第九章 17 所詮俺は魔物がお似合いだ!
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
セフィーアの純白の鎧と、侍女であるデオランスを、パレーステナ村へと送り届けた後。
屋敷に帰ると、中庭でベルーアとチーベル、そしてアルテミアらが、キューメリーを交えてお茶を楽しんでいた。
「よぉ、来てたのかキューメリー」
「キューメリー『さま』でしょ。私はあなたの上官なんだから。あと、あまり近づかないで」
人ん家に来て、やけに横暴な振る舞いだなおい。
「人ん家? 何言ってんの、今日から私もここの屋敷に住むのよ? だからあたしの家でしょ」
「ハァ!? お前こそ何言ってんだよ!」
「あら、お姉さまに聞かなかった? 出立の時に言っておいてあげるって……」
「いや、アルテミアの事しか聞いてねぇぞ!」
「ふぅん。じゃあ、とりあえずそう言う事だから……あまり側に寄らないでね」
「ふ・ざ・け・ん・な。だいたい男嫌いなんだろ? だったら他所で寝泊りしろよ!」
「あなた何? 身寄りのない上官を追い出して住所不定にするつもり? あと近くに来ないでってば!」
「うっせぇ! 大事な上官殿に何かあっちゃまずいだろ!? だったら俺が二十四時間ピッタリくっ付いてお前を警護してやるよ!」
「ひぃ! こ、来ないでって言ってるでしょ!」
「まぁまぁ、太一さん。ここはひとつお茶でも飲んで落ち着いてください」
「べ、ベルーア! これが落ち着いて――ゴクゴク――られっかよ……ゲプゥ。おかわり」
「はいはい、いっぱい飲んで下さいね」
とりあえず一心地付いた。
「あんのぉ、タイチ様。アメリアス様がお越しですよぉ?」
少しリラックスしたそんな時。
ミラルダがやって来て、もう一人の「厄介」の到来を告げたのだった。
「……とりあえず、私の部屋はどこ? ツングースカ殿が使っておられた部屋でもいいけど、それは流石に恐れ多いから、それに次ぐくらいのお部屋にして頂戴よ?」
「……藪から棒に何言ってるんだ、お前は」
見ると、アメリアスの背後には三人の見慣れた人影。
そう、大量の荷物を抱えたマリアニ姉妹と、でっけぇ唐草模様の風呂敷を背負ったセルバンデスさんが立っている……まるで引越しでもするような――ちょ、ちょっとまて!
「何よ、ベルーアやロキシアの姫やアルテミアが、あなたのような野獣の餌食にならないように、泊り込みで見張りに来てあげたんじゃない」
いや、ごめん。何言ってんだかよくわかんない。
「それより! なんでこのポンコツサキュバスがここにいるのよ?」
「何よ、中途半端なヴァンパイアの分際で!」
また始まったよ。こいつら、寄ると触ると喧嘩してるのな。
まったく、仲が良いのか悪いのか……。
「まぁまぁ、お二人とも、お茶でも飲みませんか?」
「「サンキューベルーア……まぁ仕方がないわね。同じ副官同士、大目に見てあげるわ」」
なんだか先が思いやられるよ。
新たに師団長となったレフトニアさん、苦労するだろうな。
「つーか、アメリアス! いきなり押しかけて四人もここに住むなんて、俺は許可した覚えない――」
「あら、セルは荷物を運びに来ただけよ? だから、マリィとアニィのお部屋はちゃんと用意してあげてね」
「あ……あぁハイ、それはもちろん。って、そうじゃねぇ――」
「それより……ロキシアの姫はどこ? 見当たらないようだけど」
「そ……それは」
ふと思い起こす、さっきまでの事。
そう、エリオデッタは――しっかりと、自分の道を見つけたんだ。
「そう……いいお友達になれると思ったんだけどね……血を吸ってヴァンパイアにしたらだけど」
「ロキシアにしてはいい根性してたわよね、あの子」
アメリアスとキューメリーが、どこかさびしい目でポツリと語る。
その言葉は、俺に小さく灯り始めた「新たな可能性」に、小さいながらも一歩を記したような気がした。
「それはそうと、太一さん。そろそろ一度元の世界に戻られたほうがいいのでは?」
チーベルがへろへろと俺の元へ飛んできて耳打ちした。
そうだな、一旦戻ったほうがよさそうだ。
この、メンドクサイ事態ながらも、なんだか楽しげな今は、一時的に帰還した後の再開には丁度いいだろう。
そう考え、俺はステータスウィンドウを呼び出し、久しぶりの「回帰」を選択したのだった。
元の世界へと戻り、目覚めた俺。
う~ん、なんだか寝たような寝てないような……複雑な気分。
だが、頭も体もシャキーンと快調なところを見ると、やっぱちゃんと睡眠は取れている様子だ。
そして、ベルーアと共に久しぶりの学校。
なんだか冬休み明けの登校を思わせる……そんな俺の前に、美奈が教室から現れ、ばったりと出会い、思わず「よう、久しぶり!」なんて言葉をかけてしまった。
「う、うん……おはよう、『佐藤』くん」
なんだろう? 俺のバカみたいな挨拶に触れもせず、しかも今となっては懐かしい「ちゃんとした苗字」で俺を呼んでくれた。
そんなの入学して最初に会話したとき以来じゃねぇか?
「なにか、様子が変でしたね?」
「なんだ、ベルーア。お前もそう思うのか?」
「はい……なんとなく、ですが」
「俺もそう感じたんだが……トイレ行くのに焦ってたのかな?」
然程気にも留めず、俺達は教室へと入り――一瞬、悪寒を感じた。
その寒気を誘う空気の出所は勿論……。
「お、おはよう……大地」
「……ああ、おはよう」
なんだか、日に日に変わり行く大地の表情。
まるで、人を殺めた事があると言わんばかりの悪人顔だ。
周囲にいるやつらも、遠巻きにして大地を見ている……これはアレだな、確実に異世界の影響だろう。
「美奈さんは察するに、この毒気に当てられて気後れしてしまい、いたたまれずに外に逃げ出したのでしょう」
「ああ、そんな感じだな」
その後、美奈は授業のチャイムがなるまで、教室に戻ってこなかった。
もしかして……大地と何かあったのか? 気になるな……後できいてみっか。
お昼の休憩時間。
俺とベルーアは、教室でメシを食い終わると、二人してその場を後にした。
大地と――そして美奈の様子が気になったからだ。
一応大地にも美奈にも「一緒にメシにしよーぜ!」と、普段と同じ接し方で昼食を誘ったんだが……二人ともそれを断り、そそくさと外へ出て行ったんだ。
「ぜってぇ何かあるな?」
俺の嫌な予感が、ズンズンと音を立てて去来する。
そう、かなりの高確率で的中しているあの感覚が、俺を突き動かすんだ。
「……にしても、二人どこ行っちまったんだ?」
「そうですね……きっと人目につかない所で……あ、それじゃあ、あそこではないでしょうか? 私と大地さんが、前回のお昼休みにログインした場所――音楽準備室です」
「そ、そうか! よし、行ってみよう」
階段を駆け上がり、目指すは多目的な教室が入る「部室棟」、その三階だ。
そして――その途中で、階段を降りてくる美奈と出会った。
左のほっぺたを押さえて、一人トボトボと階段を降りてくる美奈。
そんな彼女と目が合い、俺は思わず声を掛けた!
「美奈! ど、どうしたんだ?」
「佐藤……くん。ど、どうもしないよ?」
えへへ、と力なく小さく笑う。
その姿を見るに、何もないワケないのがアリアリと分かるぞ!
「嘘付け! 何があった? 大地と何かあったのか?」
「な、何もないったら――!」
駆け出し、去ろうとする美奈の左手を掴み、制動をかける。
と、その途端、左手で押さえていたほっぺたが露になり、俺は少し動揺した。
「赤くなってるじゃないか! クッソ、大地め……あの野郎、美奈に手ェ出しやがったな!」
「な、何もされてないよ? ほ、本当だよ!」
「ウソつくな! じゃあそのホッペは何だよ! アイツに殴られたんじゃないのか!」
「こ、これは――」
言葉を詰まらせる美奈。
「ベルーア! 美奈を保健室へ連れてってくれ!」
「はい……でも太一さんは――まさか!」
「あぁ! あのアホ連れてきて、美奈の前で土下座させてやる!」
「やめて! もういいの佐藤くん。あの人に関わらないで!」
「よかねぇッ! ベルーア、頼んだぞ!」
二段飛ばしで階段を駆け上がる! そのままの勢いに乗り、目指すは三階最奥にある音楽室横の「音楽準備室」!
「 う ぉ い ッ ! 大 地 い る か ッ ! 」
「ああ、いるよ。待ってたぜ?」
居やがった!
準備室の奥。窓から差し込む光により影をまとった大地が、にやりと笑って俺を出迎える。
何が「待ってた」だ! ――いや待て! ってぇ事は、これも奴の策略?
ええい! んな事ぁどーだっていいんだ!
「てんめぇ! 美奈に何した! 殴ったのか!」
「まぁ落ち着けって、ベオウルフ。ワダンダールの件は謝るよ」
「アホかッ! こいつが落ち着いていられっかよ! てめぇは国王をぶっ殺した事に飽き足らず、美奈にまで手ェ出しやがって! お前の心は暗黒面に染まっちまったの――――え? ベ……ベオウルフ?」
……しまった。
「えっと――べ、ベオウルフって、ワダンダールって……な、何の事やらさっぱり――」
「もういいよ、太一。隠さなくたってさ……俺もうっかりしてたよ」
「うぐぐ……知ってたのか」
「まぁな……『聖闘士星矢』ネタとか、『キングギドラ』とか、コッチの世界の事を知っている事から、察しは付いてたけどさ。が、確証が無かったし、あの世界で『お前太一だろ?』って言っても、以前あの世界で初めて出会った時のように、『心を読んだ』とか言って上手くすっとぼけられるかもしれないからな……現実世界でこんな風に尋ねるのが一番確実だ」
確かにそうだろうさ。
でも、気づかれて無いと思ってた俺って、もしかしてすっげー馬鹿?
「でもまさか、魔物にプレイヤーがいるなんて、思いもよらなかったよ。マルりんに聞いて、初めて気がついた……俺もアホだ」
「マルりんが?」
「ああ。お前の頭の上に名前が出てたってさ、その事を聞いて名前を尋ねるまでもなく、太一だと分かったよ」
ちっくしょう! これじゃ、向こうの世界で、大々的なエロエロパラダイスハーレム生活を送れなくなるかもしれないじゃないか!
「そこでだ、太一。もう正体がバレたんだ、ここはひとつ共同戦線なんて言わず、俺達の『仲間』にならないか?」
「ハァ? な、何いってんだお前……俺は魔物だし、しかもお前によってアミューゼル寺院襲撃や、ワダンダール国王暗殺なんて超が付くほどの極悪設定をなされてるんだぜ?」
「その辺は心配ないさ……身代わりの犯人を立てて、お前じゃかったって噂を流せばいい」
そんなに上手くいく筈がないだろ?
それに、だ。お前の策略じゃないって保証はどこにもないんだぜ?
「俺は仲間は大切にする……それは俺に取り憑いている神の性格からして分かるだろ? アポルディア」
そう呼ばれて、遥か古にペリデオン達と共に戦った記憶が一瞬蘇る。
そう、仲間になれば、これほど心強い味方はいないだろう。
――けれど。
「お前は何を成し得たいんだ? あの世界の統一だろ? って事は、魔物も『悪』とみなし、根絶するんだよな?」
「それは仕方がないさ、魔物ってのは元来悪だろ? 人間にとって害をもたらす者は排除するさ……それが同じ人間であってもさ」
「それがお前の『正義』ってやつか……変わんねぇな、ペリデオン」
「正義と秩序の元には、皆平等だ。それを乱す者があれば排除する、それが俺の使命なんだ……魔物女に現を抜かすような輩には、生涯分からないだろうよ。アポルディア」
――――っ! 一瞬、胸に何かが突き刺さるような感覚が走った。
それは俺も知らない、教えてもらえない、アポルディアの過去に突き刺さった棘。
「アポルディアが隠遁生活を送るきっかけ」となった出来事だ。
「大地、俺はお前と共に歩めない。考えがまったく違うんだ」
「俺には従えない――と?」
「ああ……それに、何より――俺は大魔王様へと忠誠を誓ってしまったんだ……大魔王様を守る事、それは魔物達の想い……そして、俺の大事な人達との約束なんだ……だから、俺はお前とは共に歩めない」
「主義が違う、か。いいさ、タイチ……俺もそこまで期待はしてなかった」
「大地……すまない」
「かまわないぜ? それに――これではっきりできたんだ…………お前は『敵』だってな!」
「な……なんだと……大地」
敵。
それは長年一緒に、まるで兄弟のように過ごしてきた親友から発せられた、俺に対する言葉。
確かに、俺達は種族も考えも違う。
が、共同的な展開だって可能な筈じゃないか?
人間と――いや、ロキシアと魔物は共存だってできるんだぜ?
その証拠に、エリオデッタやベルーア、そしてアメリアスやキューメリーは、打ち溶け合えていたんだ!
ツングースカさんとセフィーアだって、ライバルとして互いを称え合っていたんだ!
ロキシアと魔物が仲良く暮らせる世界――なんてガキ臭い事は言わないさ!
でも、昔のように、互いに距離をいて平和に暮らせる事なら可能じゃないのか?
どちらかが絶えるまで戦うなんて、そんなの不条理じゃねぇか!
「勘違いするなよ、太一。お前が魔物だから敵なんじゃないさ……」
そして大地は、俺の考えはまるで的外れだと言うように、笑いながら――
その一言を、俺に告げたのだった。
「 元 々 、 俺 は お 前 が 大 嫌 い だ っ た ん だ ! 」
「な……何? 大地…………なんだって?」
「昔から、何かにつけ俺の前を行くお前が……ずっと憎かったんだ!」
「だ……大地……」
「俺の欲しかったものは、全部お前が先に奪っちまう。人望、環境、楽しい事、おもしろい事、俺が拾ったものは、全部お前からのおこぼれだったんだ!」
「な、何言ってんだよ! ワケわかんないって!」
「知らずの内に俺は……いつもお前を追っていたんだ。そしていつしか、そんな自由奔放なお前が――みんなに愛されるお前が――邪魔に思えてきたんだ!」
大地の言葉は、全てが意味不明に思えた。
みんなに愛されるだ? 人望があるだ? おもしろいだ?
何言ってんだこいつ? 俺がそんな楽しい奴なワケないだろ!
「バカだな。お前のほうがルックスは俺よりいいし、運動神経も俺よりいいし、俺よりも人に愛されてるし、なにもかもお前のほうがすぐれてるじゃねぇ――」
「 美 奈 だ っ て お 前 が !! ――――いや、とにかくだ。これでスッキリしたよ」
フンっと鼻で笑い、俺の横を通り過ぎる大地。
すれ違いざまに、一言――
「次、あの世界で会ったら……容赦しないぜ?」
俺は何も言えなかった。と言うより、頭がパニックで真っ白となって、何も考えられなかったんだ。
そして静かに音楽準備室を出る大地。
一人取り残された俺は、ただ……涙を流して立ちすくむ事しかできなかった。
大地が今後は敵になる。
いや、それ以前に、アイツは俺の事が嫌いだった。
長年ずっと一緒に居たあいつが、本当は俺を嫌っていた。
そのショックは、五次元目のチャイムの意味を忘れさせるほどの衝撃を、俺に与えていたんだ。
なんだか何も信じられない。もう、あの世界に行くのはよそう……そう頭の中で想いが巡る。
そうだ、嫌な事からは目と耳を塞ぎ、自分の世界で暮らそう……
「……俺のようにか?」
突然、誰かが俺の心に語りかけた!
それは以前聞いた声、俺の心に語りかけた声。
そう、アポルディア!
「俺がお前を選んだ理由は、性格が一致したから――それだけじゃない。俺にないものを一つ、お前は持っているんだ」
その声は、いつになく雄弁に物語ってきた。
そして、まるで俺を励ますかのように……
「誰かのために立ち上がれる強さ――お前はそれを持っているじゃないか?」
誰かのため……そう、誰かを助けたいと思う心は、自分でもウゼェ位に自覚している……そうだ、俺を待ってくれている人達がいるんだ!
俺を頼りにしてくれている人がいるんだ!
そして……俺を大事に思ってくれている人が、あそこに入るんだよ!
「アポルディア……こんなクソ厄介な事に巻き込んでくれて――ありがとよ!」
一人呟き、薄暗い準備室を出る。
外の眩しさが、痛いくらいに俺を包んだ。
俺の事が嫌いだって? いいさ、大地。
俺はお前が――それでも好きだ。
そんな性格になっちまったお前を、フン捕まえてボッコボコにして、強制的にでも元の「佐藤大地」に戻してやる!
そのために――あの世界に、行こう!
「いい、タイチ。クラウゼーロ男爵は、幽鬼の中でもかなりの使い手よ? 気をつけて」
「了ぉ~解! 副官どの。就任の初戦を白星で飾ってやるよ」
初めての作戦指令書を手渡され、気合が漲ってきた。
ゴーンドラドのちょい北にある廃墟に巣食う、クラウゼーロとか言うリッチのおっさん率いる偵察部隊をシバキに行く命令だ。
「夕方には帰るから、ミラルダに美味いロキシア料理作っておけって伝えてくれ。アメリアス」
「フン、私は伝言係じゃないわよ! ま、まぁ……ミラルダのロキシア料理はおいしいから、一応は伝えておいてあげるけど……そんな事よりさっさと行く! 負けて帰ってきたら、晩御飯抜きだからね!」
「へいへい……じゃあいっちょいってくっかな? ベルーア、アルテミア、ギュレスタ、チーベル、行くぞ!」
「「「「はい、隊長!」」」」
威勢のいい掛け声が返る。
こうして俺は、我等が大魔王様に仇なす存在を駆逐するため、そしてこのアドラベルガって世界に、「自由」と言う混沌を撒き散らすため、がんばってお仕事をこなすんだ。
だって、所詮俺は魔物風情がお似合いな奴だからな!
第一部 完
これにて第一部完了です
長らくのお付き合いありがとうございました!
なお、この後一ヶ月ほどお休みいたします。
再開は十二月二十日くらいです。
そして第二部は週二回ほどの更新ペースにしようかと思っています。
再開の暁には、どうかまたよろしくお願いいたします!




