取引
「取引だと?」
「俺たち人は魔獣を恐れている。だが貴女はどうやら魔獣が食料だ。俺たちのところにこないか?そうすればいくらでも魔獣が食べ放題だ」
楽しそうに喋るこいつの提案はなかなか魅力的であった。これから新たな狩場を見つけるのも面倒だとおもっていた私は二つ返事でうなずいていた。とにかく今はおなかいっぱいに早くなりたいのだ。
こいつの名前はやたら長い名前だったので覚えることはしなかった。特に名前が必要になるとも思わない。そしてこいつは人間という種族の雄に分類されるらしい。森を抜ける最中この男は絶えず人間社会の説明をやめなかった。人間とは面倒だとそのことだけは理解した。
「そういえば名前はあるのか」
「ああ、私か。私はメアリだ」
どうしてだろうか名前など私になかったはずなのに、というよりか名前の概念すら忘れていたというのに私は私の名前を知っていた。私はメアリというらしい。
「メアリはどういった能力種だ?」
魔獣は一般的には何かしらの力をもっているものがほとんどであった。先ほど食べたあの魔獣は力が強いだけでたいしたことないのだが、中には火を吹くものや体を液体にできるものもいる。人間の世界ではその能力と魔獣の形で種類わけをしているらしい。
「私は擬態の能力がある。つかったことはほとんどないがな」
「人間に変化できるか?」
人間にだと?
「貴様侮辱しているのか」
「そんなつもりはないがどうにも魔獣にしか見えないといろいろと人間たちには受け入れがたい」
いくら人間の味を好まないといって回ったとしてもみながみな信じるわけないしなという男の意見はもっともだが餌の餌と同じ姿になるというのは屈辱でしかない。しかし食料問題と比べればそんなプライドは小さなものかもしれない。仕方がなく私は自分の体を人間の形に変化させることにした。といっても見本はこの男しかいない。さっきの不味かった物体の形はもはや記憶の片隅にも存在していなかった。
「こんなものか?」
目の前の男をなるべく忠実に再現してみたつもりだったが、男はよしとはいわなかった。
「町にはいったらいろいろな人間を参考にしてもういちど変化してもらえるか?」
どうやら同じ顔なことがだめなようだった。人間とは難しいものだ。
「善処しよう」