ビール飲んだら異世界だった(アンジェの場合)
ビールを飲んだら異世界だった
を先に読んでいただくと
わかりやすいです
いつも通りの整った豪華な食事。
給仕により、ワインが準備される
外交協議が済んだ夫は、くつろいで
ワインを口にする。
日々恵まれた穏やかな生活。
ハラハラするような驚きも無く、予定通りにきちんと過ぎていく日常。
しかし…物語の様なハラハラする展開に
憧れるときがある。
自分の力で何ができるだろう…
夫に守られた日常。
貴族という地位に守られた生活…
そんな日常を変えてしまうような出来事…
少女の様な妄想に思わずクスリと
笑ってしまう。
「どうしたんだい?嬉しそうだね」
セルジュは優しく微笑む
「ステキな旦那様との食事が楽しいのです」
そう言いながらワインを一口飲んだ。
ゴクリ…
…ぐらり。
あら…酔い…かしら??
「セルジュ、私少し酔ってしまったみたい。
先に部屋で休むわ。ごめんなさい」
ようやくたどり着いた部屋で、
侍女が急ぎ寝着の支度にとりかかる。
ふう…どうしたのかしら…
薄れゆく意識…
「いけないわ。そのまま寝入ってしまって…」
ドタッ。
起き上がり手をつくとベットの端をかすめ
床に倒れてしまう。
ま、まぁどうしたのかしらこんな隅に寝ていたのかしら。
ん?
見渡すとすぐそこは壁。
え?数歩歩けば壁。
豪華な模様もない、白い壁
しかし…見慣れない形の室内だ。
天井は低いが、丸い機械が付いている。
あれ…は?
先程まで寝ていたベットの他に簡単な家具があるだけの狭い部屋。
もしかして…不安ごよぎる
牢獄…?
ここは…?牢獄なの?
まさか…わたくしは罪人に?
あの扉の向こうはどうなっているのか、
開けるのも恐ろしい。
この薄い下着の様な服1枚で
人に会うなど…。
恐ろしい…
侍女は?侍女を呼ばなくては!
けれど震えて声が出ない…
ガチャ。
「母さん、飯まだ?」
「キヤーーー!ー」
プツリ。
(あれ?母さん…失神した??)
ほんの数分の刺激的な夢?
動機が、収まらない。
うう…。夢見がわるいわ…。
うっすらと目を開けると、
見慣れない若者が、ほぼ裸のような薄衣の服装で
すぐ横に立って私を見下ろしている。
サッと血の気が引く。
「何者ですか!」
体を起こし上掛けをなんとか体に巻き付け、
ベットの最奥へと壁を背にして逃げる。
恐怖でのどか締まる。
震えが止まらず血の気が引く。
「え…どゆこと?」
焦った様子の
若者は急ぎ部屋から出る。
「ねー、父さん…ちょっと…」
バタン
牢獄の扉が閉まった。
私は…何かされてしまったのか…
この、薄衣…。
先ほど転倒した時に痛めた手首が
少し痛かった。
ああ…セルジュ。
どうすればよいの?この牢獄から
どうやってあなたに連絡をすれば良いの?
涙が溢れる。
ふと手を見る
美しく整えられていたはずの
手は、少し荒れて、頭を触ると
腰元まであった長い美しい髪は肩のあたりで
切りそろえられていた…
「一族に何か?…不始末が?」
覚えているのは、ワインを一口飲んだだけ…
コンコン。
牢獄の扉がノックされる。
今度は一体どんな野盗がくるのか。
思わず近くにあったペンらしき硬いものを握りしめる。
何かの時には…。
ガチャリ
ぬっと男の頭がドアの隙間から差し込まれる
「ねぇ…何やってんの?仕事遅れるよ?」
先ほどの若者より少し年配の男。
しかし聞き覚えのある声と、顔…
「り…リヨン!リヨンね!!」
ブワッと涙が溢れる。
「は?泣かなくても。訛ってんの?」
誰かに伝えたかった事が一気に溢れる。
「…私は何かの罪を犯しましたか?
セルジュは、セルジュとは会えますか?
それと…せめて、外出着をいただけませんか?」
「マジで?ちょっと今日休むわ…」
そう言って牢獄の扉が再びしまった。
リヨンらしき人物…
しかし主人であるはずのアンジェに仕える様子もない。
(リヨン…もう我が家に仕えては貰えないのね…)
涙が溢れて止まらない。
どうして?。
今までの当たり前にあった幸せに、変化が欲しいなどと…
そんな許されざる発言がこんな結果に?
ごめんなさい…ごめんなさい…
涙を流しながらアンジェは気を失った。
(おい、救急車だ。)
(え、マジ?なんだよ、今日遊びに行く予定だったのに!)
ピッピッピッピッピッ
定期的なリズムで鳴く鳥…?
腕にはキツく布が巻かれている。
明るい光がチカチカ点滅する箱から小鳥のさえずりが聞こえる。
また…違う牢獄に…?
ベットの周りは薄布のカーテンで締め切られている。
何かの儀式に差し出されるのだろうか…
動悸が止まらない…
怖い…
セルジュ…
貴方に最後に会いたかった…
愛していると伝えたかった…
流れた涙が口元を伝う…
涙はしょっぱいのだと初めて知った。
暖かい手が額に当てられている…
ああ…優しい暖かい手…
まるでセルジュの様な…
(アンジェ…心配だ…)
うう…。
目を開けるのが怖い…今度はどんな恐ろしい場所に連れて行かれたのか…
握りしめられる手。
これは…セルジュ…
「セルジュね!」
アンジェは目を見開き飛び起きる。
「やはり、まだ様子が…」
悲しげなセルジュの首元に飛びつく。
「セルジュ…愛してるわ。
貴方にどれ程会いたかったか…」
「アンジェか!良かった。
何かの病にかかったかと心配したよ」
気づけば長く美しい髪にセルジュがキスをしていた。
ああ…私は罪人ではなかったのね…
余りにリアルな夢のような現実に、
アンジェは戸惑いながらも、
今の幸せを大切にしなければと
こころから思ったのだ




