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プロローグに名を借りた、ちょっとしたボヤキ

第二章まで異世界へは行きません。少し長いかもしれませんが、お付き合いくださいませ。

 例えばこんなライトノベルがあったとしよう。


 はじまりはごくありふれた、どこかの高校。

 そして主人公は、その高校に籍を置く、ごくありふれた学生だ。

 そんなどこにでもいそうな少年に、ある日降ってわいたような奇妙な出来事が起こる。

 

 物語開始早々のこと。

 突然、西洋人風の美少女が主人公の前に現れて、彼にこう言うんだ。


「あなたは神に選ばれた、宿命の能力者プレイヤーです」


 その不思議な少女との出会いがきっかけとなって、異世界へ旅立つ系なMMORPGの世界へと身を投じる事となり、次第に主人公に与えられた能力が目覚め始め……。

 ってのが、物語のイントロ。

 つまりは導入部だな。


 で、物語の主軸はこうだ。


 この世の天と地の間の空間に、「古の神々の戦いの宴、アドラベルガ」なんて言う、小中学生がRPGツクールでやっちゃいそうなファンタジー世界があるらしい。


 つまり神々によって選ばれ、力を与えられた『選ばれし人の子』達が、神様が作った異世界で、まるでオンラインロールプレイングゲームのようにパーティーを募り、魔物と戦い己を強くし、神様同士の強さを競う序列決定戦を行いつつ、最終的には悪の大魔王を倒す。という筋書きだ。


 要は、神様主催のMMORPGって感じかな。

 ま、最近流行のよくある異世界召還モノてヤツだな。


 で、だ。

 その主人公に力を貸し与えた神様ってのが、神様達の住む天空世界の辺境で、一人争いを好まず隠れ住んでるような、やる気ナッシングな神様なんだそうで……多分、ニートの神様ってやつなんだろうな。

 いや、ニートな神様と言うべきか……まあそんな事はどっちでもいいか。


 そんなこんなで、その世界では「たびびとのふく」や「こんぼう」しか持ってないような、まだまだ初心者な主人公だったんだが、一度その力を解き放つと、神威階級カムイランクなる異能戦闘能力がいきなりトップクラスというチート性能だったりするから、もう笑っちゃうしかない。


 実は主人公に憑依している神様てのが、自分達ライト系神様のリーダーである主神様よりもスペックが上で――でも、大昔の戦いによって悲しい過去を負ったがために争い事を嫌い、その力を隠すために隠遁生活をしていたらしいんだ。

 まあ、ここ一番って時に大いなる力を発揮して、読み手のカタルシスを誘うという、王道中の王道な設定だわな。


 てぇな訳で、仲間が窮地に陥った時、大切なものを守る時、キレた主人公がそのグータラ神の本当の姿とシンクロして、『主人公くん』から『主人公さん』へと変貌を遂げるという、なんとも中学生の心を持った者達が狂喜するような展開を見せるという訳だ。

 無論、髪の毛が無駄に伸びて銀色になったり、瞳の色が緋色に輝いたりと、それはもうやりたい放題だ。


 当然、彼に戦うきっかけを与えた不思議な少女や、同じクラスのかわいい女の子、同じく神に選ばれた能力者であるおっとり天然なグラマラス先輩、そしてトラブルメーカーなドジっ子ロリ系後輩に、果ては敵ツンデレ魔物軍団長までもが、主人公をめぐってのハーレム状態なんてお約束もしっかりあるんだぜ。


 異世界ファンタジー、MMORPG、チートにハーレム。

 うん、そうなんだ。どこにでもある、誰もが考え付きそうなベッタベタな、このご時世に手垢どころか皮脂やよだれまでもが付きまくった様な物語だ。


 とまぁ、そんな誰だって思いつく、俺だって書けるような内容のライトノベルを、だ。

 どこまで読み進める事が出来る?


 そりゃあ読み手を楽しませる台詞の掛け合いや、引き込ませる表現力、オリジナリティー溢れる設定なんかにもよるだろうさ。

 だけどその殆どがどこからかパクって来た様な、例えばキャッキャウフフなコミカル会話とか、超熱血長文台詞回しなんかがてんこ盛りなんだぜ?

 おまけに固有名詞や登場人物の容姿・設定もかなりデンジャラスで、中二病的エスプリが濃厚に利いたルビが振ってあったり、読んでるこっちが恥ずかしくなるくらいなんだ。

 耐えられるかい? そんなハイレベルな黒歴史作品、耐えて読み進められるかい?


 俺だってがんばったさ。きっと途中から読み手の意表を付く盛り上がりを見せるんだろうとか、ラストに大きなどんでん返しがあるんだろうと願って。

 でも無理。ごめんなさい。

 途中で投げちゃったよ、あまりにもベタで。あまりにも気恥ずかしくて。


 じゃあ何でそんな本を買ったんだって? いやいや、買ったんじゃないんだ。貰ったんだよ、「おまけ」としてね。


 忘れもしないさ。

 そのベタな本と出会ったのは1週間前の6月10日だ。

 その日はお気に入りのライトノベルの新刊が発売される日だってんで、学校の帰りに少ない小遣いをはたいて、一冊の某有名タイトルをレジに持っていったんだよ。それは今でも鮮明に覚えている。


 手馴れた所作で、俺がレジに持ってった本へと店名入りのカバーをかけてくれたアルバイトの女の人。結構美人だったなぁ……そう、芸能人で例えるなら……いや、そんな事はどうだっていいか。

 その後、薄手のレジ袋へとそれを収めてセロハンテープで封をした後、俺にとびっきりの笑顔で手渡してくれたんだ。「ありがとうございました〜」ってね。


 おっと、言いたかったのはそこじゃない。

 つまりは俺自信、そんな本を書店内で一度も手にしていないし、家に着くまで買った本はレジ袋に入ったままカバンの中に仕舞い込んでいたので、紛れ込む事も無い。

 なのにだ。何故か家に帰ってレジ袋の中身を改めると、中には書店のカバーにくるまれた、とある魔法の禁書……あ、いや某有名ラノベの新刊と、そのベッタベタな謎ラノベが入っていたんだよ。


 となれば、レジのお姉さんがサービスで入れてくれた……としか思えないだろ?


 そうとしか思えない訳はまだあるさ。

 その本の表紙だ。何せタイトルも作者名も表記してないんだぜ? 

 俺はきっと、店員の誰かが金に飽かせて自費出版したはいいが、全く売れず、奇を衒ってそんな手段に出たんじゃないかなと推察しているのだが、どうかな?

 自分で言うのもなんだが、いい読みだと思ってるぞ。


「この題名も作者名も不明な作品は一体何? これを書いたのは一体どこの誰?」


 なんてネットで話題になるとでも思ったのだろうかね? まあ、あまりにもアレな作品だと言う事で、別の意味で話題にはなるだろうけどさ。


 大体、巻頭の1ページ目中央にぽつんと書かれた『これはあなたの物語です』と言う演出も、今時なんだかなぁと感じるよ。

 実際これが「予言の書」的な、読んだ読者の今後に起こりうる物語だとすれば、それはもう最高な設定、展開だろうけどさ……まあそんな事はぜってーありえねぇし、それに俺はガキ臭過ぎて付いてけないけどね。


 てな訳で、俺のような舌の肥えたラノベファンは、こんな誰でも考え付く、ありがちすぎな設定には食い付かんよ。

 まぁアニメ化でもすれば、また別モノに変化するんだろうけどさ。


 でもそんな奇妙かつ読む価値を見出すのが難しい内容の本でも、一つだけ褒めるべき点があったんだよ。

 そいつはカバーイラストや挿絵に登場するヒロインの女の子。突然主人公の前に現れたって言う、西洋人風の美少女だ。

 白金色に輝くロングヘアに、右目はアクアブルー、そして左目はチョコレートブラウンと、両の目の色が違う、黒いゴスロリドレスを着た美しい少女。これがなんとも俺のツボだったんだ。

 まさしくそのためだけに、中盤までがんばって読んだってのもあるんだが……これはアレだね、ラノベは八割方挿絵の力って言われるのも頷けるよ。


 それで今、その本はどうしたかって?


 捨てるのは忍びないし、別名『ブラックホール』と呼ばれる、片付けなんて縁遠い俺の部屋のどこかに埋もれているよ。


 今では、俺の部屋のオブジェの一片として、きっと静かな余生を過ごしていることだろうさ。


次話予告

いつもの下校途中に主人公の携帯へと届く、母親からのメール。

それは彼の人生を左右する大事件への、小さな前触れだった。

次回「太一と大地」


最後まで目を通していただき、まことにありがとうございました

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