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第二章 9 帰還

 流石に、神様が取り付いているだけの事はあると言うべきか。

 アメリアスの渾身の攻撃を背中でモロに受けたってのに、スーパー大地さんにはまだまだ十分な余力があるらしい。


「うぅ……太一……太一なんだろ? 俺だ、大地だよ!」


 そしていつもの大地が、何の疑いも無く俺の名を呼ぶ。


 俺は一瞬戸惑った。


 ヤツの口ぶりには、「こんなところであえてうれしい」と言った親しみが感じられたんだ。

 そりゃあ俺だって、悪い気はしないさ。

 友人とMMORPGの世界でばったり出会う。こんなちょっとした奇跡、喜びたいのは山々だ。


 けれど今、俺は敵役のモンスターだ。


 そりゃあこんな世界だもん、主人公とモンスターが仲良くやっちゃダメって決まりは無いさ。

 だが……そうするとこの先――俺がモンスターとなって、若い娘さんを襲い、あんな事やこんな事をしているなんて事が、大地の耳に入っちまう可能性がある!


 そうなると……その……いろいろとまずい。

 したがって、大地に告げるべき事は一つ!


「ふっ。ふははははっ! タイチだと? 知らんなぁ。俺はただお前の心の中を読んで、気に留めている出来事を盗み見、そいつを利用したまでだ! まんまと引っかかったな、ばかめ!」


 見事なまでの悪役ぶりだ。この短時間で、魔物としての資質がかなり磨かれたような気がするよ。


 だが――そんな悪人の常識的な考えも……正義の主人公には些か癪に触ったご様子で。


「貴様……1度ならず2度までも謀るか。もはや許せん!」


 またもや修羅の形相へと変わる、神様憑きの少年勇者。

 はいはい。いいよ、終わりだろ? 短かったけどそれなりには面白かったよ。

 まぁチュートリアルで終了するとは思いもよらなかったけどな。


 でも大地よ、もうしばらくは俺に付き合ってもらうぞ? そう、アメリアスが瞬間移動で逃げ切るまで――


 ――ドォン!


「くぁっ! な、何だ? お、おのれまた小娘め!」


 大地の背中で、またもや爆発が起こった! 

 大地の肩越しに、俺の双眸へと飛び込んできた光景――最後っ屁のような爆発呪文を放ったアメリアスだった!


「おいおい、何やってんスかアニキ!! 逃げなきゃダメでしょーが!」

「逃げる? バカ言わないでって言ったでしょ? 自分一人だけで逃げるなんて……ヴァンパイア族の、ベイノール家の誇りが許さないのよ!」


 さっき大地を闇討ちしようとした人の言うこっちゃないですよ、アメリアスさん。


「あーあ、残念……ダメ押しの一発だったんだけどな。もう今の一撃で、私の精神力は尽きちゃったわ。瞬間移動も今すぐには出来ないし……終わっちゃったわね、私達」


 ペろっと舌を出し、おどけてみせるアメリアス。

 あのアホ、おとなしく逃げてりゃ良かったものを……ええい、こうなったら奥の手だ!

 これだけは使いたくは無かったが――致し方ない、背に腹はかえられないさ!


「だ、大地! ……さん」

「虫けらの分際で気安く呼ぶな」


 よく見ておけ、アメリアス。そして心に刻め、チーベル。これが俺の奥の手だぁ!!



「 も 、 申 し 訳 あ り ま せ ん で し た ぁ !! 」



 これが俺の究極奥義。地に額をこすりつけての「 土 下 座 ! 」だ。

 どうですか、誠意を感じてくれましたか大地さん!


「……そうか、そこまで己が罪を悔いるかならば――」


 やはり大地だ、話がわかるぜ。


「許す訳無かろう!」

「ぐはぁっ!」

 

 横っ腹に、まるで丸太でぶん殴られたような衝撃が走る!

 どうやら大地の「蹴り」が容赦なく炸裂したようだ。


「カハッ……だ、大地頼む。俺はどーなってもいい、せめてあのヴァンパイア少女だけは今回だけ大目に見てやってくれ」

「嫌だと言ったら?」

「お、お前はそんな非常な奴じゃないさ……な、頼む! 俺はどーなってもいいからさ」

「貴様の言葉は信用できん、何を企んでいるか判ったものではないからな。今ここで死ね、あのヴァンパイアもすぐに地の獄へ送ってやる」

「そうか……じゃあ、もう何も言うまい。わりぃな、アメリアス」

「バ、バカ茶色! 何一人でカッコつけてんのよ!」

「腹を括ったか、その意気やよし。せめて苦しまずに送ってやろう」


 ああ、もう打つ手なしか。

 せめて一度だけでも村を襲って若い娘さんを拉致して、性的調教を施して、ハーレム三昧に明け暮れたかったなぁ……。


「死ぬがい……ん?」


 ――その時だ!

 まるで地を這うように伝わる不気味で低い響きが、俺の耳に、そしてこの場にいる全ての者の耳に届いた。


「あ……あの響き音は、暗黒竜の角笛! 援軍だわ!」


 ふと、重低音が響いてくる方向に目を向ける。

 そこには、なにやら黒い一団がこちらに向かってくるのが見えた。

 それらは近づくにつれ、徐々に全貌を現していく。


 ボロ布や獣皮をまとい、側頭部にツノを生やした全身毛むくじゃらの人型生物。そいつらがウホウホ言いながら駆け寄って来ているんだ!

 ああ、そうだよ。彼らこそ、ファンタジー世界で永遠のヤラレ役、「オーク鬼」さん方御一行だ!

 お? なんだかやたらデカいヤツも混じってんなぁ……ありゃトロルかな? だが所詮ヒーローモノで言うところの戦闘員と今週の怪人さん。

 数に頼ったとしても、今の大地にはかないっこねぇだろうなぁ。


「ちっ……ゴミ共が増えてしまったか。片付けるには容易いが……あの数で蹂躙されれば、気を失ったベルーアの身が心配だ。まぁ、楽しみは後にとっておくも一興か」


 そう言うと、大地はくるりと踵を返し、横たわるベルーアの元へと歩いていった。


「えっ?」

「貴様、運が良かったな。今回はこれで引いてやる」

「ま……マジですか!?」


 その光景に、助かったと言う実感がわき、安堵のあまりへたり込む俺。


「愚かな魔族よ。一応名を聞いておこうか?」


 未だに気を失っているベルーアを両手で抱き抱えながら、大地が問う。

 どうしよう、本名言えないし……。


 と、そんな時だ。

 ふと、とある名前が俺の脳裏を過ぎった。


「べ、ベオウルフ……だ」


 それはあの本の中で、今の俺の立ち居地にいる魔族の少年が名乗る名だ。


「ほう、デネの勇士の名を戴くとは、なかなか洒落た魔族もいたものだな」


 ああ。ついでに言うと大地、お前(ダイチ)がゲームなんかで主人公に付ける、お気に入りの名前だ。


「ベオウルフよ、次に出会った時までその命、預けておこう――さらばだ!」


 強者の去り際の決まり文句を残して、大地とベルーアの姿は光の粒子となって天高く舞い上がり、青空に溶けて消えた。


「た、助かった……助かったぞ! アメリアス! チーベル!」


 へたりこんだまま、喜びの感情を叫ぶ俺。さぞみっともない姿だろう。

 だが、アメリアスは安堵感とも悔しさとも取れる複雑な表情を見せるだけで、言葉は無い。

 ただ黙って俺へと歩み寄って来るその姿は、敗者としての佇まいを十二分に見せていた。


「ど、どした? 嬉しく無ぇのかよ」

「くやしい、逃げられた……」

「逃げられた? あれは『見逃してくれた』っつーんだよ」

「ふんっ! あんなヤツ、夜に出会っていれば、私一人でも倒せたのに!」


 小さく鼻を鳴らし、息を巻く。

 そういやぁヴァンパイアって昼でも活動できるんだ?


「何当然な事言ってんの? そりゃあ夜よりは力は劣るけど」


 俺の知ってる吸血鬼とはちょっと違うなぁ。

 あ、今度俺の事を馬鹿にしたら、にんにくとか十字架とか見せてみよう。


「あーでも、良かったよな。ちょうど良いところに援軍が来てくれてさ。もしかしてアメリアスが呼んでくれたのか?」

「ううん、そんな手段あるワケ無いでしょ」

「それはアレですよ、タイチさんの運のよさが、彼らを招いたのではないでしょうか?」

「はは……運の良さねぇ」


 まるで俺の能力スキルみたいな言い方だな。だが何にせよ、命拾いした事は間違いない。






「おお、じゃあおめーらが、あの三人のカタキとってくれたんか!」

「まぁ成り行き上だけどな」

「そうかそうか! そりゃありがてぇや!」


 ぼてっとしたお腹に全身ケムクジャラのオーク達。

 その中のリーダー格らしきおっさんが、くさい息を吐きながら、俺達に感謝を述べる。

 いいっていいってモジャ夫、てか臭いから黙れ! あっち行け!


 どうやらこのオーク鬼達は、さっき転がってた三匹のご遺体のお仲間らしい。

 五匹で狩猟行動をとってた最中、俺が倒したあの髭のおっさんとエンカウントしてしまったんだとか。

 うち二匹が逃走、仲間を連れて戻ってきたと言うワケだ。


「おう、おめぇ! これは感謝のしるしだ! さっきここへ来る途中にぶちころしたロキシアから奪い取ったもんだがよ、おめぇにやる!」


 と、おっかねぇ事を言いつつ、俺に手渡してくれた血まみれの小さな獣皮の小袋。気持ち悪いと思いながらも、なんだか猛烈に嫌な予感が……。

 この大きさ、この堅さ、そして皮袋越しにも判るこの形状。

 もしかしてアレかな?


「あー、もしかしなくともアレですねー」


 ああもう、いいよ。判ったわかった、みなまで言うな。


「ねぇ、オーク達。精神力を回復させる『アレ』は持ってない?」


 アメリアスがその辺を歩いているオークを呼び止め、何か要求している様子。

 「アレ」とはなんだか危険な香りのする響きだな?


「おう、むすめ。おまえ精神力使い果たしたんか? ホレ、もってるからやるぞ!」

「どうもありがとー」


 にこにこ顔で、モジャ太郎からきったねぇ布の小袋を受け取るアメリアス。

 なんだそりゃ? ヤバい系のクスリか? ハッパ系か? それとも――


「黒焼きよ? イモリの。あんたもたべる?」

「いや、いらねぇ……」

「遠慮しなくても良いわよ? あんたも精神力使い果たしてたじゃない」

「だからいらねって!」

「そう、じゃあ足の部分だけね」


 いや、熱湯風呂で押すなよ、絶対に押すなよ! って言ってる訳じゃないんだアメリアス。

 だからその悪戯心全開の瞳で俺を見るのはよせ!

 おい、アニキ! 何、モジャ助とモジャ吉に「あいつの両腕を押さえろ」って指令出してんだよ!

 つか、もじゃもじゃ鬼ども! 素直に命令聞いてんじゃねぇ! 



 ち ょ 、 お ま 、 や め ろ っ て 。

 は 、 は な せ ー !!



「…………おぇ」



「あはははは! あーおっかしー。あんたってほんと変わってるわよねー? こんなおいしいものを吐くほど嫌うなんてさ」


 うっせぇ。あとでぜってーニンニクぶつけてやる。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか、タイチ」

「あ……ああ。そう願いたい」


 そう力無げに零し、俺はアメリアスに手を差し出した。

 アメリアスが俺の手を取り、微笑む。


「ホラ、しっかりしてよね? じゃあオークのみなさーん、私達は帰りまーす」

「おお! わしらも仲間葬ったら森へ帰るベー。世話んなったなー魔族のあんちゃんー! そして娘っこー!」


 表情があるのか無いのか判らないイカツい顔のオークさん達が、力いっぱい手を振ってくれている。

 あー……なんだか親しみがわいてきて、今後ゲームやなんかでオーク鬼を殺せなくなりそうだ。


「それじゃ――ゴーンドラド・デ・ベイノールパレス!」


 アメリアスが行き先を叫ぶ。

 またもや俺達は光の結晶へと変わり、天高く吸い上げられて行った。


次話予告

部屋に戻った太一。しかしベルーアはまだ目を覚まさない! 忍び寄る太一の魔の手、ベルーアに危機が迫る!


次回 「約束」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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