第三章 2 ツングースカ師団長
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
お気付きの至らぬ点等、ご一報頂けたら幸いです
ショートホームルームの時間、「彼女」が担任に引率されて、我がクラスへとやって来た。
少し控えめな眼差しで一礼。
そして透き通るような可憐な声で自己紹介。
「はじめまして、佐藤ベルアゼールです。皆さんよろしくお願いしますね」
最初にどよめきがあがった。
そしてそのいくつかは、羨望のため息へと変わる。その後は――
「こちらこそよろしくねー」
「ベルアゼールちゃんかわいー!」
「ようこそ、杉林高校1年B組へ!」
「突然だが、俺と結婚してくれ! ベルアゼール!」
「てめぇ! 俺の嫁を呼び捨てたァいい度胸じゃねぇか!」
「やめろよみんな、俺の子猫ちゃんが怯えてるじゃないか」
そう。ベルーアが、この教室1年B組の新たな仲間としてやって来たんだ。
だが、舞い上がるクラスの連中の中、二人だけその輪に入れないでいる者がいた。
一人は無論俺だ。
今更騒ぐ事も無いし、彼女の正体……と言うか本性を知っている身としては、このお祭り気分な野朗達が哀れにすら思えてくるよ。
そしてもう一人。彼女を知る者――大地だ。
まぁ普段通りの物静かな、落ち着いたあいつらしい態度といえばそうかもしれないが、長年の付き合いから何となく判る。
あいつは今、心ここにあらず……だ。一体何を熟慮しているんだろうか?
「じゃあ、ベルアゼールさんは佐藤太一くんの隣に座ってもらえるかしら? 太一くん、ベルアゼールさんに教科書を見せてあげてね」
担任の近藤紀代美先生が、気を利かせて俺の隣を指定する。まぁ、設定上は俺ん家の家族って事になってるから、当然の事だろう。
だが本来なら、ベルーアは別の教室に編入されるのが当たり前なんだがな。
なにせこのクラスに「佐藤」が三人にもなるんだからややこしくって仕方が無い。ただでさえ、俺と大地で面倒な状態だってのに。
「人間の世界の学校ってとこは、案外面白いところなんですね? わたし、結構気に入りました」
「ああ、そうかい。俺はお前のせいで厄介事に巻き込まれないかヒヤヒヤだよ」
「はぁ、そう言う『ヤレヤレ系主人公』の展開もお好きなんですか?」
あ、アホ言え! だれがそんなベタな設定を好き好んで…………ごめん、大好きだ。一度やってみたかった。
「それはそうと……大地さんって普段はあんな物静かなんでしょうか?」
「ん、どーゆー意味だ?」
「いえ、異世界の中とはぜんぜん人が違うと言うか……かなり違いますね」
そりゃまぁ、奇妙な冒険世界に突然連れ込まれたんだ。
浮かれてハイテンションになってもおかしくは無いだろうさ。
「いえ、そんなおのぼりさん的なものではなく、なんと言いますか……ワイルドで俺様趣向な――」
「佐藤くん、ベルアゼールさん。授業中の私語は慎みましょうね?」
当然の事ながら、きよピー先生の注意が飛んできた。ホームルームとはいえ、やっぱ私語は厳禁だよな。
「あ、すいません先生。こいつ日本の学校がものめずらしいらしくって……」
「そう。じゃあ今じゃなく、後でいろいろと教えてあげてね」
「はーい」
みろ、ベルーアのせいで怒られたじゃねーか。
まったくヤレヤレだ…………うわ、「ヤレヤレ」って言っちゃったよ。
なんかスッゲー恥ずかしいんですけど……これもあの本の効力かな?
各時間の授業が終わった途端、俺のところに群がるバカ共の相手をしなきゃならなかったのは些か骨が折れた。
やれ「ベルアゼールちゃんのプロフィール教えろ!」だとか、「ベルアゼールさんの兄になりたいんだが」だとか、「ベルアゼールと二人で過ごす老後の生活設計を立ててきたんで聞いてくれ」などと、このクラスにはアホしかいないんだな……と、再認識させられた。
授業中が唯一のノーストレス状態だったってのは、今まで生きてきて唯一の不思議な経験だ。
ともあれ、午前中の授業が無事に終わり、待ちに待った昼食タイムと相成った。
「大地~、メシくおーぜー」
幾分へろへろになった声で、お誘いをかける……が、あいつの座っている席には、既に誰もいなかった。
ん? 便所かな? そう考えたが、もう一名見知った顔が足りないのに気が付いて、俺は事の意味を悟った。
「はっは~ん、さては二人してどっかに隠れて、またぞろ異世界に行きやがったな?」
そう一人零す俺。つーか、大地にしちゃあちょっと早計じゃないか? だってアイツとベルーアが同時に二人して姿を消したとなると、絶対周囲アホ共が騒ぎ出すぞ?
『大地のヤロー、ベルアゼールちゃんとどっかにしけ込みやがったんじゃねーか!』
ってさ。
まぁ、大地の大親友の俺としては……そのほうが、美奈を狙いやすくなるから有り難いがな。
しかしながら、そんな大地の命の危機を誰知られると無く救うべく、俺はそっと教室を抜け出たんだ。
「俺達三人が居ない」となれば、仲良し三人でどこかに行ってメシ食ってんだろ? と皆も納得するに違いないからな。
つーか正直な話、かく言う俺も気がそわそわして、いてもたってもいられないんだよな。
だって、俺も早く行きたいんだよ、あっちの世界へさ。
開始は大魔王様の城の前、しかも一人だ。結果報告なんてメンドクセェ事を後回しにすれば、とりあえず今は自由の身ってワケだ! 自由だぜ? フリーダム! こんなワクテカ状態じゃあ、授業にも身が入らないよな?
まぁ普段から身は入ってないけれど。
とにかく、だ。
ちょこーっと向こうの世界を体験して、すぐさま帰ってくればノープロブレム! 昼休憩は残り四十分ほど……となれば、向こうへ半日近く居ても大丈夫って事だよな?
ならばこうしちゃ居られない!
どこか眠りにつけて、誰も来ないような場所へと急がなきゃ!
待ってろ、アドラベルガの乙女達。今、地獄を見せてやるぜ!
職員用のトイレに駆け込み、個室へと侵入。鍵をかけて……準備は万端!
ちょっと臭いけど、この場所ほど誰の目に触れる事無く、他の生徒の邪魔を受けることも無い場所は無いだろう。
なんだか便所飯チックだなーと言う感想はさておいて、いよいよお楽しみの冒険タイム突入だ!
財布のマジックテープを剥がす音がバリバリバリと職員トイレにこだまする中、俺は朝ベルーアから受け取ったカードを手に取り、意気揚々と心に念じる。いざ!
――異次元世界進入!
相変わらず澱んだ空。キモい景観。茶色い俺。
十八時間ぶりにやってきたそこは、相変わらずの世紀末。だが心が和むのはなんでだろう? もう俺も、モンスターに馴染みつつあるのかな?
「あ、来ましたね? 太一さん」
ふと、背後からの声。
どこに居たのやら、チーベルがわいてきやがった。
「わいてきたとは失礼ですね。ベルーアがこちらの世界に居るときは、太一さんがログインしたら自動的にこの身体もログインするようになってるんです」
「ああ。で、逆もまた然り……か?」
「そうです。だから昨日は大地さんとベルーアが一緒に居たんですよ」
「てぇ事は……お前さんと離れて行動したければ、現実世界のベルーアの目を盗んで来なきゃいけないって事か」
「はい。あ、でも感覚的に太一さんや大地さんがログインしたって事はわかりますから……可能な限りはお供しますよ?」
チーベル……男にはな、一人孤独で居たいって時もあるんだよ。つか察しろ。
「それはそうと――大魔王さまに謁見しなきゃですよ? 太一さん」
「えー、そんなの後まわしでもいーじゃんよー! それよりどっかの村襲ってもっとレベル上げて強くなりたい」
「それはいいですけど……村までどうやっていくんです? 場所は知ってますか? 徒歩で行くにせよ、道中で強い冒険者に出会っちゃったらどうするんです? 運良く村にたどり着いたとしても、レベルの高い村だったらどうするんです? 即ゲームオーバーですよ? それよりは、先に大魔王さまに謁見して戦果の報告ののち、手ごろな村まで送ってもらうなり、お供を付けてもらうなりしてもらった方がいいと思いますよ」
いちいち言う事が真っ当だ。
くっそー、チーベルの癖に生意気だぞ!
「あーはいはい。わかったよ、あのチビスケに会えばいいんだろ? くそ、どうせならなんか褒美くれって言って、便利アイテムだとかをふんだくってやる」
そう息巻き、いつもの如く無愛想な門番の人の横を通り、赤い絨毯沿いに謁見の間へと向かった。
「あー、大魔王様のお言い付け通り、戦闘経験を上げてまいりました。謁見の許可を願います」
扉を守る二体の甲冑のオバケのような人にその旨を伝えると、交差されていた槍が引かれ、許可の合図が下りた。
毎度の事ながらしち面倒くさいな。
そして頑丈かつ荘厳な扉を押し開き、ひょっこりと中を覗き見る。
「おおっ! 帰って参ったか。これ、そんなところでボサッとしておらんで、はよう中へ入らぬか」
目敏いチビスケが、俺の顔を見るなり満面の笑みで呼び寄せる。威厳もクソもあったもんじゃねぇな。
「あー、お言い付け通り、幾許かの戦闘経験を積み、ただいま戻ってまいりました」
それでも一応神妙を装い、膝を付いての一礼を見せてから、改めて大魔王様のご尊顔を配し奉る。
「で、どんな敵と戦うたのじゃ? 強かったか? もちろん血祭りにあげてやったであろうな?」
まるで「散歩行くぞー」と言われた子犬のように、玉座から身を乗り出してせわしなく俺に尋ねてくる。
「は、はぁ……あ、いえ――はい! それはもう、我々の身の丈の倍はあろうかと言う髭モジャのロキシアの大男を含む十名を、見事仕留めて参りました」
せっかくだ、ちょいと色をつけてご報告してやれ。
「おお、おおー! でかしたぞ、そなた初陣でそんなにも強き敵を相手にして、勝利を飾ったとは! 流石は余が見込んだ魔物であるな!」
「お、お褒め頂き、身に余る光栄でございます」
一度こーゆーの言ってみたかったんだよな。
「ほう、それは心強い限りだな」
と、聞きなれない女性の声。
ふと見ると、キンベルグさんの傍らで腕を組みこちらを見据えている……猛牛のような立派な角を生やした、青い肌のうら若き女性の姿!
「おお、紹介しよう。かの者はな、我が魔王軍近衛師団の長――ツングースカである」
長い黒髪にきれいに揃った前髪をふわりと風に靡かせて、一歩前へ進み出る、ツングースカと呼ばれた魔族タイプの女性。
「ツングースカ・レニングラードだ。なるほど、面白そうな男ではありますな……大魔王様」
「そうであろう! で、こやつは……えっと……何であったかな?」
「は?」
「名じゃ、そなたの名じゃ!」
「は、これは申し訳ありません。未だ名乗りを差し上げておりませんでした。我が名は……サトウタイチ。タイチとお呼び下さいませ」
「なんじゃ、変な名前じゃな? まあよい、このものはタイチである。うまく使いこなせ? ツングースカよ」
「はっ。御意のままに。ではこれから頼むぞ、タイチとやら」
「あ、はい……じゃなく、よろしくお引き立てのほどを!」
俺の事を、まるで値踏みでもするかのように、じっくりと見つめるツングースカさんとやら。
つまりはこの人が、俺やアメリアスの上司ってワケか。
漆黒の軍服系の衣装に、光沢を放つ黒いトレンチコート。
そして左目を覆う黒い眼帯……なんだかおっかなさそうな人だなぁ。俺、ヘタレだからこう言う人って苦手なんだよな。
――だが、軍服と眼帯ってのがポイント高けぇよな……中二心をくすぐられるぜ。
「うむ、今後の事はこのツングースカに聞け、よいな」
「は、かしこまりました」
なんて、それっぽい言葉を返しては見たものの……またぞろ猛烈にいやな予感がするなぁ。
「ときに姉さ……ではなく、アメリアスはどうした?」
大魔王様がニコニコ顔で尋ねる。
「は、先に帰ると申しまして……その」
「帰ったか……そうか」
なんだか大魔王様が、一瞬寂しそうな表情を見せたような気がした。
そういやアメリアスのやつ、俺を一人で来させずに、一緒に来て戦果を報告するのが筋だったろうに。
ホント、あの高飛車お嬢様は職務怠慢だよな。
「では、大魔王様――わたくし『ども』はこれにて」
「うむ、ごくろうであった」
「では行くぞ、タイチ」
え? 今、俺呼ばれた?
ちょっと待てよ、もうこれでお仕事終了じゃないのか?
俺の自由は? 俺のフリーダムは? 俺のハーレムは!?
「さっさと来ないか! 先程ブェロニーの地獄森で援軍の要請があったんだ。一刻を争う事態なんだぞ、急げ!」
「えええっ! そんないかつい名前の場所にはロキシアの若い娘さんとかぜってー居ないでしょ? だったら行ったってしょうがない――」
「当たり前だ! 何を言ってるんだ貴様は? とにかく手が足りんのだ、さっさと来い」
そろそろ俺の「嫌な予感」も、能力として認めていいかもしれない。
次話予告
戦場と化していたブェロニーの地獄森。到着早々、ツングースカの無双が始まった!
次回 「時間が無い!」
最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!
まだまだ残暑が続きます、皆様お体に気をつけてお過ごしください。