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第九章 12 負け戦の代償

一日一話書いて即出しのため、誤字脱字意味不明文章になりがちです。

それでもよろしければ、どうか生ぬるい目でご一読お願いいたします。


 裁判を直前にした、控えの間での事。


「な、なんですってお父様! では……このお裁きは――」

「う~ん……私とした事が、とんだ白雉だったようだ……してやられたよぉ」


 アメリアスに耳打ちしたベイノール卿が、無念の臍を噛み、大きなため息を一つついた。


「ど、どうなさったんです? 一体……」

「いやなにね……私はちょいとした計算違いをしていたらしくてねぇ……今はまだ言えないが、少々大変な事になるやも知れないよぉ」

「た、大変とは――」

「いや、まだそうと限った事では無し……う~ん、困ったねぇ~」


 と、ベイノール卿が一人呟きながら、なにやら思案しつつ、別室へと向かっていった。

 なんだか相当な衝撃を受けていた様子を見るに、この裁判で、何か大きな出来事が起こる可能性を秘めてきた様子。


 けど。仮に何かが起こったとしても、俺なんかが何かできるなんて事は一切なく、ただ黙って見ているしか手がないだろうし。


 せめて何事もなく、公平な裁判が行われる事を祈るしかない自分に、情けなさを感じている。


「アメリアス、一体何が?」

「……今はまだ詳しくは言えないけど……これから行われるお裁きは――御前元老院裁判ではなく、元老院主導での、ただ(・・)の軍事裁判なってしまったと言う事らしいの……」

「えっ、元老院主導って……ツングースカさん、元々元老院の人達に裁かれるんだろ? ベミシュラオさん言ってたじゃないか」

「それはそうだけど――今回は大魔王様に直訴しての裁判のはずだったのよ……それが、一応大魔王様も姿はお見せになるけれど、口出しはなさらず、主導権は元老院側にあると言う事なの」

「って事は……何らかの陰謀に巻き込まれている可能性がある……と?」


 息を呑み頷くアメリアス。

 まさかこんな事になるとは思いもよらなかったぜ。

 俺はこのお裁きを舐めて考えていた。ツングースカさんのような軍の重鎮が、一度の失敗で厳しい厳罰の処されるなんて絶対にないと踏んでいたんだ。


 だって、ベイノール卿が弁護してくれるんだぜ? これ以上の心強い援護射撃はないだろうさ。

 でも、その当人が「どうしたものか」と思案しているくらいだ……きっと、ツングースカさんのピンチは免れないのだろう。


 でも何故、誰が何のために裁判の形式を変更する措置を取らせたのだろう……。

 余程力のある「影」の存在が見え隠れする中、裁判開始の時を告げる使者の声に、俺達はただ成す術もなく、謁見の間へと向かうしかなかった。





 いつも見慣れた厳格な謁見の間が、今日は殊更荘厳かつ重苦しく感じる。


 玉座には大魔王様が鎮座し、その傍らにキンベルグさんが立っていると言うのはいつもの事ながら……その正面には、跪き、頭を深く伏せたツングースカさん、レベトニーケさん、ラーケンダウン王、そしてライトニウスさんと言う、四人の「裁きを受けるもの」達がいる。


 その両サイドには、大魔王様から見て、右にベイノール卿、レフトニアさん、アメリアス、俺が、直立不動の姿勢の状態を保っている。

 これは「アスタロス騒動」の際、その場にいた「裁かれる」対象外の者達であり、事情を詳しく知る「証人」となる者等である。


 そして対面に、厳格そうな表情の、さまざまな種族の魔物の姿がある。

 獣族の、おそらくマントヒヒだろうか……そんな姿をしたじいさんを筆頭に、見た事のない魔族の老男女、眼光鋭い狼の老・獣族者、ゲーベルト族の男性、白と黒のまだら模様の牛の獣族のじいさま、そして――死鬼族だろうか、顔色の悪い年老いた身なりのいい紳士。

 それぞれが体に一枚布トーガを巻き、その出で立ちはまるで古代ローマの人のようだ。


 そう――これほどの魔物達が、緊張漲る面持ちを並べている様子は、かつて見たことがない。

 それが謁見の間である事も加味されて、更なる気詰まりな空気を生み出しているのだろう。


「ではこれより、御前元老院裁判を執り行う。皆、大魔王様に敬意を」


 マントヒヒのおっさんが、厳かに開始の儀を述べる。

 と、跪く四人以外の者達が、大魔王様へと一礼を見せた。

 もちろん、俺も慌てて一礼を捧げる。


「はじめよ――」


 大魔王様の静かな、それでいて重圧をはらんだ一言が発せられた。

 とても年相応のヴァンパイア少女には見えない威厳を放っているあたり、これも神憑の一種を起こしているせいなんだろうな。


「では、まずはツングースカ・レニングラードよ。そなたは近衛師団長でありながら、大魔王様より賜った任務に失敗し、あまつさえ邪神アスタロスの復活をも招き、さらには己が私念に動き、部隊を危機に陥れたる不届きを見せたる由、相違無しや?」

「ははっ! 相違ございません」


 ちょっ! ちょっと待てよ!

 任務に失敗したのは幽鬼族のせいだし、そもそも奴等の罠だったじゃないか!

 それに、ツングースカさんがシベリアスを見て心が揺れたのも、あのクソ汚い幽鬼のブエルトリクの、卑怯な仕打ちによるものじゃないかよ!


 そう声を荒げようとした俺を、アメリアスが制した。

 ああ、分かってるよ。ベイノール卿に任せとけって事だろ?

 もちろんそうさせてもらうさ……ちくしょう。


「では次に、レベトニーケ・キール・バイツェル辺境伯婦人」

「ははっ!」

「そなた、話に聞くところでは――謀反人である幽鬼に唆され、翻意を抱き、さらにはヴァンパイアの小隊を攻撃し危機に陥れようとした兆しがあったとか……その真意やいずれに?」

「ははっ! 事実にございます」


 謁見の間の入り口付近、参考人として傍聴を許されていたキューメリーとアルテミアが、今にも大声で叫びさしそうな表情で、拳を握り締めている。

 同じく傍聴を許され、その横にいたマリィに、小声で諭されているキューメリー。

 その心情たるや、きっと俺と同じだろう。


 そう、『てめぇら! 何も知らないくせに、つらつらと罪状ばっか並べてんじゃねぇよ!』と叫んで、片っ端からぶん殴ってやりたい――と言う気分だ。


 だが、何だろうな……罪状を読み上げる奴等に覚える、この奇妙な違和感は?


「最後に、ヨークブルグ・フレリオール・ラーケンダウン王、ならびに、ライトニウス・フレリオール・ラーケンダウンよ」

「「ははっ……」」

「そなたらの元・血縁者が此度の謀反を企て、実行に移した件。これは曲げようのない事実である……この件に関し、何か申し開きはあるか?」

「ございませぬ……」


 老王の口から、しゃがれた声で、すべてを受け入れる決意を露にした。

 それは、ライトニウスさんも同意見である事を、無言の点頭によってその意を見せている。


「よろしい! では―― 判 決 を 言 い 渡 す ! 」



「 え え っ ! お 、 お い 、 ち ょ っ と ま て よ ! 」



 事ここに至って、俺は流石に声をあげてしまった!


「ベイノール卿の弁護も未だなされていない状況で、いきなり判決っておかしいじゃねぇか!」

「控えよ下郎。大魔王様の御前なるぞ」

「これが控えてられっかよ! 証人尋問も弁護もなしに、いきなり判決だぜ? そんな横暴許せる訳――」



「 控 え よ ッ ! タ イ チ 」



 ツングースカさんの怒声が、謁見の間に響き渡った。


「だ、だって……ツングースカさん」

「よいのだ、これで――見苦しい申し開きなど無用!」


 そう言い捨てると、レベトニーケさんも「その通り」と同意を宣言した。

 これはきっと……如何なる刑罰にも服すると言う、覚悟の表れなのだろう。

 だが、それには弁護や状況説明といった、公平なジャッジメントへの判断材料を提示しないと――そうだ、ベイノール卿!


「タイチ――」


 ベイノール卿へと目を向ける俺へ、アメリアスが視線を遮り、首を振る。


「……アメリアス。どうして……?」

「もう、判断材料は出揃っているのよ……幽鬼の残党の――数匹のスペクターの命乞いと共にね」


 アメリアスが、口惜しさ溢れる表情で俺に言う。

 スペクターの命乞い――つまりは、あの場所で起こった出来事の一部始終を――言わなくてもいい罪状まで加えられてしまっていると言う事だ。

 なんで知らせなくってもいい、「ツングースカさんが私念に動いた事」や「レベトニーケさんがアメリアスを攻撃しての邪魔をした事」を、元老院の奴等が知っていたのか? その違和感が今、はっきりしたぜ。


「さ、さっき言ってた『大変な事になる』ってのは、この事だったのか……ちくしょう!」


 元老院側は、現場で何があったのか、全て知り得ている。

 そこへ小細工的に隠し事でもしようものなら、それは事実の隠蔽となり、悪い心象を与えることは必至!

 ベイノール卿が動けなかったのも、おそらくはそこなんだろう……そうだ、俺達は「誰かさん」に先手を打たれ、出遅れたんだ!


「本来ならば、その場で死を与えるところではあるが……そなたの働きも一部始終耳にし、その功績の大きさを十分承知している。よって、今回は不問に処すが――次はないぞ?」

「あ、ああ――どうもすいませんでしたね」


 俺の功績だって?

 神憑起こした事が、そんなに功績……ちょ、ちょっと待てよ?


 ――――そ、そうか、ちくしょう!

 ベミシュラオさんが、俺の神憑を知っていた時点で気付くべきだったぜ! 


 もしかしてベミシュラオさん……この事を俺達に知らせるために……?

 そう、街中とは言えどこに元老院の目があるか分からない状況だ――だからあえて言葉を濁して……くっそ! 気付けなかった俺のアホ、間抜け、ウスラ馬鹿!


「では改めて判決を言い渡す……被告、ツングースカ・レニングラードよ」

「はっ!」

「そなたの近衛師団長としての地位を剥奪、しかる後、いずれかの辺境警備への赴任を言い渡す」

「はは、謹んでお受けいたします」


 な、なんだって……おい…………おい!!


 叫びたい! 叫んで何もかもぶっ壊したい! 目の前で偉そうにふんぞり返っているアホ共を、黙らせてやりたい!

 だが、ここで暴れれば――俺だけの問題じゃなくなる……ツングースカさんに、その責が及んじまう。

 そうだよ……あのアメリアスでさえ、心で血の涙を流して耐えてんだ。

 俺も耐えなきゃ……ちくしょう!


「次にレベトニーケ・キール・バイツェル辺境伯婦人」

「はっ……」

「そなたの翻意は一時の気の迷いであると言う事が、謀反人である幽鬼より受けた傷跡からも推測できよう。よって、此度の一軒は不問に致す。引き続き、北方にて領土平定に従事せよ」

「ハハッ! ありがたき幸せ」

「ヨークブルグ・フレリオール・ラーケンダウン王、ならびに、ライトニウス・フレリオール・ラーケンダウンよ」

「「ははっ……」」

「そなたらの同族がしでかした件、一族郎党にまでも及ぶ責なれど、そなたらが今まで大魔王軍に尽くした功は絶大に大きい。よって、残る幽鬼を引きつれ西方の地へと出向き、守備固めに従事せよ」

「ありがたきお言葉……感謝の念に耐えませぬ……」

「以上である!」


 閉廷の言葉に、大魔王様が玉座より立ち上がり、大間王様専用の扉へとはけて行かれた。

 それを一同が平伏して見送り、この裁判は幕となった。


「ツングースカ殿、おって任地を伝える。それまでは謹慎しておるように」

「ははっ」


 マントヒヒのおっさんの言葉に、礼節を見せるツングースカさん。

 深く頭を垂れ、元老院の一団を送る。

 その姿に、アメリアスは大粒の涙を零していた……。


「な、泣くなよアメリアス……」


 小さく震えるその肩に、優しく触れる俺。

 無言のまま、つかつかと場を去るベイノール卿。


 改めて感じた。俺達は負けたんだ。

 しかも、何処の誰だか分からない奴に……。

 

百話目に突入してしまいました。

これもひとえに、皆様に読んでいただいたおかげです。

今後とも何卒よろしくお願いいたします!

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