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9.破談の危機

 ~12年前~


「ねえねえ、じいや」


「はい、エリーゼ様。なんでございましょう?」


 この時エリーゼ7歳。じいやはまだ40半ばという年齢だったがこの時もじいやはじいやだった。なぜならなんか雰囲気がじいやっぽかったから。


「オリビアが元気がないの」


 くりくりお目々で見上げてくるエリーゼはとても可愛らしい。その口から出てきた言葉が侍女を心配するものだったのでもうじいやにはこの世に降臨したまじもんの天使にしか見えない。


 エリーゼが生まれる前から公爵家に仕えているオリビアは子爵家のご令嬢。まだ少女といえる年齢から行儀見習いの為公爵邸で働き始め、エリーゼが生まれるとその人柄から世話役に選ばれ、専属侍女としてずーっと彼女を見守ってきた姉のような存在。


 美しく、優しく、時には厳しく、器用で面倒見のよい彼女はテキパキと仕事をこなし、どちらかというと相談役になる方だった。


 その彼女が元気がない?…………………………ああ。


「婚約者の方の事情で結婚が駄目になるかもしれないそうですよ」


「婚約者の方の事情って?」


「婚約者の幼馴染が……」


 といけない。子どもに話すような内容ではない。笑顔でごまかそうとエリーゼを見るとその目はキラキラと輝き、なあぜなあぜ教えて教えてと訴えている。


 う…………。まぁどうせ言ってもわからないだろうし、仕えているお嬢様のお願いだし…………


 軽く話すくらいなら――こほんと軽く咳をした後中腰になりエリーゼに目線を合わせるじいや。


「婚約者の隣の領地に住む幼馴染の女性が急にずっと彼のことが好きだったと、自分の方が相応しいと騒ぎ立てているようです。彼も心が揺れ動いている上に、ご両親も懐柔されそうな雰囲気らしいですよ」


 あなたが他の女のものになるならと食事をしないらしい。しかも毎日のように訪ねてきては自らの首元にナイフを当て、結婚してくれないなら首を掻っ切ってやると迫っているらしい。


 じいやからしたらそのまま掻っ切ってしまえと思うが、婚約者は日に日にやつれていく幼馴染を見捨てられないよう。彼の親も幼馴染の親からなんとかならないかと押しかけられどうしたものかと悩み中とのこと。


「ふ~ん」


 おや、やはり難しかっただろうか。気のない返事に話しながら少し後悔していたじいやはホッとした。




~~~~~~~~~~




 1週間後


「エリーゼ様、私の為にありがとうございます」


 そう言って美しいお辞儀をするのはオリビアだ。


「ですが……二度と!二・度・とやってはなりませんよ!!!」


「へーい」


「エリーゼ様!」


 これで怒られるのは何度目だろうか。父、母、兄、姉、じいや、侍女たち。もう耳にタコである。


 結局オリビアと婚約者殿は予定通り結婚することになったし、そんなに怒らなくても良いのに。


 でもエリーゼは知っている。ごちゃごちゃとお説教しているくせに皆口元は笑いを堪えているのを。いい気味だと思っているなら褒めてくれても良いくらいだと思うのだが……。


 これが本音と建前というものなのかもしれない。


 いっそのこと誰か大笑いしてしまえばいいのに。


 というか別に悪いことをしていないのに、お説教とはどうも納得がいかない。あれはそんなに悪いことだったのだろうか?





 先日父親について行ったパーティーでのこと――



「オリビアの婚約者さん。オリビアがあなたとその女の浮気に悲しんでいます。その原因のそれをこれで切っても構わないかしら?」


 エリーゼがオリビアの婚約者を真っ直ぐ見て言った言葉にその場は凍った。何よりもパニックに陥ったのは家族皆で来ていた子爵一家であったが。


「……?……?…………!?」


 急に話しかけられた婚約者はなんと言っていいかわからなかった。というよりも理解ができない。この状況は一体なんなのか。


 ライカネル公爵を見つけ一家で挨拶をしていた。すると公爵と手を繋いでいたエリーゼが手を離しとことこと歩いてきて自分の前で止まったのだ。何か用か尋ねようとしたら突然さっきの言葉を発したのだ。


 浮気!?自分はそんなことしていない。そう決して浮気など……。その、あの、まだもどきというか……少しぐらついているだけというか。


 ああ、今はそんなことを考えている場合ではない。


 その女というのは腕にくっついている幼馴染のことだろうか。エスコートをしてくれと言われ、婚約者と行く予定だったので断ると彼女がナイフを取り出し首元に近づけていき血が流れたのを見て慌てて了承してしまった。だから仕方なしと婚約者のオリビアには事情を話し納得してもらったはず。


 そして、それ……とは、エリーゼがガン見する先――恐る恐る視線を下げる。ズボンに隠れて見えないが股間についているもののことだろうか。


 これ、というのは彼女が手に持っているハサミのことに違いない。子供の小さい手に大きなハサミは似つかわしくない、足元に落としてしまわないかはらはらする。


 いやいやいやいや、違う違う呑気にそんなことを心配している場合ではない。



 エリーゼはなんと言った?


 それをこれで切る?


 即ち、自分の大事な息子ちゃんをハサミで切る?しかもこの天使のような可愛い女の子が?


 理解した瞬間にぶわぁと冷や汗が身体中から噴き出る。

 


 いや、無理だし。それにそんなことをこの目の前の天使のような美貌を持つ子供に言われたことが信じられない。


 この場をどうにかできるのは公爵しかいない。公爵に視線を向けると何も見ていませんとばかりにすーっと横を向かれた。その口元はヒクヒクと動き、笑いを堪えている。


 いやいや、面白がっている場合ではないし、どうにかしてくれよ!いや、自分でどうにかするしかないのか、そもそもなんで急にこの子はこんな……


 ぐるぐるとうまくまとまらない思考の中、なんとか情報を絞り出す。


 考えろー


 考えろー


 何か関係があるからこの子はこのようなことを言ってきているに違いない……………………!

 


 あ……この子はオリビアが仕える…………。








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