第九章 13 さよならツングースカさん
一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。
それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。
なめした獣皮の表面に認められた、伝令書簡。そこには古い魔族文字で、次のように書かれてある……らしい。
「告 サトウタイチ 上記の者 躑躅の月の入りから二十を数えた日を以って、大魔王軍近衛師団 第七部隊 隊長としての任を課すものとする 躑躅の月の十九の日 大魔王軍近衛師団長 レフトニア・クレメンデイル・アップズース」
「アスタロス騒動」における裁判の次の日。ベイノール邸へと運ばれてきたそれには、二つの大きな「事実」が記されていた。
一つは、俺が近衛師団の部隊長となり、独立した部隊を持つと言う事。
これは、先の戦いで神憑を起こし、アスタロスと五分以上の戦いを見せた事に起因するそうな。
ベイノール卿曰く「そう言う事」らしい。
そしてもう一つ……順当な繰り上がりを見せた、最高司令官への人事。
近衛師団長へ、副官だったレフトニアさんが抜擢されたんだ。
その素早い人事に、周囲も「とある」疑問符を浮かべたが――一日たりとも大魔王様の近衛部隊を指揮するものがいないなんて言う事態を防ぐため、大魔王様より直々のお達しがあったらしいのだとか。
そのお陰でかどうかは定かではないが……アメリアスが副官の任に推されたそうだ。そしてもう一人の副官が――
「なんでこいつとなのよー!」
「それはこっちの台詞だわ!」
サキュバスのキューメリーが、レベトニーケさんの手許を離れ、本国付けの近衛師団副官となったんだ。
これにはレベトニーケさんの強い要望があった事と、ベイノール卿の推薦が大きく働いたようだ。
そしてアルテミアも、士官学校への編入と言う名目で中央への居残りが決定し――なんと、俺の部隊への配属となった!
「おねえさまいがいの人の下だったら、タイチのお兄ちゃんの下で、チーベルといっしょにはたらきたいの~」
と言う舌足らずな願望が聞き入れられ、この配属の運びとなったらしい。
今のところ、俺の配下はアルテミアだけなんだが……すぐに補充人員をまわすとの事だそうな。
―――― が っ !
俺はその命令書をアメリアスに読んでもらった直後、すぐさま新たに師団長閣下となったレフトニアさんの執務室へと飛んで行ったんだ。
挨拶に? とんでもない!
じゃあ何のため?
んなモン、決まってんじゃねぇか!
「 レ フ ト ニ ア 閣 下 ! お 断 り さ せ て い た だ き ま す ! 」
開口一番で言ってやった!
「た、タイチ――なんだ、藪から棒に!」
「俺の上司はツングースカさんただ一人なんだ! そりゃあレフトニアさんの元で働くのはやぶさかじゃないです……でも、俺はツングースカさんのトレンチコートを持つ、ハンガーって重要な役割を受けているんですよ! だから――」
「――だからなんだ? 私はそのような事を頼んだ覚えはないぞ?」
と、俺の背後から、聞きなれた凛々しい叱咤!
「ツ、ツングースカさん!」
「これは閣下! よくお越しくださいました」
途端に畏まって敬礼するレフトニアさん。
その表情には、あふれるほどの嬉しさが見て取れた。
「タイチに用事があってな。ベイノール卿の屋敷に向かったら、行き違いでここに向かったと言われてなぁ……なんともバカな考え違いを言う奴だな、キサマは」
「か、考え違い……ですか? いえ! なんと仰られようと、俺はツングースカ閣下の配下であり――」
「 心 得 違 い も 大 概 に せ よ ! 」
ツングースカさん特有の怒号が、俺をぶん殴るように執務室内を響き渡る。
その一喝に俺、そしておまけにレフトニアさんまで、おもわず直立不動の敬礼を見せたのだった。
「いいか、貴様は私の配下などではない! 大魔王様の配下なのだ! そこを考え違いするな!」
「そ、それはそうですが……」
――パンッ!
乾いた音が小さく鳴った。
次いで、俺の頬にじわりと痛みが広がる。
「貴様、その命令は大魔王様直々の勅命だぞ! 謹んでお受けしろ。それが嫌なら……今ここで清く死ね! 私が介錯してやる」
本気の目が俺を射抜く。
拝命か、死か、ツングースカさんから、いや大魔王様からの二者択一だ。
もちろんその答えは――
「も、申し訳ありませんでした……ツングースカさん。一度主と仰いだ大魔王様に、非礼とも取れる言い分……俺が間違っていました」
「そうか、ならばよし……まったく、最後まで世話が焼けるな、おまえは……」
そう言って、俺の頭をクシャリと優しく撫でる。
まさに姉さん――いや、兄と言った振る舞いだ。
「それはそうと、だ。タイチよ……貴様に用件があってな」
「は、はい! なんなりとどうぞ」
「私の館をだな、そのまま貴様にくれてやろうと思うのだが……どうだ、受け取ってはくれまいか?」
「うぇっ! あ、あのおっきなお屋敷を、ですか!」
「そうだ。しかもミラルダをお手伝いとして残しておいてやる」
「ミ、ミラルダをですか? 彼女、ばーちゃんやツングースカさんと――」
「ははは、あいつめ――お前を半殺しにした事を未だに申し訳なく思っているらしくてな……事ある毎に『タイチさまがー』と言ってたのでな。残って世話してやらんか? と尋ねたら、喜んで残りますと言ってたぞ……どうだ?」
「も、もちろん嬉しいです! けど彼女が、ミラルダがいなくていいのですか? ツングースカさん」
「なぁに、元々私とばーさまの二人暮しだったんだ、不自由はないよ」
「ですが……あんなすばらしいお屋敷を頂戴するなんて――」
「もちろん、条件がある」
「条件――ですか?」
「姫の事だ……」
そう、エリオデッタ姫と、侍女ちゃんにセフィーア。この三人をどうするべきか、だよな。
「奴等がこの先、我々の敵になるか味方になるか……それはどうだっていい。が、その『目的』をしっかりと持つまで、面倒を見てやってくれ……」
「は、はい! もちろんです」
畏まり、敬礼を見せる俺。
その返答に、満足いったとばかりの笑みを見せるツングースカさん。
「用件はそれだけだ……あと、私の赴任先が決まった」
「「そ、それはどこです!」」
俺とレフトニアさんが同時に尋ねた。
「東の辺境、ブメリシュミル。かの地の平定を任された」
「そ、それは閣下――あからさまな……」
レフトニアさんが驚きと怒りの混じった表情でツングースカさんへと詰め寄った。
「いや、そうではないレフトニアよ。一応、東方辺境平定軍・総司令官などという、有り難い肩書を頂戴したからには、立派な栄転だ。それにな、かの地は我が故郷に近い地――平定までの一時期は、そこにて仲間を弔ってやれとの、大魔王様よりの温情なのだ」
「そ、それならば……よいのですが」
「私もな、我が弟の――シベリアスの御霊を心安らかに眠らせてやりたいのだ」
ふと見せる、どこか悲しげな表情。それは、あんな死者への冒涜を目の当たりにしたツングースカさんの怒りが生んだ、悲しみと願いなのだろうな。
分かる気がする……。
今は戦いよりも、弟さん――そして故郷の仲間たちの霊を慰めてあげたい……そんな願いが、ツングースカさんの心の中にあるんだろう。
「まぁ、また中央復帰もあるかもしれん。その時までは、かの地でのんびりやらせてもらうさ」
「そ、その時まで――ツングースカさんのお屋敷は、俺が守ります!」
胸を張って告げる。俺はあのお屋敷をもらうんじゃない……預かるんだ!
「すまんな、タイチ……」
「よ、よしてください――当然の事なんですから!」
ツングースカさんの少し力ない笑顔が、胸に痛い。
「では、今後はレフトニアを師団長と仰ぎ、大魔王様へ一層の忠義を尽くせ!」
「は、はいっ!」
声を限りに叫び、敬礼を見せる。
途端、鼻の頭がツンと痛くなり……言い様のない「何か」がこみ上げてきた。
「ばかだな、タイチ……貴様という奴は」
そんな俺を見て、優しく俺の頬を指で撫でるツングースカさん。
「タイチ……我が部下、我が弟…… わ が ――」
そ し て ―― そ の 唇 が 俺 の 唇 へ と 重 な り ――
刻 が 止 ま っ た 。
「私が帰るまで、留守を頼んだぞ、タイチ!」
「は……はい…… ハ イ ッ ! 」
俺の中の時間が戻ったとき、ツングースカさんはもう既に執務室を後にしていた。
「 ツ 、 ツ ン グ ー ス カ さ ん ! 」
執務室を駆け出て、その後ろ姿に、未練の言葉を投げかけた。
颯爽とした歩みのその背中は、そんな俺の女々しい言葉を受付もせず、ただ左手を小さく掲げるだけ――。
「か、かならず……必ず戻ってきてください……」
景色が滲んだ。
そして、俺の頬に一筋の雫が走った。
唇に残った、柔らかく暖かい感触……。
それは俺の心に、淡い色の思い出として、深く濃く、刻まれたのだった。
最後まで目を通していただき、まことにありがとううございました!




