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30.自分の場所

 パクパクと口を動かすだけで言葉を何も発しないジョーをニコニコと見つめた後エドモンドは表情をそのままにくるりと身体の向きを変えるとスタスタと歩き出す。


「あっ!」


 ジョーにできたのは大きな声を上げることと片手を伸ばすことだけだった。が、流石に腕を掴むわけにもいかない。そんなもので彼の長い足が止まるはずもなく焦るジョー。友人に、親友になれるはずなのに。皆が見てる前で皆が憧れる者同士の語り合いを見せて、羨望を集める筈だったのに……!焦れば焦るほどどうして良いかわからない。


 取り巻きたちを見るも視線が合うとばっとそらされる。


 そして、彼の長い足が止まったのは


 エリーゼの前だった。


「お久しぶりにございますエリーゼ様。ご機嫌いかがでございますか?」


 エドモンドは片膝つくと腰掛けたままのエリーゼの手を取り軽く口づける。美男美女の一つの絵画のような麗しき光景に皆が息を呑む。


「お久しぶりねエド。ご機嫌宜しくてよ」


 見てちょうだいあのアホ面を。あんなに口をぽかんと開けて。でもまだこんなのは序の口……そうでしょう?微笑むエリーゼに妙な圧を感じたエドモンドは口元が引きつりそうになるのを堪える。


 やっぱりこの人怖いと怯える心を叱咤して立ち上がると彼女の視線から逃れるようにサイラスに視線を向ける。


「サイラス!」


 我が友よ!ハグしよハグしよとばかりにエドモンドの腕がばっと広がった。


 えー……エドモンド、俺も巻き込むのかい?ジョーの目がこれでもかと見開かれるのが見えた。絶対にあとで小言……いや、狂ったように怒鳴られる。

 

 とはいうものの彼の縋るような視線とエリーゼの早く早くと急かす視線を感じたサイラスは覚悟を決める。


「エド!」


 大袈裟に手を広げ、ガシッと抱き合う。おーと周囲から驚きの声が上がる。


『すまない』


『ま、気にするな』


 お互い耳元でヒソヒソ声で話す。


 これも全ては彼女のため、ジョーに怒鳴られることなんて大したことではない。


 身体を離した2人はエリーゼも交え、とても仲睦まじそうに話し始める。




 流石エリーゼ様、エドモンド様とお知り合いなんだな。


 サイラス殿とどんな関係なんだ?

 

 あんなに仲がいいなんて凄くないか?


 見た目も質もあそこだけ別世界だな。


 なんて羨ましい。



 そんな声が聞こえてくる。あらあら、ジョーの側でそんなことを言っていいのかしら?取り巻きというのはいかにその人を持ち上げ気持ちよくさせるのかが大事だというのに。


 エリーゼはジョーを見る。


 やばい――口角が上がる。


 眉間に皺を寄せて目を吊り上げてすっっっごく不機嫌そうな顔をしている。憧れの人がエリーゼやサイラスと仲良くしているのが気に食わないのだろう。そして取り巻きたちの羨望の視線が自分に向いていないことに苛ついているに違いない。


 ジョーの態度はまさに子供である。そしてこちらが仕掛けていることもまた幼稚。幼稚さには幼稚さで対抗だ。


 お前よりも俺の方がこいつと仲いいんだぜー戦法。とってもしょうもないがやはり彼には効果てきめんなようでなんとも心の中で笑いが止まらぬエリーゼ。


 さあ、狩猟大会はまだこれから。


 次はどんなアホ面を醜態を見せてくれるのかしら。


 


~~~~~~~~~~



 ジョーは口も目も見開き愕然としていた。


 目の前の光景はなんなのだ。


 そこは自分の立ち位置のはずで、エリーゼやサイラスのものではない。エドモンド……彼はなぜそんなに楽しそうな表情を浮かべているのか?それは今日親友になるであろう自分に向けられるもののはず。


 それに周りにいるこいつらも一体何を言っているんだ?羨ましい?それは俺に向けるべき感情だ。どうしてエリーゼやサイラスに向けているのか。奴らにそんなものを向けるなんてありえない。


 いつもみたいに俺を褒め称えないといけないだろう?なのになんで俺を見ない。まるでここに俺の存在などないようではないか。これではただの脇役ではないか。


 いや、そんなことない。自分は主役なのだ。自分はエドモンドに認められた人間で彼と同類の物語の主人公にふさわしい人間のはず…………た、たぶん。


「ジョ、ジョー!さ、流石だね!ハーメル様を呼べるなんて!僕たちには手紙を出すことさえ恐れ多すぎて出来ないよ!い、いやぁ本当にジョーはすごいなぁ!」


「ほ、本当にそうだよな!羨ましいよ!!」


 ……は!いけない。取り巻きたちの褒める声に自信を取り戻すジョー。こんなふうにまたネガティブに考えてしまうなんて自分には似合わない。そうだエドモンドがここに来たのは自分が呼んだから、即ち自分がいるから彼はここに来たのだ。


「さあ、ジョー!エドモンド様に声をかけに行ってこいよ!お前を待ってるぞ!」


 そうだ。先程はちょこっと言葉が出なかっただけ。だから相手にされないと思って彼は目の前から去ってしまっただけだ。俺が声をかければそのときから俺たちは友人、いや親友だ!





 

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