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26.懐かしい夢

 幼い女の子が執事服を着た男の裾を掴み注意を引く。


「ねえねえじいや」


「はい、なんでしょう?エリーゼ様」


「栗色の髪の毛の男の子がいつもぶつかってきたり足を踏んだりするの……」


「な!?エリーゼ様に何ということを!お怪我はありませんか!?そんなふざけたまねをするのはどこのクソガキ様ですか!?じいやがこてんぱんに……するわけにはいかないので、すぐに公爵様に言いつけてやりましょう!」


 権力万歳!子供の問題に親が口を出すものじゃない?ははははは、そんなことしったこっちゃない。可愛い可愛い公爵家の姫様に手を出すなど許されざる大罪。


 それに今から上下関係というものがこの世にはあるということを学んだほうがその子の為にもなるというもの。貴族において下の者が上の者を虐げるなどあってはならない。


 例え子供でも相手が悪ければ、一家皆が地獄をみることになる。教えてやるのも優しさなのだ。


「ううん、違うの。お父様には何も言わなくていいし、じいやも何もしなくていいの。そうじゃなくてお姉様からもらったブローチってどこにしまったかしら?」


「は?姉君から頂いたブローチでございますか?お持ちしますので少々お待ち下さいませ」


 何に使うのだろうかと首をひねりつつ部屋の外に出たじいや。


 戻ってきた彼の手には幼児がつけるにはもったいない見事な光を放つ濃い青色のロイヤルブルーサファイアがついたブローチがあった。


 それは長姉が隣国に行った際にエリーゼの為に婚約者と一緒に選んで購入した土産だった。




 ――――――



 それから数日後、公爵邸で子供連れで参加するパーティーが開かれた。


 公爵家の珍しい花が咲き誇る庭園、予約に数年かかる茶菓子、香り高い紅茶や最高級の新鮮な果物を搾ったジュース、貴族といえども普段目にしたり簡単に口にできないものの数々に参加者は目を輝かせていた。


「きゃあああああ!」


 そんな中、エリーゼの悲鳴が公爵邸の庭に響き渡った。その足元には例のブローチ。真ん中の宝石に目立った傷はないようだったが周りの飾りが壊れている。


 そしてエリーゼの目の前には


「あ、あの………」


 ひどく青褪める栗色の髪の毛のいじめっ子坊主がいた。いつものごとくエリーゼにぶつかった際に彼女の胸元からブローチが落ちたのだ。


 見るからに高級そうなそれが壊れて青褪めている。


「お姉様とその婚約者様から頂いた隣国土産が……!」


 その言葉にヒッと悲鳴をあげる男の子。いや周囲の者たちからさえ悲鳴が漏れた。エリーゼのお姉様の婚約者イコール隣国の皇太子。彼からの贈り物を壊してしまうとは――!!!


 ぼろぼろ泣くエリーゼに周囲の者は男の子に非難の目を向ける。衝撃すぎて何も言えぬ子は固まるばかり、慌てて両親が近寄ってきて頭を下げさせる。


「やめて!私が悪いの。私がその子にぶつかってしまったからで何も悪くないの。それなのにその子を皆で責めないで!」


 男の子がぶつかったのを見ていた人々はエリーゼが男の子が罰を与えられないようにそう言ったのだと思った。なんとお優しいとひそひそ声が広がっていく。


 頭が回転し始め、己のしでかしたことへの恐怖でガタガタと震え始める男の子。彼に向けられる視線はエリーゼの言葉でだいぶ緩和されていたが、そんなことに気づく余裕などない。


 エリーゼは大丈夫だといわんばかりに男の子に歩み寄ると背に腕を回し抱きしめる。


 その温もりに男の子は落ち着いていく。


 彼の心拍が落ち着いてきたことに気づいたエリーゼはそっと耳元で囁く。


「おいたはほどほどにね」


 ぞぉっと背中に悪寒が走った男の子の震えが硬直したことで止まる。離れていく身体……そして男の子からエリーゼの顔が見えた。


 美少女の浮かべる極上の笑み。しかし男の子には愉しそうに地獄行きを宣告する閻魔様に見えた。それから彼は何故かエリーゼのどれ……んんっ!友人となった。


 この出来事の後も彼は公爵邸にお呼ばれし、エリーゼと仲睦まじく?遊ぶ姿が度々見られたので、彼の行ったことは親に叱られたくらいで事なきを得た。


 そして増々エリーゼの評判は上がった。


 ちなみにこの日の出来事で一番怒られたのはエリーゼだった。弱いものいじめをするなと母親からみっちり説教を喰らった。あれが演技だと、嫌がらせだと気づくとは……親とは偉大だと感じた。


 


 エリーゼはふと眠りから目を覚ます。


 ――懐かしい夢を見た。子供の頃の夢。


 椅子に座ったまま寝てしまったようで少々身体が痛い。うーんと軽く身体を伸ばしながら椅子から立ち上がり窓に近づく。


 そういえばあの時父はなぜ隣国の皇太子からの贈り物を使った!?使うものは選ばんか!と怒っていた。姉からも将来の義兄からも手紙で許可を得ていると言ったら、ひぇぇぇぇと情けない声を出した後泡を吹いて気絶していた。


 昔から父は心配性で困ったものだ。今もエリーゼが何をやらかすかヤキモキしているかもしれない。


 くすりと一人笑うエリーゼ。


 サイラスは彼のもとにもう到着したかしら。


 大切な大切な……そして便利な友人。彼は今回も協力してくれるかしら?


 いや、答えは決まっている。


 窓を押し開くと風が彼女の髪の毛を優しく揺らした。


 とても心地よい風。


 エリーゼは1人嫣然と微笑んだ。


 


 



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