お試し
この作品も、最後の文章を味わっていただければ幸いです。
『鍵のない店』のミカさんはその後、鍵の掛かる店に移ったが、今度はしつこい客に言い寄られ、断り、客は逆上し、店の前の看板を蹴って破損させ、訴訟問題となり、またまた金欠となり、店を替わった。
僕の退社時間と、彼女の出勤時間がほぼ重なってたため、何回かは通りで偶然出会うこともあった。いつも子供の手を引いていた。
結局、当時の店が最後になったのだが、仕舞いには店内に子供を寝かせることも多くなってきた。
バーのカウンターの女性には、僕は常に夢を売ってほしいと思う。恋をする可能性も皆無じゃないと期待したいのだ。皆無であることが解りきっているのなら、今の言葉で言う「家飲み」する。
いよいよ資金繰りに困った話をミカさんに聞いた新村は、「おい、タロさん。ミカさんと契約してみるか」と、突然に切り出す。
少しだけは悩んだ。
さすがの、伝説の『ディスコ・クイーン』、身体の線も崩れ、子持ち、若かった頃を想像しても、美人ではあったのだろうが、僕にとってのストライクではなかった。
そのことをそのまま新村に伝えるのも、どこか気が引けた。
で、このように言ってみた。
「お試しで、2、3回を十万なら、考えてもいいでぇ。それから後は、ミカさんと決めるし」
2、3回なら、僕としても可能かもしれない。
翌週、新村からの返事。
「ミカさん、悩んだらしいけど、タロさん、変態プレイやりそうで嫌だ、言うとった」
確かにアマの漫才『シンちゃん・タロちゃん』のネタには、変態に関する話も多い。
それから1年が経った。
ミカさんは、めでたく(?)引退したと聞いた。
中年の客の一人が、自分の奥さんと離婚し、ミカさんと所帯をもったという。
結婚して判ったことだが、その中年、飛んでもないくらい嫉妬深く、外出は禁止で、携帯も常に監視され、昔の仲間にごく普通のメールを打つことすらも禁止された、と。
セックスも執拗で、いささか変態であるらしい。
ある期間、六甲山牧場が無料開放となり、気は進まなかったが配偶者と同行し、入り口付近で巡回の順序を考えていた。
ふと周囲を見渡してみたら、偶然、ミカさんが、いた。
変態の中年おっさんと、二人の子供がいた。
どうしても声をかけることができなかった。
昼間、二人の変態(おっさんと僕)の視線が、どのようにからまっていくのか、僕には、それを知る勇気はなかった。
夜の街には、いろんなストーリーが隠れています。




