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36.噂

「今日も絶好調だったな」


「ああ、いっつも愛人と会う約束してる時に呼びつけて中座って馬鹿にしてるよな」


 勘違いモテ自慢など見て聞いても痛いだけ。


「はは、いいじゃないか。あんなやつと長い時間一緒にいたくないし」


「それはそうだ」


 ははははと笑う取り巻きたち。


「ていうか愛人愛人って……女好きだよな。あんなのに寄ってくるなんて絶対にヤバい女でしかないだろうに」


 性格が良いならわかるが見た目、性格共に最悪の男の愛人なんて普通やらない。この国では愛人やその子供に権利はないためか、男の勲章的な感じで愛人ウェルカムな男が多い。


 だがそれは愛人希望の女も男を選べるということ。


 それなのにあんなのを選ぶなんて気がしれない。


「どうせエリーゼ様に対する優越感とか女として自分の方が上とか思って良い気分になってるヤバい女ばっかりだろ?エリーゼ様は公爵家の姫君だぞ?ライカネル公爵家って第二の王家とか言われてるんだぞ?


 そもそも公爵家の姫君に勝ったも負けたもねぇよ、愛人の完敗。それにジョーを寝取ったからなんだよ?エリーゼ様がジョーを愛してるわけねぇのに、そんなの意味ないっつぅの!」


 ホントだよなと頷く取り巻きたち。


 ほお、彼らはよくわかっている。


「ていうか白い結婚なんだろ?ジョーは寂しい女とか言ってたけどよ……絶対エリーゼ様って愛人さんあんな男の性欲処理してくれてありがとうとか思ってるよな。あんな最悪の男に触られるとかどんな罰ゲームだよ。俺だって肩組まれたとき、ゾワッとしたぜ」


 思ってる、思ってると男子トークで盛り上がっている取り巻きたち。


 エリーゼはほっと胸を撫で下ろした。彼らがエリーゼがジョーを愛しているとかふざけたことを言ったらここから駆け出して、扇子で張っ倒していたかもしれない。


「もしかして、私わかりやすいかしら?」


 こそこそとサイラスに聞く。


「わかりやすいというより、普通そう思うものじゃないか?」


 大変失礼な言い方だが、デブ、ブス、ハゲ、普通に見た目が悪い男は敬遠される。性格が悪ければ尚更だ。


 この貴族社会、愛だけで成り立つ結婚なんてほとんどない。だが相手を尊重し尊重され意見をすり合わせながら共に過ごしていくうちに愛なり情なり湧くことはある。


 その一方で利益や血統を重んじ、それだけを頼りにこいつないわーと思いつつただただ我慢する家庭もある。


 エリーゼとジョーは世間一般から見てなんともよくわからない夫婦だ。ジョーに利益はあるがエリーゼには一切ない。すり合わせも尊重もあったものじゃないが、エリーゼは我慢している様子もない、離縁する様子もない。


 ?????状態だ。


 エリーゼは我慢する立場にないし、離婚してしまえばいいだけなのだ。ジョーは何やら勘違いしているようだが、公爵家は温かくエリーゼを迎えるだろう。


 高位貴族であれば皆知っている。ジョーの悪評を聞くたびに公爵の顔が鬼に早変わりするのを。

 


 

 それはさておき、最近社交界で一つの噂がある。


「エリーゼ様が離婚しないのって、サイラスさんの為らしいぜ」


 そう、そんな噂が。


「へー……」


 エリーゼの口から息なのか、感想なのかよくわからない音が出て、サイラスの身体がギクリと固まった。


「2人はできてて離れたくないから、離婚しないって噂だろ」


「あの2人ならお似合いだよな」


「公爵様もサイラスさんなら安心だと公認らしいぞ」


 やめて、これ以上はやめてくれ。とても居た堪れない。


 微妙に身体が触れ合っている状態でその噂は勘弁してほしい。変に意識してしまう。ギギ……とエリーゼを見ると、何やらほうほうと興味深げに聞いている。


 いつものようにからかってくれれば良いのだが、真面目に聞いているので何やら恥ずかしい。


 もう、やだ。顔が赤くなってくる。


「でもさ、それなら離婚して再婚すれば良くね?」


「んー……引き離された婚約者。再会した義兄との禁断の恋。恋に障害はつきものって言うし、燃えるんじゃね?」


 燃えないから、全然燃えないから。そもそも再会も何も立ち場が変わっただけで普通にしょっちゅう会ってるから。


「あーあー……羨ましい……。俺たちにもチャンスはあったんだろうにな」


 これだけよくお呼ばれしているのだから顔を見かける機会は多々ある。


「バカ野郎!ジョーみたいに脳内花畑になったらお終いだぞ!エリーゼ様は天上人なんだからおいそれと話しかけていいわけないだろ!」


 彼らはジョーの周りをピヨピヨとついて回るがエリーゼには決して近づこうとしない。遠くから目でも合おうものなら青褪めて硬直した後、慌てて頭を下げてくるくらい。


「本当にもったいない……ジョーもバカだよな。俺だったら大事に大事に扱うのに。好きな子を虐める子供じゃないんだから自分の置かれたこの奇跡のような幸運に感謝しろっつうんだよ」


「俺なんて間近で見られただけで、なんて幸運なんだって思うくらいなんだぞ!」


 俺も、俺もと騒ぎだす取り巻きたち。


「ほほほほ、取り巻きが馬鹿とは限らないのね」


「なんとも言い難いね」


 エリーゼはジョーの悪態を吐き続ける彼らをじーっと見つめる。


 なんだかジョーが少しだけ可哀想になってきた。


 今彼にあるのはお金で繋がった偽りの友達だ。


 彼はそんなふうに思っていないだろうけれど。


 お金で友情を買っているくせに、本当に自分を慕っていると思っている。……違うか。金を払っているからこそ自分を慕っているに違いないと安心しているのかもしれない。


 根暗だろうが結婚した当初のように優しさを持ったままだったら金など関係ない対等な友人ができていたかもしれない。


 エリーゼの頭に一瞬、彼らとジョーが屈託なく笑う情景が浮かんだ。


 自業自得とはいえ、彼にはそんな未来もあったはずなのに――。


 黙って考え込むエリーゼを見ることができないサイラスは落ち着かない。一体何を彼女は考えているのか。もしかして自分との噂について――とか?


 ちらりと横にいるエリーゼを盗み見る。


 

 ………………………?



 いないんですけど。


 隣にいたはずのエリーゼがいない。


 まさか……


 ばっと取り巻きたちを見ると、輪の中に彼女がいるではないか。


 取り巻きたちはこれでもかと、口をぽかーんと開け固まっている。そんな彼らを気にすることなくジョーが座っていた椅子に座り、何やらじいやに話しかけている。片付けと新たな飲み物をお願いしているよう。



 呆然としていると目が合い、またもやチョイチョイと手招きしてくる。

 


 サイラスはため息を吐きながら立ち上がり彼女のもとに向かった。

 



 




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