ~!」とばかりの表情を見せている。

 そうだ、今夜はここに泊まろう!

 そして俺が彼女達を悪のロキシア共から守ってやらねば!


「ツングースカさん! 俺、今日はここに留まります。またロキシアらが攻めてこないとも限らないですから」

「うむ、そうだな……では貴様にこの場を任せる――」


 と、そんな俺達の会話に割って入るように、ポンっ! と小さな妖精みたいなのが現れた。


「伝令、ここより西の集落に、また新たな敵集団が現れた模様。至急救援に向かわれたし!」

「わかった、ご苦労!」


 その言葉と共に、一礼を見せた妖精が消えうせる。

 そ、それはもしかして……俺のダークエルフさん達との酒池肉林パーティーも消えうせて――


「聞いた通りだタイチ! すぐに向かうぞ!」


 やっぱ消えうせたー!


「や、でもここの守備は?」

「かまわん! その時はまた来ればよいだけの事」

「え、ですが……」

「バカモノ、お前が来なければ、向こうの戦場で誰が私のトレンチコートを守るというのだ?」

「ええっ! 俺ってコートの番人役でつれてこられたんスか!」

「当然だろうが。なんだ、嫌なのか?」

「と、とんでもない! 大変光栄であります!」

「うむ、ならばいい」


 旗持ちならぬコート持ちとは……俺はハンガー程度の扱いか。

 まあいいや、次の村を救ったらそこでも英雄扱いしてくれるだろうから――


「どうやら敵は思った以上に数を集めてきているようだ。これはひょっとして一日仕事になるやもな?」


 ツングースカさんがふと漏らす。一日仕事だって? ちょっと待ってくれ。じゃあ一旦ログアウトして、夜にでも再ログインした方がよさそうだな。


「ウィンドウを開いて、現実世界回帰ボタンっと……あれ?」


 呼び出したウィンドウに、「回帰」と言う文字が無い。


「おい、チーベル。現実世界回帰できないんだけど?」

「あ、言ってませんでしたか? 『回帰』は『街』以上の施設でないと出来ませんので……」

「な、何ぃ? 一旦帰んないと、午後の授業に間に合わなくなるかもしれないじゃないか!」

「そうですね、ツングースカさんにお腹痛いって早引きさせてもらっては?」


 ……させてもらえる訳ネェだろ!


「何をごちゃごちゃ言っている? さあ時間が無い行くぞ!」

「あ、ちょ、待ってくださ――」


 首根っこを捕まれて、無理やり瞬間移動へと付き合わされる俺。

 授業開始までに現実世界回帰、間に合うかな?


次話予告

村を襲い暴れ狂う敵、それよりも暴れ狂うツングースカ。そんな彼女の前に、一人の女性ロキシアが立ちはだかった。

次回 「セフィーア」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!


まだまだ日中暑い日が続きます。皆様お体を大切に!

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