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第九章 14 ワダンダール国の未来

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 一度ベイノール邸へと戻り、アメリアスとベイノール卿へ、事情説明と今まで世話になったお礼を述べる。


「そうかね……それは寂しくなるなぁ」

「あなたがちゃんと師団長――もとい、ツングースカ殿のお屋敷を綺麗にしてるかどうか、抜き打ちでチェックしに行くから、そのつもりでね」

「へいへい……まぁ俺が掃除する訳じゃないけど……とにかく、ベイノール卿、アメリアス、そしてお屋敷の皆さん……今までお世話になりました!」


 そしてベルーアとチーベルを伴い、さっきまでツングースカさんのお屋敷だった場所へと向かう俺。

 いや、今でもツングースカさんのお屋敷には変わらない……けれど、もうこの場所には彼女はいないんだ。

 身の回りの私物と、食堂にあった大きな家族の肖像画のみを携え、既に東方の地へと向かわれたツングースカさん。

 最後にお別れ会の一つも催したいとアメリアスは言ったそうだけど、「不要」と笑ってのけられたそうな……一昨日のお風呂パーティーの日が、事実上のお別れ会となっちまったのが残念でならない。


 けれど、悲しんでばかり入られないさ。


「「おかえりなさいませ、タイチ様」」

「おかえりなさい、ベオウルフ」


 これから俺の新たな「家族」となる、エリオデッタ姫と侍女のデオランスに「白き天使」の異名を持つ純白の天主の代行者セフィーア。


「おかえり、タイチお兄ちゃん!」


 そして、俺の新たな配下となったアルテミアが、我が家の居候となって、俺の帰りを出迎えてくれたんだ。


「「「おかえりなせえませ、タイチ様」」」


 更に、住み込みお手伝いさんであるミラルダが、とりあえず十名のミラルダーズに分裂して家事全般を行ってくれるらしい。

 こういった家庭的な賑やかさは、心が癒されるよ。


 さてさて、それはさておきだ。

 やる事、やらなきゃいけない事が沢山あるんだよな。


 ベイノール卿に偽造してもらったベルーアの「ヴァンパイア証明書」を持って、王宮の大魔王軍人事部に出向き、俺の部隊に配属してもらう手はずを整えなきゃいけないし、大地との連絡を取り、今後の共同作戦の具体案を提示しに行かなきゃいけないし、幾人かピックアップされた中から、俺の部隊に配属させる人事も決めなきゃいけないようだし、他の部隊長にも挨拶回りに行かなきゃだし、姫の今後の指針を話し合わなきゃいけないし、セフィーアにも姫の事をちゃんと話さなきゃいけないし……部隊長に就任した途端、やる事が山積みで、ツングースカさんの居ない寂しさを感じる暇が無いほどだ。

 よし、気合を入れて仕事をこなすか!


 明日から……。


 それよりなにより、だ。

 マズはワダンダールにいるであろうパレーステナの娘さん達を、村へと返してあげなきゃだもんな。

 じいちゃんばあちゃんら、孫や娘の帰りを首長くして待ってるだろうし……やっぱそれが最優先事項だろう。

 そういえばあの時、あの村になんだか変な違和感を覚えたんだけど……あれは一体なんだったんだろう?

 まぁ深く考えても何も思いつかないってのは、それだけツマンナイ危惧だって事だろうな。


「よし、いっちょ行くか。ワダンダール!」





 飛んできた王の玉座前。

 突然の俺の来訪に応対したのは、カイゼル髭もステキなロングワートのおっさんだった。


「おお、これはベオウルフ殿。国王様はただいま昼食の最中でございます。ご用件は私が承りましょう」

「大地達は?」

「大地殿は、ただいま国王の密命を帯び、遠くクリシュナ傭兵団の本拠地へと使いに出ております」

「へぇ、アイツちゃんとまじめにお仕事してんだ? まあいいさ、要件は簡単な事だ。この国に戻ってきた、囚われの身だった乙女達いるだろ?」

「あ――はい、おりますとも」

「彼女達の中でさ、パレーステナ村出身者の娘を連れて帰ってやりてぇんだ。呼んできてもらえねえか?」


 俺の願い出に、一瞬考えを巡らす素振りを見せるロングワート。


「どした?」

「いえ……なんでもございません……そう、パレーステナとはいかなる場所かと」

「ほら、俺がこないだ飛んできた時にさ、ここの領土内で野盗に襲われてる村があるって言ってたろ? 救援のために二部隊ほど防衛のための軍勢を送ってやれって……」

「ああ……左様でしたな。それでは、我々が直接送り届けてあげましょう。わざわざベオウルフ殿のお手を煩わせるまでもありますまい」


 そう笑顔で返し、ご自慢のヒゲを優雅に扱く。


「そうかい? んじゃぁ、お言葉に甘えて頼んじゃおっかな? こう見えて俺も結構忙しいしさ」

「左様ですか、ならば是非我々にお任せあれ」


 一礼を見せ、請け負うと言う意思表示を見せるロングワートに俺は安心して、「じゃあ頼むわ!」と一言残し、その身を光の結晶に変え、空へと滑らせたのだった。


 ――暢気に、何の疑いも無く。





「太一さん、いますか?」


 厄介な仕事達を片付けた後。

 部屋でごろ寝を決め込んでいた俺に、ベルーアとチーベルが面会を求めてきた。


「ああ、いるよ~」


 昼飯が済んだ午後のまどろみの中を、神妙な面持ちの二人が俺の部屋へと入ってきた。


「ん? どした」

「それが、姫の事なんですけれど……」

「姫? エリオデッタがどうかしたのか?」

「はい。一度ワダンダールへとお返しになられたほうがよろしいかと思いまして……」

「姫を……か?」

「――はい」


 そこには、姫を邪険にするだとか、何か利用目的があるだとかの意思は見られない。まぁ当然だわな、ベルーアだもの。


「それは俺も考えていたさ。姫の心も落ち着いてきた事だし、大地とのパイプもそこそこ安定してきた事だし――」


 と、ベルーアがそんな俺の言葉を遮り、意味深な言葉を述べた。


「その――大地さんの事が関係していまして……」

「うん? 大地が?」

「はい。一昨日のスイーツパーティーのためにワダンダールへと向かった時の事なのですが、奇妙な噂を耳にしたんです」

「な、なんだよそれ? きな臭い話か?」


 小さく頷くベルーア。俺の心に一瞬で暗雲が立ち込める。


「ワダンダールの王宮に、派閥が生まれたそうなんです……大臣一派と――大地さん派と言う、派閥が」

「派閥……か。やっかいだな」

「ええ。ですから……」

「ちょ、ちょっと待て! ……やばくないか? それって」


 たかが派閥なんて、何処の世界にもある事だろう。が、そこへ姫を帰還させると言う事は……余計な火種を巻く結果になりはしないか?


「現在かの国の王には、世継ぎが居ません。王は先年の流行病で王妃を喪って、以降は后を持たないとの誓いを立てたらしく、新たな世継ぎ誕生は期待できぬとの事」

「じゃあ、姫が……あの国の世継ぎって事か?」

「そうなるでしょうね……が、現在姫は虜の身との情報は、国民全てが知っています……大地さんも」


 おいおい、きな臭すぎだろ! て事は、だ。このまま姫がいないとなると――迎えるのは継承者問題か。

 いや! それよりも今、ベルーアが危惧している事は――姫と国王の命!

 この先、双方の派閥が力を付け出したら……姫や、もしかすると国王の命までもが危ない事になる危険性がある。

 あの二人を引き合わせるのは、そしてあの国の騒乱の火種を消すには、今がもっともいい時期――つか、この時機を逸すると、もうやばいかも!


「そ、そうだな……姫の意見を聞いて、その上で行動を決めよう……ベルーア、至急姫とセフィーアを呼んできてくれないか?」

「はい、『隊長殿』」


 ベルーアが、少し茶化すように言う。なんか「隊長」とか言われると、ケツがこそばゆいな。





「お呼びでしょうか? タイチ様」


 畏まった一礼を見せてから俺の部屋へと入る姫。そしてその後ろを、セフィーアが付き従う。


「ああ、わざわざすまない……実は、そろそろ姫を、ワダンダールへと帰そうかな? と思ってるんだけど……」


 と、そんな俺の言葉を聴いたエリオデッタが、不意に困惑そうな顔をした。


「わたくしが……お邪魔になりますのでしょうか?」

「とととととととんでもない! 姫さえよければ、ずっとここに居てほしいくらいさ!」


 慌てて取り繕う。いや、取り繕うと言うより、真実をぶっちゃけてしまったと言った方がいいな。


「でもさ、姫。君の国の事を考えての事なんだけれど……やぱりあの国の世継ぎは君なんだと、国民に知らしめる必要があるんじゃないかな? ってさ」

「そ……それは」


 俯き、押し黙る姫。そこには「帰りたくない」と言った拒否は見受けられなかった。

 そりゃあ生まれ故郷だし、父である国王との再会も果たしたいだろうさ。

 けれど……何と言うか……親戚の家に遊びに行って、帰りたくないと駄々をこねる子供――そんな感じがするんだよな。

 これはなんだろう? 俺の勘違いなんだろうけど……。


「わ、分かりました……タイチ様のよろしいように……」

「あ、ああ……まぁ、今すぐにとは言わないさ……向こうにも受け入れの準備とかあるだろうしね……それにともなって、だ。セフィーア……お願いがあるんだ」

「あら、なんでしょう?」

「姫の――エリオデッタの警護をお願いしたい!」


 セフィーアへと頭を下げ、懇願にも似た思いを伝える。なんだったら俺の必殺技「土下座乱舞ゲザ・ランブ」を見せてもいいと思えるくらいだ。


「あらあら……いまさら何を仰ってますの?」

「へっ?」

「私は死の淵から生還した時より、姫様の忠実な僕ですわよ?」

「は、はぁ?」


 なんで? と言う疑問符がズバババババッ! と一斉に俺の頭へと沸き立った。


「囚われの身とは言え――一国の姫様が重傷の私を、デオランスと交代でずっと看病してくださったのですよ? 臣下の礼をとるまでも無く、このエリオデッタ姫が私の主君である事は、紛う方無き事実ですわ」

「……セフィーアさん」

「ですから、姫。あなたが参りますところ、何処でもついて参りますわ」


 満面の笑みで、そんな恥ずかしい台詞をと言えるこのセフィーアの中の人……おそるべしっ!


「ですから、心配は要りませんわベオウルフ。姫の事は、私が命を賭けてお守りいたします」

「セ、セフィーア……ありがとう!」

「うふふ、ありがとうはこちらの台詞ですわよ。すばらしい好敵手と巡り合わせてくれて、そして死の淵をさ迷う私を助けてくれて、なにより、命をとしてもかまわないと思える主君に巡り合わせてくれて……あなたには感謝しても足りませんわよ?」


 俺の手を握り、熱い視線を送るセフィーア。


「お……オホンッ!」


 まるで注意を引くように、姫が一つ、わざとらしい咳払いをした。

 その途端、「あらあら私ったら」と、セフィーアが笑顔で身を引く。


「で、では……タイチ様。わたくしは一度、国へと戻ります……ですが、それは一時的なもの。できましたら……また……」

「また?」


 そして顔を赤らめた姫が、小さく、恥じらいを込めて言う。


「わ……わたくしを……奪いにいらしてくださいね」



「ん? ……うん……えっと…………うん?」



 なんだか訳が分からない。どー言うこっちゃ?


「で、では……日程が決まりましたら……それまでは……ここで」


 と、あまりの恥ずかしさに堪え切れないといった様子の姫が、そそくさと俺の部屋を後にした。


「あらあら……まったくベオウルフったら……あなたには一つだけ、欠点がございますわね?」

「えっ? は……はぁ?」

「まったく知らなすぎますの……罪なほどに」

「な、なにがッスか?」


「 オ ト メ ゴ コ ロ 、ですわ……」


 そう言って、俺の右頬に、軽い口付けをして、ふわりと踵を返し、部屋を出て行くセフィーア。

 優しく鼻腔をくすぐる甘いトワレの香り。そして彼女の唇の温かさと妙なくすぐったさが、俺のほっぺにじんわりと残っている。


「オトメゴコロっすか…………なんじゃそれ?」


 一人ニヤケ顔で呟く……と! そんな俺の浮ついた気分を律するかのように、突然伝令妖精が軽やかな音と共に現れた。


「わっ! な、なんだよ、脅かすなって」

「伝令、大地さまより――至急ワダンダール王の玉座の間へ来られたし、以上です」


 そういい残すと、愛想無くふぃっと消えうせてしまう、大地の伝令妖精さん。

 どこかのおしゃべりとはどえらい違いだな――そんな事を一人思いつつ、仰せの通りに、俺は指定された玉座の間へ向かおうと、その国の名を叫んだのだった。


「ワダンダール!」


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました!

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