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8.初動

 さあ、どこから手をつけましょうか。


 マリベラを利用するのは今ちょっとピースが足りないので後のお楽しみだ。思案するエリーゼの視界に複数の手紙が映った。


 ああ、ふふ……あれからにしましょうか。


 静かに嗤うエリーゼをじいやは置物のように静かに見守った。



~~~~~~~~~~



 今宵は久しぶりに夜会に参加したエリーゼ。子爵家が主催なのだが一般的なその辺の低位貴族ではない。大きな商団を抱え豊かな領地を持つテリー子爵家だ。


 伯爵位に上げようという話は何度も出たのだが、あるべきものを大切にする精神を持つ彼ら一族の代々の当主は誰一人として首を縦に振らなかった。


 豊かな財力、確かな目利きを持つ子爵が主宰するパーティーは華やかながらも品のあるものだった。優雅な音楽、芳しい香りがする花々、目で見て楽しく香りで食欲をそそるような料理の数々。


 実に優雅で華やかな夜会。


 エリーゼも楽しんで……


「おい、久しぶりの夜会だからって羽目を外すなよ!ちゃんと社交できるんだろうな?俺に恥をかかせるなよ!いや、きっと恥をかくだけだから黙って隅にでも立っていたらどうだ?」


 ……いなかった。ジョーも一緒だからだ。


 馬車に乗ったときからグチグチと言っていたのだが、会場についてからもネチネチネチネチと喧しいことこの上ない。普通は黙るのだが、彼は普通じゃないから仕方ない。


 とはいうものの鬱陶しいことこの上ない。


 すれ違う人々もギョッとした目で見ているのに全く気づいている様子はない。まあ、気づいたら気づいたでお前のせいだとか言われそうなのでいいのだが。

 

「おい!お前聞いてるのか!?」


 いい加減に勘弁してほしい。そんなに大声を出さなくても聞こえているというのに。


 最近はあまり顔を出していなかったが、幼き頃から様々な場に出てきたエリーゼは場数が違う。しかもジョーが参加するものとは比べものにならない格上のパーティばかり。なんとも的外れな物言いに呆れるしかない。


「エリーゼ様!」


 気の毒そうな視線がエリーゼに、不快な視線がジョーに向けられる中エリーゼの名前を嬉しそうに呼ぶ女性の声。


「オリビア様。子爵様もお久しゅうございます」


 ふわりと微笑むエリーゼになんとお美しいと周囲はざわめき立つ。ジョーの眉間に面白くないと言いたげにシワが寄るがとりあえず口を開く様子はない。


 2人の前に気の強そうな美女と優しそうな男性が近づく。テリー子爵とその夫人オリビアだ。この前父親から爵位を譲り受けたばかりの新米子爵夫妻なのだが、とてもそうとは見えない堂々とした立ち居振る舞いにエリーゼは感心する。


 ちなみに夫人は……


「オリビア様などともったいのうございます。オリビアとお呼びくださいませ。エリーゼ様本当にお久しゅうございます。まぁ……本当に……なんと、なんと美しく成長なされて……。幼き頃から、いえ……誕生したときから並々ならぬ美しさでございましたが、今はもうその美貌が眩しくて目が潰れてしまいそうでございます。私オリビアはむしろその美貌で目が潰されても本望にございます」


 エリーゼの専属侍女を勤めていた女性。エリーゼが7歳の時に結婚と同時に辞めてしまったので、12年ぶりの再会。オリビアの目には涙が浮かんでいる。


 その大袈裟すぎる言動にエリーゼは苦い笑みを零す。


「……っ。お、おい!俺はあっちに行ってるからな」


 そこにいないものかのように扱われていたジョーが我慢できずに声を出す。主催者、しかも上の爵位の者に挨拶もせずに場を離れるなど正気の沙汰ではない。


「ジャマル男爵ご機嫌よう。ゆっくりしていってくれ」


 背を向けようと足を動かしかけたジョーにテリー子爵が気を利かせて先回りして声を掛ける。


「あ、は、はい……」


 そう言って頭をへこへこと下げながら去っていくジョー。いやいや、せっかくテリー子爵が声をかけてくれたのに挽回のチャンスまで無駄にするとは、先程ごちゃごちゃ言っていたがあんたの言動こそが恥だと大声で言ってやりたい。


「申し訳ありません子爵様、オリビア様。挨拶もせずに去るなんてなんと無礼な真似を……。代わりに私が謝罪いたします」


 すっとスカートを掴み胸に手を当て、頭を下げるエリーゼに慌ててオリビアが駆け寄り頭を上げさせる。


「おやめくださいエリーゼ様。エリーゼ様が謝る必要はございません!そしてオリビアとお呼びください!」


 あらあら、と困ったように笑うエリーゼとうんうんと頷く周囲で様子を窺っていた人々。


 誰がやらかしたかは一目瞭然。


「そうですエリーゼ様。あなたに頭を下げられると寒気が……悪夢が……」


 子爵は青褪めていた。


 エリーゼはその顔をじっと見る。


 ああ……この顔、昔を思い出す。


 とても懐かしい――




 エリーゼとオリビアは微笑み合った。そして子爵は顔面蒼白になり、身体をブルリと震わせた。





 

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