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35.ドヤ顔

 他愛もない話をしながら庭園に向かうエリーゼとサイラス。あと少しで到着するというところで2人の耳に下品な笑い声が聞こえてくる。


「エリーゼ、戻っ」


 ジョーと取り巻きたちが先にいたようだ。戻ろうと促そうとしたサイラスは言葉を止めた。エリーゼがシー……と人差し指を彼女の口に当てていたからだ。


 身を屈め、木や草花の陰を利用しながらヒョイヒョイと身軽に彼らに近づくエリーゼにサイラスはぎょっとした。なんと見事な身のこなし。


 地面に擦れ汚れるドレス。簡素ながらもお高そうなドレスの裾を抱えたいのを我慢する貧乏性のサイラス。決して下心から持ちたいわけではない。


 見事な薔薇が咲き誇る花壇の陰にしゃがみ込んだかと思うと、ひょいひょいと手招きをしてくるではないか。


 いやいやいやいや、勘弁してほしい。


 首を横に振るがひょいひょいと手の動きは止まらない。これはきっとそこに行かぬ限り止まらないだろう。仕方なく身を屈め、音を立てないようにエリーゼの隣まで移動する。


 ちらりと横を見ると視界にはエリーゼのわくわくとした顔、耳にはジョーの調子こいた声が聞こえてくる。


「エドモンド、あいつないわー!何様だよな!?ちょっと親が金持ちだからってよー!あいつ自体にはなんの取り柄もないくせにでかい態度取りやがって……ホントムカつくよな!せっかくこっちが呼んでやったのにふざけた態度ばっかり取りやがって、あんなやつ二度と呼ぶか!お前らあいつに会っても話したりするなよ!?無視だ無視!」


 椅子から足をダラーンと伸ばし胸を張り腕を組む横柄な格好のジョーの姿とその言葉に――


 いやいや、はははははは…………


 いや、もう本当に笑うしかない。


 というかエドモンドに申し訳ない。こんな弟と関わったがために目の前でないとはいえ、こんな無茶苦茶なことを言われてしまって。


 確か最近ストレスが溜まっているとか言っていたから、今度思いっきり愚痴に付き合ってやろう。ほろりと涙が零れそうなサイラス。



 エリーゼはそんな彼を気にすることなくエドモンドへの理不尽な悪態感情を共感させようとするジョーから取り巻きたちへと視線を移す。


「「「…………………………」」」


 彼らはなんとか顔を笑みの形にはしているが、返事はしない。それはそうだろう。エドモンドは格上の金持ち伯爵家だし、頭も良く、仕事もできる。どちらが見た目も人間としても上か明白。


 そもそも無視だなんてとんでもない。彼らが相手にされない、声をかけられないことなど当たり前なのた。それなのに一度会っただけの男爵令息に声をかけてくれるなんてことがあればそれは奇跡。


 その奇跡をジョーのために逃すなんてするはずがない。金蔓とはいえ、どちらについたほうが良いかなど馬鹿でもわかる。よっぽどの恩があれば別だが、ジョーに対しそこまでの気持ちはないはず。

  

「ああ!この後愛人と約束があるのを忘れていたよ!もう毎日毎日顔を見せなきゃ嫌よなんて言われていてな!参るよホントに!でもこれもモテる男の宿命だから仕方ないよな!」


 ガタンっと勢いよく立ち上がった際にお腹がテーブルに当たりカップのお茶が溢れる。ジョーは一瞥したがどうでも良いと言わんばかりに視線を逸らす。


 使用人に片付けろの一言もない。


 一歩踏み出したところでくるりと取り巻きたちに向き直るジョー。 


「ああ!お前らは好きなだけいていいからな!皆で話すには広くて綺麗な家の方がいいだろう!?」


 いやいや、なぜドヤ顔?


 わずかに顎を上げ取り巻きたちを見下ろすジョーにエリーゼは吹き出しそうになるのを堪える。この家は男爵家の家としては少し広いかもしれないが、少し広いですね程度。皆貴族なのだからそれなりに広い家に住んでいるし、使用人がいるのでとても綺麗な家に住んでいる。


 喧嘩でも売っているのだろうか?と思う発言だが、本人は真面目に彼らの為に場所を提供してやろうと言っているよう。


 謎に上から目線に言うから、取り巻きたちのこめかみに青筋が浮かんでいる。それなのに必死に目を細め口をお椀型にしようと頑張る取り巻きたち。


 いやぁ、今日もご苦労さまですと言ってあげたい。


 それじゃあ、俺がいなくて寂しいだろうがまあゆっくりしていってくれ!と言い去っていくジョー。


 寂しいわけあるかーい!と叫びだしそうなのを我慢し、観察を続ける2人の目の前で取り巻きたちは……


 クタリと椅子に身を預け、長ーい息を吐き始めた。


「つ、疲れた……」


「だな……」


「金の為だ……」


「だな……」


 そんなにお疲れならもう来なくなっちゃえばいいのにと思うが彼らは金のためなら頑張るよう。もはや仕事感覚なのかもしれないと思うエリーゼだった。





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