捕食者
足りない。ぜんぜん足りないわ。口をぬぐいあたりを見回す。どうやらもう獲物はいないようだった。これだけではすぐにおなかが減ってしまう。最近どうも小物しか見つけられず満腹にならないおなかにイライラした。どうしてもっと大物がいないのかしら。足りない。
「おい、本当にこっちか?」
「ああ、こちらのはずだ。装置も反応している」
なんの声だ?いつもの獲物とはちがう声だな。数は二つか。……食べてみるか。声のするほうへ向かう。獲物たちと比べればそうたいして大きくない体は肉があまりついていないようだ。まぁ、私はそのまま骨も食べるから関係ないのだけれども。
「お、おい…マジかよ。こんな報告俺たちうけてねぇよ」
私と目があうとそいつはおびえだした。また小物か。つまらない。おいしそうでもないしな。
「オーガか?やっかいだな」
もう一体はそれほどおびえた様子はなかった。けれどもこちらもおいしそうではなかった。ああ、思い出した。こいつらいつも獲物たちが食べているやつらか。だからおいしそうだと感じないのかもしれない。食料の食料に手を出すほど私も落ちぶれてはいない。私がきびすを返したときだった。胸に走る激痛。胸を見ればぽっかりと開いた穴。どうやらなにか攻撃をしかけてきたみたいだ。イライラしているというのに我慢ならなかった。
一口かじりつくがやはり予想は間違っていなかった。仕留めた物体は本来の私の獲物たちにくれてやろう。ぽとりと一部分を投げ捨てて無駄にそれから流れる赤い液体の臭いがきつくて私はまたイライラとしてしまう。よくこんなものを私は一瞬でも食べようとしたものだ。
足りない足りない足りない。依然とおなかがすいたままの私はそろそろ住処を変えようかと思案する。もうここらにめぼしいやつはいない。となれば探しにいくしかないだろう。この森は過ごしやすくて気に入っていたんだがな。けれども食料がないのでは話にならない。
どこがいいだろうか、やつらはどこに多くすむだろうか。と考えながら思い出すのは先ほどの不味かった物体のことだった。あれは獲物の食料だったはずだ。それならばあいつらの住処を探せばその周辺にいるのではないだろうか。たしかあれはこの森の外にいたはずだ。ああ、だからこの森にはたくさんの獲物がすんでいたんだな。だが食べつくしてしまった。どうしようか。ふと獲物の気配を感じ座っていた木のうえから下を見下げれば先ほどの物体に獲物がよってきているではないか。えさをみつけよってきたのか。それほどおいしい部類ではない獲物だったがおなかがすいているのでその点はどうでもよかった。木から音を立てないよう下りるといっきに獲物に向け噛み付いた。のど元に噛み付けば少しの抵抗の後おとなしくなった。硬い肉質を問題としなければ意外とおいしかった。それほどにおなかがすいてたのだと改めて実感した。
「もしかして、ここら一体の魔獣が減ったのはあんたのおかげか?」
せっかく食事を楽しんでいたというのにまたこの不味いのか。にらみつけるようにそいつをみるとどうやら先ほどの二体のうちのもう一方だった……おそらくだが。私がにらみつけても平然とした顔で近寄ってくる。なんだこいつお前の仲間がどうなったのか見ていなかったのか?
「だとしたらなんなんだ」
不思議ではあったが私はこいつらの言葉がしゃべれるようだ。
「みるところ、魔獣をえさにしているみたいだな。しかも人間はあまりおきに召さないらしい」
先ほどまで獲物がむさぼっていたあの不味かった物体も見ながらいうこいつはずっと私を観察していたらしいな。おもしろいじゃないか。
「どうだ、俺と取引しないか?」