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第二章 6 ヴァンパイア族の誇り

 いきなり出会っちゃいけないヤツとの接近遭遇。俺に突きつけられた選択肢は二つ!

 逃げるか……隠れるか。

 戦う? そんな選択肢は毛頭ございません! あいつに勝っても終了、負けても終了。どうあがいてもバッドエンドだ!


「何? どうしたの? サト・ウタイチ」

「お、俺の名前を変なトコで区切るな。それにサトウタイチはフルネームだ、できれば『タイチ』だけで呼んでくれ」

「めんどくさいわね。で、どうしたのよタイチ?」

「ああ、厄介なヤツに出会っちまった」

「厄介?」

「そう、奴は……やつは……」


 ダメだ、言えない。

 大地との関係性を正直に話したら、俺の正体――つまりこの茶色い魔族の少年の中身は人間だって事がバレちまうじゃないか。


「えっと、あのロキシアはですね……実は太一さんから記憶を奪った張本人なんですよ。めちゃくちゃ強いというか、すごい技を使うというか……とにかく相手にしないほうがいいんです! ですよね、太一さん?」

「あ、ああ……そうだ。ヤツには近寄らない方がいい」


 しどろもどろな俺を見て、チーベルがフォローの助け舟を出してくれた。

 やっと判ったよ、チーベル……と言うか、ベルーアの長所とも言うべきものが。


 当意即妙――こいつ、咄嗟の機転がよく働くんだ!


 まぁ、悪く言えばただ言い訳が上手いだけなんだがな。


「と、言うわけだアメリアス。ここは一旦、瞬間移動で別の場所にだな――」



「 バ カ 言 わ な い で !! 」



 突然激昂する、吸血少女。

 え? もしかして俺、変なスイッチ入れちゃったか?


「仮にも誇り高きヴァンパイア族の最高貴族たるこの私が! ロキシアごときに背を向けるなんてありうると思って? 我が一族に言わせれば、ロキシアはただの食材にすぎないのよ。そんなの、食べ物が怖いと言って逃げるも同義だわ!」


 でも俺はシュールストレミングとか出されたら、ソッコーで逃げるけどな。


「それにタイチ! あなたはあのロキシアに記憶を奪われちゃったんでしょ? なら取り返すなり一矢報いてやるなりするべきよ!」


 今更「うそでーす」なんて言えない雰囲気だ。


「まぁ見てなさい。我がヴァンパイア族の秘儀を用いて、あんな奴ら私一人でけっちょんけちょんにしてあげる! 私の舎弟に手ェ出したらどうなるか、身体に判らせてあげるんだから」


 と、鼻息荒くのたまうヴァンパイア少女さん。

 ……ところで、いつから俺はお前さんの舎弟になったんだ?

 まぁ心強いのはありがたいけどさ。


 けれど、下手に勝たれるとその時点でゲームオーバーだ。何とかしないと。


「い、いや……ですがねアニキ……って、あれ? 居ない……」


 あのアホ! 既に音も無くこの場を離れ、俺と大地との中間地点へと身を潜めて、イニシアティブをとる気満々で身構えていやがる!

 とりあえず俺も身を潜め、できるだけこの戦いに巻き込まれないようにしよう。


「それが懸命ですね。いざとなれば、アメリアスさんの足を引っ張って、逆に大地さんへ恩を売るのも手かもしれませんよ?」


 なんちゅー事を言い出すんだ、この小悪魔は!

 …………まぁ、アリっちゃーアリかな?


「いやいや! 変な気を起こさせるなよチーベル。そうだ! お前、本体であるあのベルーアとテレパシーとか感情の共有とか出来ないのか?」

「はい、無理ですね。この世界では、私やあの本体の個々が、一人の人格を持ってますので。元の世界に戻れば、記憶の共有は出来ますけどね」


 ふぅん、所謂コピーロボットって訳か。向こうのベルーアとうまく連携が取れればと思ったんだがなぁ。そしたら大地を回避して、この世界を堪能できるのに。


「あ、もうそろそろ接触しますよ!」


 チーベルが少し興奮気味に、俺へと知らせる。

 おっと、うだうだと考えるより、今はアメリアスと大地の戦いを見守る方が大事だな。

 さあ、互いの接触まであと10メートルほど……5メートル……うう、なんだか緊張してきたなぁ。

 ……3メートル……さあ、おそらくはそろそろアメリアスの攻撃射程圏内だろう。動くか、飛び掛るのか?

 ……2メートル……なんだ、まだ動かねぇじゃねぇか――って、おい! 先に動いたのは大地の方だ! アメリアスに気が付いて、歩み寄っている様子だぞ。


 こ、これは一体……?


「いえ、先に仕掛けていたのはアメリアスさんの方です!」

「な、何! どういう事なんですか、解説のチーベルさん!」

「はい、大地さんの視野に入った途端、彼女は動いていたんです。動くと言っても、蹲ったままで小さなうめき声を上げただけですけれど」


 ますます意味がわかんねぇ!

 っと、そうこうしているうちに、大地がアメリアスに何やら語り掛けた! 襲うのか……って、あれ? 傍に寄ってなにか声をかけているような……っと! 今度は大地がアメリアスの背中をさすり出した! 覗き込んで何か一言二言声をかける大地に、ウンウンと頷くアメリアス。


 ――だがしかしっ! 油断しきっている大地に、ここでアメリアスが牙をむいたッ!


「あっ! ついにアメリアスさんの鋭いツメが、大地さんを襲いましたね! 大地さん、たまらずよろけていますよ!」


 えっと。

 ……ごめんなさいね、アメリアスさん。

 俺のうがった見解かもしれませんが……これってもしかして「だまし討ち」と言うヤツですよね……?

 ヴァンパイア族の誇りとやらはどこ行ったよ?


「あっと、今の一撃で気を良くしたアメリアスさんが、大地さんを指差して何か言ってますね」

「ああ、大方『ワハハハばかめっ! 私の舎弟に手を出すとは、この私に喧嘩を売ると言うこと。それがどういう結果を生むか、この場で思い知らせてあげるわ』ってな感じか?」

「あー、っぽいですね」


 知り合ってまだ小一次間程度と言うのに、もうアメリアスの大体半分くらいは理解したかもしれない。

 まぁ、あとの半分は理解したくもないけどな。


 ん? ちょっと待てよ!

 あの神夢なんとかってラノベの内容では、確かにアメリアスが主人公ダイチと初対面するのは、彼女が主人公とベルーアを急襲するシーンが最初だったハズ。

 けれど……それは魔物に襲われて、廃墟となった街での事だったんだ。

 もしかして……内容が若干変わっている? それともこれって、誤差の範囲の出来事なのか?


「さぁ、そのあたりは私にもわかりかねます。なにせ今回が初仕事なので……」

「ったく、使えねぇ案内人だな。帰ったらお前の上司に報告、連絡、相談で、判断を仰げよ!」

「あ、それ知ってますよ! 『ホウレンソウ』とか言う奴ですよね! ちゃんと心得てますよ? なんたってこれでも天使の世界の縦社会でもまれてきたんですから」


 いや、そんなに胸を張って言うこっちゃないですよ。

 てか、そんな事より! とうとう大地が腰の得物を抜いたようだ!

 大地とアメリアスのマジバトルが始まっちまったぞ。


 アメリアスに向かって大地が突進!

 剣を両手に持ち、横に薙いだ!

 ――が、何だあのへっぴり腰は? アメリアス、余裕でかわして高笑いじゃないか。

 でも! 敵は大地だけじゃない。白い外套をまとったベルーアが、呪文を唱えて炎の槍(ローエン・シュペーア)を打ち出してきた!

 あー、思い出したよ。確か攻撃前に、「悪しき地の底に住まう、吸血の魔人よ! 我が灼熱の息吹がそなたをうんたらかんたら――」とか言う口上を述べてたんだったっけか。

 あのシーン、赤面しながら読んだ記憶があるよ。ま、若い頃は誰しも一度はそんな攻撃前の台詞とか考えるもんだよな。


「私の本体さんは結構強いエリート設定なんですよ。もしかすると、アメリアスさん手こずるかもしれませんね」


 俺の顔の横で、ちっこいのが自慢げに言う。

 わかった、だからそのぶんチーベル(おまえ)がバカなんだな。


 それにしても、なんで大地はあんなに弱いんだ? 運動神経は俺より高いはずなのに。


「ああ、それはですね。『普段はお荷物。だけどイザと言う時、大いなる力に目覚める』という、太一さんがシビレルような展開のためでしょう」

「ぐっ……ふ、普通に王道展開と言え!」


 いちいちヤな事を思い出させるヤツだな。


「ほらほら、そんな事で顔を赤らめてる場合じゃないですよ! 見てください。流石に2対1では、アメリアスさんが結構押されているようです。どうしますか?」

「ど、どうしますかって……無論このまま……」


 ……このまま?


 ああ、このまま行けば大地達が勝つだろうさ。

 で、俺は晴れて自由の身! 適当な村を襲って、かわいい村娘を拉致って、戦いから遠ざかって、ハーレム作って、めでたしめでたし、だろ?

 そうだ、俺がこの世界に来た理由。それがいまだひとっつも成されていないじゃないか!

 何故? それは……俺達の目の前でベルーアの攻撃呪文をかわしつつ、大地のへっぴり剣戟を防いでいる、あのヴァンパイア美少女のせいだ。


 もっと言えば、魔王軍の頭領であるあの大魔王様チビスケが、俺を近衛部隊の隊員にしたいなんてぬかしたからだ!


 よく考えろ、俺!

 俺はこの世界に来て間もない新参だ。この世界に何のしがらみも恩も無いんだぜ? 彼女らに縛られる理由がどこにあるよ?


 そう、まったく無い!

 つか、好き勝手にやらせろってんだ!


 そのためには……まず、目の前の戦いに係わらない事! これが絶対条件だ!

 そうだよな、下手に助けて逆に大地を倒せば、その時点でアウトだし、上手く大地達から逃げれたとしても、そして追っ払ったとしても、そいつは今後もアメリアスの指示の元での行動を義務付けられ、自由を奪われてしまう結果となるんだ。


 あいつが、アメリアスがどうなったっていい!

 さらに言うなら、魔王軍がどうなったって知った事か。

 俺は俺のやりたいようにやる!

 元々奴等はモンスターだ。

 人間に害成すバケモノだ。俺には関係ない事さ!


 たとえアメリアスがベルーアの氷の刃(アイス・シュベルト)を食らって、体中が傷だらけでも……大地の剣のまぐれ当たりを食らって膝を付いたとしても……俺には関係ないさ……俺には……俺は…………え え い !



「 そ 、 そ こ ま で だ ! ロ キ シ ア 共 !! 」



 あーあ…………言っちゃったよ、俺。



次話予告

見知らぬ衝動に身体を突き動かされ、躍り出た太一。戦いは二対二のイーブンへともつれ込む。しかし意外すぎるほど弱い大地に、ターゲットをベルーアに変更する太一。だが、それは触れてはいけないスイッチを力いっぱい押す結果となった……。

次回 「太一VS大地」


最後まで目を通していただいて、まことにありがとうございました。


前話の予告と本編の一部を修正しました。まぁ気にするようなことでも、気になさる方がいるわけでもないですが……

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