出戻り聖女の出戻り
やだ、気持ち悪い。
神殿の面談室の前に、ソール子爵令息の護衛のダグラス様が立っている。
という事は、部屋の中にいるのはソール子爵令息だ……。
私はため息をつきそうになるのを堪えて部屋に入った。
私はピリタ。12歳。聖女。
神殿で神様のメッセージを受け取るという聖女の仕事の他に、植物に加護を与える力があるので、苗木や種子に加護を与えてほしいと依頼される事がある。
ソール子爵令息はよく依頼してくる方だ。
20代?くらいの大人なのに、やたらと私のご機嫌を取るような事を言い、仲良くなろうとしてくる。
ドアを開けると部屋の中にはやはりソール子爵令息がいた。
心の中を出さないように我慢して挨拶する。
小さな面談室の小さなテーブルセットに向かい合って座ると、ソール子爵令息が加護を受ける予定リストを書いた書類をテーブルに並べる。一つ一つの種類の撒く時期の確認をとっていると、いつの間にかソール子爵令息が隣に座っていた。
少し離れようとすると、ソール子爵令息の両手で右手を握りこまれた。
ゾワッと寒気がする。
手を離してもらおうとしてもくっついたように離れない。
泣きそうな私を見てソール子爵令息は嬉しそうだ。にちゃぁとした笑顔が気持ち悪い。
ソール子爵令息が私をテーブルに倒してのし掛かろうとした時、ノックも無く勢い良くドアが開いた。
「ピリタ~! 元気だったべか!」
農民の女性がズカズカと部屋に入って来た。
ソール子爵令息が慌てて身体を起こす。
「無礼な!」
「なんだべ、ピリタを狙ってる ロリコン子爵ってこいつか?」
ろ、ロリコン……。って、この女性……。
「貴様どうやって入った! ダグラスは何をしている!」
「逃げてっただ。よっぽど疚しい事してたんだべなー」
「貴族に向かって何だその口のきき方は! 何様のつもりだ!」
「聖女様だ」
女性は、右手の甲を見せた。そこには「聖女の聖痕」が。
驚いているソール子爵令息に、
「先代聖女のアイリ様です」
と教えると、
「あの、神の声を聞いてクーデターを成功に導いた聖女アイリ……?」
と顔色が変わった。
「そのアイリよ。神様が、大切な聖女に手を出そうとしてる変態野郎がいるって言うから」
睨み付けられたソール子爵令息は、真っ青になって慌てて部屋から逃げ出した。
静かになった部屋で、私は深く息をついた。
アイリ様は、散らばったソール子爵令息が持ち込んだ書類を拾い集めている。
「あ、その書類……」
「私が届けておくわ」
「そんな。あいつの所に行くのは」
「違う違う。行くのはあいつの父親のソール子爵の方。あいつのしていた事を知って隠していたのか、全然知らなかったのか知らないけど、あいつと護衛を二度とお天道様の下に出さないように言って来るわ」
つ、強い。
「二度と被害者が出ないようにね」
「あ……!」
私、自分の事しか考えて無かった。恥ずかしい。
「私も強くなります。神様が聖女と認めて話しかけてくれるくらいに」
一瞬ポカンとしたアイリ様が慌てて言った。
「ごめん! 神様が言ったってのはウソ! 言ったのはリックだったかニックだったか、ガキ大将の神官見習い!」
「え……リック?」
「そう! 聖女を辞めてからスロと一緒に治癒師のいない田舎を回っていたんだけど、子供が生まれたんでスロの親御さんにも見せようって三年ぶりに王都に戻ってきたの。神殿に寄ったら神官がすごい顔で駆けつけて来て。ニックってばすっかり大きくなったから最初誰か分からなくて、危うくスロが迎え撃つ所だったわ」
「リックです」
「私が行かなかったら窓から突入する気だったそうよ」
窓の外を見ると、壁に隠れる神官がチラッと見えた。
「だから、神様が話しかけないのは国がうまく行ってるって事なの。ピリタは立派な聖女よ」
「あ……ありがとうございます」
これからソール子爵に会いに行く!と、アイリ様は帰っていった。
スロさんと娘さんと一緒に帰る後ろ姿を見送って、
「アイリ様はこのままでいいって言ってくれたけど、私ももうちょっと強くならないと」
と、ふんす!と決意したのだった。




