はじまり
―遥か昔に『女神』と称された一枚の絵ありけり。
それを争奪しては、村が滅び、国が滅び。
『現世』のそれは、またいずこ。
詠み人知らず。
【女神の代償】
とある美術館。そこには『女神』と言うシンプルな表題の絵が一枚、隅っこに展示してあった。
しかし、その絵画には何とも言えぬ美しさがあった。
だが僕は唖然とした。その絵画はどことなく無残な歴史を見せるような。
そんな気がしたからだ。
そして、毎日のように金も無いのに此処に通い詰めていた僕にとってこの絵は少しばかりではない奇妙さを醸し出している。
思わずその疑問が口から漏れる。
「あれ、こんな絵あったかな????」
その後、更に愕然となる出来事に巻き込まれるのにも気がつかずに。
今思うと、僕は触れてはいけないと知りつつも、触れてしまったのだ。
残酷な歴史の一辺に。
その絵の説明を聞くとこうだった。
「この絵画は、かなりの昔に描かれた物で美術館開館当初から此処に展示してあったものですが…」
しばしの沈黙。
学芸員の女性は唇を震わせながら言葉を紡いだ様に見えた。
『血塗られた歴史があるみたいですよ、亜智さん』
ゾクッとした。
新しく入ったのだろうか。その女性は見覚えの無い顔をしていた。
否、あるかもしれない。そんな気がした。
「そ、そうなんですね…ありがとうございます」
丁寧に一礼して、その場から立ち去る。
ちらりと後ろを振り返るとその女性は早くもどこかへ立ち去っていた。
「あれ?」
不思議に思って絵画のほうを二度見する。
『女神』と『先ほどの学芸員』が似ているような。
近づくと、『女神』が悪しき微笑を浮かべているような感じを受けた。
僕は何となく背筋が凍るような…とにかく恐ろしくなってその場を立ち去ってしまった。
それから数週間。
僕はあれから美術館に行くことをやめた。
いや、行けなかった。
だって怖いから!!怖かったから!!!
『女神』によって大昔の争い事(戦争だったらなおさら怖い)に巻き込まれそうだったからだ。
20歳をとうに過ぎて『迷信』を信用するのもどうかと思うのだけれども。
今は子供でいたいと熱に思った。
いや、本当に怖かったのだ。
そう思っている僕は、かなり他人から見ると『痛々しい』部類なのだろうな。
だがしかし、僕の『彼女』がそれを許さなかった。
愛する能登沙耶香だ。
家に彼女を送っていく時に唐突に言われたのだった。
「安藤君。あなたはまだ分からないのかしら?」
「全く脈絡の無い話なので分かりません」
「その絵画にはきっと…」
彼女のこれから発動するスキルに僕は全く持って太刀打ちできない。
それは何かと言うと…
「血塗られた歴史があるとか!?マジで??ありすぎて逆にありえない!!!」
「…はい?」
「まさに残虐の歴史ってやつかしら!!」
「あの…?」
「あぁ…これはまさしく【女神の代償】ってなもんでしょ!!!」
「負けました!!!!!」
それで僕らの寸劇は幕を閉じた。
そう、まるでRPGで全滅して『その後彼らの姿を見たものは誰もいなかった』的なノリで。
能登沙耶香は長い髪をさらっとかき上げてお決まりの自慢げな笑みを浮かべる。
彼女は血塗られた歴史とか世界残虐史とか大好きなんてものじゃない。
或いは僕よりも愛してると言っても過言ではない。
そういった意味で僕は彼女に頭が上がらない。
だから、話してしまったのだ。先日のあの絵画の事を。
そしたら案の定、『あちはぜんめつした!!』という日本語的にもおかしい結末を迎える事となったのだった。
だけどあれ、話したのだいぶ前だったぞ!?
何故今更…
「アンソニー。あなたはまだ分からないのかしら?」
「僕は安藤亜智であって、アンソニーなんて人物はこの作中には登場しない!!一切な!!」
「あら失礼…アントニオ?」
「そんなボケに乗ってたまるかよ!!僕は猪木でもないし某ハリウッドスターでもないからな!!」
…普通に乗ってしまった。
「ところで安藤君。その『絵画』は?」
「やっと戻ったか…んー。そういえばここ最近観てないです」
何故か敬語になる始末。
能登さんには本当、かないません(泣)
そして理由を聞かれたが、てきとーに忙しかったからと誤魔化した。
だっていい歳した大の大人のくせに『怖かったから』なんて恥ずかしすぎる!!!!
「…そうだったの。安藤君は本当に馬鹿なのかしら」
「心中を察された!?」
「いえ、だってあなた普通に喋ってたでしょうに」
「ゴメンナサイ、ボクガバカデシタ」
思わず『ワレワレハ…』的な棒読みで僕が痛恨の一撃を喰らった。
当然のごとく勝利した彼女には何かどこと無く策があるような、そんな顔つきだった。
「ま、まさか…美術館に行くなんてことは」
「あるに決まってるじゃない。行くわよ」
完敗一撃KOを喰らった僕はふたつ返事で彼女と一緒にあの美術館に足を運ぶ事となった。
とりあえずリハビリも兼ねて初めて投稿してみました。
頑張って続きを書いていきたいものです。