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第二章 7 太一VS大地


 ここで颯爽と登場すれば、俺ちょっとカッコイイ! とか、仲間がやられているのに見過ごせるかよ! なんて、熱い展開を望んだわけじゃない。

 むしろ俺としては、目の前のモンスター少女がやられてしまう事を望んでいた訳で……。


 だが、身体は……心はそれを良しとしなかった。

 どう言う訳か、俺の中枢からの指令を無視して、勝手に動いてしまったんだ!


「ロキシア共! これ以上『俺の女』に手を出すことは許さん!」


 ついでだから、一度言ってみたかった台詞を吐いてみる。

 うーん、思ったより感動とか高揚感とか無いな……つか、気恥ずかしさのせいで、顔の筋肉が痙攣を起こしちゃったよ。

 やっぱ別に付き合ってもいない女性? を、そんな風に言うもんじゃないもんだな。


「だ、誰がおまえの女じゃあ! このエロ茶色!」

「うっせぇ! 助けてやるんだから、ちょっと位カッコつけさせろ」

「べ、別にあんたなんかの助けは要らないわよ! こんなやつら、私一人で十分なんだから!」

「ああ、んな事ぁ判っとるわい。だがな! 俺のアニキ分が傷付けられたんだ。舎弟の俺がだまってられっかよ!」


 へへへ、あいつの言った言葉を利用して、一本取ってやったぜ。


「もう死ね……しんじゃえ……アホ茶色……何よ……ばか」


 流石に何も言い返せず、ぷいっとそっぽを向いて、小さく悪態をつくアメリアス。俺、完全勝利!


「とりあえず、回復魔法とかあるんなら治療しておけよ?」

「あ、それは私が。これでも初歩の魔物専用の回復魔法くらいは使えるんですよ?」


 と、チーベルがアメリアスの元へと飛んで行き、手をかざして呪文を唱えた。

 見る見るうちに、アメリアスの身体の傷跡が塞がっていく。やれやれ、これで一安心だ。


「さて、ロキシアよ。今度は2対2だ、お互い正々堂々といこうぜ?」

「ああ、望むところだ! ベルーア、俺はこの土塊色の方を殺る。君はあっちの美少女を」

「了解。大地さん、気をつけてね」

「つ、つちくれ色って、おまえなぁ……」


 呼称のされ方に異議を唱える俺を軽く無視して、大地がダッシュで切りかかってきた。なんともせわしないヤツだな。

 側に寄って見て判った事だが、大地が装備しているのは青銅系の胸当てと篭手、そしてオープンフェイスのヘルメットだ。うもそいつが重くて、戦いに精彩を欠いている様子。

 あはは、しかしこりゃどう見てもザコ役のブロンズセイントだな。ほれほれ、小宇宙コスモを最大限まで燃焼させてかかって来い!


「うおあああああ!」

「ひょいっと。ブロンズセイントのヒヨっ子め、そんなんじゃアテナを守りきれないぞ!」

「……は? なんだ、ブロンズセイントって? セイントセイヤか? モンスターの癖に何故そんな事を知ってるんだ?」


 ぎくぅ! や、やばい。いつもの大地との会話のノリがでちまった。


「そ、そんな事! これから死ぬお前に教える必要など無い! くらえ、ティガー・ファング」


 大地へと手をかざして、悪役の定番台詞を叫びつつ魔法攻撃を仕掛ける。

 いや、同じ悪役の定番台詞でも、これはひょっとして死亡フラグ系の台詞だったか? まぁそんな事はどうでもいいか。

 俺の掌から迸る、暗黒色の闇。そこから勢い良く飛び出す、一匹の猛き牙獣。

 厳密に言えば、その形を成したエネルギー波のようなものだ。

 それは一直線に大地へとめざし、ヤツをその牙へとかけた。


「うわっ!」


 大地の不意を付いて撃ち出したそれは、見事ヤツを直撃した! たまらず怯む主人公。うんうん、悪役の見せ場ってヤツだな。

 相手が知人って事もあり、俺は些か余裕すら持って戦えている。

 が、逆に大地からすると、俺はただのモンスター。俺に対する情報も乏しく、不安や恐れを抱いているはず。

 その証拠に戦いがぎこちなさ過ぎる。まるで普段のあいつじゃないみたいだ。


 と、余裕ついでに、もう一方の戦いぶりに目を移してみた。

 ベルーアとアメリアスの戦い……つか、激闘だな、ありゃ。


 互いの繰り出す魔法を紙一重でかわし、また、ぶつけ合って相殺し、激しい火花を散らせている。 二人の力は拮抗し合っていて、どうにも勝負が付かない様子だ。

 そうだ! ここは俺が助力をして、先にベルーアを弱らせちまおう。もしかすると不利と踏んで、逃げてくれるかもしれないぞ?


「えっと、魔法、一覧……と。あ、三つばかり魔法が増えてるぞ。『幻影(ゲシュペンスト)』MP消費量5に『猛襲の弓(シュツルム・ボーゲン)』MP消費量5の威力6、あと『雷光の狼(ブリッツ・ヴォルフ)』MP消費量5の威力8か。おい、チーベル! この中で一番威力の高い魔法はどれだ?」


「えっと、そうですね。幻影は攻撃ではなく、いわば目蔵ましです。雷光の狼は雷属性が苦手な相手に追加ダメージを与えるのですが、そうでない者にはあまり効果がありません。もう一つの、猛襲の弓と言うのはですね、いっぱいの弓矢が飛んでいって、広範囲の敵に当たります。その分個々へのダメージは少ないです。したがって、初歩魔法を撃つか、雷光の狼を撃つかですね」


 うーん、特別すごいって攻撃魔法は、これと言ってナシか。

 まぁいいや。その雷光の狼ってのを放って、ベルーアを感電させっちまおう!


「ブリッツ・ヴォルフ!」


 こんどは掌をベルーアへとかざし、雷をまとった電光色の狼を疾駆させる。


 おそらくは、予想外からの不意な攻撃に、咄嗟に全神経を集中させて身構えてしまったベルーア。 その絶対的な隙を狙って、アメリアスの魔法が容赦なく襲い掛かる!


漆黒の光リヒト・フィンスターニス!!」


 黒く禍々しい「光」が、ベルーアを包み込み、その動きを封じたのだった!


「し、しまった!」


 それは紛れも無く、俺の放った電光の狼が彼女への直撃する事を意味している。

 すまない、ベルーア。俺の野望のためにちょこっと犠牲になってくれ!


「キャアアアアアアアッ!!」

「べ、ベルーア!」


 絹を裂くような悲鳴とは、まさにこの事だろう。

 まるで落雷を受けたかのように――いや、見た事はないけどさ――彼女の身体を電流が駆け巡る! マンガだったらガイコツのシルエットに、ドリフの爆発ヘア確定だ。

 が、ここは一応現実世界。身体から白い煙を立ち上らせつつ、はたりと倒れる白金色の髪の美少女。風に力なくたなびく髪の毛が、やけに儚さを印象付けた。


 さぁ、これで残るはへなちょこ戦士・大地くんただ一人。ここは一発ガツンと脅しを決めて、速やかにご退場を願うのが一番だろう。

 今ならベルーアのダメージもそんなに深刻なモノじゃないだろうし、二人ならどこか近くの街まで逃げ切ってくれるだろうな。


「さぁ、ロキシアよ! いよいよお前ひとりとなったぞ? だが我々は寛大だ、許しを請うなら今日のところは見逃し……て?」


 あれ? 大地がいない。

 さっきまであそこで蹲って……って、いた! すぐ側にいた! なんかすごい形相で、いつの間にか俺の横にいた!


「キサマ……よくもベルーアを、大切な仲間を! 正々堂々と戦うんじゃなかったのか!」

「ハ、ハンッ! 我ら魔族が約束を守るとでも――」


 ――ガシッ!


 ワルモノの常套句をノリノリで言おうとした矢先。

 まるでゴリラにでも掴まれたかのような感覚が、俺の首筋に走った!


「う、うぐぐっ! く、くるしい……」

「キサマ……は……ヒレツナ戦イをしタ……報いヲ受ケよ」


 俺の首を片手でギリギリと音を立てて締め付けながら、大地は言う。

 いや、なんだかところどころ誰か「他の人間」が混じっているような声……。

 あっ! まさか俺……大地の変なスイッチを、おもっくそ連打してしまったのか?


「くそ、死んでたまるか! ティガー・ファング、速射三連!」


 掌を大地の顔に向け、咄嗟に叫んだ。三連って何だよ? いや、なんだか出来ると感じてつい口走ってしまったんだよな。

 が、そんな自問自答は、すぐに俺の自信へとつながった。

 そう、出た! でたんだよ! でっかいトラが三匹いっぺんにさ!

 当然、その分のMPもしっかり消費されたけどな。


「くっ!」


 流石に俺の手を離し、顔を覆う大地。だが、その割にはダメージはあまり受けていない様子。

 いくら顔を手で覆い、攻撃を防いだって言っても、直撃だったはずだぜ? もしかしてそれほどまでに防御能力が高まっているとでも言うのか?

 あ、あはは……やだなぁ、これじゃただの無理ゲーじゃないっスか。

 例のラノベの内容だと、大地とアメリアスの戦いは適当なところでアメリアスが「またあいましょう」って勝負を預けて去るって展開だったのに。


 ん、ラノベの内容……だと?

 ま、まてよ。さっきの「速射三連」って台詞と、この展開。確かどこかで……。


「そ、そうだ! この展開、覚えがあるぞ。確かあの本の序盤の山場、こんな感じの戦闘シーンで、さっきの台詞を吐く敵役がいたっけ……その役が、俺って事?」


 俺は「その事」に気付き、あまりもの衝撃に愕然として動けないでいた。


「もう、何ボーっとしてるのよ! ベイノール家奥義魔法、真紅色の巨砲シャルロッハロート・カノーネ!」


 目も眩むような赤い閃光と、鳴り響く轟音。その衝撃に、俺は我を取り戻した。


「うおぁ! やっべぇアメリアス、本気出しすぎじゃないか!」


 が、次の瞬間。

 俺とアメリアスの血の気は一気に急降下。


 だって――。


「こ、このあたしの奥義魔法を……」

「み、右手一本で防ぎやがった!」


 アメリアスの渾身の一撃を、いとも軽々と片手で受け止める大地。

 爆発で巻き起こる砂塵と煙幕。それらが晴れた時、俺は我が目を疑った。


「――おいおい待てよ。アレは誰だ?」


 そこには銀色の長い髪の毛をたなびかせる、一人の少年がいた。

 それはいつもの大地とはあまりにもかけ離れている、まるで心の内に修羅を宿したかのような、おっかねぇ形相だ。



「 死 ね 、 虫 け ら ど も ! 」



次話予告

スーパー大地のチート能力に進退窮まった太一達。

が、そんな中。太一は一つの策を思いつく。

次回 「ぐったり」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました!

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